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埼、嶋地名の音型

ドキュメント内 日本語のリズム (ページ 74-81)

地名群 文字数 地名群 文字数 共用文字 片方使用文字 合計文字数 埼地名

461

嶋地名

537

281

436

717

764

888

542

565

1108

1048

市町村名

835

587

709

1296

埼+嶋

717

崎+島

1108

565

695

1260

崎+島

1108

峠+市町村

1296

828

748

1576

「埼、嶋、崎、島、峠、市町村」名全体に使われた文字数

1638

(地名総数:15,898.使用文字総数:27,296.一文字の平均使用頻度:16.7)

御覧のように、個々の地名群に使われた数多くの文字も、各地名群の間では重複するも のが多く、全体は 1,600 文字ほどに集約される。この現象は、すべての地名にあてはまる ようで、わが国の地名は、おおよそ 2,000 文字の「漢字、仮名」の使用を想定できるとお もう。

これを「当用漢字:1,850字。昭和21(1946)年制定」と比較するのも興味ぶかい。

前節に引用した『時刻表名探偵』の精緻な分析によると、昭和53年度の国鉄駅名に使われ た文字(1,092字)は、当用漢字(736字)が全体の7割を占め、以下、純表外字(267字)、

人名用漢字(53字)、新漢字表追加漢字(25字:人名用漢字と重複するもの3字)、ひらがな

(4 字)、カタカナ(8 字)、記号(2 字:々、・)と分類されている。なお現在、当用漢字は 昭和56(1971)年に内閣公示された『常用漢字:1,945字』にかわった。

旧国鉄の駅名はわが国の代表的な地名であり、他の地名群の使用状況を併せて考えると、

ここにみられる文字の分類が標準的な様相といえるだろう。日本全国では数千万にのぼる といわれる地名に対して、使われた「漢字・仮名」が、わずか 2,000 字程度に想定できる 現象が、たいへん重要な事実を暗示する。

だが、「

AB

:2,500種類」の言葉に対してさえ、2,000種の当て字で足りるはずもなく、

さらに2,000種類の文字の中には、約500種類の「仮名、単音の漢字」や、2音の「同音異 体字」が含まれることを考慮すると、地名に採用された「

AB

」という2音節の単語は、

おおよそ1,000種以下に想定できる。本サイトは、「

AB

」地名が古語の2音節の基本動詞 を五段に展開した形と推理して地名解釈を行なっている。古語辞典を見てお判りのように、

2音節の基本動詞は200種ほどあって、五段に展開した形は約1,000種類になる。

さらに地名に使われた言葉は「

」母音の使用が多く、これに較べて「

」 母音が少ないため、2音節の単語は、おおよそ500~600種類くらいに限定できる。個別の 地名に使われた言葉は、その地名群の特性を反映してさらに数を減らし、いままで扱って きた地名群のどれもが、使用文字の「10%」ほどの量で地名全体の過半数を占める事実が、

この様子をはっきり示している。

そこで、これまで検証した地名群をもう一度あげて、ここから、どんな現象を読みとれ るかを具体的に考えたい。まず、もっとも検証しやすい大字・小字名の「埼、嶋」地名群 をとりあげよう。

表5-3-4 埼地名のベスト30

211 山 崎 Yamasaki 31 黒 崎 Kurosaki 16 寺 崎 Terasaki 90 岩 崎 Ifa saki 29 神 崎 Kamusaki 16 矢 崎 Ya saki 89 川 崎 Kafasaki 28 岡 崎 Wokasaki 15 石 崎 Isi saki 87 尾 崎 Wo saki 27 戸 崎 To saki 15 柴 崎 Sipasaki 70 長 崎 Nakasaki 26 林 崎 Fayasisaki 14 小 崎 Ko saki 68 大 崎 Ofo saki 26 木 崎 Ki saki 14 松ヶ崎 Matukasaki 61 松 崎 Matusaki 23 高 崎 Takasaki 13 芝 崎 Sipasaki 51 宮 崎 Miyasaki 22 柏 崎 Kasifasaki 13 洲 崎 Su saki 38 野 崎 No saki 20 中 崎 Nakasaki 13 田 崎 Ta saki 37 赤 崎 Aka saki 18 須 崎 Su saki 12 杉 崎 Sukisaki 12 竹 崎 Takesaki 12 三 崎 Mi saki

