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第2章  問題の所在と研究方法

2.3 調査

2.3.4 データの解析方法

2.3.4.1 データの解析方法の妥当性

「言語表現レベルのポライトネス調査」および「談話レベルのポライトネス調査」のう ちの「断わりの場面における意識調査」のデータは統計処理を行った。「言語表現レベルの

ポライトネス調査」では、被験者に以下の5 つの「ポライトネスの軸」22を示し、断わり の場面で用いられた言語表現から受ける印象を評定してもらった。各軸は 1~5 までの数 字で示され、各数字間が等間隔であることは保証されていないが、大小の方向を想定でき る順序尺度である。同様に、「断わりの場面での意識調査」のデータでは、被験者に「ポラ イトネスの軸」を示し、断わりの場面における意識を評定してもらった。本調査で用いた 5つの「ポライトネスの軸」は以下の通りである。

「配慮の軸」 ⇒ 配慮しない 1 2 3 4 5 配慮する

「間接性の軸」 ⇒ 直接的な 1 2 3 4 5 間接的な

「親近感の軸」 ⇒ 親近感を示さない 1 2 3 4 5 親近感を示す

「距離の軸」 ⇒ 距離を置かない 1 2 3 4 5 距離を置く

「改まりの軸」 ⇒ 改まっていない 1 2 3 4 5 改まった

したがって、本調査のデータは、対応がある順序尺度のデータである23。内田(1997)は、

順序尺度のデータを統計的に解析する以下の 3 つの立場を示し、「順序尺度のデータを解 析する立場としては、[1]の立場が最も良い」(p. 194)と述べている。

[1] そのまま順序尺度のデータとして解析する。

[2] 順序情報を無視して、名義尺度のデータとして解析する。

[3] 等間隔であると仮定して(みなして)、間隔尺度のデータとして解析する24

しかし、[3]の立場に比べ、[1]は用いられる統計手法の数が少なく、解析結果も複雑 であるため、順序尺度を間隔尺度としてみなすことが多いとしている25

22 1.3節「本研究におけるポライトネスの捉え方」を参照。

23 対応があるデータとは、同じ対象に対して、条件を変えて何回か測定したデータである。本調査のデ ータは、同一の被験者に対して、様々な断わりの言語表現および断わりの場面での意識を評定してもらっ たものであるため、対応があるデータであると言える。

24 永瀬(2001)によれば、「間隔尺度はデータ間の順序と順序の間が等間隔であるようなデータである。例

えば、温度は0度、1度、2度、3度というように、順序が決まっていて、各温度の間が等間隔になって いるとしている。だから、3度-2度=2度-1度という式が成り立ち、平均も出すことができる」(p. 69) と言う。これに対し、順序尺度はデータの間の間隔が同じである保証がないため、平均を出すことはでき ない。つまり、3位-2位=2位-1位という式が成り立たない。

25 永瀬(2001)によれば、「言語研究では幅広い統計的手法が使えるため、順序尺度を間隔尺度と“みなす”

ことが多い」(p. 72)という。

本研究では、データに適切な統計手法を用いることに重点をおくため、[1]順序尺度の データをそのまま順序尺度のデータとして解析する立場をとる。検定方法としては、対応 がある3群以上の順序尺度のデータの順位の違いを調べるために用いられるフリードマン 検定(Friedman Test)を用いた26。第3章では、日本語の「行カナイ」文、「行ケナイ」文、

「ノダ」文(韓国語の「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「것 같다(geos gata)」文)という 3 タイプの文の配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度の順位の違いがあるかを調べ るために、フリードマン検定を用いた。同様に、第 4 章では、日本語の「行カナイ」文、

「行ケナイ」文、「中途終了文」(韓国語の「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「中途終了文」)

という3タイプの文の5つの「ポライトネスの軸」の評定値の違いを調べた。第5章では、

4 つの断わりの場面での意識に関する「ポライトネスの軸」の評定値の違いを、フリード マン検定によって調べた。

2.3.4.2 データ解析の手順

実際の計算には統計パッケージ27を用いたが、フリードマン検定でデータを解析する手 順の一例として、従属節が接続助詞「テ」で終わる下記の「行カナイ」文、「行ケナイ」文、

