◇ 上流権益確保の動きが活発化
¾
わが国においては長らくガソリンなどの燃料油の需給緩和が続く一方で、海外に 目を転じると、アジアの新興国では力強い経済発展を背景に、原油や天然ガスを はじめとするエネルギー需要は増加を辿っており、原油をはじめとする資源価格 の高止まりが続いている。¾
このような状況下、わが国石油元売企業においては、海外における原油や天然ガ スなどの資源開発に対する投資が増加傾向にある(図表3)
。資源開発部門は営業 利益の規模では主力の石油精製・販売部門とすでに肩を並べる主要事業の位置付 けにあり、今後についても上流権益への投資が続いていくことが見込まれる。¾
ただし、世界的に資源開発を巡る競合が激しくなるなか、今後は好条件で開発も 進展した既存鉱区を取得することは難しくなるとみられ、①案件の初期段階から 開発プロジェクトに関与していく、②シェールオイル等の非在来型資源(*)や超深 海部等の幅広い条件の鉱区も対象に含めていく、といったことが重要性を増す。¾
こうしたなか、投資体力の面では欧米のオイルメジャー(*)や産油国のNOC
(*)に見劣りするわが国企業においては、相対的に投資リスクが小さく、また、これ ら大規模プレーヤーとの全面的な競合にもなりにくい中小規模の開発案件でオペ レーター(*)経験を積むなどして、探鉱から開発に至る一連の事業ノウハウを蓄積 していくとともに、特定の領域や地域に強みを有する独立系の
E&P
(*)業者との 提携や共同開発を通じて、幅広い条件の鉱区を開発できる技術力の蓄積を図って いくことが重要といえる。図表
3:成長分野の開拓に向けた取り組み
(資料)各社IR、新聞記事などをもとに三菱東京UFJ銀行企業調査部作成
( 2 )新規事業
◇ 発電事業への展開を広げる
¾
わが国では東日本大震災以降、原子力発電所の停止により電力需給が逼迫してい ることから、わが国石油元売企業のなかには、電力事業への投資を拡大する動き がみられる(前掲図表3)
。¾
具体的には、製油所内の自家発電設備の運用を活かした火力発電事業や、油井掘 削技術を応用した地熱発電事業、関係会社で製造する太陽光パネルを用いた太陽 光発電事業などが挙げられる。¾
とりわけ火力発電事業については、今後、東京電力をはじめとする地域電力会社 が火力発電所を新設・更新する際には、外部企業から事業計画を募集し競争入札 を行うことを義務付ける指針を経済産業省が掲げていることから、石油元売企業 の増強・新設の動きが一層増加する見通しである。¾
各社としては、同事業の基本的な収益性は売電契約の条件で規定されるものの、これまで自家発電設備や
IPP
(*)発電所の運営を通じ蓄積してきた経験を活かして 効率的な運用を図る、発電所から得られる蒸気や熱などの副産物を他社へ供給す る、といった取り組みを通じて収益の極大化を図っていくことが重要といえる。◇ 石油化学事業の強化も進める
¾
わが国石油元売企業は、石油化学事業の強化も進めている。具体的には、パラキ シレン(ポリエステル繊維原料)やプロピレン(合成樹脂原料)など、石油精製 工程の流れのなかで生産される製品の増強計画などが挙げられる(前掲図表3)
。¾
これらの需要は、アジア地域を中心に堅調に伸びているうえ、その原料はガソリ ン原料と共通である。このため、わが国では、ガソリンの内需が縮小するにつれ て余剰となるこれらの原料を石化向けに活用する余地が高まっていることがその 背景にある。¾
今後もこうした状況に変化はなさそうで、各社の石化事業強化の動きは続こう。ただ、主力のパラキシレンは需給次第で市況が激しく変動するうえ、増産には数 百億円の投資を要する(注)。また、生産規模がコスト競争力に直結する一方、単一 製油所で得られる原料は製品プラントの経済性を満たすには小さいことも多い。
(注)一方、プロピレンについては、基本的にアジアの需給は恒常的にタイトに推移するとみら れるうえ、増産に向けては既存設備に用いる触媒や運転条件の工夫によって対応可能であ る。従って、各社とも収率の極大化に向けた取り組みを鋭意進めていく有効性が高い。
¾
このため、同事業の強化にあたっては、各社が持つパラキシレン原料を持ち寄り、合弁で大規模なプラントを立ち上げることで、投資リスクの分散化を図るととも に、規模のメリットを追求していくことも有効といえる。
【用語説明】
油種別 油種別にみた国内燃料油販売量(2011 年度実績)の内訳は、ガソリン(29%)、ナフサ
(22%)、軽油(17%)、C重油(12%)、灯油(10%)、A重油(8%)、ジェット燃料(2%)、 となっている。なお電力用C重油は、C重油の需要の5割程度を占める。
製油所の トラブル
2012年度には6月にコスモ石油の千葉製油所が、7月にJXホールディングスの水島B 工場がトラブルにより停止し、現時点でも完全には復旧していない。
エネルギー 供給構造 高度化法
経済産業省が元売各社に対して示達した、今後の製油所の競争力向上に関する指針
(2010年4月発表)。具体的には、全体の生産能力に対する、重質油分解装置という高 度な設備の装備率を高めることを義務付けている。
この指針により、元売各社は 2013 年度末までに多額の設備投資の実施もしくは生産能 力の削減の二者択一を迫られており、内需の伸びが期待できないなか、今後は設備廃棄 などの生産能力削減に着手する可能性が高い。
