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第五章 本研究の分析対象および方法論

5.2. 本研究の方法論

本研究では、奥田の方法論を広げ、早津(2009、2015、2016)に習い、語彙的な意味、カ テゴリカルな意味、文法的な意味という概念に基づき、セルビア語の対格名詞と動詞との組 み合わせの現れ方を分析する。したがって、本節では語彙的な意味、文法的な意味、および、

カテゴリカルな意味という概念について説明する。単語には語彙的な意味および文法的な意 味がある。早津(2009)はこの二つの概念について次のように言う。

ふつう国語辞典に書かれているのは語彙的な意味である。それに対して、文法的な意 味とは一定の文法的な形を整えた単語が他の単語との関係の中で発揮する意味(物事

と物事との関係的な意味、およびそれらと話し手との陳述的な意味)である。(早津 2009:4)

具体的な例として、「読む」は/文字で書かれたものを一字一字声に出して言う/または/

文字や文章、図などを見て、その意味・内容を理解する/という語彙的な意味を持つ。それ に対して、「読む」は、次のような形で以下のような文法的な意味が現れる

読んだ 読まない 読んでいる 読めば 読んでも分からない [過去] [否定] [動作の継続] [条件] [逆条件]

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また、「小屋」の語彙的な意味は/小さく、簡単な造りの粗末な建物/また/仮に建てた小 さな建物/になるが、この名詞は格助詞と組み合わさり、多様な文法的な意味を表す。

小屋を掃除する 小屋を作る 小屋を出る 小屋を通る [動作の対象] [生産物] [出発点] [通過点]

これらの例では、同じ「小屋を」という形式が[動作の対象]、[生産物]、[出発点]、[通過 点]という、異なる文法的な意味を表している。

単語の語彙的な意味、および、文法的な意味は別々に存在しているわけではなく、なんら かの関係で結びついている。その関係はカテゴリカルな意味で表される。カテゴリカルな意 味とは、単語の語彙的な意味のうちで文法的な性質と関わって共通的に取り出せる側面であ る。奥田(1979)はカテゴリカルな意味について次のように述べている。44

要素=単語の語彙的な意味と文法的な意味の間には、媒介としてカテゴリカルな意味 categorical meaning がある。カテゴリカルな意味というのは、文法的なむすびつき と の か か わ り と の な か に お け る 、 語 彙 的 な 意 味 の 一 般 化 で あ る 。 ( 奥 田 1979

[1984:162])

つまり、カテゴリカルな意味とは、語彙的な意味と文法的な意味を繋ぐものである。単語 が一定の規則に従い、他の単語と組み合わさり、文法的なむすびつきを作る。しかし、この 規則は単語ごとに働くわけではなく、特定の単語のグループにおいて働くわけである。その 特定の単語のグループの語彙的な意味に共通に取り出せる側面がカテゴリカルな意味である。

a 公園で歩く 店で服を買う 図書館で勉強する 大学で働く b 寒さで震える 箸で食べる 大声で叫ぶ 台風で家が倒れる

a において、デ格で示される名詞の文法的な意味は、[動作や出来事の場所]になる。それ に対して、b におけるデ格名詞は a と同じ文法的な意味を表すとは言えない。a および b の 名詞を比べると、a の名詞は全て空間性を持つ名詞であることが分かる。つまり、デ格が空 間性を持つ名詞と組み合わさる時、[動作や出来事の場所]という、文法的な意味を表すと言 える。したがって、a の名詞において〈空間〉という、カテゴリカルな意味を取り出すこと

44 早津(2009:5)からの引用である。

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ができる。〈空間〉というカテゴリカルな意味は、a の名詞の語彙的な意味のうちで[動作 や出来事の場所]という文法的な意味と関わる共通的に取り出せる側面である、と言える。

また、次に挙げるデ格名詞の文法的な意味は[手段]になる。

c 筆で絵を書く 箸で食べる 糸で破れた服を縫う ナイフで野菜を切る

これらを「台風で家が倒れる」や「店で服を買う」などと比べると、〈具体物〉という、

共通の側面を取り出すことができる。つまり、デ格が〈具体物〉という、カテゴリカルな意 味を表す名詞と組み合わさる時、[手段]という、文法的な意味を表すようになる。また、

d 寒さで震える 台風で家が倒れる 大雪で道路が普通になる

におけるデ格名詞の文法的な意味は[原因]であり、これらの名詞に共通に取り出せる側面は

〈現象〉になる。したがって、デ格が〈現象〉という、カテゴリカルな意味を表す名詞との 組み合わせにおいて、[原因]という、文法的な意味を表すようになる、と言える。

構文的に同じ環境でも、構文に含まれる各要素のカテゴリカルな意味、および、文法的な 意味を考察することによって、種々のタイプを見出すことができる。例えば、以下に挙げる 作例は、皆「Nに Nヲ V」という構文を持つが、要素のカテゴリカルな意味、および、

