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機関投資家とモニタリング

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第8章 機関投資家と投資先企業との関係

第1節 機関投資家とモニタリング

 近年、コーポレート・ガバナンスの視点から、機関投資家の投資先企業との関わ りへの姿勢の変容が注目されている。すなわち、M&Aが隆盛した1980年代におい ては、企業のモニタリングは主にM&Aを通じて行われてきたとされ、そこでは機 関投資家は持株を売却することでモニタリング機能の一部を担ったとみなされる1。

しかし、そのM&Aブームが終息した199(輝代からは、いわゆるリレーションシッ プ投資が脚光を浴びるようになり、機関投資家はそれまでのように容易に持株を売 却せずに、取締役会およびCEOとの直接的な対話などを通じてモニタリングに加 わるようになってきっっあるといわれている2。

 ただし、機関投資家の投資先企業に対するモニタリングが十分な機能を果たしう るかは不確定である。なぜなら、これには次のような問題があるからである。第1 に、機関投資家が積極的にその意向を表明することのコストが大きいことである3。

機関投資家のポートフォリオが分散され、したがって、投資先企業数が多いことを 前提とすると、このコスト負担は無視できない4。さらに、このコストは、回収さ れることが期待されない。すなわち、積極的な意見表明にかけたコストに見合う十 分なリターンが株価の上昇という形ではみられない5。したがって、機関投資家は 1  たとえば、Clyde〔1997〕を参照。

2  たとえば、Dobrzynski〔1993〕を参照。

3  Jensen〔1989, p.66〕を参照。

4  Gils。n and Kraakman〔1991, p.188〕を参照。

5  Coffee〔1993, p.67, note 198〕を参照。さらに、 Wahal〔1996〕において も、年金基金の行動主義がその対象企業の株価および財務比率を改善させていない と報告されている(Waha1〔1996〕の内容は榊原〔1999〕において紹介されてい る)。あるいは、株価の上昇を通じたリターンではなく、意見表明に対するファン ド・マネージャーへの追加的な報酬を通じたリターンも考えられるが、そのような

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費用・便益の点から、意見表明を行うことにインセンティブをもちにくい。これら は、その長期志向から機関投資家の行動主義化の原因とされるインデックス投資 6を行う機関投資家でさえも、モニタリングを積極的に行うインセンティブをもち にくいことを意味しうる7。

 第2に、機関投資家が協調して団結することが困難なことである。これには2っ の理由がある。1っは、コスト負担を回避するためのただ乗りであり8、もう1っ は、機関投資家の種類の相違による関心の相違である。後者にっいては、機関投資 家の多様性のために意見の相違が考えられるのである910。さらに、これにっいては 関連する規制もある。1992年10月にSECは株主間の意見交換にっいて規則を緩和 したが11、これによって機関投資家の行動主義が実際に大きく進展したとは必ずし

もいえない12。

報酬制度も確立されていない。(IOffee〔1993, P.69,99−102〕を参照。また、これ に関連して、年金基金ではこのモニタリング行為による成果と報酬の問題がさらに 複雑化している。というのは、年金基金のプアンド・マネージャーは年金受託者の エージェントであるが、年金受託者はさらに年金受益者のエージェントであるから である。RappapQrt〔1990, p.104〕を参照。これに関するより詳細な聞きとり調査 にっいては、0 Barr and〔hn1¢y〔1992, pp.194−201〕を参照。

6  たとえば、三和〔1995,101〜105頁〕を参照。

7  Ferrara and Zirlin〔1992, p.355〕によれば、インデックス・ファンドが ある企業の株式をポートフォリオに組み込む理由は、単に市場全体の動向を反映す るインデックスにその株式が入っているからにすぎず、その企業のファンダメンタ ルズを考慮した結果ではない。同様の見解が、Gilson and Kraakman〔1991,

p.186〕、Rappaport〔1990, p.104〕にみられる。同様に否定的な論者であるPosen

〔1994,p.147〕においても、アメリカ最大のミューチュアル・ファンドの Fidelity Investmentsは1992年に約3,000社に対して投票した(voted proxies)

