第 5 章 集落機能を補完する事業・活動
第2節 住民出資で作った食材・日常生活必需品店
高知県四万十市西土佐(旧西土佐村)大宮地区は、愛媛県松野町との県境にある山間集 落である。旧西土佐村は高知県の西に位置する村で、かつては良質な木材とその運搬を支 える河川により生活が成り立っていた(図5-1)。その旧西土佐村の集落のひとつが大宮集 落である。山林に恵まれたこの地域は、1964年(昭和39年)の人口は約8,000人である。
しかし、人口減少と高齢化により2005年(平成17年)の合併時には、人口4,000人、高
齢化率46%となっていた。
大宮地区では、集落にある農協販売店が閉鎖された。その事態に対して住民たちが立ち 上がった。住民たち自身が食材と日常生活必需品の販売店を出店したのである。
図5-1 四万十市西土佐大宮
資料 国土地理院
第1項 食材店の閉鎖と出店の経過
大宮地区は、隣接する町へ出るには車で 30 分以上かかる。集落に1軒だけの食材販売 店(JA)の閉鎖に住民は困惑した。JAの閉鎖は住民にとって死活問題であり、何度もJA に嘆願したという。しかし、JA側は利用者の減少を理由に閉店を覆すことはなかった。
住民達は幾度もの会合を持ち対応策を話し合った。協議の末出した結論が住民有志で集 まって食料品販売店を出店するという方法だった。住民自らが出資金を出し、株式会社大 宮産業を設立(2006年)する。大宮集落は140軒ほどの集落であるが、内108軒が出資 を承諾した。出資金は1軒平均6万円である。
こうして集めた住民からの出資金 700 万円と県の補助金を活用して、(株)大宮産業を
82 開店させた。
1)運営の工夫と販売商品
高齢化率の高い集落では、販売商品の工夫が必要となる。ここでは、赤字を出さないた めに、「住民の要望に応える品揃え」を心がけ、「多種少量」の品を置いている。つまり、
「売れ残りが出ない工夫」である。
販売商品は、食料品(味噌、醤油、塩、米、たまご、インスタントラーメン、菓子、パ ン、飲料、米、乾物等)、雑貨類(トイレットペーパー、洗剤、バケツ、茶碗、文房具、農 作業の備品等)で、生鮮食料品は置かれていない。住民の要望は高いという。しかし、採 算が取れない可能性が高いという理由から実現しておらず、懸案事項となっている。
店の代表者に、採算性について尋ねると、「食料品だけでは採算性は取れない。経営の安 定を図るためにガソリンスタンドを隣接している。ガソリンスタンドは、一定の利用者が 見込めるため、赤字補てんの役割を果たしている」とのことであった(図5-2)。隣接する 町が遠いため、ガソリンの需要は固く、住民の利用率も高い。
図5-2 (株)大宮産業の販売商品とガソリンスタンド
2012年7月筆者撮影
83 第2項 住民の利用度と評判
住民は、この食材店をどのように利用しているのだろうか。代表者は、「食材店があるこ とで住民には安心感が生まれた。中でも、高齢者は店での買い物を楽しみにしている。一 人暮らしの高齢者は、近隣に話し相手がいない者が多い。そこで、毎日来ることを日課と している者もいる。販売員との会話が何よりの癒しになっている」と述べている。
店では交通手段を考慮して、週に1日であるが、自宅まで商品を届ける宅配サービスを 行っている。宅配サービスは、特に高齢者には好評で、週1回の配達に来てくれる従業員 との会話を楽しみにして待っている。さらに、(株)大宮産業では、夏祭りや演奏会を企画 し実施している。この企画が、交流機会が減少している集落住民の憩いと交流の場となっ ている。場所はガソリンスタンドが利用されている。決して広い場所ではない。しかし、
この小さな場が集落住民の交流拠点となっている。
過疎地域では、こうした新たなイベントへの要望が高く、この販売店とガソリンスタン ドは世代間交流と住民の憩いの空間として住民から支持されていることが理解できた。
第3項 (株)大宮産業の課題
(株)大宮産業は、住民の評判もよく、赤字を出さない経営が成り立っている。しかし、
課題もあるという。利用者が地元住民に限られている点である。隣接地域へのアクセスが 悪いということは、入って来る者にとっても不便であることを意味する。大宮集落の現在 の戸数は140戸であるが、この戸数から生まれる収益には限界がある。高齢化率の高い現 状は人口の自然減によってさらに利用者の減少を予測させる。いずれは厳しい局面を迎え る可能性が高い。また、最近では、外部から移動販売車が入って来るようになったという。
食材の移動販売車は集落住民にとっては利便性が増すことであり、歓迎されている。しか し、(株)大宮産業にとっては収益の減少に繋がる。
課題は、住民の利用率をいかにして下げないで運営を続けられるかである。集落住民出 資の食材販売店は、利用者もまた集落住民である。競合の出現によって再び閉店に追い込 まれることが懸念されていた。
第4項 小規模商店の成功要因
(株)大宮産業のような食規模商店が成功している要因は何であろうか。
先行調査の結果では、近頃は最寄りの個人商店があっても利用しない者が多いというこ とが明らかにされている。例えば、長野県が高齢者を対象として行った「生活必需品買物 環境実態調査報告書調査」(2011)でも、近くに商店があったとしても利用していない人が 多いという結果であった。利用している店は、スーパー・ショッピングセンター等の大型 店である(図5-3)。最寄りの商店を利用しない理由は、「品揃えが少ない」54.3%、「生鮮食 品の鮮度が悪い」17.1%、「価格が高い」15.7%となっている(図5-4)。また、買い物へ行 く距離は5km以上離れた店を利用している高齢者が半数にのぼっている。
84
図5-3 最寄り店と利用店の種別(地域別)
資料:長野県
図5-4 個人商店を利用しない理由
資料:長野県
このような一般的な傾向に対して、(株)大宮産業が利用者を獲得している要因はどこに あるのだろうか。長野県の高齢者の買い物環境と大宮産業の高齢者の買い物環境を「表5-1」
に整理してみた。(株)大宮産業が個人商店であっても客が利用する要因には4つが考えら れた。第1に、競合店の距離の問題である。最寄りの松野町(愛媛県)まで15kmの距離 は高齢者には遠すぎる。長野県では 5km 以上の距離を移動している者も半数いるが、残 りは 5km 以内である。第2は、対面接客である。単に商品を買うだけでなく、接客して くれる販売員との交流を求めているのである。(株)大宮産業では、販売員と消費者である 集落住民間の良好な人間関係が成立している。第3は、個人商店の特徴とされる商品の品 揃えの少なさを、住民の要望に応じた品揃えでカバーしている点である。第4に、集落住 民の溜り場(交流拠点)となっていることが、集客にも寄与していると推察される。(株)
大宮産業のイベントの開催は、これまでの集落の祭事・行事の代替となり、住民に支持さ れている。
85
表5-1 長野県の高齢者の買い物環境と大宮産業の高齢者の買い物環境の比較
資料:筆者作成