第七章 物に対する働きかけ
7.5. 接触
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je u korp-u za prljav-o rublj-e.
それ-ACC:SG 〜の中に バスケット~のために 汚れた-ACC:SG 洗濯物-ACC:SG 「そして、私はシャツを脱いで、汚れた洗濯物のためのバスケットにそれを 押し込んだ。」
(196) ...muškarac-ø ju je ugura-o u kuć-u 男性-NOM:SG 彼女-ACC:SG 押し込む-PST:3SG ~の中に 家-ACC:SG pritisnuvši joj nož-ø uz grl-o.
押す-TRANS.PST 彼女-DAT:SG ナイフ-ACC:SG 〜に対して 喉-ACC:SG 「(その)男性はナイフを喉にて押しつけて彼女を家に押し込んだ。」
(Politika)
例(195)において[付着先]を表す要素(「汚れた洗濯物のためのバスケットに」)が表面 を表しているとまでは言えないが、場所的空間的側面が含まれていないために、この実例を
「付着」を表しているものとして扱う。それに対し、例(196)における「家に」という要素 が明らかに空間を表しているために、[移動後の場所]という文法的な意味が認められ、例文 全体も物の「移動」を表していると見られる。しかし、同時に、物の「移動」を典型的に表 している実例に比べ広く見ると、物の「付着」という側面もある程度認められるために、こ の実例を物の「移動」と物の「付着」の間の境界的な例として扱うことができる。
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(197) Pošto sam šak-om desn-e ruk-e 〜の後 である-PRES:1SG 手-INST:SG 右-INST:SG 腕-GEN:SG čvrsto stisnu-o ob-a štap-a...
強く 押す-APP:M:SG 両方-ACC:PL 棒-GEN:PL
「右腕の手で強く両方の棒を押してから...( 〈直〉棒の両方を押してか ら...)」 (Golf)
(198) ...s ob-e ruk-e zgrabio je 〜と 両方-INST:PL 手-INST:PL つかむ-PST:3SG nabačen-u lopt-u...
投げる-PPP:ACC:F:SG ボール-ACC:SG
「両手で投げられたボールをつかんでから...」(Politika)
これらの実例から見れば分るように、物の「接触」を表す組み合わせでは[手段/道具]と いう文法的な意味を表す要素が頻繁に現れる。これは特に[対象]の語彙的な意味が具体物を 表している場合はそうである。
このタイプの組み合わせは人が典型的に具体物に触れることを表しているが、[対象]を表 す要素の語彙的な意味は具体物でなく、「人」を表す場合も多い。しかし、以前の節でも説 明したように、 この場合の「人」は積極的に行動を行うのではなく、消極的に[主体]の働 きかけを受ける存在であるために、物扱いにすることができる。したがって、このタイプの 組み合わせでも[対象]のカテゴリカルな意味を〈もの〉のようにまとめることができる。
[対象]の語彙的な意味は「人」を表している実例においては接触の位置を具体的に定める要 素が頻繁に文中に現れる。この要素の文法的な意味を[接触先]として扱うことができ 、そ のカテゴリカルな意味が〈身体部位〉になることが多い。
(199) ...on me zagrl-i i 彼-NOM:SG 私-ACC:SG 抱きしめる-AOR:3SG ~も potapš-e po ramnen-u.
叩く-PRES:3SG ~の上に 肩-DAT:SG 「彼は私を抱きしめて、肩を叩いた。」
(200) ...nagnu-o se i poljubi-o ga
身をかがめる-PST:3SG ~も キスする-APP:M:SG 彼-ACC:SG
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u čel-o. (Ruski prozor) 〜の中に 額-ACC:SG
「身をかがめて彼の額にキスをした。(〈直〉...彼を額にキスをした。)」
この特徴は日本語で物の「接触」を表す組み合わせにくらべると、一つの相違点であると 言える。日本語では「接触」の[対象]あるいは[接触先]が〈身体部位〉になる場合、その
〈身体部位〉の所有者になる「人」を表す要素とノ格でつなげることが自然な現れ方である。
「私の肩を叩く」や「彼の額にキスをする」などはその例である。セルビア語では日本語と 同じように、「接触」の[対象]が〈身体部位〉を表す実例(201)も多少見られるが、「接触」
の動作を〈身体部位〉に対して位置的に表すことの方が多い(例(199)、(200)、(202))。
(201) ...zatim bi... vrhovima prstiju その後 である-AOR:3SG 先-INST:SG 指-GEN:SG uhvatio Bobetovu nadlakticu...
取る-APP:M:SG 個人名の-ACC:SG 上腕-ACC:SG 「その後、(彼は)指先でボベの上腕をつかんだ...」(Zoe) (202) ...uhvati-o sam ga za ruk-u.
取る-PST:1SG 彼-ACC:SG ~のために 手-ACC:SG 「彼の手を取った。(〈直〉彼を手に取った。)」(Strah i njegov sluga)
上に挙げられた現れ方を元に、セルビア語で物「接触」を表す組み合わせを次のようにま とめることができる。
[主体]NOM V 接触 [対象]ACC ( [接触先] ) [手段/道具]
〈人〉 〈物/身体部位〉 〈物/身体部位〉 〈物/身体部位〉
「物に対する働きかけ」を表す組み合わせ全体もそうであるが、物の「接触」を表す組み 合わせでは特に[主体]を表す要素の語彙的な意味は「人」のほかに身体部位や物を表す名詞 も現れる場合がある。この場合、次のような現れ方が見られる。第一に、[主体]の語彙的な 意味は身体部位を表すとしても、実際、換喩的に人を表している場合が見られる。この場 合、この要素をカテゴリカルな意味を〈人〉としてまとめることができると考えられる。そ の例を以下に挙げる。
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(203) Njegov-a ruk-a, hrabreći je, steza-la 彼の-NOM:SG 手-NOM:SG 勇気づけながら 彼女-ACC:SG つかむ-APP:F:SG ju je i privija-la sve jače.
彼女-ACC:SG である-PRES:3SG ~も 引き寄せる-APP:F:SG もっと 強く
「彼の手は勇気付けながら、彼女をつかんでもっと強く引き寄せていた。」
(Kroz knjige i književnost)
もう一つの現れ方は[主体]のカテゴリカルな意味が〈もの〉の場合である。このような組 み合わせは人の様子あるいは状態を表すことが特徴であると言える。
(204) Vrat-ø mu je steza-la kragn-a od kaučuk-a.
首-ACC:SG 彼-DAT:SG 締める-PST:3SG 襟-NOM:SG 〜から ゴム-GEN:SG 「ゴムの襟は彼の首を締めていた。 (〈直〉ゴムの襟は彼に首を締めてい た。)」 (Insekti)
奥田の連語論はヲ格名詞と動詞との組み合わせが作る意味的体系をヲ格名詞と動詞の関係 やこれらの性質、また、文中に現れる他の要素の性質を中心に説明しているが、実例(203) や(204)などの現れ方で見ると分るように、対格名詞と動詞との組み合わせの意味的体系の 解明のために、[主体]を表す要素(日本語でガ格名詞、セルビア語では主格名詞)の性質や この要素と文中に現れる他の要素との関係も分析に含めることの重要性を示している。
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