• 検索結果がありません。

第3章  文末表現とポライトネス

3.2.1 日本語の 3 タイプの文の比較分析

3.2.1.2 友人に対する場面

3.2.1.2.1 主節の違いによる結果分析および考察

友人に対する場面における以下の3グループ間の「ポライトネスの軸」の評定値に違い があるかどうかを検証するため、フリードマン検定(Friedman Test)を行なった。その検定結 果を次の表13および図6に示す。文の番号は表1(45頁を参照)による。

⑪「その日は用事があって、行かない」

②「その日は用事があるので、行かない」 「行カナイ」文グループ

⑧「その日は用事があるから、行かない」

⑦「その日は用事があって、行けない」

①「その日は用事があるので、行けない」 「行ケナイ」文グループ

⑩「その日は用事があるから、行けない」

④「その日は用事があって、行けないんだ」

⑥「その日は用事があるので、行けないんだ」 「ノダ」文グループ

⑫「その日は用事があるから、行けないんだ」

表13 フリードマン検定による日本語の3グループ間の比較(友人に対する場面)

グループ 統計量 配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度

「行カナイ」文グループ

「行ケナイ」文グループ

「ノダ」文グループ

平均順位 平均順位 平均順位 Chi-Square

df 有意確率 有意差判定

1.09 2.11 2.81 471.139

2 .000

***

1.19 2.17 2.65 391.235

2 .000

***

1.28 1.99 2.73 334.811

2 .000

***

2.02 2.11 1.87 10.216

2 .000

***

1.44 2.26 2.30 160.048

2 .000

***

***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし

1.09 1.19 1.28

2.02

1.44 2.11 2.17

1.99 2.11

2.26 2.81

2.65 2.73

1.87

2.3

1 2 3

配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度

「行カナイ」文グ ループ

「行ケナイ」文グ ループ

「ノダ」文グループ

図6 フリードマン検定による日本語の3グループの平均順位(友人に対する場面)

表13に示したように、「行カナイ」文グループと「行ケナイ」文グループと「ノダ」文 グループの配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度に有意差があることが 0.1%水準 で認められた(p<=.001)。したがって、全体としては3グループの配慮度、間接度、親近度、

距離度、改まり度に差があると言える。

さらに、どのグループ間に有意差があるかをスティール・ドゥワス検定による多重比較 で検証した。検定統計量、有意確率、有意差の判定結果を示すと、表14のようになる。

表14 多重比較による日本語の3グループ間の比較(友人に対する場面)

配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度

「行カナイ」文vs.「行ケナイ」文 有意確率

有意差の判定

-7.316 .000

***

-15.800 .000

***

-11.920 .000

***

-0.836 .681

-10.809 .000

***

「行カナイ」文 vs.「ノダ」文 有意確率

有意差の判定

-20.796 .000

***

-18.049 .000

***

-17.504 .000

***

2.351 .049

*

-10.497 .000

***

「行ケナイ」文vs. 「ノダ」文 有意確率

有意差の判定

-12.505 .000

***

-6.798 .000

***

-12.600 .000

***

4.596 .000

***

-0.432 .902

***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし

「行カナイ」文グループと「行ケナイ」文グループは、0.1%水準で配慮度、間接度、親

近度、改まり度に有意差があることが認められた(p<=.001)。距離度には有意差がなかった。

「行カナイ」文グループと「ノダ」文グループは、0.1%水準で配慮度、間接度、親近度、

改まり度に有意差があり(p<=.001)、5%水準で距離度に有意差があることが認められた (p<=.05)。「行ケナイ」文グループと「ノダ」文グループは、0.1%水準で配慮度、間接度、

