第 4 章 高力ボルト接合
4.2 ボルトセット
4.2.1 摩擦接合継手
摩擦接合継手に用いる高力ボルト,ナット,平座金のセットには以下に示す品質・性能が要求される[田島,
1972], [日本規格協会(1995)].
・ 継手としての耐力を確保するために,必要な摩擦抵抗を生じさせるボルト軸力を確実に導入できること.
・ 所定のボルト軸力を確実に長期間保持すること.
・ 施工期間および供用期間において,防錆等の腐食に対する配慮を有すること.
・ 作用に対して高力ボルトセットが破壊せず(脆性破壊,延性破壊,疲労破壊,特に遅れ破壊),安全に 使用できること.
・ ボルト締付け方法(施工方法)が簡易で,導入軸力が容易に確認できること.
【解 説】
(1)
要求性能摩擦接合に用いる高力ボルトセットの品質としては,すべり耐力を保持できる所要の締付け力を与え得る強さ,
施工時の締付け力が場合によっては降伏点を超える高応力になることもあるのでそれに耐え得ること,施工およ び締付け後の衝撃的な外力に対して十分なじん性を有すること,高応力が作用しても長期間破断せず,安全であ ることが要求される.特に,高力ボルト,ナット,座金それぞれに対しての品質・性能の他に,セットとしての 品質・性能が求められていることに注意しなければならない.
ナットの機械的性質については,組み合わせるボルトを締付けた時にねじ抜けがないように,硬さの範囲と保 証荷重を定める.座金は,ボルトに高い締付け力を安定して与えるのに重要な役割を果たしている.座金の機械 的性質としては,締付け時に座金にボルト頭やナットによるめり込みが生じないように,座金をボルト・ナット よりも若干硬く,しかも締付け時に割れないことが要求される.
ボルト,ナット,座金の材料とその加工方法は,日本規格協会,日本道路協会,日本鋼構造協会の高力ボルト 関連規格においても特に規定されていない.これは所要の性能を発揮するのに適した材料,加工方法の選択を自 由にし,より優れた製品の開発を促したものである.
また,耐火上の問題から焼戻し温度の限度,寒冷地などにおける脆性破壊に対する配慮,遅れ破壊の問題など,
使用条件に応じてさらに考慮しなければならない品質・性能があるので注意しなければならない.
(2)
ボルトの種類橋梁や建築鋼構造物の摩擦接合に用いられている高力ボルトには,施工性の向上や鋼材の多様化などに対応し て,高力六角ボルト,トルシア形高力ボルト,溶融亜鉛めっき高力ボルト,防錆処理高力ボルト,耐候性鋼高力 ボルト(ニッケル系高耐候性高力ボルトを含む),耐火鋼高力ボルト,超高力ボルト,ステンレス鋼高力ボルト,
ワンサイドボルト,六角頭トルシア形高力ボルトなどがある.表-解4.2.1に代表的な高力ボルトの強度と呼び径,
およびその規格・基準,表
-
解4.2.2
に現在用いられているボルトの種類と準拠する規格,認定機関を示す.準拠 す る基 準類 又 は承 認機 関
JIS B 1186「 摩 擦接 合用 高 力六 角ボ ル ト・六 角ナ ット ・平座 金の セ ット 」 HBS B 1101 本州 四国 連 絡橋 公団
「 摩擦 接合 用 太径 高力 六 角ボ ルト ・六角 ナ ット ・太径 平座 金の セ ット 規格 (案)」
(社)日 本道 路 協会 「道 路 橋示 方書 ・ 同解 説」
「 摩擦 接 合用 トル シア 形 高力 ボル ト ・六 角 ナッ ト・ 平 座金 のセ ッ ト」
(社 )日本 鋼 構造 協会 「 JSSⅡ 09」 「構 造用 ト ルシ ア形 高 力ボ ルト ・六角 ナ ット ・平座 金の セ ット 」 溶融 亜 鉛
め っき 高力 ボル ト
六 角
JIS B 1186「 摩 擦接 合用 高 力六 角ボ ル ト・六 角ナ ット ・平座 金の セ ット 」 F8T相 当 の機 械的 性 質,
JIS H 8641「 溶融 亜 鉛め っき 」 2種 HDZ 55 に溶 融亜 鉛 めっ き性 能 六 角
トル シ ア形 六 角 トル シ ア形
六 角 トル シ ア形
超高 力 トル シ ア形 大 臣 認定 を取 得
六 角 トル シ ア形
ス テン レス 六 角 JIS B 1186「摩 擦接 合 用高 力六 角 ボル ト・六 角ナ ッ ト・平 座金 のセ ット 」 に機 械的 性 質 SSBS 301 ス テ ンレ ス構 造建 築 協会 規格 「 構造 用ス テ ンレ ス鋼 高 力六 角ボ ル ト」
