• 検索結果がありません。

「小さな拠点」政策

第 5 章 集落機能を補完する事業・活動

第5節 「小さな拠点」政策

93

図5-10 接点の多い農山村の小学校のコミュニティ

資料:筆者作成

94

化政策として近代的な集合住宅が建設された。若年層が好むように住宅周辺には集会所や 公園が設置され環境が整備された。第三に、食材店とガソリンスタンドが設置された。そ の他に、高齢者専用住宅、集会場、福祉施設などが建てられた(図5-11、図5-12)。

図5-11 集約化後の風景(旧長谷村)2009・2010年撮影

注:@ガソリンスタンド、食材店は閉店

図5-12 旧長谷村の集約化施設(「小さな拠点」政策)

95

さらに、観光客を誘致するために「道の駅」が設置された。旧長谷村は南アルプスへの 登山口となっているために、年間一定の客数がある。また、隣の旧高遠町は桜の名所とし て知られる観光地なので集客が見込めることから、観光客の休憩所と地域振興施設の拠点 になると自治体では期待した。

第2項 集約化施設の住民の利用度と評価 1)各種施設の利用度

集約化が行われて約 10 年が経過した。各種の施設は当初、全ての施設において利用率が 高かった。しかし、その後は年の経過とともに変化している。主に住民の高齢化にともな う変化である。利用度の変化を 4 つの傾向に分かれる。

(1)一貫して利用率が高い施設

診療所は、住民の利用率が高く、住民の暮らしには必須施設となっている。

(2)当初よりも利用率が高くなっている施設

特別養護老人ホームは、設置当初は地元の入居者が少なく、近隣の市町村から受け入れ るほどであったという。しかし、地元と近隣の市町村の双方で入居希望者が増加して、現 在では順番待ちで入居することが困難な施設となっている。

(3)使用率が減少している施設

集会所や共同活動拠点は、地域住民のコミュニティ活動や健康診断・講座等において使 用することを目的として設置された。しかし、公的な利用以外は減少している。住民の高 齢化とともに各種の活動回数が減少していることによる。それには、加齢にともない車が 運転できなることの影響が大きい。ふつう男性は自分の運転する車で、女性は夫や近隣の 仲間との乗合で来ていた。その交通手段が確保できなくなるからである。

(4)利用率の低さから閉鎖された施設

閉鎖された施設は、ガソリンスタンドと食材販売店である。地元のガソリンスタンドを 利用する者は遠出をしない高齢者に限られていた。その他の世代は、通勤や買い物に出た ついでに近隣の町の施設を利用している。食材店も同様で、近隣の町へ車で買い物に出か ける住民が多い。理由は、食材の種類や価格、鮮度の問題である。

第3項 「小さな拠点」政策の各種施設 1)医療・福祉施設

人口が減少している集落では家族以外の同世代間の交流が困難になっている。壮年や若 年層は勤務先や各種の活動を通しての外部住民との交流機会が増加傾向にあるが、高齢者 の交流機会は希である。旧長谷村において施設の集約化が図られたのは、交流機会の増加 が期待されたからでもある。

診療所や福祉施設、健康増進センターは、その期待に応えていると言ってよいであろう。

96

高齢者同士の交流が見られ、癒しの場としても機能している。健康増進センターでは有償 介助ボランティア制度が根付いている。診療所の医師の発案でスタートした制度で、高齢 者の介護予防と生きがいに繋がることと、介助される患者の心のケアの一石二鳥効果をね らっている。ボランティアの仕事は機能回復訓練の介助であるが、そこでは機能訓練を行 う患者とそれを補助する介護ボランティに交流が生まれ、患者と介助者の境を無くし(バ リアフリー)、それぞれの健康増進に繋がると評価されている。介助を受ける側は「気心が 知れているから安心感がある」と言い、ボランティア側は、「ボランティアを行うことで自 分の健康に留意するようになった」と言い、どちらにも好評である。同年代という共通項 は双方にとってプラス効果となっている。介助ボランティ側は、明日は我が身という認識 を持ち、一方の患者側は、早く良くなって介助側に転換したいと希望を持つことができる という。このように、健康増進センターは健康の拠点として機能していた。

2)道の駅

「道の駅」の地元における役割は、集落間交流の場として機能することである(図5-13)。 国道沿いにあってアクセルしやすい。開催されている各種イベントや行事は集落間連携に より執り行われている。「道の駅」では生産者農家組合が地元農業者の拠点機能を担ってい る。組合員の中には外部からの定住者が含まれていて、地元住民と交流する機会になって いる。生産者農家組合は、農作物を販売するために農家の集落間連携によって組織された

