第 4 章 高力ボルト接合
4.2 ボルトセット
4.3.1 ボルト孔
(1) 高力ボルトの孔の加工にあたっては,ボルトが無理なく挿入でき,ボルト挿入時にねじ山を傷めないよう に孔明けの精度を確保する必要がある.また,孔明け加工が材片の密着を阻害することがないように,必 要に応じて孔周辺の処理を行う.
(2) 部材の組み立てにあたっては,孔の加工と同様にボルトが無理なく挿入でき,ボルト挿入時にねじ山を傷 めないように,組み立て時の精度を確保する必要がある.
【解 説】
鋼板の孔明けには,ドリルによる方法と押し抜きせん断による方法がある.リーマ通しを併用する場合を含め,
原則としてドリルを用いるのがよい.また,孔明け加工に
NC
穿孔機を使用しない場合は,孔明けの精度を確保 するため,原則として型板を使用するものとする.なお,孔明け加工時に孔周辺に生じたまくれ(写真-
解4.3.1
) は,材片の密着を阻害し,ボルトの首部分に割れが生じる原因の一つともなるので,グラインダー等で削り取る.(1)
孔周縁のまくれ処理ドリルによる孔明けでは,穿孔条件(ドリルの材質,回転速度,送り速度,鋼材の重ね合わせ等)やドリルの 使用時間(刃先の磨耗状態)によってその大きさは異なるが,孔の表裏面にまくれが生じる.
押し抜きせん断による孔明けでは,ポンチ入側に肩落ちが,ポンチ出側(ダイス側)にまくれが生じる.さら
に,写真
-
解4.3.2
に示すとおり押し抜きせん断による孔は,①孔径はポンチ入側に比べ,ポンチ出側で若干大きくなる,②孔壁面はせん断面と破断面に分けられるが,せん断面には板厚方向に浅いポンチの条痕が生じる,③ せん断面およびせん断面と破断面の境界付近に微小な割れが生じるなどの特徴がある[三木ら,1989], [日本鋼構造協 会, 1987].道路橋示方書
[
日本道路協会, 2002]では孔の周辺の材質をいためることを理由に,押し抜きせん断による 孔明けは板厚16mm
以下の二次部材に限定して認められている.まくれの処理は,ディスクグラインダーや面取りドリルなど人力による機械的な除去方法が一般的である(写
真
-
解4.3.3
,4.3.4
).近年では,①面取りチップ搭載ドリル(写真-
解4.3.5
)による孔明けと面取りの同時施工や,②連結板など比較的小物部品の板こばおよび孔面を対象とした自動面取り装置も実用化されている.
写真-解4.3.1 孔周縁のまくれ 写真-解4.3.2 せん断孔の孔壁(t=9mm)
(2)
ボルト孔径と許容値摩擦接合におけるボルト孔径およびその許容値は表-解
4.3.1
に示す値を標準とする.表-解4.3.1 摩擦接合における標準ボルト孔径と許容差
ボルトの呼び 標準ボルト孔径(mm) 孔径の許容差(mm)
M20,M22,M24 呼び径+2.5 +0.5mm
M27,M30,M36 呼び径+3.5 +1.0mm
写真-解4.3.5 面取りチップ搭載ドリル 写真-解4.3.3 ディスクグラインダーによるまくれ処理
写真-解4.3.4 面取りドリルによる孔面取り
なお,以下のように施工上やむを得ない場合には,標準ボルト孔径+2mmまでの拡大孔を設けて対処した実 例が多い.
1)
部材を組み合わせた状態にしてリーミングを行うことが難しい場合a) 箱形断面部材の縦リブ継手
b)
鋼床版橋の縦リブ継手
2)
架設・組立の方法により,仮組立時と架設・組立時の部材に対する応力状態が異なる場合a) 鋼床版橋の主桁と鋼床版を取付ける縦継手
また,大ブロック架設を行う鋼桁の現場継手など架設時におけるボルト継手部の孔合わせ時の誤差吸収が標準 孔では困難なケースで,使用するボルトの呼び径dの
2.5
倍までの長さを有する長孔(スロット孔)を拡大孔と 併用する場合がある.長孔の加工方法は孔の長さによって異なり,並列する
2
個のドリル孔を切削加工して長孔を形成する方法や,薄板材片に対して長孔型パンチを用いて押し抜く方法などが用いられている.
拡大孔と長孔の孔寸法および形状については,諸外国における設計規準(ECCS,BS5400,AASHTO)では,
表
-
解4.3.2
に示すように規定されている.なお,拡大孔を用いた場合のすべり耐力については,国内の検討報告によれば,摩擦面の表面処理を適切に行い,かつ,母板および連結板の降伏よりもボルトのすべりが先行する条 件では,標準ボルト孔径+2.0mm までの拡大孔についてすべり係数の差異は微小であると考えられる[田中ら,
1998], [鋼橋技術研究会, 2002],[森ら,2005].また,長孔については,孔の幅や長さによってはすべり係数やボルト 軸力のリラクセーションに及ぼす影響等について注意を要する場合がある.なお,これらの拡大孔や長孔に関す る知見の多くは,高力六角ボルトのセットを対象とした実験および数値解析の結果によっている.そのため,ト ルシア形高力ボルトを拡大孔や長孔に適用する場合には,十分な検討が必要である.