大 臣 認 定 を取 得
大 臣認 定 又は 機械 的 性質 は(社 )日本 道路 協 会, (社)日 本鋼 構造 協会 の 規格 に準 拠 取 は外 し可 能 な仮 設用
トル シ ア高 力ボ ル ト ワ ン サ イ ド ボ ル ト
溶融 亜鉛 めっ き 六角
常 温 時の 機械 的 性質 JIS B 1186「 摩 擦接 合用 高 力六 角ボ ル ト・六角 ナ ット ・平座 金の セ ット 」 (社 )日本 鋼 構造 協会 「 JSSⅡ 09」 「構 造用 ト ルシ ア形 高 力ボ ルト ・六角 ナ ット ・平座 金の セ ット 」
国 土交 通 省, 日本 建 築セ ンタ ー にお いて , 建築 基準 法 ・建 築基 準法 施 工令 を遵 守 し耐 火設 計 を行 い, 大 臣認 定を 受 ける 必要 が ある .
耐火 鋼 (FR 鋼)
ボ ルト の 種類 高 力 六角 ボル ト
高 力ト ルシ ア 形ボ ルト
JIS B 1186「 摩 擦接 合用 高 力六 角ボ ル ト・六 角ナ ット ・平座 金の セ ット 」 (社)日 本道 路 協会 「道 路 橋示 方書 ・ 同解 説」
「 摩擦 接合 用 トル シア 形 高力 ボル ト ・六 角 ナッ ト・平 座金 のセ ッ ト」
(社)日 本鋼 構 造協 会「 JSS Ⅱ 09」
「 構 造用 トル シ ア形 高力 ボ ルト ・六角 ナッ ト ・平 座 金の セッ ト」 に 機械 的性 質 は準 拠 HBS B 1102 本州 四国 連 絡橋 公団
「 摩擦 接 合用 防錆 高 力ボ ルト ・六角 ナ ット ・平座 金の セッ ト 暫定 規格 」 防錆 処 理
耐候 性 ニ ッケ ル系
高耐 候 性
表-解4.2.1 代表的なボルトの強度と呼び径
表-解4.2.2 高力ボルトとして用いられるボルトの種類
1)
高力六角ボルト高力六角ボルトは,
JIS B 1186
「摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット」[日本規格協会, 1995]に基づきボルト1個,ナット1個,座金2個を1セットとして製造され,現在,呼び径
M16
からM30
が使用さ れている.(写真-解 4.2.1)ボルト,ナットおよび座金の等級の組合せを表-解 4.2.3に示す, 1種,
2
種,3種の3
種類の高力ボルトセ ットが規定されているが,3
種のF11T
はかっこ付きの表記となっており,なるべく使用しないことになってい る.高力ボルトの機械的性質を表-解 4.2.4,表-解 4.2.5
に示す.これらの性質は製品から採取する試験片(JIS4 号試験片)や製品の引張試験により確認される.ナットと座金の機械的性質を表-解4.2.6,表 -解 4.2.7
に示す.また,本州四国連絡橋公団
(
現,本州四国連絡高速道路㈱)
では,HSB B 1101
「摩擦接合用太径高力六角ボルト・ボルト ナット 座金 F8T
M27,M30,M36 本州四国連絡橋公団 M20,M22,M24 日本道路協会 M16,M20,M22,M24 日本鋼構造協会 溶融亜鉛めっき
高力ボルト F8T F10 F35 M12,M16,M20,M22,
M24,M27,M30 JIS B 1186 規格・基準
JIS B 1186 F10T F10 F35
強度
M12,M16,M20,M22, M24,M27,M30 高力六角ボルト
ボルトの呼び径
トルシア形高力ボルト S10T F10 F35 高力ボルトの種類
太径六角ナット・太径平座金のセット規格(案)」[本州四国連絡橋公団, 1992]において,
F10T
等級の呼び径M27,
M30,M36
を規定し,太径高力ボルトも使用可能としている.本州四国連絡橋の下津井瀬戸大橋や櫃石島橋の桁部材などに
F10T
等級の呼び径M30
の使用実績がある[奥川ら, 1991].写真-解4.2.1 高力ボルトセットの例
表-解4.2.3 高力ボルトセットの種類と等級
表-解4.2.4 ボルト試験片の機械的性質
表-解4.2.5 ボルト製品の機械的性質
表-解4.2.6 ナットの機械的性質 機械的性質
による種類
トルク係数値
による種類 ボルト ナット 座金
A B A B A B
セットの種類 適用する構成部品の機械的性質による等級
1種
2種
F10 (F 8)
F10
F35
備考 表中括弧をつけたものは,なるべく使用しない.
