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クライエントの不安神経症症状

[3] HTPP

II. クライエントの不安神経症症状

【1】症状および病名

 M医師によって、本事例の診断名はr不安神経症』であるとされた。

 r不安神経症』の診断の基準として、溝部・藤井〔14}は、DSM−III・D SM−III−R・ICD−10草案をあげ、どの基準をとっても原則的には「神経 症」という用語が姿を消しており、従来の不安神経症は恐慌腎障害と全般性不 安障害に相当するとしている。また、溝部・藤井{ 1 4)は、日本ではまだ神経症

という用語ないし枠組みを廃止しがたいという意見が多いことも指摘してい

る。

 クライエントの症状をDSM−III ,〔35)によって分析すると、不宥障害(Anxi−

ety Disorder)のうち,恐慌性障害(Phobic Disorder)として、300.23社会恐 怖(Social Phobia)の症状を呈し、不安障害(Anxiety States)として,300.02 全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)を主に呈していた。なお、

300.01恐慌性障害(Panic Disorder)については、3週間に3回の恐慌発作とい う診断基準にはあたらないが、一度だけ発作の経験をしている。(数値は病型 分類のコード番号)

 以下に、DSM−IIIによる不安障害の3つの分類について、溝部・藤井{14}

が示した具体的な診断基準によって、クライエントが呈した症状を考察する。

[1]300.23社会恐怖(Social Phobia)

 溝部・藤井{14}によると、社会恐怖の症状を《他人の注視を浴びているかも しれない状況への恐怖。たとえば、みんなの前で話をしているとき話が続けら れない、他者の面前で食事をしているとき食物がつまる、公衆便所で放尿でき ない、他者が居合わすところで字を書くと手がふるえる、集まりの場で馬鹿な ことを言ったり質問に答えられない、など》とし、恐慌性発作との関連を否定 するとともに、日本では対人恐怖の一部がこれに相当するとも指摘している。

 クライエントの場合、クラブの会議で黙り込んでしまう(#8)r食事に速度が 極めて遅い(#16)・排尿困難(主訴)・サインのときの手の震え(#6、10)・質 問に答えられない(#9)の症状を呈し、対人恐怖の傾向も認められた(#6、21)。

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[2]300.02全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)

 溝部・藤井 4)によると、全般性不安障害の症状を《二つ以上の生活環境に 関する非現実的で過度な心配》をあげ、14項目の症状のうち少なくとも六つ の症状が伴うとしている。

 クライエントの場合、14項目のうちのつぎの項目が該当する。運動性緊張 として「身震い(来談前と(#6)。来談中は震える感じを何回も訴えた。)」・

「筋の緊張や痛み(予後面接)」・「易疲労性(#6、11)」、自律神経機能充進 として「頻尿(排尿困難と深く関連)」・「咽喉異物感(#9、19他) (嘔気と関 連)」・警戒心として「緊張(#10他、常時)」・「不眠(治療前・中期の常 時)」の少なくとも7項目が該当する症状であった。

[3]300.01恐慌性障害(Panic Disorder)

 溝部・藤井〔14}によると、恐慌性発作は《予期されず、公衆の面前にさらさ れたわけでもないのに起きる。それが四週間に四回以上か、一回以上の発作の 後また起きるのではないかとの恐怖が一か月以上続いている》ことをあげ、発 作は13項目のうち四項目以上を示としている。

 クライエントの場合、高校生のときにテレビでホラー映画を見ていてつぎの ような発作に見舞われた。その際の症状で、13項目のうちの該当するものを あげると、「呼吸困難・めまい・ふらつき・動悸・身震い・窒息感・嘔気・し びれ・胸部不快感・死への恐怖・発狂恐怖」であった(#9、20)。13項目の中 には複数の症状項目もあるので、該当する項目数は10項目にのぼる。発作の 後は、再発恐怖もあったので、明確に恐慌性障害との診断を下すことができよ

うが、発作以来約4年を経過した来談期間中は、予期不安といった症状と判断 する方がふさわしい。

 以上、D s M一 IIIの分類カテゴリーに照合すると、恐怖性障害(Phobic Dis−

order)と不安障害(Anxiety States)を合わせ持った不安障害(Anxiety Dis−

order)と診断できる。しかし、本事例ではM医師の診断によるr不安神経症』

という診断書は、わが国で一般的に用いられているものであり、また、カウン セリングにいかなる影響を及ぼすものでもない。したがって、本論文では、ク ライエントの病名をr不安神経症』として扱うことにした。