(図5-14)。

図5-13 集落間交流 2013年撮影 図5-14 生産者農家組合の寄合 2012年撮影

第4項 「小さな拠点」政策の集約化による定住者の増加と課題 1)若者定住政策

村営住宅(現市営住宅)は、近隣の若年層には人気となっていて、空きが出ない状 況にある。これは「小さな拠点」政策の効果といえる。

拠点となった基幹集落と中心集落以外では、児童数が大幅に減少している。全く児 童数がいない集落が2集落ある(表5-4)。

97

図5-4 各集落の児童数(2013年度小学校の生徒数)

2)終の棲家問題と高齢者専用住宅

高齢者は、最後まで自分の自宅で暮らすことを希望している。しかし、農山村の集落で 暮らすために、いくつかの条件が備わらなければ暮らすことができない。その条件とは、

第1に火の始末ができることである。第二は、自分の力で生活できることである。第三は、

孤独に耐えることである。

高齢者の一人暮らしや高齢者夫婦の二人暮らしは、加齢にともなってこの問題に直面す る。こうした高齢者向けに、旧長谷村では高齢者専用住宅を建設した。一人世帯の面積は、

39平方メートル、2人世帯は53平方メートルとなっている。高齢者が生活するには十分 なスペースが確保されている。また、家賃は、収入によって違ってはいるが、安価な設定 になっている。室内は、段差をなくし高齢者が安全に生活できるよう設計されており、オ ール電化である。また、家庭菜園が楽しめようにと小さな庭が設けられている。さら緊急 通報装置が設置されているため、保健センターへつながる仕組みになっている。

至れり尽せりの住宅であるが、集落の高齢者は入居希望者が少ない。年齢が高い高齢者 夫婦や単身の高齢者は、親族や保健師に説得されて入居するという状況である。高齢者専 用住宅に入居を希望しない理由は何か。以下は、高齢者への聞取り調査による。

【入居したくない理由】

① 自宅が心配で、他の場所で暮らせない。

② 高齢者専用住宅の面積では、家財道具が入らない。

③ この集落には知り合いがいない。

④ 自宅が一番落ち着く。

【入居して良かった点】

① 近隣に人がいる。

② バリアフリーである。

③ 家賃が安い

④ 医療・保健施設に近い

⑤ 庭で花や野菜作りができる 3)「小さな拠点」政策の課題

これまで述べてきたように、「小さな拠点」政策の有用性は高い。しかし課題も少なくは ない。主な課題は2点である。

(1)経費の問題

98

設備の揃った施設は運営費等の経費がかかる。施設によっては地元利用者の数が減少し ている。今後さらに高齢化率が高くなれば、医療・福祉施設利用者は増加するが、その他 の集会所等の施設は利用率が下がっていくであろう。となると、経費の問題は今以上に厳 しくなる可能性は高い。

(2)各集落から拠点までのまでの交通手段

この政策が成立するためには交通手段の確保が必須でなる。現状では、巡回バスの便数 が少ないことと運行時間が問題となっている。また、中山間地域では坂道が多いため、高 齢の利用者にはバス停までの歩行が困難であり、ドア・ツー・ドアの対応が求められてい る。しかし、これも採算性の問題が立ちふさがる。自治体の予算を継続的にかけられるの かどうかが問題である。

第6節 総括

集落機能の低下を補完する事業や活動は容易なことではない。しかし、全国の中山間 地域には、集落間連携や住民自らが立ち上げた事業によって集落機能の低下を補完してい る先進事例がある。本章ではこれらの事業をとおして、課題解決に至った経過と成功要因 を検証した。また、過疎地等の地域において国土交通省が提案している生活サービスの集 約化を推進する「小さな拠点」政策の有用性と課題を探った。

1.成功要因―事例からの検証

2~4節で取り上げた3つの事例からは、以下の3点が明らかになった。

(1)経営の安定化の工夫

過疎地域において小規模販売店を継続させるには運営上の工夫が必要である。旧西土佐 村の(株)大宮産業では、住民要望商品をリサーチし多種少量の品を販売することで売れ 残しを極力少なくしていた。また、利幅の多いガソリンスタンドを併設し経営の安定を図 っていた。

(2)自分達の課題は自分達で解決できるという自信

広島県三次市青河地区住民は、集落での生活環境を整えるために、自主財源によっての 暮らしサポート事業を運営している。これには、コミュニティの危機を救うために有志が 始めた賃貸事業の運営が成功が、それを見守っていた住民に、自分達の課題は自分達で解 決できるのだという自信と勇気を与えたという前史がある。その自信があってこそ、自主 的・自立的な事業運営が可能なのである。

(3)危機意識によって結束できた集落間連携

東広島市河内町小田地区では、小学校等の閉鎖と市町村合併を契機として、集落間連携 から新しい自治組織「共和の郷・小田」がつくられた。その背景には、生活が継続できな くなるのではという危機意識を住民が共有しており、地理的にも条件が似ていて住民間の 交流があったことがある。また、単独の集落の力は弱い、多くの集落が結束すれば大きな