(3種)
F 8T
F10T
(F11T)
ボルトの機械的 性質による等級
耐力 N/mm2
引張強さ N/mm2
伸び
%
絞り
%
F 8T 640以上 800〜1000 16以上 45以上
F10T 900以上 1000〜1200 14以上 40以上
F11T 950以上 1100〜1300 14以上 40以上
M12 M16 M20 M22 M24 M27 M30
F 8T 68 126 196 243 283 368 449 18〜31 HRC F10T 85 157 245 303 353 459 561 27〜38 HRC F11T 93 173 270 334 389 505 618 30〜40 HRC
ねじの呼び 引張荷重(最小)(kN) ボルトの機械的 硬さ
性質による等級
最小 最大
F8T 85HRB 100HRB F10T 95HRB 35HRC ナットの機械的 硬さ
性質による等級 保証荷重
ボルトの引張荷重(最小)
に同じ
表-解4.2.7 座金の硬さ
2)
トルシア形高力ボルトトルシア形高力ボルトは,頭部が丸頭でボルト先端部に締付けレンチの反力を受けるピンテール部があり,ボ ルト
1
個,ナット1
個,座金1
個を1
セットとして使用する.セットの種類・等級は,1種類,1等級であり,セットを構成するボルト,ナットおよび座金の機械的性質は表
-
解4.2.8
に示すように,それぞれ高力六角ボルト と同じである.道路橋においては,(社)日本道路協会の「摩擦接合用トルシア形高力ボルト・六角ボルト・平座金のセット」
[日本道路協会, 1983]を満足する
F10T
等級の呼び径M20
,M22
,M24
が,建築分野[日本建築学会, 2001]においては(
社)
日本鋼構造協会のJSS
Ⅱ09
「構造用トルシア形高力ボルト・六角ボルト・平座金のセット」[日本鋼構造協会, 1996]を満足し,大臣認定を取得したボルト
M16,M20,M22,M24
が使用をそれぞれ許可されている.これらの規 定ではJIS B1186
に規定された1
種,2
種の内2
種のF10T
に相当するS10T
を規定している(写真-
解4.2.2
).
写真-解4.2.2 トルシア形高力ボルトセットの例
表-解4.2.8 トルシア形高力ボルトセットの種類
3)
溶融亜鉛めっき高力ボルト溶融亜鉛めっき高力ボルトのセット(ボルト
1
個,ナット1
個,座金2
個)に関する規格はJIS
に存在しない.一般には,表
-
解4.2.9
に示すセットで構成されており,JIS B 1186
のF8T
と同等の品質を有するものを実用に 供している.建築分野においては大臣認定を取得して製作したものが使用されている.溶融亜鉛めっき高力ボルトの強度等級が
F8T
(1種)であるのは,製造工程において強度を発現するために熱 処理(焼入・焼戻)を実施しており,めっき浴槽の温度がF10T
の熱処理温度より高いことと,耐遅れ破壊特性 への影響が考慮されているためである.セットの構成部品 ボルト ナット 座金
機械的性質による種類 S10T F10 F35 備考 表のセットはJIS B1186(摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット,平座金 のセット)で規定する“機械的性質による種類”の2種に相当する.
座金の機械的性質による等級 硬さ
F35 35〜45HRC