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VI. スーパーヴィジョン

 日頃、各回ごとにM医師のスーパーヴィジョンを受けていたが、カウンセリ ングの流れを中心に、R氏(ユング派)のスーパーヴィジョン受け、今後のカ ウンセリングのあり方の指導を受けることにした。その際、家族療法・箱庭療 法・ゲシュタルト療法の臨床家にも同席のうえ、各療法の立場からも広く指導 を受けることにした。

 期日は、1963年1月16日(#18と#19分間)であり、治療中期が終わって 後期に入ろうとしている時である。資料として、諸テストの結果と面接記録の 要点を示し、概略を伝えた結果、主につぎのような指導を受けた。

【1】症状について

 明らかな神経症だ。あらゆる不安が排尿困難を中心とする症状に現れてい る。白め状態とパラレルな身体症状としてr出したいが、出ない。』という感 情が排尿困難や嘔気に現れているようだ。排尿困難と頻尿は、どこかでつな がっているので、頻尿のケースを参考にするとよい。

 弟も同様に、心の中で出したいものがある。r怒り・攻撃性』を貯め込んで

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いるようだ。それを出すことに対する強い罪悪感がある。

 また排尿に関連して、大便のことも聞いておくべきである。発達的に、幼児 期がクリアーされているか、母親との関係において発達阻害がないかも確認す る必要がある。母によるr禁止』から脱出し切れていないようだ。特に、両親

との関係では、母親の方に問題がありそうだ。したがって、攻撃性が出る時 は、先に父親に対して出て、その後に母親になるであろう。

 医師はr性』を主要な問題にしているようだが、性器劣等感があるような気 がする。箱庭でピストルが出てきているのは、r私は小さな武器を持ってい る(ピストルはペニス)』の意味かもしれない。銭湯や温泉の話が出ることを 期待する。

 今のところ、視線恐怖と自分の視線による対人加害感の心配はないようであ

る。

【2】箱庭について

 時間的な都合で、分析は後日ということになったが、動植物の段階⇒戦いの 段階まで進んで、人間関係の段階の入口で中断したのは何か意味がある。箱庭

(No.6)でr家(両親)』が出て、 rヤバイ』ということになって中断したこと が考えられる。また、M医師に対する挑戦とも理解できる。

【3】今後の留意事項として

 いろいろの技法を整理して、中心課題は何か・治療目標はどうするかを明確 にする時期が来ている。明確な治療構造は取れていないが、カウンセリングの うえでプラス・マイナスがわかっていればよい。

 このクライエントは、攻撃性が出始めると急激かもしれない。したがって、

ゲシュタルト療法は、ルーム以外の場所での行動化を誘発する恐れがあるの で、当分見合わせて、代わりに箱庭を使って攻撃性(aggression)をもっと出さ せてはどうか。箱庭なら安全だ。また、箱庭の途中では、解釈をしないで言葉 をかけるなりして、微妙なかかわりを持てばよい。

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 弟と母親の関係・クライエントと父の関係・クライエント母の関係・3人の 兄弟の間の関係・双生児(twin)の課題としての母離れのほかにもう一人の自分

(弟)との分離・父と母の夫婦関係のどれも、大きな課題を抱えているようで あるので、そのあたりを中心にひもといて行ってはどうか。

 支持の目的か、カウンセラーによるアドバイスが多いが、彼の持っているイ メージをよく聞いてから返してはどうか。クライエントに遠慮するな。

 ノンバーバルな関わりも時には必要だ。思いきって依存させ、甘えさせれば

よい。

 以上のスーパーヴィジョン結果、その後の指標が見えてきたように感じた。

以前のカウンセリングにおいては、ただ聞いているばかりで、明確化を促進で きる場面であると察していても、深入りすることの危険を恐れて、そのまま過 ごすことが多かった。カウンセリングの場においては、時々介入できる機会も 見つかるので、注意深く介入することを心がけようと思った。

V■.初心カウンセラーの失敗と変容

 本事例では、カウンセリングの初心者である筆者が引き起こした多くの失敗 につながる言動について考察する。なお、それにもかかわらず活発なカウンセ

リング関係が継続したことについても考察を試みることにすると共に、カウン セラー自身の気づきと変容についても考察する。

【1】失敗につながる言動

 初めてのケースはうまくいくという。本事例もうまくいったと考えられる。

初心カウンセラーである筆者が、rうまくいった』と考える理由は、中断しな かったことと、クライエントの神経症が治癒の方向へ向かい、しかも当初の予 想より早期に症状の改善が認められたことによる。河合(1985)は、これをr一 回目の奇跡(8}』と呼び、カウンセラーが全人格をあげて当たったことによる もので、二回目以降も初心を忘れないようにすべきであると戒めている。

