第3章 文末表現とポライトネス
3.2.2 韓国語の 3 タイプの文の比較分析
3.2.2.1 教官に対する場面
3.2.2.1.1 主節の違いによる結果分析および考察
2.3.2.1.1 節「調査内容の概要」で述べたように、本研究では、教官の依頼を断わる場面
における韓国語のスピーチレベルとして格式的尊待〔+RESPECT, +FORMAL〕と非格式 的尊待〔+RESPECT, -FORMAL〕を設定し、友人に対する場面におけるスピーチレベル として格式的非尊待〔-RESPECT, +FORMAL〕を設定した。ここでは、教官に対する場 面での格式的尊待のスピーチレベル(以下、格式的尊待とする)の文、非格式的尊待のス ピーチレベル(以下、非格式的尊待とする)の文を、主節の違いによって次のようにグル ープ別にまとめる。下記の文の番号は、表1(45頁を参照)による。
⑤「그날은 일이 있어서 안 갑니다」
(格式的尊待の「行カナイ」文) 「行カナイ」文グループ
②「그날은 일이 있어서 안 가요」
(非格式的尊待の「行カナイ」文)
①「그날은 일이 있어서 못 갑니다」
(格式的尊待の「行ケナイ」文) 「行ケナイ」文グループ
⑥「그날은 일이 있어서 못 가요」
(非格式的尊待の「行ケナイ」文)
⑦「그날은 일이 있어서 못 갈 것 같습니다」
(格式的尊待の「것 같다(geos gata)」文) 「것 같다(geos gata)」文グループ
③「그날은 일이 있어서 못 갈 것 같아요」
(非格式的尊待の「것 같다(geos gata)」文)
上記の3グループ間の配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度に有意差があるかど うかを検証するため、フリードマン検定を行った。その結果を次の表21および図10に示 す。
表21 フリードマン検定による韓国語の3グループ間の比較(教官に対する場面)
グループ 統計量 配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
「行カナイ」文グループ
「行ケナイ」文グループ
「것 같다」文グループ
平均順位 平均順位 平均順位 Chi-Square
df 有意確率 有意差判定
1.13 1.94 2.93 369.775
2 .000
***
1.27 1.85 2.88 317.415
2 .000
***
1.35 1.94 2.70 216.960
2 .000
***
1.76 2.00 2.24 27.846
2 .000
***
1.28 2.01 2.72 244.979
2 .000
***
***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし
2.93 2.88
2.7
2.24
2.72
1.94 1.85 1.94 2 2.01
1.13 1.27 1.35
1.76
1.28 1
2 3
配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
「것 같다」文グ ループ
「行ケナイ」文グルー プ
「行カナイ」文グルー プ
図10 フリードマン検定による韓国語の3グループの平均順位
(教官に対する場面)
表21に示したように、3グループ間の配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度に有 意差があることが0.1%水準で認められた(p<=.001)。したがって、全体としては3タイプ の文の配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度に差があると言える。
さらに、スティール・ドゥワス検定による多重比較法を用い、3 グループのどの組み合 わせに有意差があるかを調べた。各々の組み合わせでの検定統計量、有意確率、有意差の 判定結果を示すと、以下の表22のようになる。
表22 多重比較による韓国語の3グループ間の比較(教官に対する場面)
配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
「行カナイ」文vs.「行ケナイ」文 有意確率
有意差の判定
-12.504 .000
***
-8.744 .000
***
-8.131 .000
***
-2.952 .009
**
-9.657 .000
***
「行カナイ」文vs.「것 같다」文 有意確率
有意差の判定
-18.179 .000
***
-16.918 .000
***
-14.463 .000
***
-6.020 .000
***
-15.900 .000
***
「行ケナイ」文 vs.「것 같다」文 有意確率
有意差の判定
-14.547 .000
***
-12.377 .000
***
-10.563 .000
***
-4.052 .000
***
-11.032 .000
***
***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし
「行カナイ」文と「行ケナイ」文は、0.1%水準で配慮度、間接度、親近度、改まり度に 有意差があり(p<=.001)、1%水準で距離度に有意差があることが認められた(p<=.01)。「行カ ナイ」文と「것 같다(geos gata)」文は、0.1%水準で 5つの軸の評定値に有意差があるこ とが認められた(p<=.001)。「行ケナイ」文と「것 같다(geos gata)」文も0.1%水準で5つの 軸の評定値に有意差があることが認められた(p<=.001)。
図10および表22を見ると、配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度は「行カナイ」
文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順に高くなっていることが分かる。そのた め、「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順に、会話参加者のフェイ スを傷つけないことに配慮する「ポライトネスの普遍的原則」、間接的に表現する「オフ・
