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第2章  本研究の目的と構成

第1節  本研究の目的

 以Lのように、拡張自己評価維持モデルは、他者関与度の変数によって調整される個人 の関係性維持を志向した感情反応の重要性を示唆することで、従来の自己評価維持モデル では捉えきれなかった親密な:者関係における自己評価維持の問題、さらには対人関係の 親密さの諸問題にイ1用な示唆を示してきたといえる.親密な二者関係にある個人は、その 関係性において自らの自己評価維持のみならず、親密な他者の自己評価維持にも共感的に 反応する.そして、そのように反応する関係性は、より満足し、うまくいっているのであ る.言い換えれば、親密な関係において自らの自己評価維持を志向することだけでなく、

親密な他者の目己評価維持をも志向すること、すなわち、自己評価維持と関係性維持の両 方を志向することが、個人の適応につながると考えられる.このように、拡張自己評価維 持モデルは、自己評価維持と関係性維持という観点から、他者との親密さを捉える上で有 川なモデルてあると考えられる一

 しかしながら、拡張自己評価維持モデルの妥当性は、親密な他者として夫婦関係や恋愛 関係を中心に検討されてきたが、親密な友人関係にっいては検討されてこなかった。また、

拡張自己評価維持モデルに関する実証研究では、個人のポジティブ感情反応の程度からネ ガティブ感情反応の程度を差し引いた指標(相対的なポジティブ感情)を用いた他者関与 度と遂行の交互作用効果のパターン」を親密な他者への共感的な反応の操作的定義として 用いられており、拡張自己評価維持モデルで想定される他者への共感的な反応の具体的な 内容が必ずしも明確にはなっていないという問題が挙げられる,

 第1章で述べたように、拡張自己評価維持モデノレは、コミットメントの高い関係におけ る個人は、El二いの要求を把握し、共感的に反応するなどの’共有志向」を示すという知見

(e.g., Clark,1984;Clark, Mills.&Powell,1986)に基づいたものである。すなわち、拡 張自己評価維持モデルは、共有志向を示す関係に適用されたモデルであるといえる。この 共有志向を小す関係は、共有関係(communal relationship)と呼ばれている。 Clark(1984)

は、相アの幸福についての関心に基づいて互いに相手へ利益を与えようとする関係を共有 関係、過去に相手から受けた利益や将来相手から与えられると予測される利益に対する反 応として々二いに見合う利益が交換されるにすぎない関係を交換関係(exchange

relationship)として区別しており、共有関係の例として家族、恋愛関係、親密な友人関 係を挙げ、交換関係の例として、知人との関係や仕事ヒでの関係を挙げているcまた、下

斗米(1999)は、対人関係の親密化に関する研究を概観し、その中でClark(1984)の共 有関係と交換関係の区分について述べたhで、対人関係の親密化研究には、緊密で、かつ 親愛になり得る対人関係が有用な研究対象であること、またその典型に友人関係を挙げる

ことができると結論づけている,このように共有志向という点に着目すれば、拡張自己評 価綿持モデルの観点は、必ずしも夫婦関係や恋愛関係にのみ適用されるわけではなく、親 密な友人関係においても適用されると考えられる,特に、磯崎(2001a)の日本での友人 関係を対象として自己評価維持モデルから検討した研究において、自己評価維持だけでな

く関係性維持への志1(・1が働いているという可能性を考慮すれば、そのような友人との親密 さや関係性を重視しようとする傾向が、個人の自己評価維持機制に影響を及ぼしており、

特に親密な友人との関係においてはより強い影響がみられると考えることができるc  これEで対人関係の形成、維持、発展について様々な研究が行われ、対人関係の諸問題 における友人関係の重要性が指摘されてきた.その中で、青年期の親密な友人関係は、自 己概念に大きな影響を与え(岩永,1991)、青年期において友人と親密な関係をいかに築い ていくかが、一’生涯に渡って個人に多大な影響を及ぼす重大な問題であること(岡田,

2008)、また、親密な友人関係が個人の適応や精神的健康を支える重要な社会的資源とな ること(Hartup&Stevens,1997)など、青年期の友人関係、特に親密な友人関係が個人 に重要な影響を及ぼすことが指摘されてきたcまた、社会的比較研究において、自己と類 似した他者との比較を通じて自己評価を行う傾向は青年期で最も顕著であることが知られ ており(Suls&Mullen,1982;高田,1991)、青年期では他者との社会的比較も自己概念 の形成に重要な役割を果たしていることが指摘されている(高田,2004).特に、大学生の 日常生活の中での社会的比較の相手、対象、理由について調査した高田(1994)において、

友人が社会的比較の相手として最も多く挙げられていることから、青年期において友人と の社会的比較が自己に影響を及ぼす一一っの重要な側面であると考えられる.

