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指数法則

ドキュメント内 日本語のリズム (ページ 146-154)

図5-5-1 各地名群の文字の使用頻度グラフ(低頻度文字)

埼地名 崎 名 峠 名 駅

大字・小字名 自然地名 一般地名

花地名 2.0 鼻 名 1.5 市町村名 1.3 越 名 2.0 崎 名 1.4 神社名 1.2 腰地名 1.8 島 名 1.3 駅 名 1.2 郡 名 1.7 峠 名 1.3

埼地名 1.7 嶋地名 1.5 坂地名 1.5

この現象は、線分の傾き率が高い地名群ほど文字の種類が少なく、低い地名群はあてた 文字が多い様子を表現している。このデータから、「字名」は奈良~平安時代の『好字二字 化令』に従ってあてた漢字を、そのまま現代に伝えている様子が感じられ、あて字の制約 を受けなかった自然地名とは一線を画した事実をよみとれる。また、一般地名と区分した

「市町村名、駅名」は各種各様の地名が混在した文字数の多い様相を示し、「神社名」は様々 な仮名が多用されたために、傾き率が低くなったと捉えられる。前に「頻度1」の百分率の 値で便宜的に区分した手法も全体の傾向を表わしていたことになり、自然地名の「越」は、

他の自然地名とはちがう命名法を採用した事実が、はっきりと浮かびあがる。

図5-5-1は低頻度の文字の動向をみているので、反対に高頻度文字はどんな様子を示す かを調べよう。つぎの表は、文字のランキングを順位ごとの数値にまとめたものである。

表5-5-2 各地名群の文字の使用頻度(高頻度)

順位ごとの使用頻度

1位 2位 3位 4位 5位 6位 7位 8位 9位 10 20 30 40 花地名 36 32 32 31 25 17 15 13 11 10 4 2 2 25 22 18 15 14 13 13 11 11 11 6 5 3 腰地名 78 62 45 43 37 30 22 21 19 19 10 7 5 39 23 20 20 18 16 16 15 15 14 10 8 6 埼地名 219 168 101 97 97 80 77 72 58 52 25 16 14 嶋地名 356 155 119 92 91 64 59 56 53 43 27 18 13 坂地名 130 89 50 47 34 29 27 26 22 21 13 9 7

215 143 109 66 61 57 54 47 41 37 20 17 12 125 93 56 52 48 46 44 40 40 40 26 19 16 162 149 127 105 83 77 75 66 58 49 34 22 17 222 189 143 129 128 122 101 101 93 90 53 36 31

市町村 199 192 165 156 124 101 81 79 79 77 51 41 34 神社名 227 210 151 144 143 141 121 120 119 114 79 67 54 384 315 239 229 221 170 168 157 147 147 103 89 76

この数値群の並び方も、指数法則に従っているように見えるので、「埼地名、崎名、峠名、

駅名」を代表例として両対数目盛りグラフに写し換えると次の図がえられる。

図5-5-2 各地名群の文字の使用頻度グラフ(高頻度文字)

埼地名 崎 名 峠 名 駅

これらの図も、低頻度文字の分布図と同じように、全体では線型の様相をみせている。

図の各点がバラつきをみせる現象は、データ総数が少ないことに加え、この分析手法の欠 陥である1~3音にあてた「仮名、字訓仮名、漢字」を一括して扱っていることによる。

これではちょっと物足りないので、さらに母集団の大きい『万葉集、古今集、土佐日記、

伊勢物語、竹取物語、後撰集、蜻蛉日記、枕草子、源氏物語、紫式部日記、更級日記、大 鏡、方丈記、徒然草』の14作品にのる「助詞、助動詞、接辞」を除いた、単語全数の詳細 な分析データが公表されているので、これを利用させていただくことにしよう。

『古典対照語い表』〈宮島達夫 1971 笠間書房〉には、14作品にのる延べ415,536語の単 語を「あり(有り):9034例。こと(事):7654例。ひと(人):7346 例」のように分類をし た「異なり度数:23,880語」の分析データが載せられている。これをもとにした使用頻度 ごとに分類した表を転写すると、つぎのようになる。(㊟ 次の表は、『日本語をさかのぼる』

〈大野 晋 1974 岩波新書911〉にのるデータを転載させていただいた)

表5-5-3 奈良~平安時代の単語の使用頻度 宮島達夫 1971

5-5-3 奈良~平安時代の単語の使用頻度

この表の数値も、指数法則に従っている様子が みられるので、これをグラフ化したものが下図3 である。

御覧のように、奈良~平安時代における和語 の「単語」の使用状況は、あざやかな線型グラ フとなって現われる。

先に述べたように、この現象は、「倭語」が大 自然の基本定理である『指数法則』に従って、

構築された可能性が高い様子を語っている。

10 50 100 500 1000

単語の使用頻度

順 位 1 10位 15位 20位 30位 40位 50位 60位 70位 80位 90位 100 使用頻度 9034 4091 2270 1831 1454 1246 1040 910 812 720 637 571 順 位 150 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 使用頻度 390 314 212 157 127 102 87 76 66 57 52 48

