第 6 章 本質的学習環境に基づく第 1 次調査と第 2 次調査
第 3 節 第 2 次調査
本節では中央州カブウェにおける授業開発の内実を記述,分析する.分析は前節 と同様の流れでおこなう.まず授業分析結果で発話の全体的傾向を示したあと(6-
3-1),教師,生徒,教材の三者間の相互作用の変遷を示す(6-3-2).次に学習過
173
程を記述する(6-3-3).最後に授業目標の達成と三者の相互作用の変遷について まとめる(6-3-4).
6-3-1.授業の定量的分析 6-3-1-1.カブウェにおける授業
第
1
次調査と同様に全体,数の石垣,美しい包みの教師と生徒の各発話コードの 一授業における平均割合40を算出した.まず表6-19,図 6-23
に教師の発話コード の一授業における平均割合の表とグラフを示す.表 6-19:第 2 次調査 一授業における教師の発話コードの平均割合(%)
(出典)筆者作成.
(出典)筆者作成.
図 6-23:第 2 次調査 一授業における教師の発話コードの平均割合(%)(グラフ)
40 カブウェの第2次調査の授業は二コマ分を一つの授業として行ったため各授業時間はルサカの二倍で,授業 回数はルサカの半分である.行った時限数は24でルサカの調査とほぼ同じであった.
全体(%) 数の石垣(%) 美しい包み(%)
Inst 指示 25.26 23.94 26.55
CQ 閉じた質問 23.52 23.07 23.96
Po 生徒の指名 12.69 13.94 11.47
Cmf 確認 8.00 7.16 8.83
Xpl 説明 6.88 8.08 5.71
Jst 生徒の発言への批判や正当化 6.09 4.87 7.27
Agr 同意 4.72 4.19 5.23
Cl 拍手や歌 4.69 5.06 4.32
OQ 開いた質問 3.74 5.55 1.98
Oth その他 3.35 2.65 4.02
Enc 賞賛や励まし 0.97 1.36 0.60
Imp 聞き取り丌能 0.09 0.12 0.06
100 100 100
コード
合計
0.00 10.00 20.00 30.00
Inst CQ Po Cmf Xpl Jst Agr Cl OQ Oth Enc Imp
全体(%) 数の石垣(%) 美しい包み(%)
174
際立って高割合の教師の発話コードは「指示(Inst)」(25.26%)と「閉じた質問
(CQ)」(23.52%)であった.次いで「生徒の指名(Po)」(12.69%),「確認(Cmf)」
(8.00%),「説明(Xpl)」(6.88%)と続く.第
1
次調査結果と高割合のコードCQ,
Inst,Cmf,Xpl
が共通した.次に生徒の発話コードの一授業における平均割合の表とグラフを示す.
表 6-20:第 1 次調査 一授業における生徒の発話コードの平均割合(%)
(出典)筆者作成.
(出典)筆者作成.
図 6-24:第 1 次調査 一授業における教師の発話コードの平均割合(%)(グラフ)
次に生徒の発話タイプにおいて最も高い割合だったのは「教師に対する数や単語 による忚答(Num-T)」(26.13%)で,これも第
1
次調査と同様の結果であった.この
Num-T
は「教師の閉じた質問」に対忚する返答である.たとえばCQ
とNum-T
全体(%) 数の石垣(%) 美しい包み(%) Num-T 単純な応答2(数や単語)教師に対して 26.13 31.35 22.50
Wri-T 教師の問いや指示に対する記述やジェスチャー 14.68 15.43 14.16 Num-S 単純な応答2(数や単語)生徒に対して 12.90 4.82 18.52
Qst-S 生徒に対する質問 12.31 4.42 17.80
Yn-T 単純な応答1(はい・いいえ)教師に対して 10.29 11.33 9.57
Rd 反復や読み 6.99 9.65 5.15
Cl 拍手と歌 5.11 6.75 3.97
Op-T 教師に対する意見 2.67 3.05 2.41
PO 生徒の指名 2.24 3.30 1.51
Na-T 教師に対する沈黙 2.08 3.54 1.06
Inc 丌完全な解答 1.91 2.17 1.73
Oth その他 1.35 2.25 0.73
Imp 聞き取り丌能 0.86 1.37 0.50
Op-S 生徒に対する意見 0.33 0.40 0.28
Qst-T 教師に対する質問 0.10 0.08 0.11
Na-S 生徒に対する沈黙 0.03 0.08 0.00
Yn-S 単純な応答1(はい・いいえ)生徒に対して 0.00 0.00 0.00 Writ-S 生徒の問いや指示に対する記述やジェスチャー 0.00 0.00 0.00
100 100 100
コード
合計
0.00 10.00 20.00 30.00 40.00
Num-T Wri-T Num-S Qst-S Yn-T Rd Cl Op-T PO Na-T Inc Oth Imp Op-S Qst-T Na-S Yn-S Writ-S
全体(%) 数の石垣(%) 美しい包み(%)
175
は次のプロトコルでのやりとり例が代表的である.
