・先使用が商標権者の排他的権利を制限している。
・先使用者の出願は先の商標の存在のみでは登録出願を拒絶されない。
との趣旨の規定があることから、先願主義が担保されているとはいえない。
40 インドにおける商標出願の流れ図を116頁に示す。
< Vadehra 氏からの回答>
インドでは、先使用主義が採用されている。インド商標法は、商標の先使用者たる 出願人に対し、優先登録権を与えている。
Vadehra の見解で示された「優先登録権」については、商標法第 34 条の先使用者の
既得権を指さしているものと考えられる。なお、先使用者の既得権の中には、我が国に おける「先使用権」に相当するものも含まれている。
商標法第11条 登録拒絶の相対的理由 (1) (略)
(2) 商標であって、
(a) 先の商標と同一又は類似するもの、及び
(b) 異なる所有者の名義で先の商標が登録されている商品又は役務と類似しない商品又は役務に対し て登録されるべきものについては、当該先の商標がインドにおける周知商標であり、かつ、後の標章の 使用が正当な理由なく当該先の商標の識別性若しくは評判を不当に利用するか若しくはそれを損なう 虞があるときは又はその範囲まで、登録されない。
(3) 、(4) (略)
説明−−本条の適用上、先の商標とは、次のものをいう。
(a) 登録商標又は第154条に掲げた条約出願であって、該当する場合は当該商標に係り主張された優先 権を参酌して、当該商標の出願日より早い出願日を有するもの
(b) 商標であって、当該商標の登録出願日、又は該当する場合は当該出願に係り主張された優先日にお いて、周知商標として保護される権利のあったもの
<日米欧>
日本:先願主義が採用されている(日本商標法第 8 条第 1 項) 。
米国:使用主義が採用されている。他人が既に使用している商標と混同を生じる可能性 があるほど類似している商標は登録できない( 15 U.S.C. 第 1052 条 (d) ) 。同一又 は類似の商標について、 15 U.S.C. 第 1052 条 (d) の規定に違反した登録は、 登録の 取消理由となっている( 15 U.S.C. 第 1064 条) 。
欧州:先願主義が採用されている(共同体商標理事会規則第 8 条) 。
商標法第34条 既得権についての例外
本法の如何なる規定も、登録商標の所有者又は登録使用者に対して、登録商標と同一又は類似の商標 のある者による使用であって、次に掲げる日のうち、何れか早い日の前からその者又はその者の前権利 者が継続的に使用していた商品若しくは役務に関する使用について、これを妨げ又は制限する権限を与 えるものではない。
(a) 所有者又はその前権利者が指定商品又は役務に関して最初に述べた商標を使用した日、又は (b) 所有者又はその前権利者の名義で、指定商品又は役務に係る最初に述べた商標が登録された日 また、登録官は(その使用が立証されているときは)、最初に述べた商標が登録されているとの理由のみに よっては、先使用に係る商標の登録を拒絶してはならない。
<日米欧>
日米では、先使用権の保護について法律上の定めがある。
日本:商標法は、商標登録出願前から使用されていた同一・類似の商標については、未
登録であっても、周知となっている場合には、継続して使用することができる権
利を認めている(日本商標法第 32 条 先使用権) 。
米国:ある商標を最初に使用した当事者は、その使用した地理的範囲において、当該商 標に対する権利を取得することができる
41。
欧州:欧州共同体商標規則では、先使用者の権利については、関係する加盟国の法令が 認める限りにおいて、自己の権利が保護されている領域における共同体商標の使 用に対抗することができる(共同体商標理事会規則第 107 条)とされており、先 使用権氏の保護については加盟国の国内法に従うこととなっている。
(3) 出願からの登録までの期間(又は FA 期間)
商標の登録出願を審査する場合のタイムフレームは、法律で特に定められていない。
特許、意匠にタイムフレームが定められているのに対し、商標に定められていない理由 については不明であるが、現地代理人の指摘によると、登録官が膨大なワークロードや その結果として膨大な未処理案件を抱えているといわれており、タイムフレームを設け ても対応できない状況があるためではないかと思われる。なお、現状要している期間に ついては下記現地代理人の回答を参照。
なお、出願からの登録までの期間についての統計データは公表されていないが、出願 数、審査数および登録数は公表されている。特許意匠商標総局の年次報告書によると、
2004 年 4 月から 2005 年 3 月の間に出願数は 78,996 件であり (前年度 ( 2003 年 4 月 -2004 年 3 月)は 92,251 件) ) 、 2004 年 4 月から 2005 年 3 月の間に審査された数は 72,091 件であり、登録数は 45,015 件である。
<商標出願数等の近年の傾向>
1998-99 1999-00 2000-01 2001-02 2002-03 2003-04 2004-05
出願数 51,704 66,378 84,275 80,236 94,120 92,251 78,996
審査数 42,104 42,500 70,115 159,735 249,003 89,958 72,091
登録数 5,300 8,010 14,202 6,204 11,190 39,762 45,015
Office of the Controller General of Patent, Designs, Trade Marks and Registrar of Geographical Indication, Annual Report 2004-2005, p.60
< Vadehra 氏からの回答>
「出願から登録まで、最低でも 2 年間は必要である。また、出願後、審査結果の最 初の通知の発行までには、通常、 3 〜 4 ヶ月程度かかる。 」
< Shanker 氏からの回答>
「出願から最初の通知までの平均期間は、およそ 1 〜 2 ヶ月である(ただし、これ は本質的に手続き上のことであり、 その時々で異なることがある) 。 また、 出願から登 録までのプロセス全体の期間は、 スムーズに登録される場合で、 平均して、 約 12 〜 18 ヶ月である(ただし、登録官が膨大なワークロードやその結果として膨大な未処理案
