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6.3 本事例における革新ステップ

6.3.2 手順 2: 現状の問題点共有と革新コンセプトの検討

前述したように,手順1での分析(振り返り分析,品質不具合分析)にて,困りご とを抱えている各部門の課長,中堅リーダーにより,問題点を抽出した。このような 現状を部長以上のトップ・マネジメントに報告,共有し,開発革新活動の実行が承認 された。

抽出された問題点からいくつかの革新コンセプトへと施策(案)が挙げられた。しか し,フロントローディングの推進にあたり,設計部門のリソースはあまり増加できな いという制約があった。それはLSIの新規性が高く,そのための設計・評価工数が従 来機種より増加する懸念があったためである。そのため,品質保証部門が従来参画し ていない基本設計工程にて,従来機種との仕様の固定/変動情報(変化点情報)を先行入 手し,過去に発生した品質トラブルの教訓と,仕様の新規部に伴う顧客(エンドユー ザー)の使い勝手の仕様検証を事前に実施するために,仮想取扱説明書の作成,活用 により,顧客起点,ユーザニーズ視点からの基本設計仕様の検証を行うことと設計試 作段階での品質保証部門の並行評価を行うこととした(実機が存在していない状態で の取扱説明書作成のため,“仮想取扱説明書”と命名した)。取扱説明書は顧客起点で の使用方法が記述されるため,設計仕様と整合性が必要となり,結果的に仕様の検証 に繋がる。よって,取扱説明書の先行作成の取り組みが合意された。

6.3.3 手順 3: 仮想取扱説明書作成方針と展開計画立案

従来,仮想取扱説明書というものは全く作ったこともなく,かつ品質保証部門が製 品の基本設計段階に参画することは無かったため,まずは設計担当の作成する基本設 計書の理解から開始することとした。従来は仕様が決定し,完成された基本設計書を 入手して出荷検査段階に,顧客が実際に使用する場面を想定し,実機のオペレーショ ンを覚えながら顧客向けの取扱説明書を作成しているが,今回は顧客使用方法の詳細 仕様が完全に決まっていない基本設計段階で,かつ実機が無い段階で仮想取扱説明書 を作成することは非常に困難であった。よって,

・従来機種との仕様の差分(変化点)の情報を入手と働きかけ

・従来機種の過去トラブルの傾向から,詳細検討すべき取扱説明書の部分の決定 することから開始し,その上で,

・設計の仕様レビューへの参画により,仕様理解及び顧客視点からの仕様提案と仕

様検証

・決定した仕様に対する取扱説明書の作成 を重点的に実施することとした。

また,従来機種の品質問題の傾向から,新規機能である

・データ・コンバート機能の状態遷移図の作成と仮想取扱説明書への記述

・データ・コンバートがうまくいった場合といかなかった場合の画面表示の工夫

・顧客が迷ってキー操作した場合の“戻るキー”の操作の仮想取扱説明書への詳細 記述

・新規機能の詳細仕様検討への参画と仮想取扱説明書への記述 について強化することとし,展開計画を作成した。

実施にあたっては,フロントローディング活動の必要性を,プロジェクト・メンバー に意識させるための取り組みも同時に行った。

また,本活動を通じて,品質向上を狙うことももちろんであるが,今後の組織定着を 見据え,

・フロントローディング活動の定着

・仮想取扱説明書の作成法と組織への定着

・品質保証担当のミッションの見直しとコンピテンシー/スキルアップ

・開発プロセス規定への織り込み といった目標も設定した。

構想設計 基本設計 詳細設計 設計試作評価

仮想取扱説明書作成

設計DR

設計DR

設計DR

品証部も都度、DR参加

品質保証部門評価 仕様分析 設計評価

図6-3: 仮想取扱説明書を活用した展開計画

出典: D社資料

取扱説明書は従来、出荷直前に作成する顧客(エンドユーザー)のオペレーション・マニュアルであ るが、これを設計段階で作成することで、顧客起点での仕様の検証、ユーザビリティーの検討に活 用できる。

ポイントは従来製品のトラブル情報と当該機種設計にあたっての新機能、変化点情報の入手であ る。この情報を活用し、従来製品の取扱説明書に追記、ブラッシュアップしていくとよい。

ただし、これらの活動推進にあたっては、未確定情報をマネジメントしていくという課題があるため、

これらに対応できるコンピテンシー/スキルを保有したメンバーによる取り組みが必須である。

旧製品取扱説明書

新規機能の 詳細仕様検討

顧客の使う シーンを想定 変化点情報

過去トラブル 情報

新製品取扱説明書

追記

設計段階の 品証評価活用 ユーザニーズ

図6-4: 仮想取扱説明書の考え方

出典: D社資料

6.3.4 手順 4: 計画に則ったプロジェクト推進と成果まとめ

その後,6.3.3で描かれた展開計画に基づき,プロジェクトが推進された。

従来は基本設計段階に参画していない品質保証部門が,仮想取扱説明書というフロン トローディング推進のためのツールを活用し,開発プロセス革新に取り組んだ結果,

従来発生していた顧客の使用方法に関する設計仕様の完成度が向上し,かつ設計試作 段階から顧客視点の評価を行ったため,量産時のソフトウェアの不具合件数50%削減,

フィールド障害件数の70%削減,開発設計者の工数30%削減(共に従来機種と同等機 能に正規化した上での工数換算)を実現することができた。特に開発設計者の工数削 減は開発後半での品質トラブル対応による手戻り工数の削減が寄与した。開発期間に ついては計画を遵守できた。

6.3.5 手順 5: 新開発プロセスのさらなるブラッシュアップと水

平展開

現在は全機種での仮想取扱説明書作成を実現すべく品質保証担当の一部増員とス キルアップ活動を充実させ,品質保証部門による開発源流での価値創出活動に取り組 まれている。品質保証担当はこれまでの出荷検査を実施することが主ミッションであ ったが,開発設計の上流で,設計部門他と連携し,顧客の使用方法の検証と品質の作 り込みを行うための支援を行うことを主ミッションとすべく,コンピテンシー/スキル の向上と業務シフトを行っている。