第 3 章 事例分析
3.7 定性的調査データの分析
3.7.4 定性的調査データの脱文脈化(グループ化)
図 3-33. MAXQDAコード・マトリックス・ブラウザ画面の例
MAXQDAにおいては、グループ2とグループ3でグループ化をしている。
表 3-26には、コード付けを行ったインタビュー・スクリプトの例とグループの マッピングを示す。
「知識の変容」グループ(グループ1)-個人知はいかに変容するか グループ 1 は、プロジェクトにおける管理知識に関する知識の変容を表すグ ループであり、「気づく」「明確化する」「共有する」という、個人知が「いかに」
変容するかを表すグループである。
「気づき」サブグループ(グループ2)
「気づき」サブグループにおいては、知識の変容状態を「個人の気づき」とす る。ここでは、何となく違うという、あるいは、これは違うという違いを認知 する。定量分析の考察における表 3-21の「番号」列のi-1, i-2, ii-1 に相当する。
アンケート調査結果の分析では、「違いに対する気づき」においては、時期にお いて日中差があり、それは日中間の経験の差に影響されていると出ている(表
3-16、表 3-21)。また、気づきの内容としては、暗黙知を含む基準等に対する考
え方の違いがあると出ている(表 3-16、表 3-21)。そのため、当初の想定では、
定性分析においても、「基準」に対する違いが出るであろうとしていた。
実際の定性分析結果では、日中差は、アンケート調査結果の分析と同様に存 在し、「基準」(リスク、品質)に対する認識は、強くでていた。例えば、99% 達 成を「ほぼできた」とするか、「残り 1%」と考えるかといった前提の違いのこ とである(表 3-26: 気づき-6)。それに加え、リスク許容度の違い(表 3-26: 気づ き-7、気づき-8)も挙げられている。
また、「やり方の違い」に対する気づきがあった。例えば、中国の効率重視の 姿勢(表 3-26: 気づき-2)、報告方法の違い(表 3-26: 気づき-3)、時間管理におけ る違い(表 3-26: 気づき-4)などである。また、日本においては、「糊しろ」「間 に落ちるタスク」に関する発言も多く見られ(表 3-26: 気づき-9、気づき-10)、 違いとして認識されている。
このことより、日本には、「曖昧さへの耐性(Tolerance of Ambiguity - high)」 があると思われる。このように、違いの内容に関しては、定性分析結果では、
アンケート調査結果よりもさらに詳細化し、差異とはプロジェクト管理知識の 差異を含むことがはっきりわかる結果となっている。また、アンケート調査結
果と同様に、明確な違い(形式知)と不明確な違い(暗黙知)は存在し、特に 暗黙知は日本において顕著に特徴が見られた(表 3-25)。気づきの時期に関して は、定性分析では、あまり明確な結論は出ず、初期であるということだけが出 てきている。また、気づきがあったことは、インタビュー以外にも、日本の部 内でPMOであるGDオフィスが定期的に発行するニュースレターに記事として 記載されている。この記事は、3.2.11に記載したGDセッションの報告をまとめ たものである。具体的なアウトプットとして、このGDセッションの報告文書が、
組織のデータベースに保管されている。
「明確化」サブグループ(グループ2)
「明確化」サブグループにおいては、知識の変容状態を「個人の気づきの明確 化による知識の獲得」とする。気づいた違いを明確化し、知識として創造して ゆく時期である。定量分析の考察における表 3-21の「番号」列のii-2, ii-3, ii-4 に 相当する。アンケート調査結果の分析では、日本は暗黙知、中国は形式知とい う知識の明確さと、それに対する日中の明確化対応の違い、共通理解との関係、
明確化の時期が判明した。(表 3-16、表 3-21)。
定性分析の結果においては、明確化の状況として、基準、前提、やり方など の違いの明確化や対応方法、その苦労が多く語られている(表 3-26: 明確化-1、
明確化-2、明確化-3、明確化-4)。日中の双方で認識されている状況として、タ スク定義や手順書の準備などのコード化戦略の必要性が言われる一方で、書き 物を読んだだけでは理解ができず、実際に自分で経験をしないとわからない、
といった「実践による学習(learning by doing)」といった行動による帰納的明確 化対応が行われている状況も多く見られた(表 3-26: 明確化方法-3)。具体的な アウトプットとしては、「実践による学習(learning by doing)」では、中国側か ら見て理解ができる内容の手順書等が作成されている。
また、日本においては、暗黙的なタスクの明確化の難しさ(表 3-26: 明確化-4)
