• 検索結果がありません。

助動詞としての所有動詞の用法

第十章 所有関係

10.3. 助動詞としての所有動詞の用法

通常所有を表す動詞は助動詞としてふるまう場合がある。この傾向は日本語で動作を表す ヲ格名詞と授受を表す動詞との組み合わせにおいて成り立つ動詞の用法 (「確答を与え る」、「指導を受ける」「自由行動を取る」等)(奥田 1968-1972[1983:87-88])と類似し た現象であると言える。76

75 注 74 と同様。

76 この用法は村木新次郎が提唱した「機能動詞」に近い。

180

セルビア語では、第一に動詞 imati「持つ」と対格名詞との組み合わせの中には動詞の意 味が生きていない組み合わせが見られる。この用法では対格名詞の動詞化が進み、その組み 合わせは単に名詞で示される事柄が実現されるという意味になる。セルビア語ではこの傾向 が思考過程(例(294))や事柄(例(295)を表す抽象名詞と動詞 imati「持つ」との組み合わせ において見られる。また、日本語と同じように授受を表す動詞と動作を表す対格名詞との組 み合わせにおいても見られる。

この用法における動詞 imati「持つ」を助動詞として扱うことができる。この場合、対格 名詞と動詞 imati「持つ」との組み合わせをその名詞と同じ語源を持つ動詞だけで言い換え られる。この事実をこの用法における imati「持つ」の助動詞としての性質の証拠として扱 うことができると思われる。次の実例を参考にされたい。

(294) Ona je o Rigout-u ima-la

彼女-NOM:SG である-PRES:3SG ~について 個人名-LOC:SG 持つ-APP:F:SG gor-e mišljenj-e i od sused-a.

より悪い-ACC:SG 意見-ACC:SG ~も ~から 隣人-GEN:SG

「彼女はリゴウトについて隣人よりもより悪い意見を持っていた。」(Čovek koji je jeo smrt 1793.)

この実例における imati mišljenje 「意見を持つ」というのを動詞 mislti「考える・思 う」で言い換えられるので、上記の実例における動詞 imati「持つ」が助動詞の働きをして いると言える。

次の実例は事柄を表す名詞との組み合わせにおける imati「持つ」の助動詞的な用法を示 している。

(295) Ima-la je običaj-ø da kasni-ø.

持つ-PST:3SG 習慣-ACC:SG ~ように 遅刻する-PRES:3SG 「(彼女は)遅刻する習慣を持っていた。」(Strah i njegov sluga)

セルビア語では動詞 običavati「習慣を持つ」は頻繁に使われる動詞ではないが、上記の 実例も Običavala je da kasni(遅れる習慣があった) のように言い換えることができる。

したがって、この実例も動詞 imati「持つ」の助動詞化を示していると言える。

なお、動作を表す対格名詞と動詞との組み合わせにおける動詞 imati の助動詞化の実例が 見られる。

181

(296) Anđel-i su se smeja-li najpre zato što 天使-NOM:PL である-PRES:3PL REFL 笑う-APP:M:PL まず ~ので bi već ima-li spreman-ø odgovor-ø,...

である-AOR:3PL もう 持つ-APP:M:PL 整える-PPP:SG:M 答え-ACC:SG 「天使たちはもう整えた答えを持っていたので、まず笑っていた。」 (Sa silama nemerljivim)

第二に、日本語の動作を表すヲ格名詞と授受動詞との組み合わせと同じように、セルビア 語でも動作を表す対格名詞と授受動詞との組み合わせにおいて動詞が助動詞化する傾向が見 られる。次の実例はその傾向を示している。

(297)Milan-ø još jedared pokuša-ø 個人名-NOM:SG ~さらに 一度 やってみる-AOR:3SG da dobije-ø odgovor-ø,...

~ように もらう-PRES:3SG 答え-ACC:SG

「ミランはもう一度答えをもらおうとした...」(Kronika palanačkog groblja) (298) Kanel-a beleži-ø da je

個人名-NOM:SG 気づく-PRES:SG ~ように である-PRES:3SG Pantović-ø jedn-om prilik-om ponudi-o objašnjenj-e...

個人名字-NOM:SG ある-INST:SG 機会-INST:SG 提供する-APP:M:SG 説明-ACC:SG 「カネラはパントヴィッチがある機会にあたって説明を提供したことに気づい ている...」(Sluge hirovitog lučonoše)

授受動詞の中には能動性を表している動詞と受動性を表している動詞がある。実例(297) における dobiti「もらう」は受動性を表すのに対し、実例(298)における ponudti「提供す る」は能動性を表している。動作を表す対格名詞と受動性を表す授受動詞との組み合わせの 場合は、動詞 dobiti「持つ」と思考や事柄を表す対格名詞との組み合わせと同じように、

同様の内容を名詞と同じ語源の動詞で言い換えることができる。このように、実例(298)に おける ponudio objašnjenje「説明を提供した」というのを動詞 objasniti「説明する」だ けで言い換えることができる。これも授受動詞の助動詞としての用法の証拠にもなると言え る。

182

(299)...ali nik-o još nije... objasni-o

しかし 誰も-NOM:SG まだ である-PRES:3SG:NEG 提供する-APP:M:SG kako da se pomogne-ø

~どのように ~ように REFL 手伝う-PRES:3SG

takv-im učenic-ima i njihov-im roditelj-ima...

