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機関投資家と短期主義

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本章の課題は、機関投資家の取引姿勢が短期主義志向であることを明らかにする ことである。そこでは、まず、機関投資家の取引姿勢に対してしばしば行われてき た批判が実証的に支持された見解であったかを確認する。次に、機関投資家の株式 の売買回転率の大きさを、実際の運用資産規模に基づいて検証する。さらに、そこ でみられたように、機関投資家がなぜ短期主義化するのかを検討する。最後に、T

OBの売却に類似した状況において短期利益の獲得のために機関投資家が持株を売 却するかを考察する。

第1節  機関投資家の短期主義への批判とその確認

アメリカの機関投資家は、その存在感を増大し続けてきた一方で、批判の対象と もなってきた。その主要な理由は、機関投資家の時間的視野が短期的であり、短期 間に頻繁に売買されるということであった1。これによる影響の一つが、株価のボ ラティリティが増大することによって、市場の不安定化を招くということであり、

もう一っが、機関投資家の短期利益追求によって、企業も長期的な利益を犠牲にし て短期利益を追求するということであった。これらの批判は、実証的に支持されう るものであろうか。いくっかの実証結果をみることによってこれを確認する必要が

ある。

1.機関投資家の短期主義と株式市場の不安定化

 まずはじめに、機関投資家による取引が株式市場を不安定にしたという批判にっ いて、Jones, Lehn and Mulherin〔1991〕の実証研究に基づいて確認しよう。市場 の不安定化は、株価の変動性が増加することを意味する。そこで、Jones, Lehn and Mulherin〔1991〕では、機関投資家の取引が増加することによって、日毎の株 価リターンの標準偏差と尖度(kurtsis)が増加しているかどうかが分析されてい る。その際、それらの変動が機関投資家による取引の増大によるものかどうかを明 確にするため、次の3っの比較が行われている。すなわち、(a)機関投資家の所有 比率の高い銘柄と低い銘柄の比較、(b)S&P500に含まれる銘柄とそうではない 銘柄、(c)S&P500に含まれる銘柄のうち機関投資家の所有比率の高い銘柄と、

S&P500に含まれない銘柄のうち機関投資家の所有比率の低い銘柄、である。

(b)は、S&P 500に含まれる銘柄(以下、 S&P銘柄)は機関投資家にとくに好

1

   Berk。witz and L。gue〔1987〕で1ま、とくに1970年代後期から機関投資家の 売買回転率が上昇した原因について考察されている。

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まれるとの理由による。(c)は、(b)の見方をより発展させたものである。サンプル

は1982年と1988年におけるNYSEとAMEX上場株式の586銘柄である2。1982年

と1988年が選ばれたのは、まず、この時期に機関投資家の取引が活発化されたこ と、そして、1982年に指数先物が導入されたことによる。(a)および(c)の分類のた めに、サンプル586銘柄は機関投資家の所有比率で3っに区分され、もっとも高い ものと低いものが比較に利用される3。

 (a)(b)(c)の分類グループの株価リターンの標準偏差および尖度をみる前に、そ れぞれのグループの銘柄が1982年から1988年までに売買回転率が増加したかどうか

を確認しておこう。ここでいう売買回転率とは、取り引きされた株式数を発行済株 式数で除した数である4。図表1によると、まず(a)の分類では、機関所有の高い銘 柄の売買回転率は1982年では60.1であり、1988年では81.1となって、その増加は 34.9%である。一方、機関所有の低い銘柄の売買回転率は、1982年では47.8%で、

1988年では54.9%と、こちらも増加しているがその比率は14.9%である。この増加を 機関所有の高低にっいて相対的にみるために、それぞれの年における高機関所有の 売買回転率と低機関所有の売買回転率の比率をみると、1982年では1.26であったの が、1988年では1.48となっており、機関所有の大きい銘柄の売買回転率の増加が、

期間所有の小さい銘柄のそれ増加よりも大きいことが伺える(右端の数値)。同様 に、(b)の分類では、S&P銘柄の売買回転率は31.騙増加し、非S&P銘柄では 19.1%増加しており、相対的には1982年の1.23から1988年の1.35へと上昇している。

(c)の分類でも、同じように、高機関所有のS&P銘柄の売買回転率の増加は 41.5%、低機関所有の非S&P銘柄では20.1%の増加で、相対的には1982年の1.46か

ら1988年の1.72へと上昇している。これらから、1982年から1988年の間に機関所有 の大きい銘柄の方がその取引回数が多くなったことが伺われる。ただし、相対的な 比率の差は3っいずれも統計上有意ではないため、確定的にいえることは、機関所 有の大きい銘柄の方が小さい銘柄より取引回数の上昇が少なくなってはいないとい

うことである。以上より、この期間のサンプルの銘柄について、機関投資家の取引 頻度は下がっておらず、さらに、少なくとも機関所有の大きい銘柄の方が小さい銘 柄よりも取引頻度の増加が小さくなってはいないことが分かる。

2  これらのデータは、Mitchell and Lehn〔1990〕において利用された1,158 銘柄のうち、成功した買収のターゲット企業、倒産した企業、ここで必要なデータ の入手できない企業を除かれたものである。

3  1982年におけるサンプル全銘柄の平均の機関投資家所有比率は32.暁、1988 年におけるそれは、44.5%である。そして、1982年における機関所有比率の最も低 い銘柄は、機関所有比率が22%以下の銘柄であり、もっとも高い銘柄は42%超の銘柄 である。1988年におけるこれらはそれぞれ、37%および55%である。J。nes, Lehn and Mulherin〔1991, pp.118,126, note 2〕を参照。