レコード」、親近感を示す「ポジティブ・ポライトネス」、距離を置く「ネガティブ・ポラ イトネス」、改まりを示す「わきまえのポライトネス」の度合いが高いと言える。したがっ て、「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順にポライトネスの度合い が高い表現であると考えられる。この理由として次のようなことが考えられる。相手の意 に沿えないことを露骨に表し、それを自分の意志として伝達する「行カナイ」文は、事情 により断わらざるを得ないことを示す「行ケナイ」文よりポライトネスの度合いが低い表 現である。「것 같다(geos gata)」文は「行ケナイ」文に文末表現「것 같다(geos gata)」の ついている形である。先行研究では、「것 같다(geos gata)」文について「自分の推測して いる内容と反対の状況が起きかねないという可能性を示している」(전나영Jeon Nayeng , 1999, p. 173)、聞き手の体面を守るために断定を避ける表現(이한규Lee Hangyu, 2001, p. 289)という指摘がある。相手の意に沿えない可能性があることを示し、断わる旨を間 接的に伝達する「것 같다(geos gata)」文は、「行ケナイ」文よりポライトネスの度合いが 高い表現であると評定されたと考えられる。
3.2.2.1.2 スピーチレベルの違いによる結果分析および考察
ここでは、スピーチレベルによって「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」
文の「ポライトネスの軸」の評定値に違いがあるかを比較する。この3タイプの文は、す べて従属節が接続語尾「어서(eoseo)」で終わるため、接続語尾の違いによる分析は行わな い。2つのスピーチレベルのうち、格式的尊待の3タイプの文の配慮度、間接度、親近度、
距離度、改まり度に差があるかどうかを検証するためにフリードマン検定を行った。その
結果を次の表23および図11に示した。
表23 フリードマン検定による格式的尊待の3タイプの文の比較(教官に対する場面)
格式的尊待 統計量 配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
⑤「그날은 일이 있어서 안갑니다」
「行カナイ」文
① 「그날은 일이 있어서 못갑니다」
「行ケナイ」文
⑦「그날은 일이 있어서 못 갈 것 같습니다」
「것 같다(geos gata)」文
平均順位 平均順位 平均順位 Chi-Square
df 有意確率 有意差判定
1.15 1.90 2.95 184.489
2 .000
***
1.39 1.75 2.86 142.477
2 .000
***
1.42 1.86 2.72 111.427
2 .000
***
1.69 1.97 2.33 26.351
2 .000
***
1.18 1.95 2.87 172.325
2 .000
***
***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし
2.95 2.86
2.72
2.33
2.87
1.9
1.75 1.86 1.97 1.95
1.15
1.39 1.42
1.69
1.18 1
2 3
配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
「것 같다」文
「行ケナイ」文
「行カナイ」文
図11 フリードマン検定による格式的尊待の3タイプの文の平均順位
(教官に対する場面)
表23に示したように、格式的尊待の3タイプの文の間の配慮度、間接度、親近度、距 離度、改まり度に有意差があることが0.1%水準で認められた(p<=.001)。したがって、全 体としては3タイプの文の配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度に差があると言え る。
さらに、3 タイプの文のどの組み合わせに有意差があるかをスティール・ドゥワス検定
による多重比較で検証した。3タイプの文の各々の組み合わせでの検定統計量、有意確率、
有意差の判定結果を示すと、以下の表24のようになる。
表24 多重比較による格式的尊待の3タイプの文の比較(教官に対する場面)
配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
「行カナイ」文vs. 「行ケナイ」文 有意確率
有意差の判定
-8.391 .000
***
-4.262 .000
***
-5.034 .000
***
-2.821 .013
*
-7.89 .000
***
「行カナイ」文 vs. 「것 같다」文 有意確率
有意差の判定
-13.146 .000
***
-11.448 .000
***
-9.432 .000
***
-5.258 .000
***
-12.367 .000
***
「行ケナイ」文vs. 「것 같다」文 有意確率
有意差の判定
-11.294 .000
***
-9.198 .000
***
-7.038 .000
***
-3.82 .000
***
-9.989 .000
***
***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし
格式的尊待の「行カナイ」文と「行ケナイ」文は、0.1%水準で配慮度、間接度、親近度、
改まり度に有意差があり(p<=.001)、5%水準で距離度に有意差がある(p<=.05)。「行カナイ」
文と「것 같다(geos gata)」文は、0.1%水準で5つの軸の評定値に有意差があることが認め られた(p<=.001)。同様に、「行ケナイ」文と「것 같다(geos gata)」文も0.1%水準で5つの 軸の評定値に有意差があることが認められた(p<=.001)。
図11および表24を見ると、配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度は「行カナイ」
文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順に高くなっていることが分かる。そのた め、「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順に、会話参加者のフェイ スを傷つけないことに配慮する「ポライトネスの普遍的原則」、間接的に表現する「オフ・