親近度、距離度に有意差があることが認められた(p<=.001)。改まり度には有意差がなかっ た。

図6および表14を見ると、配慮度、間接度、親近度は「行カナイ」文、「行ケナイ」文、

「ノダ」文の順に高くなっていることが分かる。しかし、距離度は「ノダ」文、「行カナイ」

文=「行ケナイ」文の順に高くなっている。改まり度は「行カナイ」文、「行ケナイ」文=

「ノダ」文の順に高くなっている。

「行カナイ」文は距離度のみにおいて「行ケナイ」文との有意差はないものの、「ノダ」

文および「行ケナイ」文に比べ、配慮度、間接度、親近度、改まり度が低いため、会話参 加者のフェイスを傷つけないことに配慮する「ポライトネスの普遍的原則」、間接的に言う

「オフ・レコード」、親近感を示す「ポジティブ・ポライトネス」、改まりを示す「わきま えのポライトネス」の度合いが低いと言える。このことから、「行カナイ」文は「ノダ」文 および「行ケナイ」文に比べ、ポライトネスの度合いが低い表現であると考えられる。「行 カナイ」文は断わる旨を自分の意志として伝達する表現であるため、事情によってやむを 得ず断わらざるを得ないことを示す「行ケナイ」文および「ノダ」文よりポライトネスの 度合いが低く評定されたと考えられる。「行カナイ」文が「ノダ」文より距離度が高いこと

は、3.2.1.1.1節「主節の違いによる結果分析および考察」で述べたように、「距離の軸」の

曖昧な定義と被験者の誤解を招くような調査票の提示方法が原因として考えられる。

次に、双方とも「ポライトネスの軸」の評定値が高かった「ノダ」文と「行ケナイ」文 を比較すると、「ノダ」文は「行ケナイ」文より配慮度、間接度、親近度が高いため、会話 参加者のフェイスを傷つけないことに配慮する「ポライトネスの普遍的原則」、間接的に言 う「オフ・レコード」、親近感を示す「ポジティブ・ポライトネス」が高いと言える。これ に対し、「行ケナイ」文は「ノダ」文より距離度が高いため、距離を置く「ネガティブ・ポ ライトネス」の度合いが高いが、改まり度には有意差がないため、改まりを示す「わきま えのポライトネス」の度合いに差がないと言える。したがって、全体としては、「ノダ」文 の方が「行ケナイ」文よりポライトネスの度合いが高い表現であると考えられる。

「ノダ」文において親近度が高いと評定されたことについては、「ノダ」を使用すること

によって話し手は聞き手とその情報を共有しているかのように提示し、話の中に聞き手を 引き込むことで、親近感を持つことができると考えられる。

「行ケナイ」文の距離度が高く評定されたことについては、3.2.1.1.1 節「主節の違いに よる結果分析および考察」で述べたように、先行研究を参考にすると、断わりの場面にお ける可能表現の否定文の使用は、自分の意志とは関係ない原因により、実現できないこと を表し、断わるという行為から自分の意志を排除することになる。これによって断わる行 為と自分との間に距離が置かれ、距離度が高く評定されたと考えられる。

3.2.1.2.2 従属節末の接続助詞の違いによる結果分析および考察

従属節が「テ」で終わる「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「ノダ」文の配慮度、間接度、

親近度、距離度、改まり度に有意差があるかどうかを検証するためにフリードマン検定を 行った。その結果を以下の表15および図7に示す。

表15 フリードマン検定による「テ」で終わる3タイプの文の比較(友人に対する場面)

従属節が「テ」で終わる文 統計量 配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度

⑪「その日は用事があって行かない」

⑦「その日は用事があって行けない」

④「その日は用事があって行けないんだ」

平均順位 平均順位 平均順位 Chi-Square

df 有意確率 有意差判定

1.09 2.05 2.85 162.110

2 .000

***

1.25 2.08 2.67 120.767

2 .000

***

1.26 1.94 2.80 128.287

2 .000

***

2.09 2.02 1.88 2.851

2 .240

1.55 2.18 2.27 37.869

2 .000

***

***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし

1.09 1.25 1.26

2.09

1.55 2.05 2.08

1.94 2.02 2.18 2.85 2.67 2.8

1.88

2.27

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

配慮度 間接度 親近度 距離度 改まり度

⑪「行カナイ」文

⑦「行ケナイ」文

④「ノダ」文

図7 フリードマン検定による「テ」で終わる3タイプの文の平均順位

(友人に対する場面)