が、行動主義的に(actively)関与したのは12社未満であり、代表的なアクティビ ストのCalPERSでさえも行動主義的に関与するのは毎年30社以下であることが指摘 されている。Bishop〔1994〕によれば、ほとんどの企業年金基金は行動主義的では ないとしている。たとえば、Fidelityでは、投資先企業に問題が見出された場合、

その株を売却するのが通常だとされている。

8     RapPaport 〔1990, P.104〕 、 Koether 〔1991, PP.382−384〕 、 Monks 〔1997,

p.144〕を参照。

9  1pchner〔1991, p.179〕、Gavin〔1991, p.409〕を参照。

1°  少なくとも1980年代中頃まで、機関投資家が一枚岩に投資先企業の現経営 陣が推す取締役候補者に反対したことも、ポイズン・ピルなどの議論のある政策に ついて拒否したこともないとされる。Gilson and Kraa㎞an〔1991, p.202〕を参

照。

11  Securities and Exchange〔沁㎜ission〔1992b〕。

12  1nstitutional Investor〔1994a〕の年金基金の担当者に対するアンケート によれば、「あなたの基金はこのルール(株主間の意見交換を認めた1992年のSEC 規則改正)の施行以降、よりアクティビストになりましたか。」との質問に対し て、はいという回答はわずかに6.3%であり、いいえが93.8%である。そして、「あ なたの基金は、株主の問題を議論したり、あるいは株主に代わってロビー・一一活動する 何らかの株主グループに所属していますか。」の質問に対しては、はいの回答が 14.5%で、いいえが85.5%であり、規則改正後も多くの基金がこれらの活動に消極的 であることがわかる。さらにっついて、「いいえの場合、将来株主グループに加入

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 第3に、機関投資家による外部取締役の選任による間接的なモニタリングもしば しば指摘されるが、これにも注意すべき点がある。すなわち、機関投資家がある取 締役を選任した場合、株主平等の原則から、その機関投資家が選出した取締役から 重要な情報を得ないようにしなければならない。しかし、一般的に機関投資家は他 の株主よりもより早く、また多く企業から情報を得ることを望んでいるため、これ は必ずしも容易ではない。そもそも機関投資家が取締役を選出する理由それ自体に この要望が含まれうることが十分考えられる13。

 第4に、機関投資家の株式保有に対する制約的な規制があることである。すなわ ち、まず10%超の株式を所有した場合、インサイダー取引の短期取引(short swing)規制が適用される条件が満たされるため、取得してから6ヶ.月以内の売却が 困難となりうる14。これは、とくに流動性を必要とするミューチュアル・ファンド にとっては大きな制約となる15。また、銀行にっいては、銀行持株会社を通じては 一事業会社の5%まで、信託部を通じては一企業に対して資産の10%までに制限され ている且6。さらに、持株会社と信託部による所有分を合わせて、たとえば推薦する 取締役を選出させることで投資先企業に影響力を及ぼすことも可能かもしれない。

しかし、こうしたとき、この銀行がその企業に貸し付けをしていた場合、その返済 順位は劣後となるリスクを負担しなければならないエ7。

 第5に、一部の機関投資家の議決権行使の際に利益相反が含まれうることであ る。すなわち、銀行および保険会社は、その本来の事業を維持するために、投資先 企業との良好な関係を維持しようとする18。したがって、現在の経営者に反対する 意思を表明することが実質的に抑制されうる。さらに、私的年金基金の場合にも類 似する問題が生じうる。すなわち、企業の年金担当役員は年金の運用に外部の投資 するっもりですか。」の質問に対し、はいと回答したのは30。5%で、いいえが69.5%

である。したがって、少なくとも1994年の時点では、将来的にもこの消極的な姿勢 に大きな変化がないことが伺える。さらに、Mieher〔1993〕によれば、1992年のこ の改正後の株主の行動主義はそれほど活発化してはいないとされる。また、この改 正の問題点については、Sharara and Hoke−Witherspoon〔1993, PP.353−358〕を参 照。一方、Pound〔1991〕では、これまでのSECの規制が株主間の意見交換のコスト

を高めてきたことが歴史的に検討されている。

13  Rappaport〔1990, p.104〕、Lochner〔1991, p;180〕を参照。

14  1934年証券取引所法16条(b)項では、株式の10%超の保有者、取締役および 上級役員は取得から6ヶ月以内での売却による利益は返却しなければならないとさ

