• 検索結果がありません。

第四章 先行研究

4.2. 日本語を対象とした研究

4.2.1. 奥田靖雄(1968-1972)

日本語を対象とした研究学においてヲ格名詞と動詞との組み合わせの代表的な研究として 奥田靖雄(1968-1972)の「を格名詞と動詞とのくみあわせ」がある。奥田はヲ格名詞と動 詞との組み合わせを連語として見ている。この研究において奥田は豊富な用例を元にヲ格名 詞と動詞との組み合わせに見られる意味的関係を分析している。この分析にあたって、ヲ格 名詞と動詞の語彙的な性質と文法的な性質、また、その構造に他に現れる要素の性質も考慮 に入れて分類している。そうすることによって、特定の意味が現れる言語的条件を一般化し ようとしている。分類を詳細に記述しているだけでなく、その分類における意味的カテゴリ ーの間の相互関係、連続性、特定の意味的カテゴリーから他の意味的カテゴリーへの移行な どに関しても徹底的に述べている。このようにして奥田はヲ格名詞と動詞との組み合わせの 体系における相互性に関して述べている。これは奥田のヲ格名詞と動詞との組み合わせの研 究のもっとも重要な貢献であると考えられる。

奥田はヲ格名詞と動詞をかざり・かざられのむすびつきとして見ている。そのむすびつき 方の違いによってヲ格名詞と動詞との組み合わせを大きく「対象的なむすびつき」と「状況 的なむすびつき」のように分けている。

「対象的なむすびつき」ではヲ格名詞で示される直接対象に対して動詞で示される動作が 向かっている関係が見られるとする。これらは他動詞との組み合わせであり、ヲ格名詞の基 本的な働きを見せていると述べている。このタイプのむすびつきには「木をきる」、「土地 をたがやす」、「家をかう」、「敵をにくむ」、「娘をおもう」、「本をよむ」など、多様 な意味的関係を表すものが見られる。

「状況的なむすびつき」ではかざられが移動または移動の形態を表している自動詞が多く、

かざり名詞が典型的にその移動が行われる空間を表している。「道をあるく」、「トンネル をぬける」、「山をのぼる」などは「状況的なむすびつき」の例である。このタイプのむす びつきは「ゆうぐれをいそぐ」、「ひとごみをぬける」、「ひと夏をすごす」などのような 状況的なむすびつきに発展しているとする。自動詞との組み合わせである以上、多様な意味 的関係を表すものに発展していないと主張している。

それに対し、「対象的なむすびつき」では動詞の語彙的な意味のずれ=抽象化がおこり 様々な意味的なタイプが見られるとする。奥田によると、これらは次のようになる。

・対象への働きかけを表す連語 (第一章)

・対象の所有、やりもらい、うりかいを表す連語 (第二章)

・対象への心理的なかかわりを表す連語 (第三章)

それぞれに関して簡単に述べる。

65 第一章「対象への働きかけ」

このタイプの組み合わせではヲ格名詞が物、人、現象、状態、過程や関係を表し、動詞 がそれに対する働きかけを表している。「対象への働きかけ」を表す組み合わせは大きく

「物にたいする働きかけ」、「人にたいする働きかけ」と「事にたいする働きけ」という 3 つの下位グループに分かれる。

第一節 物にたいする働きかけ

このタイプの連語には「皿をわる」、「こまをまわす」のような組み合わせがある。ヲ格 名詞が具体的な物を表し、動詞がそれに物理的に働きかけている動作を示している。したが って、その物になんらかの変化が起こる。このように、このタイプの組み合わせは具体的で 経験で捉えることが可能である。ヲ格名詞と動詞との組み合わせの中で「物にたいする働き かけ」は基本的な領域であり、その体系の研究のための出発点になるとする。

「物にたいする働きかけ」を表す連語には次のような構造的なタイプが見られる。

a もようがえ 「皿をわる」

b とりつけ 「受話器を耳にあてる」

c とりはすし 「ビールのせんをぬく」

d うつしかえ 「菓子折りを海へなげる」

e ふれあい 「両手で自分の顔をこする」

f 結果的なむすびつき 「家を建てる」

奥田はこれらのタイプの関係について次のように述べている(奥田 1968-1972[1983:

25])。すなわち、対象的なむすびつきの中から「物にたいする働きかけ」を表す連語を取 り出すことは難しくないが、これらには、第一に、中間的なものやカテゴリーの間の中間的 なものがたくさんある。また、構造を変えることによって他の意味的カテゴリーに移行する ものもあるので、同じ現実を異なる構造的タイプで表す現象もみられる。そして、二つのむ すびつき方のコンタミネーション、つまり、混合的な連語がある。最後に、特定の文におい て連語の構造が省略されることがある。これらの要因のために、その連語をこれらのカテゴ リーに完全におさめることは簡単ではないとする。そのために、奥田はこれらのカテゴリー の記述を行ってから、これらの間の相互関係に関しても述べている。