表15に示したように、従属節が「テ」で終わる 3タイプの文の配慮度、間接度、親近 度、改まり度に有意差があることが0.1%水準で認められた(p<=.001)。一方、距離度には 有意差がなかった。したがって、全体としては3タイプの文の配慮度、間接度、親近度、

改まり度に差があると言える。

さらに、3 タイプの文のどの組み合わせの配慮度、間接度、親近度、改まり度に差があ るかをスティール・ドゥワス検定による多重比較で検証した9。その結果を次の表16に示 す。

9 フリードマン検定の結果が有意であった場合、多重比較を行うため、距離度については多重比較を行わ なかった。

表16 多重比較による「テ」で終わる3タイプの文の比較(友人に対する場面)

配慮度 間接度 親近度 改まり度

「行カナイ」文vs.「行ケナイ」文 有意確率

有意差の判定

-9.790 .000

***

-8.213 .000

***

-6.948 .000

***

-5.341 .000

***

「行カナイ」文 vs.「ノダ」文 有意差の判定

-12.097 .000

***

-10.416 .000

***

-10.528 .000

***

-5.747 .000

***

「行ケナイ」文vs. 「ノダ」文 有意差の判定

-7.991 .000

***

-4.803 .000

***

-7.868 .000

***

-1.016 .567

***:0.1%水準で有意、**:1%水準で有意、*:5%水準で有意、-:有意差なし

従属節が「テ」で終わる「行カナイ」文と「行ケナイ」文は、0.1%水準で配慮度、間接 度、親近度、改まり度に有意差があることが認められた(p<=.001)。「行カナイ」文と「ノ ダ」文も 0.1%水準で配慮度、間接度、親近度、改まり度に有意差があることが認められ た(p<=.001)。「行ケナイ」文と「ノダ」文を比較すると、0.1%水準で配慮度、間接度、親 近度に有意差があることが認められた(p<=.001)。改まり度には有意差がなかった。

図7および表16を見ると、配慮度、間接度、親近度は「行カナイ」文、「行ケナイ」文、

「ノダ」文の順に高くなっている。改まり度は、「行カナイ」文、「行ケナイ」文=「ノダ」

文の順に高くなっている。一方、距離度に関しては、3タイプの文の有意差はなかった。

「行カナイ」文は「ノダ」文および「行ケナイ」文に比べ、距離度には有意差がないも のの、配慮度、間接度、親近度、改まり度が低いため、会話参加者のフェイスを傷つけな いことに配慮する「ポライトネスの普遍的原則」、間接的に言う「オフ・レコード」、親近 感を示す「ポジティブ・ポライトネス」、改まりを示す「わきまえのポライトネス」の度合 いが低いと言える。このことから、「行カナイ」文は「ノダ」文および「行ケナイ」文より ポライトネスの度合いが低い表現であると考えられる。

次に、「ノダ」文と「行ケナイ」文を比較すると、「ノダ」文は「行ケナイ」文より配慮 度、間接度、親近度が高いので、会話参加者のフェイスを傷つけないことに配慮する「ポ ライトネスの普遍的原則」、間接的に言う「オフ・レコード」、親近感を示す「ポジティブ・

ポライトネス」の度合いが高いと言える。一方、距離度、改まり度には有意差がないため、

距離を置く「ネガティブ・ポライトネス」、改まりを示す「わきまえのポライトネス」の度 合いには有意差がない。したがって、全体としては、「ノダ」文は「行ケナイ」文よりポラ イトネスの度合いが高い表現であると考えられる。