す。
VI. 心理テストの結果
本事例は、医師による面接(カウンセリング)と薬物療法、およびカウンセ ラーによる面接を中心に進行した。
心理テストは、心理臨床においては、クライエントの心理的機能を明らかに し、パーソナリティーを理解する意味で使われる(31)。したがって、クライエ ントの治療を目的として行われる各種の所作にとって、クライエントの心理的 機能をより客観的に明らかにされた資料があれば、有効な治療が期待できる。
医師にとっては薬物の選択や服用の効果の査定に有効であり、カウンセラーに とっても、相談の方向づけに有効である。同時に、クライエントにとっても、
ときには自己のパーソナリティーを客観視することによって、治癒を促進する ことができる。
ただし、留意すべきことは、標準化された心理テストであっても、決してそ のクライエントの心理的機能を明確に特定できるものではない。人間の心は、
一人ひとり多様であり、そのテストが標準化された時代の社会的背景や対象 も、テストを受ける際のクライエントの心理的な構えも結果に大きく影響を与 えるものである。したがって、少しでも妥当で信頼できるクライエントの心理 的機能を知ろうとすれば、テストの種類と回数を増やせばよいことになるが、
カウンセリングの場においては、テストはあくまでも補助手段であるので、お のずと制限がある。
本事例の心理テストは、つぎの目的で[投影法]と[質問紙法]が利用され た。なお、以下の各心理テストは、明確な実施計画のもとに行われたものでは なく、いわば場当り的に実施されたものである。
《投影法》
【1】箱庭 …・会話の促進
【2】自己画法・…分析とクライエントの気づき
【3】HTPP・…分析
《質問紙法》
【4】『矢田部・ギルフォード性格検査(YG)』
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(5)
[6]
[7]
[8)
r東大式エゴグラム(TEG)』
rミネソタ多面性人格目録(日本版MMPI)』
r日本版MMPI・顕在性不安検査(MAS)』
『モーズレイ性格検査(MPI)』
【1】箱庭療法(図1.参照)
箱庭療法は、河合(6}によるとロンドンにおいてローエンフェルト(Lowen−
feld,M.)によって、1929年に、子どものための心理療法の一手段として考案さ
れた。その後、彼女の教えを受けたカルフ(Kalff, D.)は、ユング(Jung,C.G.)
の分析心理学を導入して、スイスにおいて、これを成人にも効果のある治療法 として発展させた。わが国においても、1965年から用いられ始め、効果的な技 法として発展しつつある。
その理論的特徴は、木村( )によると、主な2つの柱があるという。すなわ ち、その1つは、セラピストとクライエントの関係を重視し、クライエントの 表現はセラピストとの関係のもとに作られたものであるとしたことにある。さ
らに、すべての人の内にある自己治癒の力を信じ、そうした安定した治療的人 闇関係と守られた空間の中でこそ自ら変化成長し、表現も象徴性の高さを持つ
とした。いま1つは、そうしたクライエントの表現のとらえ方や解釈に関し て、ユングの分析心理学を導入し、表現されたものをユングのいう象徴や心像
として見ていこうとしたことである。
また、木村(4}によると、箱庭表現はあくまでも、セラピストークライエン ト間の関係の中で展開される反応であり、 (かかわりにおいては)分析的な解 釈を駆使して知的にかかわっていくものではなく、治療としての箱庭表現であ
るところにクライエントの内面世界のイメージが生きるとしている。
以下、箱庭療法の基本をもとに、本事例の箱庭作品について考察する。
[1]本事例の箱庭の特徴
本事例の治療前期(#1回〜#7回)は、M医師の診察とカウンセリングを
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中心に進行した。、したがって、カウンセラー(筆者)は第3回からカウンセリ ングに同席する形で参加した。
箱庭療法,(No.1〜No.6)が利用された主な目的は、 M医師がクライエン トの話すことに対する躊躇による対話不足を解決するために、たまたま診察室 にあった箱庭セットを利用して、話を引き出す手だてとして利用することを考 えたものである。
ただし、第17回の箱庭(No.7)は、カウンセラーとクライエントの二人で 置いた箱庭作品(二人箱庭)であるので、第2回〜第7回の箱庭(No.1〜
No.6)とはその性格を異にするものである。すなわち、治療者と患者との関 係を重視(4}するという点において、箱庭(No.1〜No.6)は、クライエン トとM医師との関係の中から生み出された作品であり、箱庭(No.7)は、ク ライエントとカウンセラーの関係の中から生み出された作品である。
