世界中どのような国も社会的なセーフティ・ネット・プログラムを少なくともひと つ実施しており、108 カ国で、法律に根差した具体的な子どもと家族に対する給付プ ログラムがある。しかし、こうしたプログラムがカバーしているのは人口のごく一部 にすぎず、75 カ国はこうした対象を絞ったプログラムをまったく実施していない
276。
社会的保護の拡大は 2030 年目標を達成する上で欠かせない。実際にこの目標には、
2030 年までに相当数の貧困層と立場の弱い人々を対象範囲とした、その国で適切な 社会的保護制度および対策を展開するという具体的な目標が含まれている。
社会的保護の拡大への普遍的なアプローチは、対象範囲を拡大するだけではなく、
受給資格を有する世帯を手違いにより除外するミスを減らし、社会の連帯感を育み、
給付の対象となることを不名誉とする悪いイメージを払拭することになる。しかし、
子どもたちと貧困:悪循環を断ち切る
>> 将来を見据えた社会的保護の拡大
国家はそれぞれのリソース(資源)面などの制約の中で(かつ社会および経済政策の 枠組みの範囲内で)効果をあげる、漸進的なアプローチをとることにより、国民全体 をカバーするという究極的な目標に向けて、社会的保護を実現することができる。
富裕国にとって喫緊の課題は、世界金融危機を受けて弱体化したセーフティ・ネッ トと給付金を立て直し、強化することである。中所得国の多くは、現行の現金給付プ ログラム制度をさらなる拡大の基盤とすることができる。低所得国政府はより厳しい 選択を迫られている。予算に限りがあり、子どもの貧困率は高いことから、対象を絞っ た給付アプローチと全国民を対象とするアプローチとの間に葛藤が生じる。こうした 葛藤は個別に対処しなければならない。
しかし結局のところ、社会的保護プログラムは子どもの貧困という根本的な問題の 解決に向けた幅広い取り組みにおけるひとつの手段にすぎない。SDGs を採用する際、
各国のリーダーはこの問題の最も重要な点を理解していた。第 1 の目標は極度の貧困 を 2030 年までに効果的に撲滅し(ターゲット 1.1)、国内の定義に基づき、あらゆ る次元の貧困の中で生活する男性、女性および子どもの比率を少なくとも半減させる
(ターゲット 1.2)ことである。これらの目標は、どのような国家も貧困の影響から免 れないことを強調しており、子どもの貧困撲滅が普遍的な課題であるという事実を浮 き彫りにしている。
2030 年目標に向けた取り組みにおいて、各国政府はあらゆる次元の子どもの貧困 に特徴的な課題を認識した上でそれらに対応し、その撲滅に取り組む決意を明確に表 明しなければならない。今の世代でそれを怠れば、人道的、社会的、経済的な負担を 次世代に先送りすることになる。
マトバのムハマシーン地区の自宅前近く で佇む子どもたち。(イエメンのサナア)
©UNICEF/UN013965/Shamsan
通りで通行人の体重を量ってお金を稼 ごうとする少年。(イエメンのサナア)
©UNICEF/UN018345/Altwaity
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世界子供白書 2016視点:
今こそ行動に移すべきである:
持続可能な社会は子どもから始まる
カイラシュ・サティヤルティ
ノーベル平和賞受賞者、カイラシュ・サティヤルティ子ども財団創設者
何年も前のことだが、私はヒマラヤ山脈の麓で、児童労 働に携わる、痩せた小さな子どもに出会った。その子は私 にこう聞いた。「世界はとても貧しいから僕はおもちゃや本 をもらえずに、代わりに銃や道具を使わなければならない の?」また別のときは、人身売買され、レイプされ、奴隷 にされて母親となった、コロンビアのストリートチルドレ ンにこう聞かれた。「私は一度も夢を持ったことがない。私 の子どもは夢を持てるかしら?」と。過激派武装集団に誘 拐され、友人や家族の殺害を強要されたスーダン人の子ど もには、こう聞かれたことがある。「僕が悪かったの?」
19 世紀の奴隷制度廃止をもって奴隷制が終結したわけで はない。現代でも、先進国においてさえ、奴隷制は極めて 残忍な形で存続し続けている。最新のデータによると、世 界では依然として 1 億 5,000 万人の子どもが児童労働に 従事している。5,900 万人の初等教育就学年齢の子どもが 学校に通っておらず、毎年、1,500 万人の 18 歳未満の少 女が結婚を強要されている。何百万人もの子どもたちが、
社会から疎外され、学校教育から置き去りにされる要因と なりやすい障害を抱えて生活している。
数百万人に上る、証明書を持たない移民や社会の周縁に 追いやられた人が人身売買の対象となり、家事労働や売春 を強要されている。危機に見舞われた地域では奴隷制がは るかに広く横行し、子どもたちはおもちゃの代わりに銃が 与えられ、少女はたばこ 1 箱以下の値段で売買されること もある。残念なことに、危機に瀕した国では 3,700 万人の 子どもたちが初等教育または初期の中等教育を受けていな い。私はコートジボワールのココア農園で過酷な作業をし ている子どもや、コロンビアで花を売る子ども、パキスタ ンでサッカーボールの縫製作業を行う子ども、インドの雲 母採鉱場やレンガ窯で働く子ども、そしてナイジェリアの 想像を絶する恐怖の中で生きる子どもに出会ってきた。