そんな-DAT:PL 生徒-DAT:PL ~も 彼らの-DAT:PL 両親-DAT:PL 「...しかし、どのようにそんな生徒たちと彼らの両親を手伝ってあげればいい かと誰も説明しなかった...」(Politika)

実例(298)と同じように、実例(299)も能動性が含まれ、対格名詞と動詞との組み合わせを 名詞と同じ語源の動詞だけで言い換えることができる。この場合は ponudio objašnjenje

「説明を提供した」というのを動詞 objasniti「説明する」で言い換えられる。

以上のことから、セルビア語でも所有動詞の中には特定の条件において助動詞的な働きか けをするものがあることが分かる。

183

第十一章 心理的なかかわり

11.1. 「認識の組み合わせ」

「認識の組み合わせ」は[主体] と [対象]との間の認識的な作用を表している。奥田もこ のタイプの組み合わせに関して述べているように、「認識の組み合わせ」において動詞は認 識的な活動を 表し、ヲ格名詞はその認識活動の向かってい く対象である(奥田 1968-1972[1983:92])。セルビア語の対格名詞と動詞との組み合わせに関しても同じことが言え る。したがって、このタイプの組み合わせにおける対格名詞の文法的な意味を広く言えば [認識対象]のように一般化できる。ガ格名詞は[主体]である。対格名詞のカテゴリカルな意 味は下位分類においてそれぞれ異なるが、〈具体物〉、〈現象〉、〈人〉および〈抽象物/

事柄〉になる。「認識の組み合わせ」の中には下位カテゴリーとして扱う次の三通りの組み 合わせのタイプが認められる。

・「感性的な組み合わせ」 gledati film「映画を見る」

・「知的な組み合わせ」 analizirati okolnosti「状況を分析する」

・「発見の組み合わせ」 pronaći pčelinje gnezdo u uglu zida「壁の角に蜂 の巣を見つける」

それぞれに関して次に述べる。

11.1.1. 「感性的な組み合わせ」

「感性的な組み合わせ」では動詞が感性的な経験を示し、対格名詞はその[対象]になる。

したがって、対格名詞の文法的な意味は[知覚対象]になると言える。[知覚対象]というのは、

人間の知覚で捉えられる内容を表す名詞になる以上、そのカテゴリカルな意味は〈物〉、

〈人〉または〈現象〉になる。感性的経験を表す動詞が抽象名詞と組み合わさる場合に主に

「感性的な組み合わせ」を表さなくなり、次節で説明する「知的な組み合わせ」を作るよう になる。[知覚対象]と動詞で表される感性的な活動とは直接かかわる。セルビア語の動詞に も、当然、視覚活動、聴覚活動、嗅覚活動と味覚活動を表すものがある。(奥田 1968-1972[1983:92])。

184

視覚活動を表す動詞に関して言えば、動詞 gledati「見る」を中心に類似した意味の動詞 のグループがある。これらは videti 「見る・見かける」、pogledati「見上げる」、

posmatrati「監視する」、 promatrati 「観察する」等である。

視覚的活動を表す「感性的な組み合わせ」の実例を次に挙げる。

(300) Okrenu-o sam se i vide-o: vlasulj-u.

振り返る-PST:3SG REFL. ~も 見る-APP:M:SG かつら-ACC:SG 「振り返ってかつらを見た。)」(Strah i njegov sluga)

(301) Gleda-o me je bez reč-i 見る-APP:M:SG 私-ACC:SG である-PRES:3SG なし 言葉-GEN:SG nek-o vrem-e.

特定の-ACC:SG 時間-ACC:SG

「彼は何も言わずしばらく私を見ていた。(〈直〉...言葉なしに私を見てい た。)」(Strah i njegov sluga)

(302) Pogleda-la sam mu lic-e, nije izgleda-o 見上げる-PST:3SG 彼-DAT:SG 顔-ACC:SG 見える-PST:NEG:3SG kao da je bolestan-ø.

