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第6章  総合考察

第4節  本研究の問題点と今後の課題

 本節では、本研究の問題点と今後の課題として、(1)感情反応の適応的意義、(2)拡 張自己評価維持モデルで規定される他の状況についての検討の必要性、(3)性差と文化差 に関する問題、(4)研究方法に関する問題、の4つを述べる,

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(1)感情反応の適応的意積

 本研究では、親密な友人との遂行比較状況における感情反応の変化やその内容に焦点を

’『てて検討を行った.それらの結果から、他者よりも優れていることに対する感情反応の 内容として、「高揚的ポジティブ感情」、「賞賛的ポジティブ感情」、「共感的ネガティブ感情」

の3つが他者との親密さと他者関与度によって異なることが確認されたr.しかしながら、

これらの感情反応が、個人の適応や他者との関係性維持にどのように機能しているのかと いった感情反応の適応的意義については検討されなかった。

 親密な友人にとって重要な領域で優れていることは、関係性として好ましい状態ではな いため、自己にノ1起した共感的ネガティブ感情が、他者関与度や自己関与度の認識の変化 や遂イ」調整をもたらし、それによって親密な友人との関係性が安定するということも考え

られる一例えば、他者関与度高領域において自己の方が優れている際に生じる共感的ネガ ティブ感情は、その遂行領域に関して親密な他者に援助を提供し、親密な他者の遂行をよ り高めようとする、その遂行領域では親密な他者よりも劣っているように振る舞うといっ た関係維持行動に機能すると考えられる.また、他者関与度低領域において自己の方が優 れている際に生じる賞讃的ポジティブ感情は、その遂行領域において個人に更なる努力を 促し、それによって、親密な他者に反映過程のベネフィットをより生み出すことができる

といった自己と親密な他者の関係性をより良い方向に促進させる機能を持っかもしれない.

 また、研究4で示された好ましくない他者に対しては、共感的なネガティブ感情が低い ことや、他者関与度高領域において、高揚的ポジティブ感情が高いといったように、シャ ーデンフロイデを示唆するような反応は、その他者と直接的なコミュニケーションを避け

るように促すことで、好ましくない他者と一定の距離を保っことをもたらし、それによっ て、その他者から自己に対して妬みや嫉妬が向けられる可能性や他者から報復行動などの 攻撃を受ける可能性を低減することに機能しているかもしれない。

 このように、感情反応が親密な友人との関係性維持にどのように機能しているのかにつ いて、今後、他の様々な側面から検討を行う必要がある,

(2)拡張自己評価維持モデルで規定される他の状況についての検肘の必要性

 本研究において、拡張自己評価維持モデルで予測される感情反応の具体的な感情内容か ら検討を行った研究(研究3~5)では、自己関与度が高い遂行領域において他者よりも 優れている状況に限定して検討した.すなわち、本研究で主に検討されたのは、拡張自己

評lllh維持モデルで規定されるrl己関与度(高or低)、他者関与度(高or低)×遂行(Self Betteror Other Better)を組み合わせた全8種類の状況のうち、自己関与度の高条件、遂 行Self Better条件における2種類のみであり、他の6種類の状況については検討されな かった。特に、親密な他者の方が優れている(Other Better)状況については具体的な検 討がイJわれていない.拡張自己評価維持モデルにおいて、自己よりも親密な他者の方が優 れている場合には、その遂行領域の他者関与度が低い場合よりも、高い場合に、自己の相 対的なポジティブ感情が高いと考えられている.これは、他者関与度が高い場合には、親 密な他者にポジティブな比較過程が生起しポジティブな事態となるが、他者関与度が低い 場合には、ポジティブな比較過程が生起せず、相対的にポジティブな事態となり得ないと いう個人の認識を示している.このことから、関係性維持を志向した自己の感情反応とし ては、親密な他者が喜びを感じていることに対して自己も喜びを感じるといったようなポ ジティブ感情があると考えられ、これは特に他者関与度が高い場合に示されると推測され る他者関与度が低い場合には、親密な他者が喜びを感じていると、自己は考え難いため、