ふだん私たちは意識することなどほとんどないが、自然現象が『指数法則』に従ってい る事実は認識すべきである。たとえば、生命の根幹にある種の増加…人類では人口増加…は、

一般に次の指数関数で表現されている。

y=a(1+p) y:X年後の人口。 a:当初の人口。

p:人口増加率。 ⅹ:経過年数。

この関数は「a」を預金高、「p」を金利におきかえると「y」が元利合計になる、たい へん身近な公式として知られる。ただ毎日預金を出し入れすると、公式を日割り計算式と して使用するように、人口問題にもこれがあてはまり、ふつうは年平均を元にした指標と して使われている。

いまは「夢のまた夢」になってしまったが、公式の「p」の値、金利を3%に設定すると、

y=a(1+0.03) となって、10年後の元利合計は1.34倍、20年後は1.81倍、30年 後に2.43倍、50年後に4.38倍、100年後には19.2倍と算定できる。これは経済成長の現 象にもあてはまり、インフレーションがないと仮定し、毎年3%の成長を続けると、これほ ど経済が拡大する様相を表わしている。もし金利(成長率)を10%におくと、10年で2.59 倍、20年で6.73倍、30年で17.4倍、50年で 117.4倍、100年では13,780倍と、目を疑 うような数値が出現する。これ以上の高利が設定されたローンではカード地獄、自己破産 が続出するのも当然といえ、この数式の別称が「ネズミ算」とよばれるゆえんである。

経済成長が資源・エネルギーの使用量にほぼ比例している様子をみれば、成長率だけに とらわれると、現状のままの資源・エネルギー利用では、将来、確実に破綻がおきる事態 を暗示している。

わが国の実例をあたると、一時間あたりの総発電量が約460億kWであった1950年から、

1960年(1,200億kW:10年間の増加度2.6倍、年増加率≒10%)、1970年(3,600億kW:3倍、

12%)、1980年(5,800億kW:1.6倍、5%)、1990年(8,600億kW:1.5倍、4%)、2000年(1 兆 900億kW:1.3倍、3%)と年ごとに増加した様子が記録され、今なお需要拡大が見込ま れているのは御承知のとおりである。この推移は1980年を境に「10→12→5→4→3」%と、

増加率が急に落ち込んだようにみえるが、基数

が増えているので、実際の増加量は

「740(1950~60年)→2,400(1960~70年)→2,200(1970~80年)→2,800(1980~90年)

→2,300(1990~2000年)」億kWであったことがわかる。

つまり、成長率は鈍化したが、増設した10年単位の発電量はほとんど変わらなかったの である。この実態掌握が大切なところで、1950年の総発電量は2000年度のわずか「4%」

に過ぎない。基数

を無視して成長率だけにこだわる姿勢と、経済指標としての

「成長率崇拝」が何を語るかは、あらためて熟慮すべき事柄である。

〈㊟ 発電所から排出されるCO2総量は、わが国全排出量の約26%。2000年度実績〉

指数関数は、対数をとると、線型の関数(一次関数)に変換できるところは重要である。

そこで、関数の右辺に対数をとり、公式どおりに展開すると、

Y=log a(1+p)ⅹ =log a+log(1+p)ⅹ =log a+ⅹ×log(1+p)

と、xの一次関数に変換される。片対数目盛りの方眼紙にこの指数関数のグラフを描くと、

直線になる形質は興味を惹く。このように、ごく単純な様相をみせる指数関数の実態を把 握しにくいのは、「 1,2, 3, 4, 5‥‥」と数える自然数の方に親しみすぎたためではない かという気がする。人口増加、預貯金の元利合計、経済成長の現象が「y=a(1+p) 」 で表わされるように、『指数法則』は大自然の摂理を表現している。

自然現象、たとえば気象予報は、過去の数値データを基に作成された複雑な微分方程式 に、観測地点ごとの温度、湿度、風向、風速、降雨量などの情報を入力し、時間の経過を 入れて未来を予測する。この高次微分方程式の基にある一次微分方程式「dy/dx=y」

の解は、「y=C1

+C2」(C1・C2は定数)の指数関数で表わされる。

は「Exponent,

exp.:自然対数の底=Σ 1/n!=2.718…」の略称で、

は何回微分しても変化しな いのが際立った特性である。おなじように循環の性質をもつ三角関数(Sinⅹなど)と共に、

は微分方程式の基本解におかれて、ニュートン力学、電磁気学をはじめ理学・工学の 基盤になっている。高校の数学で「方程式の解法、指数・対数、三角関数、微積分、集合、

数列・行列、確立・統計」を習うのも、本来このすべてが関係する微分方程式の解法を導 くためであり、「自然の真理」を理解するための前提なのである。

この真理の一例にあがるのが、最近の生物学の成果によって、動物の生理が一定法則に 従うことが解明されたことである。たとえば、動物のエネルギー消費量は体重の3/4乗に 比例し、これを数式で表わすと次のようになるという。