[2]箱庭療法の経過
経過は以下に示すとおり合計7回実施された。ただし、箱庭No.1〜6は、
M医師とクライエントの間での作品であり、最後の箱庭No.7は、前述のよう に、性格を異にするもめと考えている。
箱庭No.1(1992,7,8)#2回面接時 箱庭No.2(1992,7,29)#3回面接時 箱庭No.3(1992,8,5)#4回面接時 箱庭No.4(1992,8,26)#5回面接時 箱庭No.5(1992,9,9)#6回面接時 箱庭No.6(1992,9,30)#7回面接時
箱庭No.7(1992,12,16)#17回面接時(二人箱庭)
①,箱庭No.1(#2回面接時)
M医師がクライエントとの対話を促進するために採用した初回箱庭である。
その時点ではカウンセラーは関わっていなかったので、記録写真は存在しない が、図1の写真は、M医師の記録したスケッチをもとに、再現して撮影したも
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のである。
砂にはまったく触れることなく、箱庭の左奥に木を一本、その右手前に牛一 頭、左下の区域に家・椅子・橋を置き・左下隅に仙人を置いた。「仙人は笑っ ている」と、クライエントが発言したという。
M医師は、記録のなかにr箱庭を作るのに時間がかかる。自分が安心できる もののみ選んでいる』と記録している。
②,箱庭No.2(#3回面接時)
箱庭は、左上に木が一本、右上に大きな木が一本、その木の下に斧をふりか ぶったインディアンが一人、そのすぐ下に象の親子、中央に上からシマウマと ブタが各一頭、ブタのすぐ後ろにトラとライオン、ライオンの前にウマが置か れていた。この前と同様に、砂には触れていない。
カウンセラーは、クライエントがこの箱庭を置き終ったところへ入室し、
M医師とクライエントのやり取りを見ていた。そこでの会話で最も印象的で あったことは、つぎのやり取りである。
Dr:あなたはどこにいるの?
Cl:すみにいます。嫌いです。
Dr:右上の木の下のインディアンは何をしているのですか?
C1:木を切?て何か作ろうとしています。
クライエントが、自分はインディアンだと言っているので、インディプンを 自己の象徴と理解してよかろう。
M医師の記録によると、r動物たちはすべて同じ方を向いている。互いに無 関心ながら広場へ向かっている感じ』と記入している。
③,箱庭No。3(#4回面接時)
箱庭は、前回と同様に砂には触れていない。3本の木が中央と右上および左 上の端からかなり離れたところに置かれ、左の木に向かってウマが一頭と、休 んでいるウシと立っているウシが各一頭置かれた。なお右下中央寄りにもウシ の親子が中央を向いている。
クライエントは、自分が住んでみたいところをイメージして置いたのか、
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「広々としたところに大きなものがある。家の回りにはこんなところはない。
こんなところには住めないと思う」と述べた。
④,箱庭No.4(#5回面接時)
箱庭のほぼ中央に、左を向いたワニがいる。それを左中央から兵士が小銃で ねらっている。まさに引き金を引く寸前である。なおワニと兵士の間の少し離 れたところがら、2名のインディアンと2名のアラビアの兵士がそれぞれ武器 をもって兵士に飛びかかろうとしている。なお、砂には触れていない。
この日カウンセラーは、以前からの予定があって、同席することができな かった。次の日まで箱庭を保存しておいてもらって、撮影にだけ出でかけた。
カウンセラーは、この箱庭を見て、殺伐としたものを感じとって、今後の長い トンネルとそれを抜け出すための対処法を苦慮した。
M医師の記録によると、クライエントは「自分がワニを鉄砲でねらってい る。廻りの4人はじゃまをしょうとしている。何か自分のじゃまをしょうとし ている者がいるような気がする。それが何かわからない。」
⑤,箱庭No.5(#6回面接時)
左側の上下に大木が1本ずつ、木と木とに間にインディアンが一人でを斧を 振りかぶっている。中央右寄りには兵士4名が小銃や重火器を構えてインディ アンをねらっている。また、兵士の後ろには戦車が4台置いてある。インディ アンは絶体絶命のピンチである。砂には触れていない。
M医師との対話で印象的な部分はつぎのようなものであった。
Dr:インディアンは何をしているの?
Cl:インディアンを自分とすると、自分は無防備です。腰の刀さえ使えない。
Dr:木があるじゃない?
C1:木が助けてくれるのですか?
Dr:木の陰に逃げたらどう? 木は何?
Cl:なぜ木にこだわるのかなあ、いつもこんな感じではないのですが、先のこ とを考えるとこうなるのです。
Dr:みんなそう思っているのと違う?