66 a もようがえ

このタイプの連語は具体的な動作の働きかけによって対象のあり方に変化が起こることを 表している。その変化のざまざま形態が見られる。「もようがえ」の例として「髪をたばね る」、「戸をあける」、「袖口をぴんとのばす」、「くるみをわる」、「歯をそめる」など を挙げている。「もようがえ」の連語を典型的に作る動詞として「あたためる」、「あら う」、「こわす」、「きる」、「しばる」、「たたむ」、「つぶす」、「ぬらす」、「ひや す」、「むすぶ」、「ゆるめる」などを挙げている。そして、「くう」、「のむ」、「ころ す」もこの意味的関係を表す動詞とする(「お酒をのむ」、「蛇をころす」など)。

b とりつけ

このタイプの連語は動詞で示される動作によって第一の対象が第二の対象にくっつけられ る関係を表す。そのくっつけもさまざまな形態が見られる。そして、「とりつけ」を表す連 語は第二の対象を示すニ格またはヘ格で広げられることが構造上の特徴である(「すい口を ほおにあてる」、「トロッコにいっぱい石炭をのせる」、「布を胸につける」、「つばきや つつじを庭にうえる」など)。「とりつけ」を代表的に作る動詞として「あてる」、「いれ る」、「うめる」、「おく」、「かつぐ」、「つなぐ」、「はる」などを挙げている。

そして、第二の対象を表すニ格名詞が欠けても意味の完結性が持たれる例として「夏帽子 をかぶる」、「赤シャツを着る」など、衣服や履物を身に着ける動作を表す動詞との組み合 わせが見られる。

また、二単語の組み合わせの中で「もようがえ」を表すが、三単語の組み合わせでは「と りつけ」を表す動詞も挙げられる現象についても述べている。これらは「しばる」、「ま く」、「むすぶ」、「ぬる」などである。例えば、「娘は本をふせる」というのは「もよう がえ」を表すが、「あらいおわったなべを棚にふせる」という例は「とりつけ」を表してい る。

なお、「もようがえ」を表す動詞が「~つける」という動詞と組み合わさって「とりつけ」

を表す動詞に移行するという現象についても述べている。これらは「むすびつける」、「ま きつける」、「かざりつける」などである。また、「布をぬう」と「番号札を着物のえりに ぬいつける」のような例に違いを「もようがえ」と「とりつけ」の対立を証明しているもの として挙げている。

c とりはずし

このタイプの連語は第一の対象が第二の対象から外される関係を表している。第二の対象 はカラ格名詞で示される。したがって、このタイプは「とりつけ」と反対の現実を表してい るとする。「とりはずし」を表す例には「川魚をくしからぬく」、「包帯を首からはずす」、

「顔からハンカチをとりのぞく」などである。また、カラ格の代わりにノ格名詞で示される 場合もある(「ビールのせんをぬく」、「頭のうえの手ぬぐいをはずす」)ために、三単語 的な性格は「とりつけ」の場合ほど厳密ではないと述べている。「とりはずし」を代表的に

67

表す動詞には「おとす」、「とる」、「ぬく」、「ぬぐ」、「のぞく」などがある。また、

「もようがえ」の連語(「紙巻き煙草をこなごなにむしる」)も「とりはずし」の連語

(「人形のかみの毛をむしる」)も作ることができる動詞も見られる。また、「もようがえ」

と「とりはずし」の間の境界的なものもあることは二つの連続性を見せているとする(「あ たまをかる」と「いねをかる」)。また、典型的に「とりはずし」を表す動詞が「とりつけ」

を表す連語も作る(「小桶に湯をとる」)ことは、この二つのカテゴリーの連続性も見せて いる。

d うつしかえ

このタイプの連語は物の空間的な位置の変化を表している。したがって、場所を表すカラ 格名詞あるいはマデ格名詞とニ/へ格名詞で広げられる。「大砲を島にはこぶ」、「毛布を うしろへほうる」、「川崎船をウインチからおろす」などは「うつしかえ」の例である。こ のタイプの連語を代表的に作る動詞は「あげる」、「おとす」、「おろす」、「なげる」、

「はこぶ」などである。また、「もちあげる」、「おしだす」のように、「~あげる」か

「~だす」が後項動詞になる複合動詞も見られる。

「うつしかえ」を表す連語は「とりつけ」と「とりはずし」と緊密な関係を持っている。

このタイプの連語では「とりつけ」のようにニ格名詞で広げられ、また、「とりはずし」と 同様カラ格名詞で広げられるためである。ただし、この二つのタイプの連語に比べ「うつし かえ」におけるニ/へ格名詞やカラ/マデ名詞は常に空間性を表す要素と組み合わさることが 特徴である。つまり、このタイプの連語を広げるのは、常に空間名詞になると主張している。

例えば、通常「とりつけ」を表す連語を場所名詞で広げると、「うつしかえ」のむすびつき に移行していく。「リュックを肩にかつぐ」と「石炭を船から倉庫へかつぐ」のような例は このことを見せている。

また、「まくりあげる」や「まきあげる」という動詞の存在は「まくる」や「まく」のよ うに通常「もようがえ」が表す動詞が「うつしかえ」を表す動詞に移行していることを見せ ている。「すそをすこしまくる」は「もようがえ」を表すが、「ひとえの袖を肩のへんまで まくりあげる」は「うつしかえ」を表していると言える。

e ふれあい

このタイプの連語では動詞で示される動作の働きかけによって対象の変化が起こらない が、接触または把握が起こる。この意味的関係を表すものには「ほおをさする」、「片手で 剣をおさえる」、「木の葉をふむ」、「鉛筆をなめる」のような例がある。このタイプの連 語を作る動詞には「おす」、「かかえる」、「たたく」、「つかむ」、「なぐる」、「にぎ る」、「もつ」などがある。「ふれあい」を表す連語では対象の変化という側面を表さない 以上、対象の変化を表す、全ての連語と直接に関係を持っている。その中でも特に「とりつ け」の緊密な関係を持つのが当然であり、また「とりつけ」も「ふれあい」も両方とも作る 能力がある動詞が見られる。これらは「たたく」、「さす」、「さわる」、「つく」、「ふ