第2章 文献レビュー
2.2 クロスファンクショナル・チーム
2.2.2 日産自動車のクロスファンクショナル・チーム
1999年6月,不況にあえぐ日産自動車に資金援助を行ったフランス・ルノー社から カルロス・ゴーンが COO として赴任した。この際,会社が直面している様々な問題 を打破するため,日産リバイバル・プランをゴーンは立ち上げ,その解決手段の一つ として,CFTを立ち上げ,検討にあたらせた。アメリカが以前に日本から学習した手 法が逆輸入されるというのは皮肉なものである。日産自動車での取り組みの詳細は,
『ルネッサンス 再生への挑戦』 カルロス・ゴーン(2001)に書かれている。ブラジル での苦しい経験がゴーンのマネジメントの手法を作り上げ,スピードと正確な分析の 重要性を学び,さまざまな分野の人々が,部門や職務の壁を超えて一堂に会し,活発 な議論を交わし,それぞれの部門に染みついた「昔ながらのやり方や慣習」を変えるた めに,ゴーンは9つの CFT を立ち上げた。取り組んだテーマは,①事業の発展,② 購買,③製造・物流,④研究開発,⑤マーケティング・販売,⑥一般管理費,⑦財務 コスト,⑧車種削減,⑨組織と意志決定プロセス――である。さらに,リバイバル・
プラン発表後に設備投資の項目が加わった。
各CFTは10人余りのメンバーで構成された。CFTは決断を下す組織ではなく,提 案を行う組織であり,実際に決断を下すのは経営委員会である。CFTでは3カ月間ミ ーティングを重ね,計画を作成した。結果的に数百人の社員が計画作りに携わり,2000 件のアイデアが CFTで検討されたということである。その後,日産は V 字回復した ことは有名である。日産自動車の他には,GE のワークアウトやシックスシグマ活動 はCFTにあたるといわれている。
2.2.3 クロスファンクショナル・チームと業務チームの違い
Lindborg(1997)は「クロスファンクショナル・チームの基礎」の中で,通常の業務
チームとCFTの違いを下記のように挙げている。
・チームの部門又は部署の関与,見解,そして専門知識なしにはチームの目的が 達成できない。
・チームは数人の“オーナー”に関係する問題,又はプロセスに焦点を当てる。つ まり,現場の監督者又は管理者が責任を持つ複数の領域が影響を受ける。
・チームのメンバーは,様々な部門,部署又は専門分野の出身である。
・チームの成果は,組織からチームに送り込まれる人材にかかっている。
・CFTは,組織の学習に貢献する。組織の自己理解及び将来の業績にチームとし て貢献する。
また,CFTチームが必要とする必須事項を下記のように定義している。
・チームを企業目標に整合させるための経営者のコミットメント
・企業の方向性,及びチームの資源を確立する効果的なシステム
・チームのプロジェクト及び人材の注意深い選択
・経営者のためばかりでなく,チームのためのシステムの考え方
・企業及びチームの価値観の理解
・プロジェクト計画立案における,成果の評価も含めたチームを効果的に機能さ せるために必要なスキルの開発
・意思決定プロセスが正式に支援している対人能力の開発
・チームを組織に整合させておくためのコミュニケーション・ループ
・成果についての継続的なゴールで達成をたたえることによって支えられる
・チームの仕事を評価するための,組織,チームリーダー,及びメンバーによる コミットメント
部門ごとに存在する知識や手法などを横断的に流通させ,組織全体の機能を強化す る役割を持つという意味で,CFTは意義があるとしている。
2.2.4 クロスファンクショナル・チームの誤謬
マッキンゼー・アンド・カンパニーの門永(2003)は「ダイヤモンド・ハーバード・
ビジネス」の中で,以下のようにCFTに取り組む日本企業に警笛を鳴らしている。
・誤謬1: CFTは新しい経営手法である
日本企業はかつて,CFTに相当する組織能力を備えていたが弱体化してしまっ た。また,新製品開発プロジェクトではCFTはやりやすいが,現業の変革の際 は,各部署のエゴが出るため,難しい。
・誤謬2: 日本人はチーム・ワーキングが得意
個人責任と相互責任の必要性を明確にしつつ,個人の成果の総和よりもチーム の成果が高くなるようにすること。
・誤謬3: CFTの推進組織となる部門を明確化し,任せる
チームの共通の目標を立て,合意しておかないと,リーダーシップを取った組 織主導の目標と活動にプロジェクト/ワーキングが陥ってしまう。
・誤謬4: トップ・マネジメントはCFTの後援者である
CFTを成功させるためのトップ・マネジメントの役割は,①通常の活動では達 成できない高度かつ具体的な目標を設定する,②高度な目標を達成するための 新機軸を打ち出す,③コミットメントを続ける,④CFTメンバーをどう気づけ る演出を工夫する。
・誤謬5: 将来有望な若手社員を核にチームを編成する
若手だけでは決していいアウトプットは期待できない。リーダーには活動力の ある中間管理職をおくこと。
・誤謬6: CFTメンバーは専任でなければならない