れる。15

chp.8〕を参照。

161718

ミューチュアル・ファンドに対する規制の詳細にっいては、Roe〔1994,

銀行に対する規制の詳細については、Roe〔1994, chp.5,7〕を参照。

R。e〔1991, pp.297−298〕を参照。

Coffee〔1993, pp.63−65〕、Monks〔1997, pp.143−145〕を参照。ただし、

最近では保険会社も積極的にプロクシー・コンテストに関与してきているともいわ れる。Star〔1993〕を参照。

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会社を用いることができ、実際に、8割以上の年金基金が資産の90%以上を外部の ファンド・マネージャーに運用を委託している19。私的年金基金は通常、企業の財 務部で運営されている20。したがって、当然ながら、内部で運用している株式の議 決権にっいては運営する企業が行使するため、企業の経営者の意向が反映される。

さらに、外部で運用している場合でも、運用委託先のプアンド・マネージャーは委 託元である企業の経営者の意向を反映するように議決権を行使することが慣行に なっているとされる。これは、前述の報酬の問題にくわえ、ほとんどの年金基金 が、投資先企業の経営者に反対するような行使をするっもりがある場合にはそれを 知らせることを委託先のファンド・マネージャーに求めていることによる21。した がって、実際に資金を運用するファンドマネージャーは委託元の企業の経営者の意 向に反しないことを求められ、それゆえ、そうしない場合には解雇される危険をも っことになる22。こうして、「構造的な経営者支配」(Roe〔1994, p.133〕)のも

とで、私的年金基金およびその資金の運用者は、議決権行使の際に現職経営者一般 に対して反対しない姿勢をもっことになる23。

 ところで、以上の理由のいずれも、機関投資家が投資先企業に対して十分なモニ タリング機能を発揮しうるかにっいて確定的な判断を下すことを困難にしている が24、とくに最後の利益相反の問題が本章で注目される点である。というのは、T

1g  Institutional Investor〔1994b〕のアンケートによると、内部

(in−house)で運用している資産の割合にっいて、1α似下という基金が全調査対 象基金の83.6%、10〜25%が6.2%、26〜35%が2.2%、36〜5眺が2.2%、50%〜10鵬未満 が4.4%、10幌が1.3%であった。また、確定給付に限った場合でも、Institutional

Investor〔1996〕のアンケートによると、内部での運用を行っている基金は全体の 22.7%にとどまり、資産割合別の内訳では、1α似下という基金が全体の47.1%、11

〜2〔瀦が21.6%、21〜40%が13.7%、41〜60%が5.胱、61〜80%が2.眺、80〜100%が9.8%

である。

@ 0 Barr and(hnley〔1992, p.94, note 2〕を参照。

21  年金基金のこの方針の理由にっいては、基金(すなわち、企業の年金担当 役員)が、ファンド・マネージャーが投資先企業の事業についてその経営者ほどは 十分な知識を持っていないとと考えていること、投資先企業との関係を壊したくな いこと、さらに、その関係を恐しうる判断を自身が下したくないことがあげられ

る。0 Barr and Conley〔1992, pp.198−199〕を参照。

22@ さらに、たとえば規制によって直接的なそのような危険がなくなったとし ても、ファンド・マネージャーは、アクティビストであるという評判を受けること によってその後の雇用が影響される危険をも考慮に入れなければならない。(bffee

〔1993,pp.63−64〕を参照。また、受託義務と忠実性との関係からこの利益相反を あつかうものとして、Krikorian〔1991, pp.259−260〕がある。

ua@ 実際に、1994年の時点に至っても、ほとんどの(私的)年金基金はいわゆ るリレーションシップ投資を実施していない。Institutional Investor〔1994a〕

のアンケートによれば、リレーションシップ投資を行っている基金は全体の5.4%に すぎない。

24@ モニタリング機能の担い手としての機関投資家のこれらの限界を重視して、

機関投資家のポートフォリオの株式の議決権行使を機関投資家ではなく、受益者が 担うべきだとする意見もみられる。たとえば、Curzen and Pelesh〔1980,

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