㊟ 地名の前の数字は、各地名の使用頻度を表わす。いまは濁音の発音を交える 「山崎、尾崎、長崎」なども清音で表記した。以下同様。

埼地名総数: 2361 地名合計数 1~10位 802 占有率:34.0%

1~30位 1193 占有率:50.5%

次の埼地名には、カッコ内のよみも併存する。印は別種の地名に区分した〉

神崎Kamisaki 戸崎Ko saki 木崎Ko saki 高崎Kafusaki 石崎I saki 林崎Fayasaki 小崎Wo saki

くり返し述べたように、地名のもつ際立った特徴は発声しやすく、記憶しやすいように

『韻律:音の並び方のリズム』に配慮していることである。表にみられるように、埼地名 をアルファベットで表記すると、埼地名群に使われた『母音音型』の興味ぶかい定形パタ ーンが現出する。

埼地名のトップにランクされた山崎を筆頭にして、「

aaai

」母音の形をとる地名に 山崎Yamasaki:211)、川崎Kafasaki:89)、長崎Nakasaki:70)、赤崎Akasaki:37)、 高崎Takasaki:23)、中崎Nakasaki:20)があり、この合計は「450」となって、ベスト 30にのる地名の「37.7%」が、「

aaai

」母音の形をとる様子が解る。

また、前後対称の「

iaai

」型は、岩崎Ifasaki:90)、宮崎Miyasaki:51)、柴崎

Sipasaki:15)、芝崎Sipasaki:13)を合わせた「169:14.2%」の例がみられて、尾崎 型の「

oai

」パターンは、尾崎Wosaki:87)、野崎Nosaki:38)、戸崎Tosaki:27)、 小崎Kosaki:14)の計「166:13.9%」の地名が、これに該当する。

三者の合計は785例にのぼり、ベスト30にランクされた1,193の地名のうち「65.8%」

もの埼地名が、三つのパターンをとる様相が浮上する。ベスト 30 にランクされる地名は、

埼地名全体の過半数を占める事実も大切で、埼地名全数にあたると、類型が半数を占める 様子がわかる(後述)。

つまり埼地名では、後位の「Saki」の音型を意識して「

aaai

」型と「

iaai

」 型が多用され、さらに原初的な形として田崎型の「

aai

」、木崎型の「

iai

」、須崎 型「

uai

」、尾崎型「

oai

」が存在する。

埼地名は、本章で扱ってきた地名群では、駅名・嶋地名と共に、地名総数に対して使わ れた文字の比率(0.20:表5 参照)が最も少ない地名群である。ベスト30にランクされた 地名でも同音異字のあて字が少なく、大多数の埼地名が一種類の漢字で表記されることが 著しい特徴になっている。異体字をあてた地名は、次の例があがるだけである。

川崎 (89) : 河崎 (8) 樺崎 (1) 戸崎 (27) : 外崎 (3) 都崎 (1) 長崎 (70) : 永崎 (1) 木崎 (23) ・ 木佐木 (3)

松崎 (62) : 末崎 (2) 先崎 (1)

喜佐木 (1) 貴崎 (1) 待崎 (1) 中崎 (20) : 仲崎 (1)

赤崎 (37) : 阿賀崎 (1) 矢崎 (16) : 谷崎 (2) 神崎 (29) : 門崎 (1) 間崎 (1) 杉崎 (12) : 鋤崎 (3)

岡崎 (28) : 尾ヶ崎 (2) 三崎 (12) : 御崎 (10) (10)ほか

当て字の種類が少ない性質は、大多数が「一字の漢字+崎」で表記された埼地名では、

使われた文字を調べるだけで、地名群全体の傾向を把握できる利点がうまれる。しかし、

当然例外はあり、「Misaki」地名には、三崎(11)、三咲(1)、岬(10)、御崎(10)、見崎(4)、

水崎(1)、美崎(1)、美岬(1)、美咲(1)など各種のあて字が施され、総数(40)では楽に ベストテンに入るはずの地名が低位に位置するのも、漢字を主体に分類する方法の欠陥が 現われる。よみ方で区分するのが望ましいが、水崎Misaki,Mitsusaki、谷崎Yasaki,

