第3章 GH説の再検討とただ乗り問題の克服
第1節 ただ乗り問題の解消への2つの見方
17 この10の実証研究には次のものが含まれる。Dewi㎎〔1921〕、Mead
〔1933〕、National Industria1〔bnference Board〔1929〕、Livermre〔1935〕、
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後収益陛が生みだされたと明確に結論づけているものは1っしかないことが明らか となっている。その後に行われた実証研究においては、収益性の改善を結論づける ものとそうでないものが混在している18。さらに、買収企業の買収後における株価 のパフオーマンスに関しては、多くの研究がマイナスのリターンという実証結果を
報告している1920。
さらに、これに関連して、買付者によるプレミアムの過剰支払いがしばしば指摘 される。たとえばRQll〔1986〕では、買付者が自身の経営能力を誤って評価し、改 善による価値の増加を過大に見積もることが提起されている。さらに、このような 過剰支払いが実際に存在することが多くの実証研究により示されている21。ただし、
この過剰支払いは、買付者の経営者がそれを知っていてわざと行って生じたもので はないとされる(Seyhun〔1998〕)。っまり、買付者は実際よりも買収後の期待利 益流列を楽観ししやすいといえる。
以上より、TOB後の利益流列の各数値を予測する際に、買付者はターゲット企 業の実際の価値と自らの経営改善能力にっいて、過大評価しやすいことは十分に推 測されうる。したがって、期間を一定としたとき、ターゲット企業の株主が期待す る割引前の利益流列の数値が買付者の期待するそれより大きくなりやすいというよ りも、どちらかといえぱその反対に、小さくなりやすいと考える方が無理がないと 思われる。
次に、第3点目の、ターゲット企業の株主は、そのTOBが成功すると見込んで いなければならない、という条件にっいてである。これも株主の予測に関する内容 なので、直接的な検証はできない。しかし、TOBの成否にっいて予測する方法
Nelson 〔1959〕 、 Kelly 〔1967〕 、 Reid 〔1962〕 、 Hogarty 〔1970〕 、 Lorie and Halpern〔1970〕、Ansoff, Brandenburg, Portner and Radosevich〔1971〕.この 中で収益性の増加を結論づけた唯一の研究とは、Livermore〔1935〕である。
18 買収後における買収会社の収益性の増加を結論づける研究として、Healy,
Papepu and Ruback〔1992〕、Parrino and Harris〔1999〕、その反対を結論づけ る研究として、You〔1986〕、Ravenscraft and Scherer〔1987、1989〕、Fowler and Schmidt〔1988〕があげられる。また、 Fowler and Schmidt〔1989〕では、 T OB後の業績について、買収企業が以前に買収を経験するか、ターゲット企業の所 有比率を多く持っか、設立年数の古い場合、TOB後の業績がよくなり、ターゲッ
ト企業が反対した場合、TOB後の業績が悪くなることが報告されている。
19 たとえば、Fowler and Sc㎞idt〔1988〕、Frank, Harris and Titman
〔1991〕 、 Agrawa1, Jaffe and Mandelker 〔1992〕 、 Loughran and Vijh 〔1997〕 、
Sirower〔1997〕があげられる。
2°@ ただし、Loderer and Martin〔1992〕によれば、1960年代、1970年代にお いて買収後の株価リターンの低迷はあるものの、1980年代にはそれは消えているこ とが報告されている。
2t たとえば、 Simonson〔1987〕、Kagel, Levin, Battalio and Meyer
〔1989〕、Seyhun〔1990〕、Sung〔1993〕、Han, Suk and Su㎎〔1998〕があげら
れる。
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が、Samuelson and Rosenthal〔1986〕によって提起されている。それによると、
TOBの成否は、オファが発表されてからオファ期間が終了する締め切り日までの 期間におけるターゲット企業の市場価格の動向から判断することができる。すなわ ち、成功が予測される場合、ターゲット企業の株価はオファ価格に近い値を示し、
失敗が予測される場合、後退価格(fallhack price)に近い値を示す。したがっ て、株価の値をみることによってTOBの成否をそのオファ期間の終了前に予測す ることができるというわけである。Sammielson and Rosenthal〔1986〕では、この 仮説に基づく実証も行われており、それによると、仮説は支持されることが示され
る。すなわち、オファが発表されてからオファ期間が終了する締め切り日までの期 間において、成功する場合のターゲット企業の株価は、発表時点から一貫して上昇 し続け、終了時点ではオファ価格と等しい値を示す。失敗する場合の株価は、若干 の変動はあるが、発表時点から終了時点まで減少傾向にあり、最終的に後退価格に 落ち着く。以上の仮説および結果から、TOBの成否はオファ期間の終了前にかな
りの確率で半噺すること力河能とされる22。
この仮説および結果は、TOBの成否にっいて市場が効率的な判断を下すことを 示している。市場の株価を形成するのは、もちろん、ターゲット企業の株主だけで はない。むしろ、TOBが発表された後の株価については、いわゆる合併鞘取り者
(merger arbitraguer)の役割が大きい。すなわち、この鞘取り者は、オファの発 表にともない、成功すると予測すれば市場でターゲット企業の株式を買う。そうす
ることによって、成功した場合にオファ価格で持株を買付者に売却して利益を得 る。しかし、(通常は条件付きTOBであるため)当然ながら失敗したときは買付 者は買い取らず、発表によって上昇した高値での取得によってこの鞘取り者は損失
を被る。このように、とくに合併鞘取り者の総合的な判断の結果が株価となって現
れる。
厳密にいえば、この鞘取り者が市場からターゲット企業の株式を取得した際に、
それまでの株主は売却していることになる。この売却株主はTOBが失敗すること を予測していると考えられる。したがって、厳密には、発表前の時点におけるター ゲット企業のすべての株主が買付者への持株の提供に対する判断を求められるわけ ではない。しかし、たとえオファ期間中に株主が入れ替わったとしても、オファ締 め切り日時点におけるターゲット企業の株主が、買付者への株式提供の判断を迫ら
an@ ただし、 Samuelson and Rosenthal〔1986〕の分析では、競合する買付者が 現れた場合の事例を排除している。これは、オファが競合した場合、期間中の株価 がオファ価格を超える可能性があるからである。なお、競合した場合ではないが、
Zissu〔1989〕によれば、ターゲット企業の経営者が反対した場合、実際に、株価 が市場価格を超えることが多いことが報告されている。
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れていることは確かである。これらのことは逆に、市場の見解とターゲット企業の 株主の見解の差がないことを示している。
このように、ターゲット企業の株主は、自らで買収後の価値を評価すると同時 に、市場の総合的な判断を株価の動向から知ることによって、TOBの成否を予測 することができるといえる。
以上から明らかなように、割引率の差による基本的な説明の妥当性を支持するた めに必要な3っの条件のうち2っは妥当であることが明らかとなった。この2っは いずれも、ターゲット企業の株主がTOBの成否と買収後に関して行う「期待」に っいての内容であった。残された1っは、株主がもっ期待ではなく、そのリスクに 対する姿勢および時間的視野である。したがって、これにっいては、より詳細な分 析が必要である。