「ノダ」文の配慮度に有意差があるかを調べる。

③その日は用事がありまして、行きません。

①その日は用事がありまして、行けません。 従属節が「テ」で終わる3タイプの文

⑦その日は用事がありまして、行けないんです。

(上記の文頭の番号は、表1による)

③は「行カナイ」文、①は「行ケナイ」文、⑦は「ノダ」文であり、これらの3タイプ の文は主節のみが異なる。

被験者に上記の 3 タイプの文の配慮度を評定してもらい、フリードマン検定によって、

26 データを順位値(データを大小の順で並べ替えたときの順位)に変換し、順位値を解析の対象とする 2 元配置分散分析のノンパラメトリック版である。フリードマン検定を使うメリットとしては、相対的な順 位を比べるので、データの質的な分析が可能なこと、分布によらないことなどが挙げられる。

27 フリードマン検定およびスピアマンの順位相関係数は、SPSS for WINDOWS11.0を用い、スティー ル・ドゥワス検定による多重比較は、Kyplot4.0を利用した。

そのデータ(実測値)を順位値に変換し、配慮度に有意差があるかを調べる。まず、③、

①、⑦の文に対し、各被験者が評定した配慮度(実測値)を順位値に変換する。最低の評 定値には1の順位値を与え、次いで低い評定値には2の順位値を与え、最高の評定値には 3の順位値を与える。このように、配慮度の実測値を順位値に変換すると、以下の表4の ようになる28

表4 配慮度の実測値を順位値に変換する例

③の実測値 ①の実測値 ⑦の実測値 ③の順位値 ①の順位値 ⑦の順位値

被験者1 1 3 4 被験者1 1 2 3

被験者2 2 3 3 被験者2 1 2.5 2.5

被験者3 2 4 5 被験者3 1 2 3

実測値の和 5 10 12 順位和 3 6.5 8.5

平均値 1.67 3.33 4 平均順位 1 2.17 2.83

次に、配慮度の順位の和や平均順位(順位値の和÷被験者の人数)に有意差があるかを 示すため、フリードマン検定統計量の公式29を用いて、検定を行った。検定の結果が有意 であった場合、順位の和と平均順位が有意に異なるという意味を持つ。これを本調査のデ ータの場合に当てはめてみると、フリードマン検定の結果が有意であった場合、全体とし ては上記の3タイプの文は配慮度の順位の和と配慮度の平均順位に差があることが分かる。

フリードマン検定の結果が有意であった場合、どの文の組み合わせ-③と①、③と⑦、

①と⑦-に違いがあるかを調べるために、多重比較を行う必要がある。ここでは、データ が順序尺度であること、比較する文のすべての組み合わせを同時に検定できることから、

スティール・ドゥワス(Steel-Dwass)検定を用いた30。この検定により3つの文のすべての 組み合わせの間の配慮度に有意差が認められるかどうかを調べることができる。フリード マン検定から得られた配慮度と、どの文の間に有意差があるかについてのスティール・ド ゥワス検定の結果から、3 タイプの文の中で、どの文間の配慮度に有意差があるかが分か る。

28 被験者2のように、同じ順位が2つある場合には、中間順位((2+3)÷2=2.5)を出す。

29 次式により検定統計量を求める。(r=対象、c=処理、R=各処理ごとの順位の和)

30 「分布の位置を表すパラメータについて群間ですべての対比較を同時に検証するための順位を用いた 多重比較法である。テューキー(Tukey)の方法のノンパラメトリック版である」(永田・吉田, 1999, p. 64)。

そして、3.2.3節「軸間の相関関係」では、「行カナイ」文、「行ケナイ」文、「ノダ」文 に対し、被験者ごとに評定された配慮度、間接度、親近度、距離度、改まり度のうち、2 つの評定値間の相関関係31を調べるため、スピアマンの順位相関係数32を用いて分析を行な った。この順位相関係数は2つの軸の評定値をそれぞれ順位値に変換したものであり、こ の統計手法により文の2つの軸の評定値間の相関関係が明らかになる。

31 内田(1996)は、「2つの変数xyがあるときに、xの変化にともなって、yも変化するような関係を相 関関係という。xが増えるとyも増えるような関係を正の相関関係、xが増えるとyは減るような関係を 負の相関関係」(p. 128)と述べている。

32 この統計手法は、順序尺度の2つのデータ間の関連性を検討するために行われる。