 以上の観点からすれば、親密な他者との比較において個人が自己評価維持と関係性維持 を如何に行っているのかについて有用な知見を示す拡張自己評価維持モデルを親密な友人 関係に適用して検討することは有用であり、検討すべきテーマであると考えられる。そこ で、本研究では親密な友人関係における自己評価維持と関係性維持について拡張自己評価 維持モデルを用いて検討することを第一の目的とする。

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 また、拡張『い」評価維‡芋モデルに関する実証研究では、親密な他者への共感的な反応と して、個人のポジティブ感情反応の程度からネガティブ感情反応の程度を差し引いた指標

(相対的なポジティブ感情)を川いた他者関与度と遂行の交互作用効果のパターンから検 討されてきた(e.9.,Beach eεa1.,1998)e.このような差の得点を用いた交互作用効果のパ ターンによる検討では、拡張自己評価維持モデルで述べられている親密な他者の自己評価 維持に対する個人の共感的な反応が必ずしも明確にはならないことが指摘される,例えば、

差の得点を川いると、ポジティブ感情とネガティブ感情がともに高い場合と、ともに低い 場合が同 の反応として扱われることになるcまた、交互作用効果のパターンにおいては、

これEでの恋愛関係を対象とした実証研究において必ずしも、安定したパターンが得られ ているわけではない(e.g., Beach et a1,1998).このようなことから、相対的なポジティ ブ感情を川いた交11:作用効果のパターンからだけではなく、それぞれの変数で規定される 個々の状況にっいて、より具体的に検討することで拡張自己評価維持モデルの知見をより 有効に検討することができると考えられるc

 この問題について、Exline&Lobel(1999)が提唱したSTTUC(Sensitivity about being the Target of Threatening Upward Comparison)フレームワークが有用な示唆を与えて いる。彼女らは、一他者よりも優れていることは基本的に喜ばしいことであるが、その優れ ているという立場によってその他者(比較他者)に脅威を及ぼすと考える場合、対人関係 目標と対立するために不快経験を導き得る」と考え、脅威的な上方比較のターゲットとな ることへの感受性」(Sensitivity about being the Target of Threatening Upward Comparison:STTUC)という概念を用いたSTTUCフレームワークを提唱した。 STTUC

とは、「他者よりも優れていることによって、『その他者が自己を脅威の対象として上方比 較を行っている』という優れた立場にある個人(自己)の認識」による自己の不快な状態 を指す概念である。このフレームワークでは、図2・1で示されるように、優れた個人が STTUCを経験する条件として以下の3つを挙げている。1つ目は、自己(優れた立場に ある個人)が、比較他者から一E方比較のターゲットとなっていると認識していることであ る(図2・1,条件1),2っ目は、比較他者に生起した自己に対する上方比較によって、比 較他者が脅威を感じていると自己が認識していることである(図2・1,条件2).これは、

「他者への脅威」(threat to other)と名付けられ、「他者よりも優れていることによって、

個人が比較他者に生起すると推測するネガティブ感情の高さ」Cネガティブ感情推測」と 略記する)として操作的に定義されている.3つ目は、自己が比較他者の反応に関して懸

念を感じていることである(図2-1,条件3)rtその懸念は、比較他者のウェルビーイング

(図2-1,条件3a)、自分自身のウェルビーイング(図2’1,条件3b)、互いの関係性につ いてのウェルビーイング(図2-1,条件3c)のいずれか、もしくは、それらの組み合わせ であるとされる。

条件1 1二方比較のターゲソト

自己が比較他者からト方比較のターゲットとなっ

ていると認識しているか? No Not STTUC

Yes

条件2:他者への脅威

比較他者かk方比較によって脅威を感じていると

自己は認識しているか? No Not STTUC

Yes

条件3:比較他者の反応にっいての懸念   自己は比較他者の反応について懸念を感じているか?

件3a         条件3b         条件3c 比較他者のウェル

rーイングについ トの懸念

目分自身のウェ・レ

rーイングについ トの懸念

自己と比較他者の ヨ係性についての

恃O No

Yes Yes Yes

Not STTUC

       STTUC

図2・1STTUCが生起する条件の概要図(Exline&Lobel,1999, p.315、 Figure 1を基に

作成)

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