表-解4.3.2 諸外国におけるボルト孔形状の規定 規 定 孔の種類 ボルト孔の大きさ(mm)
d+2 (d<24)
d+2 (d=24)
標準孔
d+3 (d>24)
d+4 (d<24)
d+6 (d=24)
拡大孔
d+8 (d>24)
短い長孔 標準孔径×(拡大孔+2(以内)) ECCS
長い長孔 標準孔径×2.5d(以内)
d+2 (d<24)
d+2 (d=24)
標準孔
d+3 (d>24)
d+5 (d<24)
d+6 (24≦d≦27)
拡大孔
d+8 (d>27)
標準孔径×(拡大孔+1(以内)) (d<24)
標準孔径×(拡大孔+2(以内)) (d=24) 短い長孔
標準孔径×(拡大孔+2(以内)) (d>24) 標準孔径×2.5d(以内) (d<24)
標準孔径×2.5d(以内) (d=24) BS5400
長い長孔
標準孔径×2.7d(以内) (d>24)
d+1.6 (d≦22.2)
d+1.6 (d=25.4)
標準孔
d+1.6 (d≧28.6)
d+4.8 (d≦22.2)
d+6.3 (d=25.4)
拡大孔
d+7.9 (d≧28.6)
標準孔径×(拡大孔+1.6) (d≦22.2)
標準孔径×(拡大孔+1.6) (d=25.4)
短い長孔
標準孔径×(拡大孔+1.6) (d≧28.6)
標準孔径×2.5d (d≦22.2)
標準孔径×2.5d (d=25.4)
AASHTO
長い長孔
標準孔径×2.5d (d≧28.6)
注)d:ボルトの公称軸径(mm)
引張接合におけるボルト孔径は,摩擦接合におけるボルト孔径とその許容値を標準とする.ただし,長締め形 式において,摩擦接合用高力ボルトを用いない場合には,「4.3.1ボルト孔」を満足するような孔径とする.橋梁 用高力ボルト引張接合設計指針[日本鋼構造協会, 2004]では,ボルト径
+5mm
程度の余裕を設けると規定している(ただし,孔径の許容値は示されていない).
支圧接合におけるボルト孔径は,用いる高力ボルトの種類により異なる.打ち込み式高力ボルトを用いる場合,
ボルト孔径については,ボルト軸径と等しいものとし,打ち込み作業の難易も考慮して,工作上許容できる限界 を精度として規定している.さらに,打込みの作業性(打ち込み難易度)や,ボルト孔周縁の傷,被接合材の厚 さと打込み強さ,ボルト孔の大きさと食い違いなどの部材精度について十分検討しなければならない.摩擦接合 用高力六角ボルトや摩擦接合用トルシア形高力ボルトを用いる場合,ボルト孔とボルト軸との隙間をできるだけ
小さくし,すべりが生じても接合部のずれが小さくなるように配慮しなければならない.
道路橋示方書
[
日本道路協会, 2002]では,打ち込み式タイプに対し,表-解4.3.3
に示す値を標準ボルト孔径とし,孔径の許容差も規定している.鉄道構造物等設計標準[鉄道総合技術研究所, 2000]では,道路橋示方書で規定される 標準ボルト孔径よりもさらに
0.3mm
小さいものを標準ボルト孔径としている.
表-解4.3.3 支圧接合における標準ボルト孔径と許容差(打ち込み式タイプ)
ボルトの呼び 標準ボルト孔径(mm) 孔径の許容差(mm)
M20,M22,M24 呼び径+1.5 ±0.3mm
組み立て時のボルトの孔ずれは,締結材である高力ボルトの挿入を困難にし,ねじ山を痛めたりする可能性が ある.そのため,道路橋示方書では孔のずれに関する上限値を
0.5mm
と定めている(
支圧接合の場合)
.また,表-解
4.3.4
に示すようにボルト孔の貫通率および停止率を定め,接合部としての組み立て精度を確保し ている.
表-解4.3.4 ボルト孔に対するゲージの貫通率および停止率 ねじの呼び 貫通ゲージの
径(mm)
貫通率 (%)
停止ゲージの 径(mm)
停止率 (%)
M20 21.0 100 23.0 80以上
M22 23.0 100 25.0 80以上
摩擦/引張 接合
M24 25.0 100 27.0 80以上
M20 20.7 100 21.8 100 M22 22.7 100 23.8 100 支圧接合
M24 24.7 100 25.8 100
(3)
ボルト孔の傾斜角鉄道構造物等設計標準[鉄道総合技術研究所, 2000]では,ボルト孔の傾斜角の許容値として,