Tanisakiをはじめ、地名の復元には難しい問題が含まれるので、便宜的にこうした手法 を採用している。〈㊟ 集計では、岬(島根県境港市岬)を三崎にふくめ、水崎(Mitsusaki:

大分県豊後高田市水崎 ほか5例)は、水崎(Misaki:徳島県那賀郡上那賀町水崎)とは別の地 名とした〉

埼地名のもつ数々の特徴は、同種の音型をとる「嶋地名」にも共通するので、この地名 群も再掲して検討をつづけよう。

表5-3-5 嶋地名のベスト30

314 中 島 Nakasima 30 北 島 Kitasima 15 出 島 Ite sima 131 大 島 Ofo sima 30 長 島 Nakasima 14 牛 島 Usi sima 123 島 Sima 28 飯 島 Ifi sima 14 下 島 Simosima 94 小 島 Ko sima 28 松 島 Matusima 14 前 島 Mafesima 88 福 島 Fukusima 26 向 島 Mukafusima 14 矢 島 Ya sima 60 田 島 Ta sima 21 西 島 Nisisima 13 青 島 Awo sima 50 鹿 島 Ka sima 19 寺 島 Terasima 13 平 島 Firasima 49 三 島 Mi sima 19 宮 島 Miyasima 13 八 島 Ya sima 37 高 島 Takasima 18 中島 Nakanosima 12 竹 島 Takesima 36 川 島 Kafasima 17 柳 島 Yanakisima 11 浮 島 Uki sima 11 上 島 Kamisima 嶋地名の総数: 2648 地名合計数 1~10位 982 占有率:37.1%

1~30位 1351 占有率:51.0%

㊟ 次の名称には、カッコ内のよみをする地名も併存する。 印の地名は 別種の地名に区分した

小島Wo sima 長島Wosasima 向島Mukafisima,Mukusima 飯島Fa sima 柳島Yanasima 出島Itu sima,Te sima 牛島U sima 下島Sitasima 上島Ufe sima,Sifosima 浮島Uka sima 平島Tafirasima,Fefisima

まず、嶋地名群への同音異字のあて字を記すと、次のようになる。

中島 (314) : 仲島 (7)

(123) : 志摩 (4) 四万 (1) シマ (1)

小島 (94) : 児島 (3) 古島 (2) 子島 (1) 戸島 (1) 鹿島 (50) : 加島 (2) 嘉島 (1) 神島 (1)

三島 (49) : 見島 (2) 箕島 (1) 高島 (37) : 鷹島 (1)

川島 (36) : 河島 (2) 樺島 (1) 椛島 (1) 長島 (30) : 永島 (4)

矢島 (15) 八島(12) : 屋島 (2) 谷島 (1) 島、中島、中之島 (18) : 中野島 (3) 上島 (13) : 神島 (3)

前島 (13) : 万部島 (1) 竹島 (12) : 武島 (1)

埼地名と同じように、嶋地名も韻をふむ類型がみられるので、個別のパターンを記すと 以下のようになる。〈比率は31位までの合計、1,361例に対する百分率〉

地名数 比率(%)

aia

型 田島 鹿島 矢島 八島 137 10.1

iia

三島 49 3.6

oia

小島 94 6.9

aaia

中島 高島 川島 長島 417 30.6

aiia

上島 11 0.8

auia

松島 28 2.1

aeia

前島 竹島 26 1.9

aoia

青島 13 1.0

iaia

北島 宮島 平島 62 4.6

iiia

飯島 西島 49 3.6

ieia

出島 15 1.1

ioia

下島 14 1.0

uiia

牛島 浮島 25 1.8

uuia

福島 88 6.5

eaia

寺島 19 1.4

ooia

大島 131 9.6

これ以外の向島(

uauia

)、中島(

aaoia

)、柳島(

aaiia

)も韻を ふみ、「島、小島」などの原初的な地名をのぞくと、ここにあげたほぼ全数の嶋地名が韻を ふむ様子がわかる。こうしてみると、埼地名の分析は極めて甘く、全数を整理して、もう 一度分類し直すと次の結果がえられる。〈比率は32位までの合計、1,217例に対する百分率〉