そのようなポジティブ感情は相対的に低く、特にその遂行領域の自己関与度が高い場合に は、自己にネカティブな比較が生起し得るため、自己が親密な他者よりも劣っていたこと によって、自己評価維持の低下によるネガティブ感情が高まるかもしれない.このように、

自己が優れている状況だけでなく、親密な他者の方が優れている状況の両側面から検討す ることで、親密な友人関係における自己評価維持と関係性維持に関してより一層理解が深 まると考えられる,

(3)性差と文化差に関する問題

 本研究では、性差と文化差に関しては検討されなかった。特に、これまで行われてきた 拡張自己評価維持モデルを用いた実証研究は、そのほとんどが女性を対象にしたものであ り、性差によってこれらの反応がどのように異なるのかについては検討されてこなかった.

また、拡張自己評価維持モデルを直接的に用いた実証研究は、欧米での知見のみであるこ とから、性差や文化差にっいて検討の余地があると考えられる,

 性差に関して言えば、先行研究において、同性友人との相互作用スタイルや親和動機に 関する性差が指摘されてきた(e.g., Karweit&Hansell,1983;Maccoby,1990;

Savin・Williams,1979)。例えば、 Karweit&Hansell(1983)は、青年期の同性との友人 関係の相互スタイルについて検討し、男性は友人関係において力関係によって階層化にさ

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れた縦型の関係を形成する傾向にあるが、女性は’ド等主義的な横型の関係を形成する傾向 にあることが示されている。また、自己評価維持モデルのあてはまりの良さにも性差があ ることが示されており、女性よりも男性の方が自己評価維持を志向した反応を示すことが 指摘されている(e.g.,磯崎・高橋,1988;Tesser, Campbell,&Smith,1984).このような 性差の}W]にっいて磯崎・高橋(1988)は、女性の達成動機の低さや親和動機の高さを指 摘している.このようなことから、本研究で得られた知見においても、男性よりも女性の

ノiが、全般的に他者との関係性維持を志向した反応を示しやすいと考えられるが、親密な 友人との関係においても、このような性差が示されるかどうかについて検討する必要があ ると思われる.

 主た、文化差に関しては、本論文の序論や第1章で述べたように、自己高揚傾向には、

文化差があることが指摘されており、日本を始めとする東アジア文化では、欧米で示され てきた自己高揚傾向に関する知見と必ずしも一致しないことが報告されている。自己評価 維持モデノレにおいても、遂行の主観的評定、もしくは、実際の成績と遂行の主観的評定と のズレを従属変数として検討した研究において、欧米人を対象とした研究と比べ、日本人 を対象とした研究では、自己関与度が高い遂行領域においても自己よりも友人を過大評価 する傾向が示されている(磯崎,2001a)。本論文の研究1においても、主観的評定の側面 ではこれまでの日本人を対象とした研究と同様の結果が示されたcこのような結果は、少 なからず、日本人の周囲との調和や関係性維持への志向の高さが影響していると考えられ る(e.g.,遠藤,1995;磯崎,1994b),親密な友人関係を対象として拡張自己評価維持モデ ルを用いた研究は、本研究以外には見受けられず、欧米の結果と本研究の結果を比較する ことができないため、本研究で得られた知見が、こうした文化的要因にどの程度規定され るのかを検討することができなかった.今後、比較文化的な検討を行うことによって、友 人関係の親密さに関する文化差について有用な知見が得られると考えられる。

(4)研究方法に関する問題

 最後に、研究方法に関する問題を挙げる。各章の考察でも述べたが、本研究では、シナ リオ法や過去の状況を想起させる方法によって検討を行い、また、感情反応は全て自己報 告型の尺度を用いた。「好ましくない他者」などの実際の他者との相互作用を対象とした実 験室実験による研究は倫理的に実施が困難であるため、実際の他者との現実場面をある程 度捉える方法としてシナリオ法や過去の状況を想起させる方法は有効であると考えられる。