レコード」、親近感を示す「ポジティブ・ポライトネス」、距離を置く「ネガティブ・ポラ イトネス」、改まりを示す「わきまえのポライトネス」の度合いが高い。したがって、「行 カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順にポライトネスの度合いが高い 表現であると考えられる。
次に、非格式的尊待の3タイプの文の配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度につ いて有意差があるかどうかをフリードマン検定により検証した。その結果を下記の表 25 および図12に示す。
表25 フリードマン検定による非格式的尊待の3タイプの文の比較(教官に対する場面)
非格式的尊待スピーチレベル 統計量 配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
②「그날은 일이 있어서 안가요」
「行カナイ」文
⑥「그날은 일이 있어서 못가요」
「行ケナイ」文
③「그날은 일이 있어서 못 갈 것 같아요」
「것 같다 (geos gata)」文
平均順位 平均順位 平均順位 Chi-Square
df 有意確率 有意差判定
1.13 1.95 2.92 184.041
2 .000
***
1.20 1.92 2.87 167.665
2 .000
***
1.33 1.93 2.74 121.724
2 .000
***
1.89 1.92 2.19 7.090
2 .029
*
1.33 1.93 2.74 127.707
2 .000
***
***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし
2.92 2.87
2.74
2.19
2.74
1.95 1.92 1.93 1.92 1.93
1.13 1.2 1.33
1.89
1.33 1
2 3
配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
「것 같다」文
「行ケナイ」文
「行カナイ」文
図12 フリードマン検定による非格式的尊待の3タイプの文の平均順位
(教官に対する場面)
表25に示したように、非格式的尊待の 3タイプの文の配慮度、間接度、親近度、改ま り度に有意差があることが 0.1%水準で認められ(p<=.001)、距離度に 5%水準で有意差が あることが認められた(p<=0.05)。したがって、全体としては3タイプの文の配慮度、間接 度、親近度、距離度、改まり度に差があると言える。
さらに、3 タイプの文の各々の組み合わせに有意差があるかどうかをスティール・ドゥ ワス検定による多重比較で検証した。その結果を次の表26に示す。
表26 多重比較による非格式的尊待の3タイプの文の比較(教官に対する場面)
配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度
「行カナイ」文vs.「行ケナイ」文 有意確率
有意差の判定
-9.457 .000
***
-8.044 .000
***
-6.415 .000
***
-1.292 .400
-
-6.101 .000
***
「行カナイ」文vs. 「것 같다」文 有意確率
有意差の判定
-12.873 .000
***
-12.573 .000
***
-10.97 .000
***
-3.546 .001
**
-11.295 .000
***
「行ケナイ」文vs. 「것 같다」文 有意確率
有意差の判定
-9.886 .000
***
-8.234 .000
***
-7.892 .000
***
-2.707 .019
*
-7.827 .000
***
***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし
非格式的尊待の「行カナイ」文と「行ケナイ」文は、0.1%水準で配慮度、間接度、親近 度、改まり度に有意差があることが認められた(p<=.001)。距離度には有意差がなかった。
「行カナイ」文と「것 같다(geos gata)」文は、0.1%水準で配慮度、間接度、親近度、改 まり度に有意差があり(p<=.001)、1%水準で距離度に有意差があることが認められた (p<=.01)。また、「行ケナイ」文と「것 같다(geos gata)」文は、0.1%水準で配慮度、間接 度、親近度、改まり度に有意差があり(p<=.001)、5%水準で距離度に有意差があることが 認められた(p<=.05)。
図12および表26を見ると、配慮度、間接度、親近度、改まり度は「行カナイ」文、「行 ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順に高くなっていることが分かる。一方、距離度は
「行カナイ」文=「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順に高くなっている。そのた め、「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順に会話参加者のフェイス を傷つけないことに配慮する「ポライトネスの普遍的原則」、間接的に表現する「オフ・レ コード」、親近感を示す「ポジティブ・ポライトネス」、改まりを示す「わきまえのポライ トネス」が高くなると言える。一方、距離を置く「ネガティブ・ポライトネス」に関して は、「行カナイ」文と「行ケナイ」文には有意差がなく、この2つの文は「것 같다(geos gata)」
文より「ネガティブ・ポライトネス」の度合いが低いことが分かる。したがって、全体と しては、「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文の順にポライトネスの度 合いが高い表現であると考えられる。
以上では、格式的尊待と非格式的尊待という2つのスピーチレベルで終わる3タイプの 文の5つの「ポライトネスの軸」の評定値を比較分析した。距離度の場合、格式的尊待の