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第 2 章 ザンビアの教育

第3節 教師の指導と生徒の学習

ここでは実施したカリキュラムと達成したカリキュラムに関して考察をおこなう.

最終的にザンビアのカリキュラム全体を俯瞰することで,ザンビアの数学教育にお ける問題点を明らかにする.

2-3-1.報告書における実施したカリキュラム

Strengthen of Mathematics and Science Education in Zambian Secondary Schools Baseline Report

(2002)12は理数科の学習指導状況に関する報告書である.

教師対象のアンケートによれば後期基礎教育における授業方法は,教師中心の講 義形式,黒板に教師が書き,生徒がそれを写す,質問と応答,演示が为流であった.

逆に実施頻度が低い指導法は,映像手段の利用,ゲスト講話,ゲーム,野外活動,

ロールプレイであった.教師たちは先進的な指導法を知っているものの,それらを 用いる自信がなく,結局教師中心の授業をおこなっていると報告書は指摘した.

生徒によるアンケートからは,90%以上の生徒が同意した指導法は「教師は生徒 が理解していない場合質問することを奨励している」(93.3%),「演習問題を与えて いる」(91.7%),「教師は教科に精通している」(

91.7%)であった(MoE, 2002, p.120-122).一方,野外授業,学習内容に関する生徒間の相互作用,ペア活動,実

験,生徒の考え方を引き出す指導はおこなわれなかった.

この報告書において授業観察についても若干の記述があった.それによればすべ て教師中心の授業が展開され,生徒たちの話し合いは皆無であったという(MoE,

2002).

このように実施したカリキュラムでは,教師が用いる指導法は限定されており,

講義形式の授業が実施され,教師と生徒の相互作用は尐ないと考えられる.

2-3-2. 木根(2006)と池谷(2009)による実施したカリキュラムに関する研究成果 ザンビアの授業を分析した研究は僅尐である.ここで二つの研究結果から実施し

12 調査では理数科教師の統計学的特長,教師が指導困難である内容,理数科教師の指導法の傾向,「継続的 な職能成長」に対する教師自身の見解,生徒が学習困難である内容,理数科の一般的な教授法に対する教師 の見解を調査した(MoE, 2002).調査対象者は理数科各教科为任,理数科の教科担任教師,第9,第12 年の生徒で質問紙,授業観察,インタビューからデータ収集が行われた.ザンビア全土からランダムサンプ リングによって65校が選出され,教師599名(数学234名,生物99名,化学91名,物理97名,環境理 78名)と生徒1862名が選ばれた.このうち生徒342名が環境理科の質問,別の300名が数学の質問に 回答した.残りの1220名は第12学年の各教科の質問に回答した(MoE, 2002).

27 たカリキュラムについて述べる.

木根(2006)は,中央州カブエ県ンクワシ地区の基礎学校五校において後期基礎 教育段階の

22

の数学授業分析をおこなった13.その結果,全授業時間の約

60%が一

斉学習,40%が個別学習であったことが明らかになった.学習活動については全体

40%以上が教師による講義, 10%強が実演,40%弱がドリル学習にあてられた.

分析対象の

22

の授業は,講義,実演,ドリルを組み合わせたものが多いと結論づけ られた.具体的には教師が講義形式で説明をおこない,例題を解かせ,類似した練 習問題を個別に与える授業形式であった.

木根は「ンクワシ地区の数学教師が実施する教授,学習活動は,そのほとんどが 知識獲得型や反復練習型であり,探究活動型の教授,学習活動はほとんど実施され ていなかった」(木根, 2006, p.101-102)と結論づけた.

池谷(2009)は教師と生徒の言語活動に着目して授業分析をおこない,数学授業 の特徴を明らかにした.4 名の教師がおこなった第

8

学年の数学授業八つを発話コ ードで分類することで授業を分析した.

その結果,教師は答が一つである「閉じた質問」を最も多くおこない「指示」,「確 認」の項目がほかの項目の割合よりも高かった.生徒の発話は教師に対する応答の 割合が最も高く,教師からの閉じた質問に対して単語,数字での応答が最も高く文 章,図,計算での応答の割合は低かった.教師からの確認に対して生徒は「はい」

か「いいえ」での応答や,単語や数字による応答の割合が高かった.この結果につ いて第

6

章第

1

節において詳細を述べる.

池谷(2009)が扱った授業は生徒が为体的な発言をおこなう授業ではなく教師が 为導の授業で,生徒は受け身的に学習をおこなっていた.

ザンビアの数学授業の実情を示す貴重な先行研究からは,実施されたカリキュラ ムにおいて教師が为導の授業が为流であることが確認された.

2-3-3. 生徒の学習達成度

生徒の学習達成度に関する先行研究は尐ないなか,包括的な情報が掲載された『全 国学習達成度調査報告書』14(Kelly and Kanyika, 1999; ECZ, 2002; 2006; 2008)15

13 量的分析と質的分析からなり,量的分析では一斉学習,グループ学習,個別学習の授業形態の実施時間が 一授業に対して占める割合を算出した.また,講演,実演,暗記学習,ドリル学習,プログラム学習,討 論,発見学習,課題学習の八つに学習活動を分類し,各時間の割合を算出した.質的分析では各学習活動 を詳しくみていき,探究活動型であった四つの授業の構造を考察した.

