46
世界子供白書 2016教育における不利な状況には、いくつかの理由がある。例えば中国では、農村部の 行政区から都心への移住が、子どもたちが教育を受ける権利を得られるかどうかに影 響を及ぼす
134。もし彼らが都市部に住んでいながら農村部に戸籍を置いたままにして いる場合、その権利が厳しく制限されることがある。
また、貧困もこの問題における大きな要因である。教育に対する貧困の影響は、早 い時期から出始める。いずれの国においても、最貧困層の子どもたちは、早期幼児教 育プログラムに参加する可能性が最も低いためである
135。そして不利な状況はさらに 続く。サハラ以南のアフリカでは、人口の最も貧しい 20%に属する 20 〜 24 歳の若 者の 60% 近くが、4 年未満の学校教育しか受けていない。対照的に、最も裕福な 20%の場合、4 年未満の就学経験しかない若者はわずか 15% である
136。エジプトと タンザニアでは、貧しい家庭に生まれた人々は、基礎教育を受け損ねるリスクが全国 平均と比べて 2 倍近くに上る。いずれの国においても、貧しい女性の場合にはそのリ スクがさらに高くなる
137。
近年、初等学校の就学率の上昇に伴い、多くの国では貧富による就学率の格差が縮 小している
138。しかし、最貧困家庭の子どもたちが就学する可能性は高まったものの、
彼らはより恵まれた家庭の子どもたちと比べて落第する可能性が高い
139。
パキスタンでは、初等学校就学年齢の非就学児が 560 万人を超えている
140。また、
出席率と定着率(どのくらい長く教育を受けられるか)には、貧富による大きな格差 が存在する(図 2.4. を参照)。人口の 20% の最富裕層の子どもたちは、20% の最貧 困層の子どもたちと比べて、平均でおよそ 9 年長く学校教育を受けている。この貧富 間の格差は、最貧困層の少女たちの間におけるジェンダーに基づく不利益と地域的格 差によってさらに拡大する。パキスタンは初等学校修了率の向上において全国的な進 展を見せているが、貧しい農村部の少女たちをはじめとする一部のグループは置き去 りにされているのである
141。
教育経路分析は、学校における子どもたちの進歩に伴って、いつ格差が拡大するの
かを特定するのに有用である。ナイジェリアでは、格差は早い時期から始まる。2013
年のデータによれば、ナイジェリアの 15 〜 17 歳の貧しい子どもたちのうち、適正
な時期に初等学校に入学した子どもは 3 分の 1 に満たなかった。一方で裕福な家庭の
子どもたちは、ほぼ全員が適正な時期に入学していた(図 2.5. を参照)。貧しい子ど
もたちの中で落第する者が増えているため、この格差は各レベルの教育の開始時点に
おいて拡大し続けている。後期中等教育が始まる段階まで就学している者は、裕福な
子どもたちのうち 80% であるのに対し、貧しい子どもたちの中には 7% しかいない。
注:表は正確な縮尺率ではない。
全国平均
6.3 年
最富裕層
20%
10.5 年
都市部
10.5 年
都市部
2.54 年 農村部
10.46 年
農村部
1.86 年 最貧困層
20%
1.99 年
男
3.69 年
男
3.08 年
1.27 年女
女
0.75 年 女
10.25 年 男
11.10 年
男
10.76 年
女
9.95 年
図 2.4.
パキスタンでは、到達する教育レベルはジェンダー、居住地、所得によって異なる
パキスタンの 20 〜 24 歳の若者が受けた学校教育の平均年数(2013 年)
48
世界子供白書 2016図 2.5.
