第 6 章 本質的学習環境に基づく第 1 次調査と第 2 次調査
第 1 節 全体の計画と授業計画
ここでは二つの調査における大局的授業改善サイクルの「全体の計画」(図
4-6
参照)について簡潔に述べ,局所的授業改善サイクルにおける「授業計画」と授業 内容の詳細を示す.そこでは予備調査の結果も考慮する.6-1-1.調査地域,学年の設定
予備調査後,2008年
8
月に授業開発の調査地域,学年,内容設定のための調査を 実施した.まず,調査地域と学年設定のために,ルサカにおいて生徒や教師へのイ ンタビューを実施した1.(1)調査地域と学年の設定
インタビューをもとにルサカの教育関係者
4
名2と協議した結果,調査の対象学年 を第5
学年から第7
学年の間で設定することを暫定的にきめた.その後,第7
学年 は国家試験のため対象から外し,最終的には第5, 6
学年を調査対象として設定した.(2)本調査の学校と協働する教師の選定
1
インタビュー対象者の情報については参考資料6-1参照.
2
ルサカ郡教育理事会事務局の教員センター長,学校長,現地教師を含む.
116
授業開発の対象学校については,対象校同士が異なる州に位置し,生徒数が比較 的多い公立基礎学校を選定基準とした.また,授業開発をおこなう教師は,継続的 に指導可能な
5
年以上の指導経験がある第5, 6
学年の担当を条件とした.研究や調 査の目的と協力に関して,校長と教師本人からの賛同を得た.第
1
次調査において2008
年8
に,ルサカ州ルサカ郡教育理事会事務局の教員セ ンターにおいて推薦されたL
基礎学校3の教師Mr.ムコンカ(Mukonka)
4の同意を 得た.第
2
次調査において2009
年2
月に中央州教育事務所から推薦されたカブウェ郡M
基礎学校5を訪問して第6
学年の教師に同意を得た.しかし家庭の事情から授業実 施が困難になり,代わりに2009
年4
月に同学校の校長から推薦された第5
学年担 当教師Ms.
ルビンダ(Lubinda)6が研究の趣旨に賛同した.表6-1
に二つの学校 の情報7を示した.表 6-1:本調査を実施した学校の特徴
(出典)ルサカ州教育事務所,中央州教育事務所,各学校の記録から筆者作成.
調査内容は予備調査の結果と現地での指導経験をもとに筆者が素案を作成した.
素案にもとづき,事前テストの結果を教師と話し合い,調査対象の生徒や学年を考 慮して,到達目標をきめた.それとともに,教材や授業進行,内容を協議した.用 いる本質的学習環境は数の石垣と美しい包みとした.数の石垣では为に加減を扱い,
3
Mumuniゾーン全16校のうちの1校.
4 Mr.ムコンカの情報は参考資料6-2参照.
5
Miningゾーン全12校(コミュニティスクール含む)の1校.
6
Ms.ルビンダの情報は参考資料6-2参照.
7 L基礎学校において徒歩15分以内のコンパウンド(集落)に住んでいる生徒たちや,徒歩1時間以上要する コンパウンドに住む生徒たちが混在していた.前者は経済的に平均以上の家庭が多く,後者は前者よりも経済 状態は低い家庭の生徒が多く,電気,水は不安定であった.M基礎学校では学校に隣接する巨大なコンパウン ドからほぼ全員が通い,経済状態は低く,電気や水が不安定な家庭がほとんどであった.
L基礎学校 M基礎学校
場所 ルサカ州ルサカ郡 都市部 中央州カブウェ郡 都市部
生徒数 1926人(2008年) 1856名(2007年)
職員数 53名(2008年) 58名(2007年)
第7学年の試験通過率 34.2%(2008年) 68.3%(2008年)
第9学年の試験通過率 31.5%(2008年) 49.7%(2008年)
郡での順位 - 第7学年 33校中24位(2008年)
117 美しい包みでは四則計算を含んだ.
(3)予備調査と本調査の関係
前章では本質的学習環境の学習活動において理解の漸進性・後退性・不安定性と いった理解の特徴を同定した.これらの特徴と関連して,誤答の場合,(1)誤答が数 学とは関係ないものから正答に近い誤答まで,いくつかの段階を経ていたことが確 認された(第
5
章第2
節のルーシーの答案を参照).また,(2)数列に関してパター ンを抜き出して書く学習がなされた.一方でパターンを記述した後,数列の規則を 記述することが特に困難であった.パターンに関する推論や探究については,一部 の生徒しか答えることができなかった.これら一連の特徴から,生徒が困難を乗り越えられる足場の設定や支援が第
1
次,第
2
次調査において必要だと考えた.(1)漸進性・後退性・不安定性に関しては,教材のルールや決まりを理解するため
に,くりかえしの練習や生徒の細かい変化に気づき対策を講じる段階的な指導が必 要である.次に,(2)規則の記述が困難なことは,言語的な困難性と,数学的な困難性が混在 していると推測された.言語的な困難性に関して,第
9
学年でさえも英語の文章作 成に困難を持っていた.同時に法則化に関して,数列の発見から規則の記述への移 行は数学的にも難易度が上がる.そこで数列の発見から規則の記述をつなぐ支援の ありかたを教師と話し合った.さらに,言語的な特徴に対して,記述とともに,口頭やジェスチャーを受け入れ,
必要であれば現地語をとりいれることで,徐々に記述への移行を図っていく示唆が
授業の到達目標
(基礎的能力に関わる目標)
●2 桁と 3 桁の四則計算が正確にできるようになる.特に数の石垣では加法と減法の関係 を理解して,計算を行うことができる.