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 ただし、二回目以降もうまくいかせようとするなら、基本的な態度が必要で ある。ロジャーズ(1980)が治療者に求められる技法以前の基本的態度として

r共感・無条件の肯定的配慮:・真実性(自己一致) 26}』の三条件を上げたこ とは余りにも有名である。また、平井(1989)は、治療の基本の定石として、

(1).治療者がすすんで関わりを持つこと(関心を持つ・受容・尊重)、(2).聴 くこと(積極的傾聴・無条件の肯定的配慮・非指示)、(3).適当な介入(常 同反復回避のための介入・順序立った思考のための積極的介入)をあげてい

る〔3}。

 以上の基本的態度は、カウンセラーにとっては非常に難しいことであった。

そして初心カウンセラーである筆者には難しいことであるが故に、また、これ らの基本的態度が身についていないばかりに、多くの失敗につながる言動が あった。そこで、 初心カウンセラーが引き起こした失敗につながる言動につい て考察する。

 全過程を通じて、不安と緊張と失敗の連続であったというのが率直なところ である。その中で特に注目に値することは、つぎの五点であった。

[1]「背が高いですね」

 カウンセラーとクライエントが初めて対面したときのことである㈱)。別れ ぎわにカウンセラーは、「背が高いですね、何センチですか?」と聞いた。カ ウンセラーにとっては、紹介された際「よろしく」と挨拶した以外に何のやり とりもなかったことが不安であった。クライエントに関心を持っていることを 伝えたかったことによる発言であったと考えられるが、クライエントが背の高 いこと (187cm)と体力が不足していることのギャップに悩んでいたことが、後 日のカウンセリングの場で何回も訴えられた。すなわち、カウンセラーはクラ イエントが最も気にしていることを軽率に、触れてしまったのである。

 カウンセラーの原則的態度として、特にラポートがとれるまでは、クライエ ントの話の主旨以外のことは聞くべきではない。しかも、これは一方的な質問 であり、クライエントが最も気にしていることでもある。初対面の場でのこの ような重大な失敗は、次回からの中断を招いてもおかしくないことである。

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[2]運転免許の勧め

 M医師との話し合いによって、就職について父親的な助言者が必要であるこ とになった。YG検査の結果などから判断して、営業などの複雑な対人関係を 要求される職種よりコンピューターを操作する仕事であれば、より適している

との結論を得た。また、就職には運転免許の所持が有利であろうと考えられ た。したがって、コンピューターの練習と運転免許の取得を軽く勧めてみた。

 この件についても、後日のカウンセリングの場で、電話や電卓から自動販売 機・自動支払い機・図書の検索などに至るすべての機械類の操作は、苦手で嫌 いで、ときには手が震える感じがするという。カウンセラーが勧めた時点で、

乗り気ではないクライエントの心情を、 全く気づいていなかったのである。カ ウンセラーの未熟以外の何者でもない。

 ところが、カウンセラーはクライエントに嫌iいなものばかりを勧めていたこ とを素直に反省していることを伝えた(#17)ことによって、クライエントは以 後更に話しやすくなったと考えることもできる。

[3]時間延長と尻切れトンボ

 カウンセリングの時間は50〜60分であることをクライエントには告げてあ り、クライエントもこのことは十分に承知していた。ところが、クライエント は終わりの時刻を気にしながら、終わりの時刻の直前になってカウンセラーが 聞きたくなるような話題(心の核心の周辺=カウンセラーにとってはr餌』)

の一端を覗かせるのである。r餌』に食いつくと、どうしても時間が長くかか る。その結果中途半端な終わり方になってしまって収穫は得られない。

 このことは、クライエントの無意識的レベルでのr終わってほしくない』と のサインであり、またそれを、今・ここで出してしまうことには抵抗が働いて 出すことができなかったと考えることができる。M医師の助言のとおり、時間 を明確に切ることがクライエントの気づきを促進することになるという原則 が、カウンセラーには十分にわかっていないと反省させられた。

[4]学外での観察

カウンセリング関係は治療面接である。治療関係は、特定の治療の場(面接

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