第 2 章 文献レビュー
2.3 プロジェクトマネジメントにおける知識
られた仕様を実施することを目的とする。(Turner and Muller, 2003, p.1.)
この定義においても、1) 独自性 2) 明確な開始と終了がある有期的なものである
点で、PMBOKの定義と一致する。構成メンバー等のリソースが都度変更になる
点に関しては、PMBOKの定義では明示していないが、明確な開始と終了がある という時点で、実際にはプロジェクト・メンバー等も変更になる。
2.3.2 プロジェクトにおける知識の目的と位置づけ
プロジェクトにおける知識の位置づけは、プロジェクトにおけるタスク実行 のための個人の強みとしての能力になりうる点にある (Koskinen et al., 2003;
Kasvi et al., 2003)。その意味で、知識はプロジェクト成功の源泉であり (Koskinen,
2000, 2004), 特に暗黙知はプロジェクト成功を推進するものとされてい る
(Koskinen, 2000, 2003)。 彼は、また、暗黙知の移転および相互作用の推進ために
は、言語、相互信頼、および物理的な近接が重要であると指摘している。
これらの分析の結果として、プロジェクトのような一過性のある特性を持つ 文脈においても暗黙知は獲得でき、共有できるとされた。しかしながら、地理 的に分散した環境では暗黙知の移転の問題があることは認識されているものの、
それ以上の言及はない (Koskinen et al., 2003)。
2.3.3 地理的に離れたプロジェクト間での暗黙知の移転
地理的に離れた状況におけるプロジェクトでのナレッジマネジメントに関し ては、Kasvi et al. (2003) が言及している。国営企業によるプログラム開発のプロ ジェクトをケースとして取り上げている。彼らのナレッジマネジメントとして の対象には、技術知、手続き知、組織知が含まれ、地理的に分散したプロジェ クトにおいても知識創造や移転・共有、活用は可能ではあるとしているが、ナ レッジマネジメントの対象としての知識が形式知であるか、暗黙知であるかの 言及はない。ただ、データベースでの共有を対象としているため、前提として 形式知であることは想定される。
知識移転の戦略と戦術に関する Dixon (2000) の研究においては、プロジェク ト間の暗黙知の移転は以下の場合に、暗黙知が移転されるとしている。
戦略的移転:組織全体に影響を与える形式知と暗黙知が時間と空間で隔て られたチーム間で移転される。
遠隔移転:1つのチームが業務によって獲得した暗黙知を、次のチームが 別の文脈で同じ業務を行う場合、形式知と暗黙知がチーム間で移転される。
彼女はチームと業務内容を対象として分類を行っており、地理的な分散は明記 していない。また、存在論的にはチームを対象としており、グループとしての プロジェクトを対象とはしていない。
以上の研究より、インターナショナル・プロジェクトにおいて知識創造や移 転・共有、活用は可能であることがわかる。しかし、他先行研究においても、
インターナショナル・プロジェクトおける暗黙知に関するナレッジマネジメン トの研究は見受けられない。
2.3.4 プロジェクトにおける知識のプロセス
プロジェクトの特徴として有期性があり、知識の断片化や移転の困難さの問 題があるため、プロジェクトにおける知識のプロセスに関しては、おそらく最 もよく研究されている分野である。
プロジェクトにおける知識のプロセスにおける知識モードには、知識創造を 主目的にしたものよりは、有期性という特徴を克服するための「継承」あるい は「再利用」を目的とする「移転」「共有」が研究対象であり、各々存在論的側 面と時間軸としての「横(同世代)」と「縦(次世代)」がある(Milton , 2005)(表 2-1)。移転は継承を主目的としているが、移転の後に共有が起きる場合もあり (Marquardt, 1996)、また、Milton (2005) は、同じ時間での異なる場所における移 転を平行移転としているように、これらモードの目的は一意ではない。
表 2-1に知識移転の3つのタイプと共有および継承の関係を示す。Dixon (2000) の5つの知識移転タイプ(2.2.6参照)に基づき、Milton (2005) は知識移転の3 つのタイプを提案している。Dixon (2000) は、プロジェクトを前提としてはいな いが、遠隔移転および連続移転においては、暗黙知が移転するとしており、Milton
(2005) が Dixon (2000) に基づきプロジェクト環境における知識移転のタイプを
定義しているということは、場が異なっても同じ業務であり非定型で頻繁なや りとりのあるプロジェクト業務では暗黙知は移転するということになる。
表 2-1: プロジェクトにおける知識移転の3つのタイプと共有の関係
時間
横(同世代) 縦(次世代)
場 所
同一
共有
(形式知・暗黙知:
筆者記入)
連続移転(形式知・暗黙知、頻繁で非定型)
(継承目的)
同一で はない
平行移転・共有
(形式知・暗黙知:
筆者記入14)
近接移転(形式知、頻繁で定型)
/遠隔移転(暗黙知、頻繁で非定型)
(継承目的)
(出所:Milton, 2005 に基づき筆者加筆)
その他、移転に関しては、Disterer (2002)、共有に関しては、Ramaprasad and
Prakash (2009)らの研究があり、知識の再利用に関しては、van Donk and Riezebos
(2004) がプロジェクトにおける知識目録 (Knowledge inventory) の有効性を評価
するアプローチを提案している。
2.3.5 プロジェクトマネジメントにおける知識
この分野の研究はvon Wasielewski (2009) などがあるが学術的な研究はほとん どない。その理由の 1 つとして、プロジェクトの時限性、コスト制約が知識の 移転の障壁になるためであると言われている (Disterer, 2002)。IT関係のプロジェ クト中心に研究は進められており、IT 開発プロジェクト用としてナレッジマネ ジ メ ン ト 実 施 の た め の フ レ ー ム ワ ー ク を 提 案 し た 研 究 (Liebowitz and
Megbolugbe, 2003)、プロジェクトマネジメントにおけるナレッジマネジメントの
位置づけを定義しようとした研究 (Morris et al., 2006). などがある。
Milton (2005) は、管理のためのシステムには、人、プロセス、技術の3つの側
面が必要であるとし、プロジェクトにおけるナレッジマネジメントの推進要因 も、それらに準じるとした。例えば、経理を例にとると、人は経理担当、プロ セスは経理の仕組み、技術は経理のコンピュータシステムとなる。ナレッジマ ネジメントの場合は、知識の創造者、創造した知識を保管するための仕組み、
保管用データベースシステムとなる。しかし、これらシステムは、知識が重要 と看做される企業文化の中で作動するため、プロジェクト資産ではなく、会社 資産であるとしている。
14Milton は明示的に形式知を示してはいない。