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第 4 章 授業開発研究の枠組み構築

第 2 節 授業開発の内容的側面

次にザンビアの基礎学校における本質的学習環境の援用可能性を探り,授業開発 でおこなう内容を定める.そのために,まず第

2

章のザンビアの教育の目標と内容 を確認する.次に,本質的学習環境において達成される内容的学習目標と一般的学 習目標を下絵にして,本研究における基礎的能力と高次的能力を規定する.その後,

授業開発において扱う具体的な内容をシラバスを照合して設定する.

4-2-1.基礎的能力と高次的能力

(1)Wittmann の一般的学習目標と内容的学習目標との対応

2

章においてザンビアの意図したカリキュラムを読みとくなか,数学的知識や 技能において数の理解や四則計算の技能が多く扱われていた.そして,そのほかの 能力としてコミュニケーション能力,日常生活への応用,問題解決能力などが含ま れていた.しかしこれらの能力や技能についての説明はなく,読み手の解釈に任さ

78 れている.

ザンビアの教育目標と対応した基礎的能力と高次的能力の育成をめざす授業開発 を構成するにあたり,ザンビアの教育目標を逸脱しないよう,高次的能力に明確な 輪郭を与えなくてはならない.そこで,第

3

章で述べた本質的学習環境における目 標を参考にする.

・本質的学習環境において内容的学習目標と一般的学習目標の同時的達成がおこな われる.

・内容的学習目標とは知識と技能の習得を指す.

・一般的学習目標は「数学化する」,「探究する」,「理由づける」,「コミュニケート する(表現する)」である.

数学化する…与えられた状況を数学言語に翻訳し,数学的に解決し,結果を現 実状況で解釈する能力

発見する…状況を実験的に探究し,関係や構造を発見する能力 理由づける…数学的事態を理由づける能力

コミュニケートする(表現する)…数学的現象を観察,考察,理由づけ,評価 し,口頭,筆記で表現する能力 (第

3

章第

3

節から)

ここで内容的学習目標,一般的学習目標とザンビアにおける基礎的能力と高次的 能力の対応を考える.

内容的学習目標は知識と技能の習得を指しており,数学における広範な内 容が範 疇にある.そこで,具体的な内容に射程を狭めたうえでの問題解決が最優先である と考え,数学の最も基本的な知識,技能であり,ザンビアで学習される正の整数の 四則計算能力を基礎的能力として焦点づけることにした.

次に一般的学習目標「数学化する」,「探究する」,「理由づける」,「コミュニケー トする(表現する)」と,ザンビアにおける数学の高次的能力の対応を考える.

「数学化する」は日常生活の事象を数学的によみとき現実に戻していく能力であ り,日常生活との連関,問題解決にも尐なからず関連していると考えられる.「コミ ュニケートする」は,シラバスにも明示されており,重視される高次的能力だとい える.シラバスで「コミュニケートする」は,話す,読む,書く,聞くとされてい る.ここでは単純な読み書きではなく,数学的な内容に関するコミュニケーション 行為を意図していると考えられる.「理由づける」や「探究する」はシラバスや教育 目標に書かれていない.しかし,推論,探究といった能力は,教育目標 の「科学的

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思考の育成」,「分析的,革新的,創造的思考」(表

2-8(1)を参照)に関わると考え

られる.逆に,一般的学習目標にはないものの,数学教育の目標で強調されていた

「日常生活への数学の応用」に関しては社会や生活とのつながりは本質的学習環境 の理論的基盤に内包されており,両者は対応づけられると解釈した.

このような検討のもと,Wittmann の一般的学習目標はザンビアの目標と照合す れば緩やかに同じ方向性を持っており,ザンビアの目標に逸脱したものではないと 結論づけた.

(2)具体的な基礎的能力と高次的能力

次にシラバスと教科書の内容を参照して,基礎的能力と高次的能力をより具体的 に論じる1.その際,第

1

学年から第

9

学年の四則計算の学習内容について整理した 表

4-1

を参照する.

基礎的能力とした四則計算に関して,扱う数が次第に大きくなる.そのほかに第

1

学年から第

4

学年の計算では各位の「まとまり」の視点が頻出している.また,全 学年同じ方法で筆算のアルゴリズムの順序が教科書に示されている.つまりシラバ スや教科書ではアルゴリズムを用いた四則計算が求められている.

次に本質的学習環境とシラバスの学習単元を対応させ,高次的能力とより関連す る単元を調べた.本質的学習環境は数学をパターンの科学としてとらえていること から「数のパターン(Number Pattern)」の単元内容を確認した(表

4-1).

1 ザンビアで広く使用されているM社出版の第1学年から第9学年の教科書を用いた.

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表 4-1:1-7 学年における数と計算に関する学習内容

(出典)CDC(2003)より筆者作成.