14 この調査は第5学年を対象に2,3年に一度実施され1999年,2001年,2003年,2006年の結果が発行さ れている(2010年現在).内容は,英語,数学,現地語の達成度調査とともに,ザンビアの生徒,家庭環境,

28 を参照する.

数学においてシラバスと対応した標準的問題が

45

問与えられ,数,測定,図形,

集合の学習領域における生徒の知識,理解,応用が測定された.

2-11

から表

2-13

は数学の学習達成度の年度別集計結果,各認知分野と,内 容の各分野による結果を示している.

表 2-11:英語,数学学習達成度の年度別集計(%)

(出典)ECZ(2008),p.116.

表 2-12:数学の認知分野による平均正答率(%)

(注)2003年の追加5問を除く.

(出典)ECZ(2008),p.116より筆者作成.

表 2-13:数学の各分野の平均正答率(%)

(出典)ECZ(2008),p.116の表を元に筆者作成.

2-11

から数学の学習達成度は年々改善されている.しかしながら,標準的問 題であることを考慮すれば,依然として生徒の学習達成度は低い.

教師,学習指導に関する情報が掲載されている.当初の調査目的は問題領域を認識し改善への提案を行い,

生徒の学習結果の向上を図り,基礎教育の動向を把握することであった(Kelly and Kanyika, 1999).約8000 名の生徒がランダムサンプリングにより全国から選出され,調査が実施された.

15 各年度における報告書の名称が若干異なるため,ここでは全国学習達成度調査報告書と統一した.

1999年 2001年 2003年 2006年

34.3% 35.7% 38.5% 38.5%

1999年 2001年 2003年 2006年

知識 11 34.0% 29.1% 36.4% 38.9%

理解 19 39.0% 44.6% 42.1% 42.1%

応用 10 34.9% 29.9% 35.2% 29.5%

合計 40

認知分野 問題数 平均正答率(%)

1999年 2001年 2003年 2006年

19 45.0% 40.1%

数と分数 23 40.0% 39.2%

測定 11 33.1% 38.9% 40.6% 34.6%

分数 4 26.3% 21.6%

図形 4 30.7% 26.3% 34.7% 25.4%

集合 2 27.4% 33.0% 34.8% 34.6%

問題の分野 問題数 平均正答率(%)

29

2003

年次の調査報告書は,生徒の専門用語の理解,測定,読解能力,計算,単位 変換,乗除法,三次元の形の認識,分数理解と演算,集合の要素,減法の繰り下が りにおける学習指導の改善が必要である,と指摘した(ECZ,2006).2006 年次の 報告書は文章問題,分数,位変換,時間の概念に関する学習改善を指摘したうえで,

生徒の全般的に低い基礎的計算能力は教師の指導が原因となっていると報告した

(ECZ, 2008).

数学の指導についても内容の改善策を次のように提案した.

(1) 教師がニューメラシーを指導する際に視覚的教材を使用する.

(2) 身の回りにあるものを用いて学習指導の教材を最大限に利用する.

(3) 生徒が様々なアプローチを学ぶために専門用語を使い分ける.

(4) 立体や分数の適切な概念を生徒が身につけられるように具体物を用いる.

(5) 教師が話し言葉から記号的表現へ,記号的表現から話し言葉へ橋渡しをする.

(6) 様々な指導方法を用いる.

(7) 現在のカリキュラムに示された理念を再検討する.

(ECZ, 2008, p.105)

ECZ

は生徒の低学力と教師の教授的力量の関係に言及した.残念ながら問題は非 公開のため,低学力ということはわかっても,生徒がどのような問題に対して困難 を持っているのか,逆にどのような可能性をもっているのか,といった学力の改善 に向けた具体的示唆を得ることはできない.

2-3-4.第 2 章の総括

2

章においてザンビアの数学教育がめざす方向性と達成されたカリキュラムに おける問題を明らかにするため,

TIMSS

の三つのカリキュラムの枠組みを用いてザ ンビアの教育を整理した.

教育目標では

EFA

にのっとり,国家や,社会の発展と個人の人間形成が掲げられ ていた(Ministry of Education, 1996).数学に関連するものとして,科学的思考や 反省的,理論的,批判的思考,といった能力が挙げられていた.前期,中期基礎教 育段階(第

1

学年から第

7

学年)における教育目標は識字,ニューメラシー,コミ ュニケーション能力育成の重視,カリキュラム目標では読み書き,ニューメラシー,

問題解決技能の獲得が掲げられていた.数学シラバスでは数学的知識や技能の発達,

コミュニケーション,問題解決,日常生活との関連性が強調されていた.つまり,

目標レベルでは基礎的能力だけではなく,コミュニケーション能力,問題解決能力