在庫評価の 影響
元売各社は、在庫評価において総平均法を採用しているため、原油価格の上昇局面では 期初の割安な在庫が原価に含まれ利益が押し上げられ、逆に原油価格の下落局面では期 初の割高な在庫が原価に含まれ利益が押し下げられる。
販売マージン の縮小
ガソリンをはじめとする石油製品の価格は原油市況と連動して週次で変動する一方で、
元売の原油コストは、産油国からの輸送期間(1 ヶ月前後)の分だけ遅れて市況を反映 するため、タイムラグが生じる。従って、急激な原油価格の下落状況のなかでは石油元 売企業の販売マージンが圧迫される傾向が強い。
パラキシレン 合成繊維の原料の一種。ポリエステル繊維の原料となる。石油元売の石油化学事業にお いて主要製品に位置付けられる。
非在来型資源 陸上や海底の油・ガス田から採掘される従来型の石油や天然ガスとは異なり、砂や岩、
石炭層が含む石油・天然ガス成分のことを指す。大産油国が居並ぶ中東よりも、北米大 陸やアジアオセアニア周辺などに産地が広がっている。
オイル メジャー
一般に、米Exxon Mobil社や英蘭Royal Dutch Shell社など、石油・天然ガスなどの資源 分野の採掘・流通・製品化などの権益を押さえている巨大企業を指す。
NOC National Oil Companyの略で、国が出資し経営・管理する国営資源開発会社を指す。中東
やアジアの産油国などで設立されており、現在世界には 100 社以上のNOCが存在する
(例としては、サウジアラビアのSaudi Aramco社、中国のCNPC社など)。
オペレーター 契約者が複数にわたる石油・天然ガスの開発プロジェクトにおいて、実際の作業を実施・
管理する当事者のことを指す。
E&P Exploration and Productionの略で、石油・天然ガスの探鉱・開発・生産のことを指す。こ
うした事業では、独特の技術やノウハウが求められるため、分野ごとに固有の強みをも った企業が多く存在している(たとえば、シェールガス開発では、米 Chesapeake 社、
Quicksilver社、オイルサンド開発では米Sunoco社、深海油田開発では豪Murphy社など)
IPP Independent Power Producer の略で発電設備のみを所有する卸売発電事業者のことを指
す。電力会社などに電力を販売しており、神戸製鋼所、JX、出光興産などがこれに該当。
(2012.12.20 中山 隆仁)
(*)用語説明は、42頁をご参照下さい。
1. 業界環境
◇ 2013年度のエチレン生産量は
4
年振りの増加、その後は緩やかに回復も低水準が続く¾ 2012
年度の国内エチレン生産量は、内需の落ち込みと輸出の減少が重なり、前年 比▲4%強の約620
万トンと、1993年度(569万トン)以来19
年振りの低水準と なる見込み(図表1)
。9
主力の誘導品(※)である汎用樹脂(※)の出荷量は前年比▲5%程度の減少。家電 製品向け需要の不振や下期の自動車向け需要の減速によって内需が減少したう え、輸出についても、アジア市場の需給緩和によって収益環境が悪化したこと を受けて大幅に減少。さらに、前年に一部のプラントで発生したトラブル(※)も出荷量の押し下げ要因となった。
9
石油化学製品の収益性を示す製品価格と原料価格とのマージンは、モノマー系 製品(樹脂原料や合繊原料)を中心に多くの製品で縮小。中国需要の減速に加 えて、過去2〜3
年にアジア・中東地域で立ち上がった数多くの新プラントが本 格稼動を開始したことで、アジア域内全体として緩慢な需給環境が続いた。9
また非石化製品に関しては、医薬品や農薬といった需要が底堅く推移した一方 で、電子材料については薄型TV
向け液晶部材を中心に製品価格が下落した。図表
1:石油化学製品の市場動向と今後の見通し
(単位) とした水準2007=100 とした水準2007=100
千トン 7,219 6,999 6,474 6,192
% (10.7) (▲3.1) (▲7.5) (▲4.4)
千トン 8,832 8,756 7,815 7,407
% (6.0) (▲0.9) (▲10.8) (▲5.2)
国内出荷 千トン 6,852 7,088 6,611 6,482
% (1.7) (3.4) (▲6.7) (▲2.0)
輸出 千トン 1,979 1,668 1,203 925
% (24.2) (▲15.7) (▲27.9) (▲23.1)
円/kg 167 184 213 224
(低密度ポリエチレン:国内) % (▲28.7) (10.3) (15.4) (5.4)
USD/kg 1,103 1,238 1,417 1,424
(スチレンモノマー:アジア) % (▲1.3) (12.2) (14.5) (0.5)
+3%程度
2011 2013
(予想)
2012 2010 (見込)
2009
汎用樹脂市況
(年度)
国内エチレン生産量 汎用5大樹脂出荷量
2014〜2015平均
(予想)
−
−
−
+0%程度
+1%程度
+0〜+0.5% 85程度
+0〜+0.5%
+3%程度 −
合成樹脂原料市況 −
強含み
− 強含み
+0〜+5% −
+15%程度 −
+2%程度 − 85程度
+4〜+5% −