4  Jones, Lehn and Mulherin〔1991, pp.126, n。te 3〕を参照。

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図表1  機関所有の高低による株式の売買回転率(1982年、1988年)

機関所有比率の

@高い銘柄

@ (1)

機関所有比率の

@低い銘柄

@ (2)

(1)/(2)

(a) 1982年 P988年

60.1(127)***

W1.1(123)

47.8(97)

T4.9(114)

1.26 P.48

変化 +34.9% +14.驕

S&P銘柄

@(1)

非S&P銘柄

@ (2)

(1)/(2)

(b) 1982年 P988年

59.6(168)***

V8.4(189)

48.6(183)*

T7.9(167)

1.23 P.35

変化 +31.5% +19.1%

高機関所有の

r&P銘柄

@ (1)

低機関所有の

S&P銘柄

@ (2)

(1)/(2)

(c) 1982年 P988年

59.5(89)零*

W4.2(90)

40.7(72)

S8.9(81)

1.46 P.72

変化 +41.5% +20.1%

(注)&)mpustatのデータ(#28/#25)より算出。かっこ内の数値はサンプル数。サンプルは   1982年と1988年におけるNYSEとAMEXに上場している586企業の株式。サンプル   全体の機関所有比率は、1982年では32.9%、1988年では44.騙。機関所有比率の高い銘柄   は、サンプルのうち機関所有比率の高い方の1/3、低い銘柄は低い方の1/3の銘柄。1982   年における低い機関所有比率の銘柄は機関所有比率が22%以下、高い銘柄は42%超の銘   柄。1988年では低い機関所有比率の銘柄は3砒以下、高い銘柄は55%超の銘柄。*は1982   年と1988年の数値の差が0.1眺水準で有意。**は同じくその差がO.05%水準で有意。

  ***は差が0.01%水準で有意。

(出所)Jones, Lehn and Mulherin〔1991〕pp.119,121, table 8−1,8−2.より作成。

 この前提の上で、サンプルの銘柄の株価の変動をみてみよう。まず図表2より、

標準偏差にっいては、(a)の分類では、機関所有の高い銘柄の標準偏差は1982年の 2.19から、1988年の1.85へと、15.5%減少している。一方、機関所有の低い銘柄の 標準偏差は1982年の2.79から、1988年の2.70へと、3.2%減少している。機関所有の 低い銘柄の標準偏差に対する高い銘柄のそれの比率は、1982年では0.78、1988年で は0.69となっており、もともと低かった高機関所有の銘柄の標準偏差はサンプル期 間において、低機関所有の銘柄の標準偏差が低下するよりも多く低下したことが明 らかである。同様に、(b)の分類では、S&P銘柄の標準偏差は1982年の2.23から、

1988年の1.97へと、11.7%減少している。一方、非S&P銘柄の標準偏差は1982年 の2.58から、1988年の2.34へと、7.8%減少している。そして、非S&P銘柄の標準

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図表2  機関所有の高低による株価リターンの標準偏差(1982年、1988年)

機関所有比率の

@高い銘柄

@  (1)

機関所有比率の

@低い銘柄

@  (2)

(1)/(2)

(a) 1982年 P988年

2.19(195)***

P.85(201)

2.79(191)

Q.70(194)

0.78*

O.69

変化 一15.5% 一3.2%

S&P銘柄

@(1)

非S&P銘柄

@ (2)

(1)/(2)

(b) 1982年 P988年

2.23(236)***

P.97(283)

2.58(334)*

Q.34(294)

0.86 O.84

変化 一11.7% 一7.8毘

高機関所有の

r&P銘柄

@ (1)

低機関所有の

S&P銘柄

@ (2)

(1)/(2)

(c) 1982年 P988年

2.11(130)***

P.83(137)

2.81(152)

Q.76(148)

0.75 O.66

変化 一13.3% 一1.8男

(注)Center for Research in Security Pricesの1年間の日毎の株価データより算出。他は   図表1に同じ。

(出所)Jones, Lehn and Mulherin〔1991〕pp.119,121, table 8−1,8−2.より作成。

偏差に対するS&P銘柄のそれの比率は、1982年では0.86、1988年では0.84となっ ており、ここでも、もともと低かったS&P銘柄の標準偏差はサンプル期間におい て、非S&P銘柄の標準偏差が低下するよりも多く低下したことが分かる。ただ

し、(b)でのこの比率の差は統計上有意ではない。そして、(c)の分類では、同様 に、高機関所有のS&P銘柄の標準偏差は1982年の2.11から1988年の1.83へと 13.3%減少し、低機関所有の非S&P銘柄の標準偏差は1982年の2.81から1988年の 2.76へと1.晒威少している。低機関所有の非S&P銘柄の標準偏差に対する高機関 所有のS&P銘柄のそれの比率は1982年では0.75、1988年では0.66となっており、

高機関所有のS&P銘柄の標準偏差は、低機関所有の非S&P銘柄のそれよりも多 く低下したことが分かる。3っの相対的な比率の差は、(b)の分類の場合を除いて 統計上有意である。したがって、これらは、サンプル期間において、機関投資家の 取引によって、株価の変動が大きくなったのではなく、反対に小さくなったことを 意味している。

次に、尖度についてみてみると、やや結果は異なる。すなわち、図表3より、(a)

の分類では、機関所有の高い銘柄の尖度は74.3%増加し、低い銘柄では80.硯増加し ており、機関所有の低い銘柄に対する高い銘柄の比率は0.64から0.62へと減少して

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