や、責任所在の曖昧さに対する自己反省(表 3-26: 明確化-3、明確化-6)、および 業務変革とそれによるマインドチェンジの必要性(表 3-26: 明確化-8)などの意 見も出ている。定量分析結果と同様、日本は暗黙知、中国は形式知という知識 の特性があることが言われている。時期に関しては、定性分析では、あまり明 確な結論は出ず、気づきの後に明確化をしているということだけが出てきてい る。
「共有化」サブグループ(グループ2)
「共有化」サブグループは、知識の変容状態は「知識の集団/組織レベルでの 共有化」であり、平行して「知識の個人的レベルでの共有化35」が行われている。
(これに関しては、この後の「共有化方法」サブグループにおいて詳細に述べ る。)
また、「共通理解」は、「知識の組織レベルでの共有化」が蓄積された結果と して、知識の変容の1つのゴールとしての位置づけとして捉えられる(表 3-26: 共 有化-5)。共通理解は、共有化・蓄積化した結果から生まれる組織知であり、共 有化とかなりオーバーラップして共通理解が進んでいると思われる。これまで は、「気づく」「明確にする」「共有する」という、個人知が「いかに」変容する か、というグループであったが、共通理解は「どのような知が」という、共有 化の結果生まれる知のグループと見るほうが自然である。共通理解の生まれる 時期に関しては、中盤から最終で、アンケート調査結果のまとめである図 3-30 にも見られるように、これまでとは異なり、まとまった時期として形成されて いるとは言い難い。
「共有化」サブグループは定量分析の考察における表 3-21の「番号」列のiii-1, iii-2 に相当する。共通理解は、iv-1 に相当する。
共通理解に関しては、アンケート調査結果の分析では、中国の方が共通理解 をもてたという結果になっているが、定性分析結果においては、日中双方とも、
共通理解が序々に浸透し始めているという状況がわかった(表 3-26: 共有化-2)。 特に日本からは、異なる価値観の受け入れが進み、相互理解が少しずつ始まっ ていることが報告されている。共通理解の内容としては、顧客の価値観の理解 が挙げられているが、それ以上に、これまでのインタビューとは違い、具体的 な方法論等ではなく、抽象化された要望や価値の重要性が説かれ始めている(表
3-26: 共有化-6)。つまり、最初は、お互いの共通の認識という形で始まり、時間
が経つにつれ、理解度が深まり、演繹性が高まってくる。「共通理解」だけは、
個人知や集団知とは異なり、プロジェクトが 1 回だけでできるものではなく、
何回かのプロジェクトの結果、深まってくるものであり、その意味で集団知で はなく、集団知の蓄積による組織知であると言う事ができる。
前述の日本の部内でPMOであるGDオフィスが定期的に発行するニュースレ
35「個人的レベル」での移転・共有の意味であるが、個人から個人への1対1の移転の場合 は、集団ではあるが、「個人的」としている。
ターにも、相互理解が深まったという内容の記事が掲載されている。また、イ ンタビューで、深圳元駐在員(J3)が、業務定義書を深圳に作成させたら、説明 をしなかったにもかかわらず、必要な作業項目の洗い出しの精度が高く標準化 の意義が理解されており、合意基準、作業進捗基準、完了基準が記載されてお り、契約に基づくサービスの意識が高い内容のアウトプットが出てきたと言っ ている。このことからも、経験を重ねるにつれ、「共通理解」が出来てきている ことがわかる。つまり、エビデンスとしての具体的なアウトプットとしては、
業務定義書が一例として挙げられる。
「知識経営スタイル」グループ(グループ1)-個人知はどのように創造さ れるか
「明確化方法」サブグループ(グループ2)
「明確化方法」サブグループは、「明確化方法」に特化したグループである。定 量分析の考察における表 3-21の「番号」列のii-5, ii-6 に相当する。アンケート 調査結果の分析では、明確化方法として、以下の方法をとっており、面子を重 んじる文化影響があると出ている。また、形式知が多い中国はバーチャルでの やりとりが多く、暗黙知が多い日本はリアルな環境での移転が多くなるといっ た、知識の特性による明確化方法への影響も挙げられている。
日本:リアル、1対多の「集団的な明確化」
中国:バーチャル、1対1の「個人的な明確化」
定性分析の結果においても、アンケート調査の分析結果と同様に、以下が行 われている状況が判明した(表 3-26: 明確化方法-1、明確化方法-2、明確化方法 -3、明確化方法-4、明確化方法-5)。つまり、具体的には、日本は、会議での話 し合いで、中国は、自分で実践し個人として明確化、あるいは個人的に人に聞 いて明確化しているということである。
日本:リアル、1対多の「集団的な明確化」
中国:バーチャル、「個人による明確化」、1対1の「個人的な明確化36」
36「個人的レベル」の意味であるが、個人が個人に問い合わせて明確化するという1対1