すべての子どもは、人生を公平かつ平等にスタートさせ る権利がある。自由に、安心して幼少期を過ごしてしかる べきだ。包括的でバランスのとれた、質の高い教育を受け る権利がある。それは基本的な権利であると同時に、より インクルーシブな(誰もが受け入れられる)社会、持続可 能な社会を実現するための手段であると考えなければなら
ない。
2015 年 9 月、200 名を超える世界のリーダーが一堂に 会し、持続可能な開発に向けた 15 年計画を採用した。私は、
国連が持続可能な開発目標(SDGs)に児童労働、強制労働、
現代の奴隷制、人身売買の廃絶の必要性を取り入れ、イン クルーシブかつ公平性のある質の高い教育を強調したこと を称賛する。こうした不正に終止符を打つ明確な目標が設 定され、これらのことと持続可能な成長との関連性が認識 されたのはこれが初めてである。これは私が同志の活動家 と共に長年にわたって要求してきたことである。
持続可能な社会は、子どもたちが安心して暮らし、教育 を受け、健康な生活を送るとき、初めて豊かな未来を実現 できる。要するに、児童労働、奴隷制、人身売買、子ども に対する暴力の根絶は他のほぼすべての開発目標と直接結 びついているのである。
皆が協力して、より良い未来に向けて取り組む決意を表 明してきた。しかし、最も重要なことは、意思を表す言葉 ではなく、言葉によって表された意思である。
ニューヨークで開催された SDGs を採択する国連サミッ トの演説の中で、私は社会から最も置き去りにされている 多くの子どもたちを代表して約束ではなく、行動を要求し た。前進が可能であることはわかっている。なぜならば、
前回の開発アジェンダであった極度の貧困の下で生きる人 の人数を削減し、初等教育就学年齢の未就学児の数を半減 させるという目標はいずれも達成したからである。
私たちの世代で子どもの奴隷という不正を完全に廃絶す ることは可能である。私たちは置き去りにされているすべ ての子どもたちに教育を行うことができる。すべての子ど もに自由を保障することによって平和、平等、インクルー ジョン、持続可能な開発を享受する機会が得られる。
しかしそれは、政府、企業、市民社会および市民が団結し、
それぞれが自らの役割を自発的かつ効果的に果たしたとき に初めて実現できる。子どもにやさしい政策を打ち出し、
教育と青少年に十分な投資を行うよう、私たちは政府に求
今こそ行動に移すべきである:持続可能な社会は子どもから始まる
めなければならない。政府はもはや児童労働を取り巻く経 済論議を無視することはできない。児童労働の増加は失業 率の上昇につながる。現在、1 億 5,000 万人の子ども(5
〜 14 歳)がおとなの就くべき仕事に従事しており、その 結果、2 億人のおとなの失業が発生している。政府は正し い経済政策を通じて、両親が子どもを学校に通わせること ができるように、妥当な生活賃金を保障しなければならな い。
教育の利点は経済成長と貧困削減に寄与することがわ かっている。報告によると、質の高い教育への 1 米ドルの 投資は 20 年間で 15 倍の投資利益を生む。法の原則は、
置き去りにされているすべての子どもにも及ぶべきである。
企業はより大きな責任を担い、信仰指導者は他者に対する 思いやりがすべての信仰の中心的な理念であることを認識 しなければならない。
これは私たち一人ひとりの責任である。私たちは、民族、
人種、宗教、国籍、政治、その他いかなることも関係なく、
仲間であるすべての人に思いやりの気持ちを持って、夢の 世界を構築しなければならない。
私たち市民が結束して政府、企業および市民社会に責任 を担わせれば、いかなることも可能である。私は同僚と共 に何年にもわたって自らの役割をひとつずつ、謙虚に果た してきた。その結果、85,000 人以上の子どもが児童労働 や強制労働から救出されて子ども時代を取り戻した。それ でも、依然として奴隷状態にある何百万人もの子どもたち の苦痛を終わらせるのに十分とは言えないが、そうした子 どもたちやその家族にとっては重要な意味を持つことだっ た。
私たちの世代でこの辛苦をきっぱりと断ち切ることは可 能であり、またそうしなければならない。
私たちは聡明で、若く、エネルギーに満ち、理想主義的 な若者たちに、思いやりの大切さを教える必要がある。そ うすれば、若者たちと世界がいずれもかつてないほど脆弱 に思われるときにも幻滅したり、暴力に訴えたりすること はない。私たちが早急に行動する必要性は、かつて私と同 僚が採石場での強制児童労働から救い出した 8 歳のデヴリ が次のように問うたことにも例示される。「なぜもっと早く 来てくれなかったの?」
彼女の問いは私たち全員に向けられたものである。今こ そ行動に移すべきである。私たちのエネルギーと不正への 怒りを正しい方向へ向ければ、変化を起こす潜在的な力に なるのである。小さな火花でも部屋の暗闇を消し去ること ができる。問題に目を向けるだけでなく、それに対して行
動を取るとき、私たち一人ひとりが小さいながらも重要な 火花になる。
私たちは結束して持続可能な世界に向けた真摯な取り組 みを継続し、奴隷制を本来そうあるべきであるように、過 去のものとすることができる。私たちの生活遺産として、
世界への贈り物にしよう。
ラホールの北に位置するシャドラ地区の作業場でレンガを 作る女の子。(パキスタン)
©UNICEF/UNI44028/Pirozzi
ドキュメント内
世界子供白書 2016 一人ひとりの子どもに公平なチャンスを 世界子供白書 2016 i
(ページ 93-97)