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第2章 文献レビュー

2.4 フロントローディング

2.4.2 最近のフロントローディング視点 : DF X

最近,改めて設計と他部門の連携強化のためのフロントローディングにフォーカス があたっている。それはDFX活動と呼ばれるものである。

サービス・

保守

設計

企画・構想 生産準備

評価 調達・製造

回収・

再生

要素開発

デザイン・

フォー・エックス(DF

X

)

図2-15: DFXとは何か

DFx はスタンフォード大学で経営戦略と生産プロセスを融合させた研究を行って いたフィリップ・バーカン教授の講座の中で,Design for X(DFx)手法を取り上げた のが最初といわれている。

DFx は上流設計(Design)段階で,従来,後工程で検討すべきことを早く検討,設計 に織り込み,設計上流での品質作り込む,開発期間短縮を実現するためのアプローチ である。

DFxには一般的に,

・DFM: Design For Manufacturing (組立容易性,製造容易性設計)

・DFT: Design For Testing (試験・評価容易性設計)

・DFR: Design For Repairing (修理・保守容易性設計)

・DFE: Design For Environment (環境考慮性設計) といったものである。

DFMは,開発設計段階において,(生産技術部門等と連携して)製造段階での組み立 てやすさや加工しやすさを考慮した開発設計を狙う。

DFTは,(品質保証部門等と連携して)試験のしやすさを考慮した設計のことをいう。

半導体回路設計においてはテスト容易化設計と呼ばれ,製品製造時の欠陥検出用の仕 組みをあらかじめ回路に組み込むことも含む。一般的には前回開発製品での試験・評 価計画書(試験項目,試験環境等)や試験・評価で検出されたバグ一覧,フィールド 障害一覧などをベースに,より良い試験計画設計段階からを立案するとともに,「試 験項目の重複」「テスト自動化」などの観点から,試験の効率化目標や試験実施イメ ージを提示することで,試験の品質を保ちながら試験の効率化(設備費の低減,試験 期間の短縮など)を図ることを狙う。

DFRは,(保守・修理担当者と連携して)修理作業者による修理のしやすさを考慮し た設計のことを言う。過去機種の修理情報を開発設計部門の構想設計段階にフィード バックし,修理作業者の安全性や適切な作業姿勢の検討を実施することで,修理作業 の効率化を狙う。

DFE とは,(環境担当者,購買担当者等と連携して)使用済みとなった製品が環境に 悪影響を及ぼさないような廃棄処理のしやすさや,リサイクルのしやすさを考慮した 設計を狙う。開発設計段階から,材料に有害な物質が入っていないか,あるいはリサ イクルが可能な素材なのかを検討しておくことで,製品の廃棄処理や再利用を容易に なる。

また,最近ではDFL: Design For Logistics (物流考慮性設計)への取り組みを聞くこと もある。

大富(2005)は,DFXをうまく機能させるためには,一つは対象とする製品分野に応

じて最適な手法を選択することとしている。また,その際には,

・開発の戦略的目的

・顧客構造と要求項目

・製品差別化の焦点

・開発優先項目

を再整理を行うことが重要としている。

二つ目は,組織とマネジメントの問題としている。いくら良いシステムを構築して も,実際に使用するのは生身の人間であり,人間系がうまく機能する仕組みを構築す る必要がある。このことは,製品開発を効果的に行うには,従来の性能やコストだけ でなく,組織論,プロジェクト管理,リスク管理などの考え方や手法も活用して,全 体最適を考える必要があることを示唆している。

DFXへの取り組み事例として,3章の事例1を参照されたい。

2.4.3 最近のフロントローディング事例 : 東芝

東芝ではフロントローディング活動が熱心に実施されているようである。東芝レビ ューという技報に掲載されているものから抜粋する。

池田(2007)は 3 つのフロントローディングを提唱している。この論文では東芝にお

いて取り組まれている“フロントローディング”と“全体最適”をキーワードとして取り 組まれている製品開発プロセスの変革とイノベーションの加速活動について紹介し ている。フロントローディングは単なる工程の前倒しや上流工程への作業シフトでな く,モノづくりの全ライフサイクルから生み出される異質の要素を結合することによ って得られる相乗効果を,モノづくりプロセス全体の上流プロセスに,そして各プロ セス内の上流部分に埋め込んで全体最適を目指す開発手法と位置づけている。