学年 扱う数の範囲 数と記数法 加法 減法 乗法 除法 数のパターン

1-10000 1-1000

・4つの演算記号(+,

-,×,÷)を含む 数のパターンを認識する

・4つの演算を含んだ 数のパターンを使用する

・数学的記号>,<,

=,≠の使用

・1の位・10の位・100の 位・1000の位の各位に まとめることによる1-

10000までの加法と2-

10000までの整数の加

・簡単な乗法を用いた 被乗数整数×乗数10 被乗数整数×数20 乗数2桁の数(29まで)の 乗法

・3桁の数×1-9

・数列を完成するための 数学的技能の説明する

・30より小さい数による 1-10000までの整数の 除法の筆算

1-1000000

・100000までの整数の 加法

・数直線を用いた数の加

・除数が整数÷被除数 100

・10000までの100の倍

・集合概念の使用

・0による乗法の特性の 応用

・100000までの整数の 減法

・記数法を拡張した6桁 の数の表現

・数字や言葉による 100000までの数の読み 書き

・記数法を拡張した 6桁の数の表現

・絶対値による整数の 配列(絶対値か確認する)

・10000までの数の 読み・書き

・1-10000の整数の減 1-10000

・1000000までの数を 数字と言葉を用いた読み

・1000000までの数を 数字と言葉の使用と書き

・値の順番による数の 配列・ローマ数字の読み

・1000000までの整数の 加法

・数直線を用いた整数の 加法

・100000までの整数の 減法・数直線を用いた整 数の減法

・被乗数×乗数3桁4桁 の整数

・乗数が1000と1000の 倍数の乗法

・式による乗法と乗法の 筆算

・1000000までの被除 数と除数1000か1000 の倍数による除法

・5,25,50,125による 簡単な除法の手続き

なし

・100までの整数の減法 ・1000までの整数の 減法

・被除数(1-100の整 数)÷除数(2,4,5,10) (余りのない除法)

・10000までの数の読 み・書き

・10以下で1000までの 整数の除法

・数を数える・読む・書く・

数の大きさを認識する

・10のまとまりで10の10 倍まで数える

・0-100までの数の 加法

・式を用いた加法

・まとまりに分けた100 までの加法の筆算

・まとまりに分けた 1-10000の減法

・数の木・数の軸・正方 形の魔方陣を用いた加

・3桁の数の加法

・4つの演算記号 (+,―,×,÷)を含んだ 数のパターンを認識し 使用する

・>,<,=,≠といった 数学的記号を適切に認 識し使用する

・まとまりに分けない 1-10000の数の加法

・まとまりに分けた 1-10000の加法

・数の木,数の軸と 魔方陣を用いた加法

1-100 なし なし

・0-100までの数の減

・式を用いた減法

・まとまりに分けない 1-1000までの 数の加法

・1の位・10の位・100の 位・1000の位でまとまり に分けて計算する加法

・累加法による乗法

・2,3,10ずつのまとまり 分けによる値の求め方

・被乗数(0-10)×乗数 2

数と記数法

(a)ヒンズー・アラビアの数体系の簡潔な歴史 (b)数のパターン

(c)位取りと展開形式の式 (d)数と測定に応用した四則演算 (e)計算の際の拢弧の使用

(f)四則演算に対応した交換法則・結合法則・分配法則

数と記数法(四則演算についての記述はない) (a)10よりも小さい底の数体系

(b)底が2,8の加法と減法 (c)底が2と5の乗法と除法

・数列を完成させ数学的 技能を説明する

・数列を認識し数学的技 能を説明する

なし

・100000までの数で それぞれの桁の明示

・ローマ数字の読み

・ローマ数字を用いた 筆記

・1000000までの整数の 加法

・いろいろな数の加法

・1000000までの整数の 減法

・帯分数の減法

・数直線を用いた整数の 減法

・被乗数が整数、乗数が 3位数・4位数の整数によ る乗法

・帯分数の乗法

・被除数が整数・除数が 3位数・4位数の整数によ る除法

・帯分数の除法 7

8

9 1

2

3

4

5

6

81

「数のパターン」は第

2

学年から第

6

学年,第

8

学年において学習される.第

2,

3

学年における学習内容は「四つの演算記号を含む数パターンを意識し,使用する」

と「数学的記号を適切に認識し使用する」の二つで,第

4

学年から第

7

学年までは

「数列を完成するための数学的技能を説明する」と記述されている.

これらの記述だけでは「数のパターン」の具体的な学習内容の把握が困難なため,

教科書2の内容を次に参照した.

「数のパターン」の学習内容 第

2

学年 加法と減法の関係性

乗法の交換法則 乗法と除法の関係性 等式と不等式の正誤 第

3

学年 加数と被加数

減数と被減数 乗数と被乗数

除数と被除数のそれぞれの関係性

等差数列と等比数列の次の二つの項を求める問題,式の並びからパター ンをみつける問題

不等号の左辺と右辺の大きさを比較する問題

数や文章で表された左辺と右辺の関係性から等号や不等号を入れる問題 第

4

学年 等差数列と等比数列の次の四つの項を求める問題

等差数列と等比数列の規則を記述する問題 階差数列や三角数,四角数

数式の並びに埋め込まれた数のパターンをみつける問題 第

5

学年 パスカルの三角形

魔法陣

アルゴリズム ペントミノス

幾何的なパターンの穴埋め3

6

学年 等差数列の次の二つの項を求める問題,

等差数列の規則を記述する問題

2 Macmillan,Longmanなど数社が教科書を出版している.ここで比較的新しいMacmillanの教科書を参考

にした.

3

Macmillanの新しい第5学年の教科書にはパターンの問題がなかったため,1996年の教科書を参照した.