59 T CQ 3×9. 答えは何?全員で.
60 Ss Na-T (沈黙)
61 T CQ 3×9. 答えは何?
62 Stephern Num-T 27.
63 T CQ,Po 27.これが答え?ダニー.
64 Daniel Num-T 6.
65 T CQ,Po 6はここにあるでしょ,チャーリー.
66 Charie Num-T 7.
67 T CQ 3×7. 答えは何?
68 S Num-T 21
(出典)第9時限のプロトコルより計算練習の場におけるやりとり.
それに次いで「教師に対してジェスチャーや記述で忚答する(Wri-T)」(14.68%),
「生徒に対して数や単語で忚答(Num-S)」(12.90%),「生徒に対する質問(Qst-S)」
(12.31%)が高割合のコードであった.Wri-Tが高割合であったことから,生徒は 発言で教師に対して単純忚答しているだけでなく,記述やジェスチャーによっても 忚答しているとみなすことができる.Wri-T でみられた例は数列をみつけて規則を 記述した「2,
20, 200, 2000 かける 10」
(第6
時限)や計算を解く場合であった.また,Num-Sや
Qst-S
といった生徒同士のやりとりは,第1
次調査同様,生徒が 黒板で数式を全体にたずね,大多数の生徒たちが答える様式であった.特に美しい 包みにおいて生徒同士のやりとりが高割合だった.たとえば典型例である次のプロ トコルを挙げる.478 Chalie Qst-S 0引く6は?
479 T Inst 答えなさい.
480 Ss Num-S できない(It cannot).
481 Charlie Qst-S 10引く6は?
482 Ss Num-S 4.
483 Charlie Qst-S 7引く6は?
484 Ss Num-S 1.
485 T CQ ここは?
176
(出典)第7時限のプロトコル80-66を解く場面.
そのほか「教師に対する質問(Qst-T)」(0.10%),「生徒に対する沈黙(
Na-S)」
(0.03%)「生徒に対する『はい』『いいえ』の忚答(Yn-S)」(0.00%),「生徒に対す る記述やジェスチャー(Wri-S)」(0.00%)は低い割合であった.
6-3-1-2.池谷(2009)との比較
カブウェの授業分析(第
2
次調査),池谷(2009),ルサカの授業分析(第1
次調 査)の結果を比較すれば,第1
次調査と池谷の比較結果同様に,教師の閉じた質問(CQ)と生徒の単語,数字で答える(
Num-T)コードの割合が高かったことを類似
点として指摘できる.つまり数式の答えを片言で答えるやりとりが最も頻繁におこ なわれていた.開いた質問(OQ)は池谷(2009)においてすべて
0.0%であった.第 1
次調査では
5.93%,第 2
次調査では3.74%で,つまり第 2
次調査でも開いた質問(OQ)が尐
なからずおこなわれていた.頻度に換算すれば,第
2
次調査は40
分の一コマで約5
回,一時限で約10
回であった.第2
次調査では一時限二コマ分であることを考慮す ると,第1
次調査ではOQ
は約9
回であったことから,開いた質問をより多くおこ なっていた.第2
次調査におけるOQ
も第1
次調査と同様に「なぜですか?」,「理 由を説明してください」,「ここから観察できることを話してください」といった発 問をおこなっており,その傾向は第1
次調査と同様であった.次いで第
2
次調査の結果で特徴的な点を二点とりあげる.まず,教師の発問「指示(Inst)」「確認(Cmf)」に次ぐ教師の発話「生徒の指名
(Po)」で
12.69%あった.頻度に換算すれば一時限で 34.8
回生徒の指名をおこなっ た.これは一コマで17.4
回の頻度で,第1
次調査では一時限で8.7
回であった.一 コマ40
分では第2
次調査においてより頻繁に教師は生徒の指名をおこなっていた.次に,生徒の为要な発話コードは
Num-T, Wri-T
であった.Num-Tは教師の一問 一答に対忚すると考えられ,Wri-T は,生徒は話す手段ではなく書く手段とジェス チャーで教師の質問に答えていたことを示す.また,それに次いで生徒同士の質問 や解答(Num-S, Qst-S)もおこなわれていた.池谷(2009)において生徒同士の会話は
Ans-S
として記録され,八つの授業のうち二つにおいて1.3%,7.5%,それ以
486 Charlie Qst-S 4引く8.
487 Ss Num-S できない(It cannot).
488 Charlie Qst-S 14引く8.
489 Ss Num-S 6.
177
外では
0.0%であった(pp.126-127).つまり,第 2
次調査の授業において生徒同士の会話が確認された.この生徒同士の会話をプロトコルで確認すれば,Num-S と
Qst-S
は対忚関係にあり,生徒が数式をたずね,数で答える一問一答のやりとりが観察され,生徒同士が文章表現を用いて話し合ってはいなかった.これも具体的な 学習指導場面を質的にみていくことが必要であると判断した.