本論文から学ぶべき事は,

・上流の設計段階で重要なことは,上流段階で全ての仕様を決めるために全ての力 を注ぐのではなく,“上流で仕様を確定すべき部分”と“下流で仕様の最適化を行 った方がいい部分”とを切り分けて明確化し,開発プロセス全体の効率を考える こと

・下流で仕様の変更や後戻りの発生が,上流であらかじめ予測した部分について生 じていることが大切であり,それを前提に全体の開発プロセスがマネジメントさ れていること

そして,三つのフロントローディングを定義している。

(1) 設計検証のフロントローディング

試作して検証するのでなく,できるだけ設計検証の仮想化や実機レス化の工夫 により,設計検証を検証フェーズから設計フェーズに移すこと

(2) 仕様検証のフロントローディング

製品開発プロセスに大きな影響を与える検証フェーズから設計フェーズへの後 戻りの要因を上流の設計フェーズで摘み取る

(3) 設計工程のフロントローディング

先に述べた二つのフロントローディングで検証や作業がV字カーブ左側の設計 フェーズに移ってくるが,その中でも極力作業を上流に移すことである。

②仕様検証の フロントロードィング 仕様検証の設計フェーズへの移行 (V字左側への移行)、実機レス検証化 要求定義

基本設計

詳細設計

結合検証

組合試験

単体試験

③設計工程の フロントロードィング 設計・開発プロセスの改革と高度化、

より抽象度の高い設計上流側で の仕様検討の拡大

設計検証の仮想化、実機レス検証 化、プログラミングプロセスでの設 計検証(ソフトウェア)

製作

①設計検証の フロントロードィング

実機や試作機を使った検証 仕様検証 設計検証

ニーズ、VOC 製品

設計フ 検証フ

VOC: Voice Of Customer

図2-16: 三つのフロントローディング

出典: 池田(2007)

つまり,上流の設計・開発の効率を上げるとともに,上流の設計・開発で他プロセ スの効率を上げ,全体の効率を最大化していくという全体最適の追求が重要である。

2.4.4 最近のフロントローディング事例 : トヨタ自動車

トヨタ自動車の製品開発の進め方については,Morgan & Liker(2007)が,”The TOYOTA Product Development System (邦題: トヨタ製品開発システム)”の中で詳しく 述べている。本書の中でトヨタの開発システムをリーン開発システムと呼んでいる。

リーンの由来は,1980 年代に MIT で行われた日本の自動車産業の研究においてトヨ タ生産システムのことを,「贅肉のとれたスリムな状態」で生産活動を行うことを目 指す生産方式として研究した。そして「贅肉のとれた」の意である英単語のlean(リ ーン)を用いてリーン生産方式と命名された。その開発システムなので,リーン開発 システム/ムダの無い開発方式と呼んでいる。

本書の中で,リーン開発システム原則が 13 個上げられている。その内の原則 2 が 特にフロントローディングに関連する。以下は原則2に関する説明部分である。

原則 2: 選択肢を十分に検討するため,製品開発プロセスを設計上流の自由度が高 い初期段階にフロントローディングする。

選択肢を検討する一番良い時期は,明らかに製品開発の初期段階である。トヨタで は,最大限の選択肢がある間に大きな技術上の課題を解決する部門横断技術チームが,

フロントローディング,つまり初期段階に注力するための多数の手法や技法を開発し ている。設計が最も流動的な段階で問題解決を図ることで,設計,開発,製造の各領 域での潜在的な問題を解決することができる。

さらに「セットベース」手法(単一の案を逐次検討するのではなく,複数の選択肢 を同時に検討する方法)をすべての領域で導入することによって,トヨタは最適解に 達する確率を劇的に改善した。それによって,非常にコストのかかる下流での設計変 更を回避することが可能となる。

ケントウ(検討)とミゼンボウシ(未然防止)の手法によって,トヨタは製品開発の初 期段階で明確性と目的性を持ち込み,「曖昧な初期段階」の曖昧性を取り除く。それ はまた製品開発にはつきもののばらつきを隔離し,個々の部品設計が完成する前にシ ステムの互換性を保つ。

このようにフロントローディングに際し,複数の選択肢を持つということと,その 他にフロントローディングの施策として,

・製品プラットフォーム(3章参照)の整備

・先端技術導入計画

・個別プロジェクトのフロントローディング

・セットベース・コンカレント・エンジニアリング28

・生産技術者のプロジェクト早期参画

・デジタル・ツールの活用

・大部屋制度による仕様検討

・リソースの最適配置

といったことに取り組んでいる。