ナイジェリアでは、資産状況、ジェンダー、居住地が教育の達成度に影響を及ぼす
ナイジェリアにおける後期中等学校就学年齢の青少年の教育的達成度(2013 年)
教育:公平な機会の創出
>> 公平性と学習成果
0 100%
20% 80%
40% 60%
60% 40%
80% 20%
100%
0 100%
20% 80%
40% 60%
60% 40%
80% 20%
100%
0 100%
20% 80%
40% 60%
60% 40%
80% 20%
100%
83%
76%
71%
49%
48%
71%
66%
60%
44%
42%
64%
57%
51%
33%
31%
94%
90%
86%
65%
63%
99%
98%
97%
81%
80%
28%
21%
16%
8%
7%
初等学校に入学 初等学校を修了 前期中等学校に進学 前期中等学校を修了 後期中等学校に進学
初等学校に在学中 前期中等学校に在学中 学校に入学せず、また進学もせず
17%就学経験なし 83%
初等学校に入学
男 女
94%
初等学校に入学
都市部 農村部
48%
後期中等学校に進級
63%
後期中等学校に進級
80%
後期中等学校に進級 99%
初等学校に入学
最富裕層 最貧困層
6%
就学経験なし
1%
就学経験なし
就学経験なし29%
71%初等学校に入学
64%
初等学校に入学 42%
後期中等学校に進級
33%
後期中等学校に進級
7%
後期中等学校に進級 28%
初等学校に入学
36%
就学経験なし
72%
就学経験なし
家庭での経験が、学習における成功の基礎を形成する。ほとんどの国の 3 歳から 5 歳未満の子どもたちの過半数は、家庭での学習活動におとなが関与しているが、家庭 で 3 冊以上の本を利用できる子どもたちは半数に満たない
144。また学習成果は、子ど もたちが直面するさまざまな形の優位性および不利益と関連している。エビデンスが 示す所では、貧困を原因として子どもたちの学習成果に欠損が生じたままになるケー スが多いことが示されている(図 2.6. を参照)。貧困世帯の子どもたちは、5 歳に達 しない幼少期のうちから、富裕世帯の子どもたちよりも読み書き能力や計算能力にお いて遅れをとる可能性が高い
145。インドでは、最貧困世帯に生まれた子どもたちは、
最富裕世帯の子どもたちと比べて、学習における「ハンディキャップ」を抱えている。
このハンディキャップは 7 歳から 11 歳までの間で拡大しており、生徒の引き算能力 においては 19% の格差に達している
146。
子どもたちが貧困に関連する不利益に直面し、就学しなかった親を持つ場合、特に 幼い女子にとっては大きな影響をもたらす。インドでは、最富裕家庭に生まれて教育 を受けた親を持つ子どもは 11 歳までに、他の子どもたちと比べてかなりの学術的優 位性を享受する。最も恵まれた子どもたちは、教育を受けていない親を持つ最貧困世 帯の女子たちと比べて、基本的な読み書きおよび計算力を身につける可能性がおよそ 6 倍高い
147。
図 2.6.