文法的な意味の観点から分析してみると、異なるタイプになることが分かる。

a 本棚に本をあげる お皿に料理をのせる 壁にポスターを貼る b 友達に本をあげる 学生にプリントを渡す 客に商品を売る c 友達にうわさを言う 学生に辞書の使い方を教える 友達に噂を伝える

これらをカテゴリカルな意味、および、文法的な意味という観点から整理してみると、以 下のようになる。

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a [付着先]ニ [対象]ヲ

〈具体物〉 〈具体物〉 〈付着〉Vt b [授与相手]ニ [対象]ヲ

〈人〉 〈具体物〉 〈授与〉Vt c [伝達相手]ニ [伝達対象]ヲ

〈人〉 〈情報〉 〈伝達〉Vt

上に挙げた作例を見ると、組み合わさる要素のカテゴリカルな意味が、それぞれの文法的 な意味に影響を与えている、と言える。

さらに、語彙的な意味、カテゴリカルな意味、および、文法的な意味という観点から、多 義語の現れ方についても考察できる。

a かばんに着替えと本とノートを詰めこむ 郵便物をボックスに詰めこむ b 学生に知識を詰めこむ 教え子に英単語を詰めこむ

(a)における「詰めこむ」の語彙的な意味は/ものを入れ物に大量に詰める/になり、こ れは「つめこむ」の基本的な意味になりうる。(b)は/色々な知識を無理矢理覚えさせる/に なり、これは「詰めこむ」の派生的な意味になる、と考えられる。この二つの例の組み合わ さる要素のカテゴリカルな意味と文法的な意味を一般化してみる。

(a)におけるニ格名詞として/かばん/、/ボックス/が現れるが、これらに共通する意味 的な側面として〈物・空間〉というカテゴリカルな意味を取り出すことができる。その文法 的な意味は[付着先]になる。ヲ格名詞のカテゴリカルな意味は〈具体物〉になり、その文法 的な意味は[対象]になる。この場合、これらの組み合わせにおける「詰めこむ」の意味は広 く言えば「付着」を表している。したがって、この意味における「詰めこむ」の現れ方を以 下のようにまとめることができる。

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(a)

[第二の対象]ニ [対象]ヲ V 付着 /ものを入れ物に大量に詰める/

〈閉じた空間〉 〈具体物〉

それに対し、(b)における二格名詞である/学生/や/教え子/に共通する意味的な側面と して〈人〉というカテゴリカルな意味を取り出すことができ、その文法的な意味は[伝達相 手]になる。 ヲ格名詞として/知識/と/英語の単語/という語彙的な意味のものが現れるが、

これらのカテゴリカルな意味は〈内容〉になり、文法的な意味は[伝達対象]になる。この場 合「詰めこむ」の現れ方を広く言えば「伝達」として考えることができる。したがって、こ の意味における「詰めこむ」の現れ方を以下のようにまとめることができる。

(b)

[伝達相手]ニ [伝達対象]ヲ V 伝達 /色々な知識を無理矢理に覚えさせる/

〈人〉 〈内容〉

「詰めこむ」の上の二つの意味のまとめを比べてみると、基本的な意味の場合のヲ格名詞 のカテゴリカルな意味が〈具体物〉から〈人〉に変わり、ヲ格名詞のカテゴリカルな意味が

〈具体物〉から〈内容〉に変わることにより、これら文法的な意味も変わっていると言える。

さらに、ニ格名詞は[第二の対象]ではなく、[伝達相手]になり、ヲ格名詞の文法的な意味 は[伝達対象]になる。そうすると、組み合わせ全体が「付着」ではなく、「伝達」を表して いると言える。

以上のことから、単語の語彙的な意味、カテゴリカルな意味、および、文法的な意味は深 い関係があり、これらの概念をセルビア語学においても十分に考慮すべきであると考える。

したがって、これらの概念に基づき対格名詞と動詞との組み合わせの現れ方を分析していき たい。そして、これらの多様な現れ方を考察する際、語彙的な意味をそれぞれ個別に記述す るのではなく、豊富な実例を基に、それぞれの意味が現れる条件を一般化し、共通の傾向を 見ていきたい。語彙的な意味、文法的な意味、および、カテゴリカルな意味、という観点は、

そのために有効であると考えられる。本研究では、セルビア語の対格名詞と動詞との組み合 わせの現れ方の考察をこの三つの意味の観点から行い、それらが現れる条件を一般化してい く。

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