本章の中で前述しているように、質の高い教育は早期幼児期における支援から始ま る。早期幼児教育を行うことで、最も立場の弱い家庭の子どもたちに、初等学校に就 学した際により大きな成功を収められるよう準備させることができるというエビデン スがある。しかし、すべての子どもたちが早期幼児教育を利用できるわけではない(図 2.7. を参照)。
カーボヴェルデでは、初等学校に就学する子どもたちの評価により、就学前教育を 受けた子どもたちには、受けてない子どもたちに対して 14 ポイントのアドバンテー ジがあることが実証された
188。2009 年にアルゼンチンで公表された評価では、就学 前教育を受けた場合、3 年生の算数とスペイン語の標準テストのスコアに著しいプラ ス効果が現れることが明らかになった。またこれにより、教室での注意力、努力、規律、
参加姿勢も向上した。そして貧困レベルが高い地域の子どもたちに対する就学前教育 のメリットは、同国の他の子どもたちに対するものより大きかった
189。
バングラデシュ、ボリビア、インドネシア、およびその他の国々の貧しい子どもた ちに対する早期幼児支援は、いずれも早期の学習格差の縮小という成果を示してい る
190。しかし残念ながら、就学前教育への参加率は、子どもの貧困レベルが最も高い 最貧困国において最も低い
191。
このように早期支援は、確実にすべての子どもたちが学校を修了し、必須の知識と スキルを身につけるようにするための基礎を構築する。しかし、教育における公平性 の実現には、さらに多くのことが要求され、学習プロセス「全体を通して」、置き去り にされている子どもたちに焦点を合わせることが必要とされる。2030 年までに、そ うした子どもたちの就学率および学習成果を恵まれた子どもたちと同等の水準まで引 き上げるためには、彼らが成し遂げる進展を加速させる必要があるだろう。
基礎的なスキルを普遍的に身につけさ せることも、経済成長をよりインク ルーシブなものにするだろう。
教育:公平な機会の創出
>> 学習プロセス全体を通して子どもたちを支援
進展の加速は、国の状況によって異なる場合がある。例えば、フィリピン、セネガル、
ウガンダには、いずれも大勢の非就学児がいるが、その就学や修了のレベルは異なっ ている。セネガルの場合、異なる社会集団間で初等学校修了率に大きな格差が存在す るが、いずれの集団も全員の普遍的修了という水準には程遠い。したがって課題とな るのは、立場の弱い集団の急速な前進を促進しつつ全体の進展を加速させることであ る。一方でフィリピンとウガンダでは、最富裕世帯および実績最上位地域の子どもた ちは、ほぼ全員が学校教育を修了する水準にまで達している。したがってこれら 2 カ 国では、最も貧しく最も立場の弱い子どもたちのために尽力することが最善策となる だろう(図 2.8. を参照)。
子どもたちの異なるグループ間におけるアクセスの格差は、初等学校の普遍的修了 の実現に向けて各グループに必要とされる進捗のペースを決定づける要因となる。そ してそれぞれのグループのニーズは、政府がどのように政策を立案し、各地域、学校、
子どもたちにリソースを配分するかという判断に広範な影響を及ぼす。こうした政策 を成功させるためには、学校における公平性へのコミットメントと、校外で作用する 不公平性の決定要因に対処する施策を組み合わせる必要がある。
バングラデシュにおける非就学児支援プログラムは、政府機関や非政府組織が、最 も立場の弱い子どもたちに支援の手を差し伸べるための革新的戦略をいかにして策定 できるかを例示している。このプログラムの一環として、アナンダ(Ananda:学ぶ喜 び)スクールでは、貧困度の高い地域や学校修了率の低い地域の子どもたちに対して、
教育における第二のチャンスを提供している。これらの学校では、8 〜 14 歳の生徒 に 5 年生の試験への準備をさせるための公的および非公的な方法を組み合わせ、
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0 早期幼児教育
への参加率
ガーナ ジャマイカ ラオス ナイジェリア チュニジア ベトナム
注:ラオスおよびチュニジア(2011 〜 2012 年)とベトナム(2013 〜 2014 年)を除き、データは 2011 年のものである。
農村部
最貧困層 都市部 全国平均
最富裕層
図 2.7.
早期幼児教育における格差は、資産状況と居住地域によって異なる
資産状況、居住地域、全国平均別の早期幼児教育への参加率
58
世界子供白書 2016 教育:公平な機会の創出>> 学習プロセス全体を通して子どもたちを支援
2015 2020 2025 2030
都市部
イスラム教徒 ミンダナオ自治地域
フィリピン
カンパラ カラモジャ
ウガンダ
0 100%
75%
50%
25%
ジガンショール ルーガ
セネガル
注:計算においては、調査年と年次の複合変化率が用いられている。
出典:DHS データ、Overseas Development Institute の計算による。
都市部
最富裕層 最貧困層 農村部
0 100%
75%
50%
25%
0 100%
75%
50%
25%
2015 2020 2025 2030
2015 2020 2025 2030
図 2.8.
最も弱い立場にある子どもたちに対する取り組みの進展を加速させなければならない
全児童による初等教育の普遍的修了のために必要とされる加速度(資産・居住地別)
2005 年から 2012 年までの間に同国の最も貧しい 90 のウポジラ(小管轄区)に住 む 79 万人超の子どもたちを就学させ、83% の合格率を実現した
192。目標は、2017 年までに 148 の小管轄区にこの支援を提供することである。
バングラデシュに見られるような取り組みは、手を差し伸べることが最も困難な子 どもたちに質の高い教育を提供するという目標が、単純な同じ施策の繰り返しでは達 成できないことを示している。何かしら新しい試みを行うことへのコミットメントが 求められるのである。
アルゼンチンやジンバブエなどの国において、教育に対する新しいアプローチの検 証が行われ、地域的、全国的、および世界的なニーズを満たすようその規模が調整さ れている。一部のイノベーションでは新たなテクノロジーが利用されている。例えば エデュトラック(EduTrac)は、SMS テクノロジーを利用して、ウガンダやその他の 国の教育指標に関するリアルタイム情報の流れを促進するための、携帯電話ベースの データ収集システムである
193。スーダンでは e ラーニング・スーダン(eLearning Sudan)を通じ、電子タブレットを利用して、従来の教育方法が利用できない北コル ドファン州の辺地の子どもたちに対する教育を行っている
194。また別のイノベーショ ンでは、おとなによるガイダンスが付いた代替教育へのアクセスを提供する自己学習 カリキュラムを利用して、危機状況における教育の課題への取り組みが実施されてい る。
さらに、市民の姿勢と文化規範も変える必要がある。例えばモンテネグロでは、障 がいのある子どもたちの教育へのアクセスを妨げる姿勢を変えるための国家的取り組 みが進められている。2010 年に開始された集中的な社会認識向上キャンペーンは、
この問題に対する一般市民の関心を高め、一定の評価を得ている
195。2014 年の世論
調査では、モンテネグロ国民の 78% がインクルーシブな教育を支持していることが
示された
196。
ドキュメント内
世界子供白書 2016 一人ひとりの子どもに公平なチャンスを 世界子供白書 2016 i
(ページ 65-68)