基礎的な数学力における貧富の差に基づく格差は、早い時期から生じて長期間持続する
引き算ができる子どもの年齢別の割合(%)<2012 年>
注:インドおよびケニアの子どもたちは 8 歳までに 2 年生を修了するものとされ、パキスタンの子どもたちは 8 歳までに 3 年生を修了するものとされている。
出典:ASER India、ASER Pakistan and Uwezo Kenya 調査データ(2012 年)、in Rose、Pauline、and Benjamin Alcott、How can education systems 90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0
インド パキスタン ケニア
最富裕層
最富裕層 最貧困層
最貧困層 7 ~ 8 歳
10 ~ 11 歳
50
世界子供白書 2016エビデンスは今のところ限定的かつ断片的であるものの、最貧困世帯および最富裕 世帯の子どもたちの間における主要な学習指標の大きな相違パターンを実証するよう な調査結果が増えている。ラテンアメリカの 5 カ国における調査の結果では、言語発 達に関する子どもたちの共通テストのスコアにおいて、貧富の差と関連する大きな格 差が現れている。この格差は 3 歳までに明白になり、子どもたちが就学して以降は取 り戻すことができない
148。
学習の欠損は、子どもたちが進級しても続く。ラテンアメリカでは、地域規模の評 価により、3 年生の生徒の 4 分の 1 以上が、単純な文章の中で基本的なフレーズを認 識したり、情報を見つけたりできないことが示された
149。インドの農村部の学校では、
2014 年の調査により、5 年生の子どもたちの中で基礎的な 2 年生の教科書が読める 子どもが半数に満たないことが示された。算数においては、5 年生の児童の半数が 2 桁の引き算を計算できず、また基本的な割り算ができた生徒はわずか 4 分の 1 ほどで あった
150。
同様の問題は、他の国々でも生じている。2012 年の評価結果によれば、就学者数 に関して成功を収めているウガンダでは、5 年生の子どもたちの中で、2 年生レベル の物語を読めた子どもは半数余りであった
151。ケニアでは 2012 年の評価において、
5 年生の子どもたちの 3 分の 1 が 2 年生の計算問題を解けず、8 年生の生徒でも約 10% が同計算問題を解くことができなかった
152。
コラム 2.1.発達途中の脳:学習に対する早期のチャンス
子どもが学校に足を踏み入れるよりもずっと前に、不公平性 は脳の構造にいつまでも残る形で、影響を刻みつける可能性が ある。
脳の発達に関する最近の研究は、幼児期の体験が発育に及ぼ す影響に新たな観点をもたらしている。生後数年間、子どもの 脳は毎秒 700 ~ 1,000 のペースで新しい神経結合を作り出し、
その後ペースは落ちていく。この早期における結合が、後の結 合を構築する基礎となる。
新たな研究により、栄養、保健ケア、および子どもたちと子 どもの面倒をみる人たちとのやりとりが、幼児期における脳の 発達に有益であることが示されている。会話、意味のある文脈 の中での言葉の繰り返しや関連付け、読み聞かせや遊びを通じ た読み書きとの早期の出会いは、いずれも言語スキルに好まし い影響をもたらす。
一方で、栄養不良や暴力など、幼少期における慢性的なスト レスの多い出来事との頻繁な接触は、学習や情緒的発達に関係
する領域のニューロンに損傷を与え、子どもに悪影響を及ぼす 可能性がある。つまり、こうした出来事が脳の発達過程に影響 する。子どもの人生の中でのネガティブな経験は、学習、情緒 的発達、不安の対処における障害として、後に発現することが 多い。
子どもの人生における最初の数年間は脳の発達に極めて大き な影響を及ぼすため、幼少期には、世代を超えて繰り返される 不公平性のサイクルを断ち切るための決定的なチャンスが存在 するといえる。早期幼児ケア、栄養、刺激は、脳の発達を活性 化させ、子どもの学習能力を強化し、精神的レジリエンス(柔 軟な回復力)の発達を助け、変化への適応力を身につけさせる ことができる。
また早期支援は、将来の収入に影響をもたらす可能性もある。
例えば、幼少期の栄養不良を防ぐことにより、子どものその後 の人生において、時間あたりの賃金を少なくとも 20% 増加さ せることが調査によって示されている。
出典:
世界銀行「世界開発報告 2015:心・社会・行動(World Development Report 2015: Mind, society, and behavior)」ワシントン DC、2015 年、第 5 章。
ハーバード大学児童育成センター「Brain Architecture」<http://developingchild.harvard.edu/science/key-concepts/brain-architecture> 2016 年 3 月 15 日にアクセス。
Lake, Anthony および Margaret Chan「Putting science into practice for early child development」「ランセット」誌、第 385 巻 9980 号、2014 年、
pp. 1816–1817。
国際食糧政策研究所「Global Nutrition Report 2014: Actions and accountability to accelerate the world’s progress on nutrition」ワシントン DC、
2014 年。
教育:公平な機会の創出
>> 公平性と学習成果