CFTメンバーは専任であるにこしたことはないが,兼任でもよいから積極的に 活動参加させること。
・誤謬7: CFTメンバーには金銭的に報いるべきである
日本的CFTでは成果が出たところで,報酬,昇進といった評価をするとよい。
・誤謬8: CFTが解決策を考え,ラインはこれを実行する
CFTが考える施策は難問が多いはずなので,ラインまかせでなく,CFTメンバ ーも実現方法の検討で実行も行うべきである。
また,門永はトップダウンのみのクロスファンクショナル活動でなく,アップ・ア ンド・ダウン活動,カンパニー横断のクロス・ディビジョナル・チームについても提 案している。
CFTは創発の場とも解釈できる。伊丹(1999)は場を生成するには,「場の設定マネジ メント」,「場の創発マネジメント」があるとしている。創発のマネジメントの例とし て,ホンダの設備選択の場を上げている。創発の基盤と能力三倍論というきっかけが 合わさり,設備選択の場が生まれたとしている。またこの場を成立させるためには,
自由,信頼,情報共有が必要と述べている。つまり場に参加するメンバー間で創発が 生まれるためには,いくつかの条件が必要というわけである。
相互作用への参加:
設定の基礎条件
自発的つながり合い:
創発の基礎条件
行動の自由 アジェンダへの
信認 つながりの自由 メンバーへの
信頼 創発の正当性
リーダーへの信頼
自由 基礎的情報共有 信頼
図2-2: 場の生成と創発のマネジメント
出典: 伊丹(1999)
2.3 コンカレント・エンジニアリング
2.3.1 コンカレント・エンジニアリングとは何か
コンカレント・エンジニアリングはアメリカが1986年から2年という時間をかけ,
アメリカ,日本,ヨーロッパの200社におよぶ企業を訪問調査し,その比較調査から 作成した政策提言21をベースにして,日本型の開発期間短縮のアプローチを系統的に 整理した概念というのは前述したとおりである。
コンカレント・エンジニアリングとは,
製品及びそれらに関連する諸過程(製造及びサポートを含む)を一貫
21 本提言は,マサチューセッツ工科大学のポール・グレイ総長の問題提起,「事態の打開と改変 のためにアメリカができることは何か」という点を起点とし,各分野にわたる第一線級の専門家 三十数名からなる特別委員会によって進められた。これらは日本語訳もされ,「Made in America」として出版されている。国家を上げ,改革を起こすという取り組みは学ぶべき点であ る。
して,並行的にデザインするための系統的なアプローチである。この アプローチの目的は,開発者に,発案から廃棄に至るまでの製品の全 ライフサイクルに含まれる全ての要素(-品質,コスト,スケジュー ル及びユーザーの必要条件-)を最初から考慮するようにさせること である。IDAレポートR-338(1988年12月)
と定義されている。
コンカレント開発成功のためのポイント
●単なる並行化にとどまらず、重複・類似業務削減、
商品力強化、 品質向上、コストダウン、開発期間 短縮などの成果を狙った工程改革プランを立案する
●開発に関する情報、途中段階の状況を、 関係者 が共有化できる工夫をする。
●改革プランを実現するための、各関係部門・各関 係者の役割を見直し、革新する。
●工程並行化に伴う手戻りリスクをできる限り早く 抽出し、対策を打つ
コンカレント開発(コンカレント・エンジニアリング) = 並行化開発
開発設計業務を、並行化・源流化することで、開発期間短縮・効率化を狙うと同時に、商品力アップ、
品質向上、コストダウンなどの効果を実現するための開発手法。プロセスの並行化の概念。
原点的な開発設計の流れ
計画設計 基本設計 詳細設計 生産設計 製品評価 量産準備
計画設計
基本設計 詳細設計
コンカレント開発による開発設計の流れ
生産設計 製品評価
量産準備 量産
量産
業務効率化!
開発期間短縮!
品質向上!
コストダウン!
商品力アップ!
を目指す!
コンカレントエンジニアリングとは、製品及びそれらに 関連する諸過程(製造及びサポートを含む)を一貫して、
並行的にデザインするための系統的なアプローチである。
このアプローチの目的は、開発者に、発案から廃棄に 至るまでの製品の全ライフサイクルに含まれる全ての 要素(-品質、コスト、スケジュール及びユーザーの 必要条件-)を最初から考慮するようにさせることである。
IDAレポートR-338(1988年12月)
図2-3: コンカレント・エンジニアリングとは
そもそもコンカレント・エンジニアリングが必要とされてきた背景について,斉藤
(1993)が「実践コンカレントエンジニアリング」でわかりやすい記述をしているので,
抜粋する。日本と限定しているものの,外資系の大手企業にも当てはまることが多い。
日本の製造業では,研究開発と製造工場が別組織になっている場合が多い。ほとん どの場合,取締役レベルから完全に分かれている。そればかりでなく,物理的にも離 れている場合が多い。別会社になっている例すらある。製造工場も多くの協力工場や