〈『ゾウの時間 ネズミの時間』本川達雄 1992 中公新書。 NHK人間大学テキスト『生物のデ ザイン』本川達雄 1995 日本放送出版協会〉

恒温動物 Es= 4.1W O.75 単細胞生物 Es= 0.018W O.75 変温動物 Es= 0.14 W O.75

Es:標準代謝率(ワット)。 W:体重(kg)

この数式は、一見進化をとげたようにみえる人類をふくむ恒温動物が、同じ体重の魚類、

爬虫類などの変温動物と比べて、生きるだけのために30倍ものエネルギーを消費する、意 外に効率の悪い生物である様子を喚起している。

また、哺乳類の心臓の鼓動と呼吸の周期は体重の約1/4乗に比例し、寿命もまた体重の 1/5 乗に正比例することが明らかにされている。二つの真理から体重の項を消去すると、

哺乳動物では体の大きさに関わらず、寿命と心臓の鼓動は、時間に無関係の一定値(寿命≒

15億回の鼓動)をとるという。心臓の鼓動が体重の1/4乗に比例するように、様々な器官

の働きも体重のべき乗で表わせるので、重さの違う哺乳類では、時間の概念が種毎に異な って、時間のたつ速さも体重の1/4乗に比例することが解明された。アインシュタインの

『相対性原理』が、長さと時間を「速度」の関数で表わしたように、動物では「体重」の 指数関数で時間が表現される。

これは、犬や猫がじゃれついて来ても、すぐ飽きてしまう様子に表現され、体重60kgの 人間には10~20分の時間でも、10kgの犬にとって15~30分、1.5kg の猫では25~50分の 時間経過に換算されるという。犬に比べて、猫のほうが飽きっぽく見えるのは、これが原 因で、高所から落ちてもキチンと着地できるのは、すぐれた運動能力だけでなく、重力の 加速度(980cm/s2)の捉え方が人類とは大きく違うためとわかる。

数百gのネズミがチョコマカ動きまわる様子も、彼らにとってはゆったりした動きのは ずで、悠然と暮らす数トンのゾウから見れば、人類はドブネズミ程度のせわしない動物に 映り、おそらくネズミが動く姿は、ゾウには見えてないだろうと推定されている。

細胞の活動も同様で、大型動物ほど細胞組織の働きが鈍くなるのが摂理で、ゾウの細胞 がネズミほどに活発化すると、表皮から発散できる熱量(表面積:長さの二乗。体重:長さ の三乗に比例が限定されるため、体内に潜熱が溜まって、即座にゾウ煮が誕生する。

つまり、ウサギ小屋に棲むドブネズミと評された高度成長期のスタイルで、世界第三位 の巨大生産をつづければ、内部から崩壊するのは理にかなった現象なのである。バブル発 生要因のひとつはこれであり、後遺症が大きいのも当然といえよう。政治・経済、環境問 題を考えるうえにも、多種多様な生物から学ぶべきことは無限にあり、自己中心の人類だ けの視点で捉えてはならない。と、多くの生物学者が啓発されている。

このように、自然界・生態系は「1,2, 3, 4, 5‥‥」と数える自然数でなく、指数法則 に支配されていることへの認識は大切である。高度成長の美名に浮かれ、毎年毎年3~10%

のベースアップを重ねた結果、アメリカ合衆国を軽く抜いて、西欧諸国の二倍、中国の20 倍にまで労働賃金が跳ねあがり、人手を要する仕事では世界に太刀打ちできなくなって、

工場の海外移転、高賃金の高年齢層のカットという深刻な事態を招いたのも、元を正せば

『指数法則』への認識不足によっていた。不況、不況と騒いでいた数年前も、国内総生産

(GDP)が約1.2兆ドルのイギリス、1.5兆ドルのフランス、2.4兆ドルのドイツの合計 に匹敵する「5.1 兆ドル:世界の生産高の約 16%」だったことを認識できない、相も変わ らぬ「井の中の蛙」状態を留めていた。こうした我が国の状況が、世界史の上で「大不況」

などと記録される可能性は全くないのである。

西欧の人々、とくにフランス人が、一ヶ月ものヴァカンスをとる習慣をもっているのは、

生物の基本法則を肌で実感して造りあげた大系であろう。ゆったり大きく構える人たちと、

いつまでたってもチョコチョコ動きまわることしか考えない民族が、世界全体から異質な 存在と揶揄されるのも致し方ない現象かもしれない。

ドキュメント内 日本語のリズム (ページ 146-154)