~のように ~ように である-PRES:3SG 病気の-NOM:SG 「彼の顔を見上げたが、病気のようではなかった。(〈直〉彼に顔を見あげ た...)(Sve zveri što su sa tobom)

日本語では視覚的活動を表す「感性的な組み合わせ」はヲ格名詞と動詞との組み合わせが ほとんどであるが、セルビア語では対格名詞と動詞との組み合わせの他に、前置詞 u(~の 中に)+対格名詞から成り立つ前置詞句と動詞との組み合わせも見られる。例えば、gledati ga 「彼を見る」と gledati u njega「彼の方を見上げる(〈直〉彼の方へ見上げる)」と いう二通りの言い方があり、後者の方がその目線の方向性が強調される場合があるが、必ず しもそうではない。また、動詞 piljiti「目 を 細 く し て 見 る 」 、 buljiti「じっと見る」

等のような、特別な意味的ニュアンスが含意される視覚活動動詞も前置詞なし対格名詞と動 詞とが組み合わさらず、前置詞 u(~の中に)+対格名詞という前置詞句と動詞との組み合 わせを作る。

次に挙げる例は動詞 gledati「見る」と pogledati「見上げる」が前置詞句を取る場合の 実例である。

185

(303)Većin-a je gledala u zemlj-u.

大部分-NOM:SG 見る-PST:SG ~の中に 地面-ACC:SG 「(人々の)大部分は地面を見ていた。(...地面の方に見ていた。)」

(Sudbine)

(304)"Kiš-a će", pogleda-la je u sunce-ø i 雨-NOM:SG である-FUT:3SG 見上げる-PST:3SG ~の中に 太陽-ACC:SG ~も zastrepe-la od njegov-og brz-og bežanj-a.

怖がり出す-APP:F:SG ~から 彼の-GEN:SG 速い-GEN:SG 脱出-GEN:SG 「「雨になりそうだ」と太陽を見上げて、彼の速い脱出を怖がり出した...

(〈直〉太陽の方に見上げて...)」(Koreni)

聴覚的経験を表す動詞には slušati「聞く」、saslušati「聞いてあげる/聞いてくれる」、

čuti「聞こえる」、načuti「(噂などが)耳に入る」のような動詞がある。

(305)Sta-li smo... i ubrzo sam ču-o škrip-u

止まる-PST:1PL ~も 間もなく 聞く-PST:1SG きしむ音-ACC:SG tešk-e kapij-e.

重い-GEN:SG 門-GEN:SG

「止まったら、...間もなく重い門のきしむ音を聞いた。」(Strah i njegov sluga)

(306)Irac-ø ga opet nije slušao,...

アイルランド人-NOM:SG 彼-ACC:SG また 聞く-PST:NEG:3SG 「アイルランド人はまた彼の話を聞いていなかった...(〈直〉...彼を聞いて いなかった...)」 (Sa silama nemerljivim)

また、嗅覚的経験を表す動詞には mirisati/pomirisati/omirisati「嗅ぐ」のような動詞 がある。そして、味覚を表す動詞は probati「試す/味わう」や okusuti「味わう」等が代表 的である。

186

(307) Nagnu-o se i pomirisa-o vod-u u 身をかがめる-PST:3SG ~も 嗅ぐ-APP:M:SG 水-ACC:SG ~の中に tegl-i.

つぼ-LOC:SG

「彼は身をかがめて、つぼの中の水を嗅いだ。」(Sve zveri što su sa tobom) (308)Ovako je...uzviknuo dom Perinjon-ø kada je

このように 叫ぶ-PST:3SG 個人名-NOM:SG ~とき である-PRES:3SG prv-i put-ø okusi-o šampanjac-ø.

一番目-ACC:SG ~回-ACC:SG 味わう-APP:M:SG シャンパン-ACC:SG 「初めてシャンパンを味わったときにドン・ペリニヨンはこのように叫んだ。」

感性的な経験を表す動詞は〈物〉を表す名詞と組み合わさるが、この名詞はその「物」の 動きや内容を表す以上、特定の文脈では〈現象〉を表す名詞に近いと言える。例えば、セル ビア語でも日本語でも slušati klavir「ピアノを聞く」のような言い方も当然あるが、

「ピアノ」というのは「物」であるにも関わらず、このタイプの組み合わせの意味はむしろ

「ピアノの演奏を聴く」、「ピアノの演奏の内容を聞く」や「ピアノの音を聞く」というこ とを表していると言えよう。この特徴は「感性的な組み合わせ」を「物に対する働きかけ」

(特に物の「接触」を表す組み合わせ)を表す組み合わせと区別する特徴であると考えられ る。[対象]に対するかかわり方が異なるからこそ、この二つのカテゴリーを別に立てる必要 性があるわけである。

以上のことから「感性的な組み合わせ」を次のようにまとめることができる。

[主体]NOM V 感性 [知覚対象]ACC 〈人〉 〈具体物/現象/人〉

11.1.2. 「知的な組み合わせ」

セルビア語では analizirati problem「問題を分析する」、razmatrati situaciju「事態 を検討する」、predvideti rezultat「結果を予測する」、razumeti nečiju patnju「誰か の苦しみを理解する」等は「知的な組み合わせ」の例である。「知的な組み合わせ」は動 詞が思考活動を表し、対格名詞はその思考の[対象]になる抽象名詞である。[対象]と言って