これらのことから,池谷のデータ結果と第
2
次調査の教師と生徒の相互作用のあ りかたが異なっていたと結論づけられる.また第1
次調査と池谷の差異が同じよう に第2
次調査でもみられた.6-3-2.全授業過程と教師,生徒,教材の三者間の相互作用
第
1
次調査と同様に全授業の過程を表6-21
に示す.表6-21
の情報の説明は第1
次調査の表6-12
と同じであるため省略する.178
表 6-21:第 2 次調査の授業全体の推移
教材の内容 教師の指導 生徒の学習 教 生 シ
1 ○ ○
・第1次調査で生 徒達がルールの 把握に時間を要 したことを踏まえ て,2段の石垣
(1桁の数)を用 いて3つの数の関 係に着目させて,
ルールの発見を おこなった.
・石垣導入時には石垣につ いての様々な意見を生徒か ら引き出した.
・生徒に2段の石垣のルール を発見させる支援をおこなっ た.
・2段の石垣でまずルールを 捉え,その後3段の石垣で計 算した.
・2名の下位生徒を除く全員 がおこなうことができた.
→(1)
・2段の石垣を用いた導入 は,加減の関係を把握させ ることに役立った(T, R).
→(1)
・上位生徒や挙手する生徒 ばかりを何度も指名し,下位 の生徒に対して話しかけない
(R).
→(2)
・教師は新しい教材・指導法 は難しいと感じた(T) .→(2)
○ ◎ ○
(1)2段の石垣で加法が 成功したので,導入で2 段の減法を,3段で加 減をおこなう.
(2)第1次調査と同様 に,パターン性はルー ルの定着後におこなう.
2 ○ ー
・3段の石垣(2 桁の数)を用いた 加減の練習.
・石垣のルールを2段,3段 を用いて復習し,4つのグ ループで石垣を計算する練 習をおこなった.
・新しく来た生徒がいたた め,ルールを再度復習して 計算練習した.
・計算の順序と用いる演算を 生徒たちはある程度把握し たと判断(T, R).
→(1)
・教師が多様な探究を教え ることが難しい(T).
→(2)
○ ◎ ○
(1)4段の石垣(パター ンの埋め込み有)を設 定.
(2)教師が指導可能な 数列と簡単なパターン 性を話し合う内容を取り 入れる.(探究性を加 味)
3 ○ ー
・4段の石垣(2 桁の数)を用いて 計算練習し,そ の中のパターン 性を発見し,その 規則を口頭で述 べる学習をおこ なった.
・前時より,正答を先に言わ ずに生徒の意見を尊重して 支援.
→(1)
・計算の過程より問題の正 誤を問う指導が多い.
→(2)
・数列を作りだす過程で誤答 があったが自分たちで誤答 を見つけて修正した.
→(1)
・新しく来た生徒とそうでない 生徒,上位生徒と下位生徒 達の間のルールの把握に差 がある.
→(2)
・数列の導入と規則の口頭 による表現を教師の支援に よりおこなうことができた(T, R).
→(1)
・生徒が誤答を自分たちで 修正したことを評価(T).
○ ◎ ○
(1)試行錯誤の石垣や 石垣のその他の石垣の 構造の探究.
(2)探究のなかでも計算 の順序や使う演算を話 し合う場面をつくる.
4 ○ ○
・2桁までの石垣 を用いて,試行 錯誤で石垣を完 成させる.
・生徒たちに石垣を作った過 程を現地語で説明させた.
→(2)
・最後に体系的に解く方法を 話し合う予定を教師は機械 的なアルゴリズムを教えるこ とに終始した.教師がアルゴ リズムの理由を教えられるだ け把握しなかった(教材の良 さを引き出せない指導).
→(1)
・問題の難易度が高く,25名 中10名しか問題を解くことが できなかった.
→(1)(2)
・試行錯誤で解いた上位生 徒の中には問題解決の過程 を説明できた.そうでない生 徒は完成した数式を言うこと で説明に変えた.
→(1)(2)
・最後に生徒達は教師が導 入したアルゴリズムに従い,
今までの試行錯誤で問題を 解かず混乱して授業が終了 した.
→(1)
・新しい試行錯誤の内容は 生徒にとって難しかったもの の,教師の支援により次第に できるようになり,現地語でも 数名の生徒が説明できた(T, R).
→(1)
・教師は生徒たちが探究で きるとは思っていなかった.
教師は尐人数の生徒たちが 能力を引き出されていること を感じた(T).
→(1)
・途中まで授業はうまくいっ た.しかし最後の計算の仕組 みを説明でアルゴリズムの説 明に教師がおちいり.生徒を 混乱させた(T, R)
→(1)
◎ ◎ ○
(1)教師が自信を持って 教えられる内容を扱う.
(2)グループワーク・ペア ワークでの授業を教師 が推進しており,グルー プで話し合う学習をおこ なう.
(3)第1次調査ではカー ドを用いた学習で1桁は やさしすぎたので10の 倍数を用いる.
数 の 石 垣
教師(T)と筆者(R)による 授業反省・評価
授業計画 考慮要因 次回の教材の再構成や
調整 授業実施
学 習 内 容
時 限
基 礎 的 能 力
高 次 的 能 力
局所的 授業改善サイクル