地名数 比率(%)

aai

型 矢崎 田崎 29 2.4

iai

木崎 三崎 38 3.1

uai

須崎 洲崎 31 2.5

oai

尾崎 野崎 戸崎 小崎 166 13.6

aaai

山崎 川崎 長崎 赤崎 高崎 中崎 450 37.0

auai

松崎 神崎 90 7.4

aeai

竹崎 12 1.0

iaai

岩崎 宮崎 柴崎 芝崎 169 13.9

iiai

石崎 15 1.2

uiai

杉崎 12 1.0

eaai

寺崎 16 1.3

oaai

岡崎 28 2.3

ooai

大崎 68 5.6

aaiai

林崎 26 2.1

aiaai

柏崎 22 1.8

auaai

松ヶ崎 14 1.2

uoai

黒崎 31 2.5

このように整理すると、ベスト 30 にランクされた埼地名の大多数が、「

」母音を もとに韻律を整えた史実が浮かびあがる。各音型に対する比率も、嶋地名と大差ない様子 をみせて、この辺からも、「埼、嶋」地名はおなじ命名法でつけられ、命名年代もおなじ…

『縄文時代』…と推理できる。

ただ「黒崎:

uoai

」が韻を踏んでいない点には、ちょっと不思議な印象を与えるも ので、なぜこの名が現役の「崎」名の第一位にランクされるかは解りにくい。前章で語源 を考えた、赤青白黒の色名が「

aa

ao

io

uo

」と音を微妙にかえて命名された ところをみると、あるいは、この命名法が韻をふまない地名を造りだしたと考えられるか

もしれない。左右が「

iai

ii

」、東西南北が「

iai

ii

iai

ia

」、春 夏秋冬「

au

au

ai

uu

」、朝昼夕夜「

aa

iu

uu

ou

」と対句の表現 が韻律を意識して一遍に命名した様子がうかがえる。「ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、

こ、と」とかぞえる倭語の数詞も「

」と、記憶し やすいように韻を整えている。

ここにあげた約 30 例ずつの埼・嶋地名が、両地名全体の過半数を占めるところは注目す べきで、これ以外の埼・嶋地名の大多数も韻を踏んだ定形パターンに帰着するのである。

この様子を、もう少しはっきり検証するため、「単音+崎、島」地名と、両者に使用例の 多い埼名の「

aaai

iaai

」型、嶋名の「

aaia

iaia

」型が、どんな形 で実際の「埼、嶋」地名に使われているかを調べよう。

ここからの話も、本サイト全般に共通するたいへん地味なデータ群の羅列である。退屈 される方が多いと思われるけれど、だれも手掛けた事がないこの種の分析が,想像以上に

『倭語→日本語』の基本資料になるのである。

表5-3-6 埼、嶋地名の音型 単音+崎、島

a i u e o

阿島 伊崎 伊島 鵜崎 鵜島 榎島 御崎

鹿島 木崎 木島 久崎 玖島 小崎 小島

佐々木 佐島 志崎 志島 須崎 洲島 瀬崎 蘇崎 卒島

田崎 田島 地崎 千島 津崎 津島 手崎 手島 戸崎 戸島

奈佐木 名島 仁崎 似島 沼島 根崎 野崎 野島

羽崎 羽島 比島 冬島 保崎

真崎 間島 三崎 三島 六島 目崎 女島 茂崎

矢崎 矢島 湯崎 湯島 江崎 江島 余崎 与島

和崎 和島 井崎 居島 尾崎 尾島

㊟ 地名は使用例の多いあて字で表記し、青色の地名は5例以上ある名称。

空欄は使用例のない音型で、次表以下も同様に表記。

この分類では「崎、先、咲、岬、佐木」「島、志摩」をあてた地名をとり 出し、少数例の「笠置、草木」「串間、林間」型の地名は除外した。

ドキュメント内 日本語のリズム (ページ 74-81)