41 Hanover Star Milling Co. v. Metcalf, 240 U.S. 403.
件を抱えていることにも留意しなければならない) 。
商標登録局を改修する際、場所を空けるために、古い出願書類を倉庫に移したとき から、商標登録局が新しい出願から審査を行うという実務が行われている。この問題 に対し、近時、デリー高等裁判所の Vikramjit Sen 判事が、これらの古い出願の差別 的な取り扱いに関する事案の申立てを受け、商標登録局にこうした取り扱いを改める よう要請した。そのため、今後は、新しい出願と古い出願が同様の取り扱いを受ける よう是正されていくであろう。 」
<日米欧>
日本: 2005 年における平均 FA 期間は 6.6 ヶ月である
42。先行して出願・登録された商 標と混同する可能性がないかなどを特許庁が出願全件について審査を行ってい る。
米国: 4.3 ヶ月( 2002 年)
43。日本と同様、先行して出願・登録された商標と混同する 可能性がないかなどを特許庁が出願全件について審査を行う。
欧州: 9.5 ヶ月( 2001 年)
44。日本と異なり、先行出願・登録との比較については、異 議があった場合、あるいは裁判で争われた場合にのみ裁判所で判断されるという 制度を採用しており、全件については審査していない。
(4) 周知商標の保護
周知商標に抵触する商標の登録規制は、付与後の異議申立(商標法第 21 条) 、無効審 判(商標法第 57 条)の際になされる。審査段階では、職権によっても周知商標の存在 は審査しない。すなわち、ある商標が登録された後に、その商標に対する異議申立、無 効審判において、それと同一又は類似する商標についての周知性が認定された場合、当 該周知商標の存在は、それに反して登録された商標の取消事由となる。
周知商標:当該商品を使用し又は当該役務を受ける公衆の実質的大部分に周知となって いる標章であって、他の商品又は役務に関する当該標章の使用が、それら商品又は役務 と、最初に述べた商品又は役務に関して当該標章を使用する者との間の取引過程若しく は役務提供過程における結合関係を表示するものと考えられる虞がある標章
商標法第2条 定義及び解釈
(1) 本法において、文脈上他の意味を有する場合を除き、
(中略)
(zg) 商品又は役務に関して「周知商標」とは、当該商品を使用し又は当該役務を受ける公衆の実質的大
部分に周知となっている標章であって、他の商品又は役務に関する当該標章の使用が、それら商品又は 役務と、最初に述べた商品又は役務に関して当該標章を使用する者との間の取引過程若しくは役務提供 過程における結合関係を表示するものと考えられる虞がある標章をいう。 (以下略)
42 特許庁行政年次報告書2006年度版
43 米国特許商標庁 2002 年年報
44 2002 年5 月に開催された商標三極首脳会合での公表数値
① インド国内で周知な商標の保護
周知商標は、インドにおける関係階層の公衆の間で周知でなければならないが、国民 全体に周知である必要はない(商標法第 11 条 (8) 、 (9)(v) ) 。
たとえば、 「 Windows XP 」 という標章が周知商標として認められるためには、 インド におけるコンピュータ業界又はコンピュータ機器のユーザーの間で周知でなければな らず、また、 「 SUZUKI 」のような商標の場合には、インドの自動車部門において周知 でなければならない。
なお、インド国内において周知商標としての保護を得るためには、周知商標の所有者 は、それをインドの国内市場において使用することにより公衆の関連する部門における 充分な認識を獲得しなければならない。 しかし、 商標法第2条 (2)(b) は広く解釈すること が可能な規定であり、周知商標の広告をインド国内で行っただけであっても必要な認知 度が取得されているのを証明するに充分なものと見なされている。
商標法第11条(8),(9)(v)
(8) 商標が裁判所又は登録官によりインドの公衆の少なくとも 1 の関係階層において周知である旨決定 された場合は、登録官は、当該商標を本法に基づく登録のため周知商標であると認めなければならない。
(9) 登録官は、商標が周知商標であるか否かを決定するため次の何れも条件として要求することができな い。すなわち、
(i)〜(iv) (略)
(v) 当該商標がインドにおける公衆全般に周知であること