第3章 文末表現とポライトネス
5.1 意味公式の定義
5.1.2 本研究で設定した意味公式
づける。
上記の意味公式のうち、Beebe et al. (1990)の分類に従った意味公式は、断わる意志を 表す<不可>、断わる理由を説明する<弁明>、相手の意に沿えないことへの申し訳ない 気持ちを表す<謝罪>、相手の意を受け入れることを保留する<回避>である。
<不可>
Beebe et al. (1990)は「Ⅰ. 直接的な断わり(Ⅰ. Direct)」の下位カテゴリーとして「A. 遂
行 動 詞 を 用 い る 断 わ り(A. Performative)」、「B. 遂 行 動 詞 を 用 い な い 断 わ り(B.
Nonperformative statement)」の2つを挙げている6。これら、相手の意向に従えないこ
とを示す意味公式を<不可>として設定する。<不可>をポライトネスの観点から見ると、
相手の意に反することをあからさまに述べることであるため、フェイスを脅かすFTAにな る。
(37)②JM12 ごめんなさい。ちょっと用事があるんで、手伝えないです。すいません。
<弁明>
断わる理由・事情を説明するものである。<弁明>はBrown & Levinson(1987)のpps13
「弁明を求めよ、せよ」として捉え、「ポジティブ・ポライトネス」を表す意味公式として 考える。
(38)④KM21 오늘 집에 일이 있어 가지고 빨리 가봐야 되거든. 미안하다.
(今日、家に用事があるから、早く帰らなければ行けないんだ。ごめん。)
<謝罪>
相手の依頼に応じられないことに対する申し訳ない気持ちを表明することである。<謝
罪>はBrown & Levinson(1987)のnps6「謝罪せよ」として捉え、「ネガティブ・ポライ
トネス」を表す意味公式として考える。
6 筆者訳による。
(39)②JM7 あ、すみません。できれば他の人あたって下さい。
<回避>
Beebe et al. (1990)は非言語的な「回避」と言語的な「回避」の両方を設定している。
本研究では、言語行動を分析対象とするため、言語的な<回避>のみを扱う。羽井佐(2002) は、「遠回し表現も、相手の傷つけられたくないというフェイスを考慮しているため、「ネ ガティブ・ポライトネス」を表す」(p. 117)と述べている。ここでは、<回避>は「ネガテ ィブ・ポライトネス」を表す意味公式として考える。
1. 延期
(40)①JF32 あ、申し訳ありません。その日はあのーーー、ちょっと用がどうしても断わ れない用が入っていますので。えー、ただあのー、ま、まだはっきりと分からないん ですけれども、そちらの方、あの、よ、そちらの用事の方確認してから、あの、また 改めてお、お返事させていただきたいと思います。けれども、え、うん、多分あの、
お手伝いできないかと思います。申し訳ありません。
2. 言葉を濁す
(41)①JM12 あ、申し訳ありません。あの、どうしてもはずせない用事があって。あの、
後日なんか手伝うことがあれば、手伝えるんですけれども、今日はちょっと。すいま せん。
3. 依頼内容の繰り返し
(42)④KF25 어, 이사 도와달라고? 니 친구 내말고 또 있다아이가? 왜 내한테
달라하는데? 어, 내 오늘 바쁘거든. 미안하다. 다른 애한테 좀 부탁해봐. 미안.
갈께.