(高次的能力に関わる目標)
●数の石垣と美しい包みに埋め込まれた数列や幾何的なものを含むパターン性をとりだし 探究することができる.
●パターンや数列の規則を口頭と記述で述べることができる.
●それらの数学的発見や推測についてクラスで話し合うことができる.
118
得られた.これらの諸点を授業計画時に教師と話し合い,具体的な指導方法や教材 の提示の仕方に反映した.
6-1-2.第 1 次調査の概要
第
6
学年の第1
学期1
月から2
月にかけて第1
次調査を実施した.L
基礎学校で は第6
学年で教科担任制を採用しており,Mr. ムコンカは担任クラスと他に二クラ ス,計三クラスで数学を教えていた.そのうちの一つである6
学年C
組8の正規の数 学授業と,試験対策クラス(SP1:Special Paper1)の枠でおこなった.大局的授業改善サイクルの「全体の計画」において全
25
回の授業素案を筆者が作 成した9.その後全授業の内容を包括的に話し合い,局所的授業改善サイクルの「授 業実施」における生徒の学習状況から「授業反省,改善,評価」において授業内容 を調整する方向をとることにした.そこで「全体の計画」において事前情報を得る ため,他教科授業の参与観察と事前テストをおこなった.英語や社会の授業の参与観察10では,教師が板書をおこない,黙って生徒がノート に記述する授業や,講義形式の授業が観察された.英語を話すことができる上位群 生徒
4, 5
名と教師による一問一答にしたがうかたちで,大多数の生徒は「はい」「い いえ」とだけ発言した.これより「教師は発言も多い上位群の生徒を積極的に指名 し,ほかの大多数の生徒は十分な授業参加がされていない状況」(池谷,2009)を他 教科の授業において確認した.さらに四則計算と数列を含む事前テスト(N=34,全
34
問記述式,平均正答率55.35%)
11により授業開始前の学習の程度を把握した.事前テストはシラバスよりも難易度が低い問題(計算問題に加えパターンの問題)を出題した12.
8
6年C組は理科を指導していた担任が第5学年から受け持っているクラスであったため,生徒の背景情報
や成績について幅広くインフォーマルに話を聞くことができたことと,Mr. ムコンカの担任クラスは女生 徒だけのクラスだったことから6年C組を調査対象に設定した.
9
カリキュラム上は集合・数と記数法を指導する時期であった.集合は試験勉強の時間や欠席した教師の時 間を用いて行った.
10 時間割に書かれていた授業が必ずしもおこなわれていない場合があり,授業を観察できたのは英語と社会の みであった.
11 第1次調査の事前,事後テスト問題については参考資料6-3参照.
12 予備調査の第9学年の生徒たちがシラバスよりもかなり低い学習段階であったことから,同じことが本調査 でもいえるだろうと予想した.
119
パターンを把握して書き込む問題13では,幾何的パターンと数列の問題における平 均正答率が,それぞれ
38.24%と 58.46%であった.また 1
桁から4
桁までの加法,減法の平均正答率がそれぞれ
82.84%,65.20%であった.
これらからシラバスよりも難易度を下げて授業実施することにした.結局,学校 行事や職員会議によって授業回数の確保が難しく,予定を変更せざるを得なくなり,
25
限から減らして全23
限の授業を実施した.授業計画で教師は話し合いの際にメ モをとり,そのメモをもとに授業を進めた.次頁の表6-2
に第1
次調査の局所的授 業改善サイクルにおける授業計画と目標を示す14.6-1-3.第 2 次調査の概要
第
5
学年32
名を対象にして2010
年5
月から6
月の第二学期に第2
次調査を実施 した.調査時に中央州では教師のストライキ運動がおこり,登校する生徒や教師数 が通常よりも大幅に尐なかった.正規の授業はほとんど実施されていなかったため,校長,副校長,担当教師と協議して,午後の二時限を用いて
80
分の授業を毎日おこ なうことにした. その二つを便宜上一時限として扱った.第
1
次調査時と同様に授業の素案を準備しており,それと生徒の学習状況をもと に授業計画を教師が練った.そこで学習状況の把握のために,授業実施前に事前テ ストとインタビューをおこなった.テスト内容は第
1
学年から第5
学年の既習内容にあたる四則計算と数列を埋める,シラバスより難易度が低い問題であった.表
6-3
に事後テストにおける各問題の平 均正答率を示す.13 例として,5,10,15,□,25,□,35,40 を挙げる.数パターンの問題はこのような穴埋めの問題であ った.
14 毎時の授業内容は参考資料6-4に提示する.