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 来談期間を通じて「排尿困難・嘔気・対人緊張」が主訴としてクローズアッ プされていた。なお、当初の「授業に出られない状況・受け身的態度・活気の 欠如・体格と体力の問のギャップ」の他に、「就職に対する不安(#4)・性器劣 等感(#21、22)・死に関する不安(#7、23、22、20)」がクライエントの重要なテー マであった。

 クライエントは中学時代から排尿困難症状を慢性的に呈してきたのである。

自我の防衛機制が十分でないため、不安が加工されずに未分化のまま症状の前 景に現れる〔38)とはいえ、長期間にわたって症状の発展または後退を繰り返す うちに、少しずつ変化した結果が、現在の前景に現れている症状であると考え えられる。したがって、クライユントの来談期間を通じての症状を、r社会恐 怖と全般性不安障害を主とする不安神経症』と分類することができる。

【2】心理テストと症状との関連

 以上は、医学的所見であるが、心理テストの結果においても、上記の診断を 十分に支えうる結論を得た。

 投影法である箱庭・HTPP・自己画法によって自我の萎縮・劣等感・不安 の存在が伺えた。質問紙法であるYGでは神経症タイプ・TEGでは葛藤タイ プ・MASでは強い不安があるとの結果を得た。その他、各テストの部分得点 のほとんどが神経症を伺わせる結果であった。なお、箱庭の解釈と、妥当性・

信頼性に疑いがあるものの.MMPIの結果において、精神病領域ではないとの 示唆が得られている。

 このように、8種類の心理テストの結果を概観しても、本事例の症状がli不 安神経症』であると判断することが十分に可能である。

【3】神経症のとらえ方

 フロイト理論によると、神経症は過去の何らかのフラストレーションが解消 されないで、,精神的ジレンマ(葛藤状態)におちいった結果、過度の自己防衛 の機制として神経症症状が発症したものと考えられる。また、森田理論による

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と、ヒポコンドリー基調の性格(クライエントは、これに属すると考えられ る。)の持ち主が、不安の精神交互作用の結果、症状が発展し固定化したもの

と考えることもできる。

 このような心身二元論よりも、全体性を重視して部分と全体の関係に注目し たゲシュタルト療法のパールス(F.S.Perls)は、神経症の人のことを、自己と 外界とのコンタクトと回避のリズムがうまくいっていない〔25⊃人であると述 べ、同時に、自己と外界の境界(boundary)が混乱して認識できていないとし ている。したがって、「図と地」の反転がスムーズでなくなっており、現時点 においても「今一ここ」に、過去に引き続く問題を持っている人である〔25}と 述べている。

 すなわち、すべての生命は、生きている限り有機体としての生理的のみなら ず精神的にもホメオスターシス(適応または恒常性)が働いていなければ生命 は存続しない。有機体のホメオスターシスを維持するための欲求充足には外界 とのコンタクトまたは回避が必要である。そのとき、一番激しく求めている欲 求が「図」に上り、その図が充足されると、それは「地(背景)」になって、

つぎの欲求が「図」に上ってくる。充足すべき欲求は外界とのコンタクトによ ってなされるので、当然、生命にとってありがたくないもの(負のカセキシ ス)からは回避する。

 神経症の入は、ゲシュタルト(個々の部分が統合された全体としての姿・形 態)を形成するための、正のカセキシスと負のカセキシスを弁別する能力を 失っているため、一番激しく求めている欲求が「図」に上りれば、その欲求と

コンタクトを取るべきであるが、取れなくなっているという。

 また、人間の生理的・心理的生存欲求は、有機体と外界の葛藤の連続ではな くて、常に変化しつつある両者の相互作用である。そのためには自ら変化する 必要がある。その変化が見られなくなったら神経症であるとしている。

 なお、全人格の統合に至るには、種々の過去の要因があろうが、要するに未 解決の経験の結果、「今しここ:」で混乱している自己と他者の区別(境界)を はっきり感じてはじめて、集団の一員としての自己概念の機能を気づく必要が ある。そのξき、一将概念の形成に対する妨害や中断が入れば未解決の問題と して残って神経症になる。したがって、神経症の人は、自己妨害をするという

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望ましくない方法で処理することを学んだ何らかの状況を有する人であり、自 己概念の形成を失敗した人であるとも言える。

 臨床に場においては、精神分析理論も重視すべきであろうが、このゲシュタ ルト療法の理論に基づく種々の「自己への気づき」を促進するための技法が有 効である。したがって、ゲシュタルト療法の技法は、時と場合を選択して採用

された。