(あ、引越し手伝ってくれるって。あなた、友達、私以外にいるじゃない。なんで私 に手伝ってもらいたいと言うの。あ、今日忙しいの。ごめん。他の子にちょっと頼ん でみて。ごめん。行くね。)
次に、Beebe et al. (1990)の分類に修正を加えたものは、<積極的関係維持>、<消極
的関係維持>、<好意表明>である。前節で述べたように、村井(1998)を参考に、Beebe et al. (1990)の<今後の約束>と<代案の提示>と<条件提示>を、<積極的関係維持>と<
消極的関係維持>とする。
<積極的関係維持>/<消極的関係維持>
相手との関係を積極的/消極的に維持しようとする意志を表明することである。<積極 的関係維持>と<消極的関係維持>は、Brown & Levinson(1987)のpps10「提案、約束を せよ」として捉え、「ポジティブ・ポライトネス」を表す意味公式として考える。
(43)③JF33 え、ごめん。えーとー、はずせない用事があるから、お手伝いできない。だ けど、この埋め合わせは絶対するんで。
(44)③JM11 あ、引越しか、あ、なんか面倒くさいな.なんかおごってくれたら、いいけ どな。うん、でもなんか面倒くさいから、いいや。また今度、うん、また今度手伝う わ。
<好意表明>
Beebe et al. (1990)の「願望」、「断わりに付随する発話」の「1. 好意的な意見・感情、
同意の表明」および「共感」は、相手の依頼、要求などに対して好意的な反応を示すとい う共通する意味があると考えられるため、<好意表明>というカテゴリーのサブ・カテゴリ ーとして設定する。<好意表明>は「ポジティブ・ポライトネス」を表す意味公式として 考える。これは羽井佐(2002)が依頼を断わる発話を分析する意味要素の1つとして設定し たPositive Opinionに当たるものである。羽井佐(2002)はPositive Opinionとは、例えば、
「お手伝いしたいんですが」、「やりたいのは山々なんですが」という依頼や誘いに対する 肯定的な発話で、「ポジティブ・ポライトネス」に当たるとしている。
1. 依頼内容についての願望、好意的な反応を積極的に表明する
(45)①JM5 えー、すいません。あのー、手伝いたいのは山々なんですけど、ちょっと
時間的にあのーー、余裕がないので。また今度別の日かなにかにあのー、お手伝 いさせて下さい。すいません。
2. 相手の状況に共感を示す
(46)①KM17 예,저,교수님,저,죄송한데요,오늘 집에 좀 안좋은 일이 있어 가지고요. 좀
일찍 들어가봐야 될 것 같습니다. 그래가지고 조금 죄송한데,다음번에 같은 경우에 오랜만에 교수님이 어렵게 저한테 부탁하시는 거 아는데요.(中略)다음에 기회가 되면 꼭 잘 도와드리도록 하겠습니다. 이상입니다.
(はい、あの、先生、あの、申し訳ありませんが、今日家にちょっと良くないことがあ りまして、ちょっと早く帰らなければならなさそうです。それで、ちょっと申し訳あ りませんが、今回の場合はお久しぶりに先生が遠慮しながら私に頼んでいることは分 かりますが。(中略)今度機会があれば、必ずお手伝いします。以上です。)
そして、日本語と韓国語において、他の意味公式に比べ発現頻度が少ないものを<その 他>として捉えた。具体的には、相手を激励したい気持ちを表明する<激励>、相手に同 意を求める<同意要求>、相手に情報を要求する<情報要求>、相手の理解を求める<理 解要請>、相手への依頼をする<依頼>、会話を終了する意志を表明する<会話終了>が ある。また、韓国語では、依頼した相手を責める<非難>が挙げられる7。
本研究では、談話完成テストから得られた発話を以上のような意味公式で分析した。次 の例のように、1 人の発話に同一の意味公式が繰り返し用いられた場合にも、それぞれを 独立した意味公式として数えた。
(47)①JM12 あ、申し訳ありません<謝罪>。あの、どうしてもはずせない用事があって<
弁明>、あの、後日なんか手伝うことがあれば、手伝えるんですけれども<積極的関係維持>、 今日はちょっと<回避>。すいません<謝罪>。
上記の例は、<謝罪>+<弁明>+<積極的関係維持>+<回避>+<謝罪>という意 味公式の組み合わせによって示される断わりの構造である。また、<謝罪>は2回繰り返 されているが、それぞれを数えるため、意味公式の使用個数は5である。
7 日本語では、<非難>の該当例はなかった。