第 3 章 事例分析
3.2 事例の概要
3.2.10 ブリッジ SE
上記に、日本のGDオフィスは、ブリッジSEの役割を持っておらず、プロジ
ェクトのPM、あるいはメンバーがブリッジSEとなっていることを記載した。
PMあるいはメンバーが行う業務としては、一般的には、表 3-2に記載した内容 があげられる。深圳側のPMは、コンピテンシー・マネジャーであり、他プロジ ェクトと兼任である場合が多く、深圳のコンピテンシー別チーム全体を管理し ているミッションをもっているということである。例えばサーバチームとして、
日本の複数のプロジェクトを請け負い、並行して進めるというプログラムマネ ジャー的な役割である。
表 3-2: GDプロジェクトのプロジェクトマネジャーの役割
日本側PM 深圳側PM*1
・ プロジェクトに責任を持つ。
・ GDへの依頼事項をとりまとめ、説明会 を行う。(プロジェクトが開始されて以 降の質問対応はメンバー間で行うこと が多い。)
・ プロジェクト管理(進捗、問題等)を 行う。
・ プロジェクト終了時の納品物の確認を 行う。
・ プロジェクト終了後は、日本と深圳双 方が参加する形でLessons Learned を行 うことが推奨されているが、実際に実 施しているプロジェクトはすべてでは ない。
・ プロジェクト結果をプロジェクト・デ ータベースに保管し、プロジェクト内 で共有する。
・ コンピテンシー部門のリソース(要員)
に倒して責任を持つ。
・ 依頼を受け、体制(メンバー)を整える。
・ 深圳側で説明会の召集をする。
・ 深圳内でプロジェクト管理(進捗、問題 等)を行う。この場合、個別プロジェク トの管理と、コンピテンシー組織として の全体の管理がある。
・ プロジェクトの納品物を検査する。
・ プロジェクト結果をコンピテンシー部 門のナレッジ・データベースに保管し、
コンピテンシー部門内で共有する。
(出所:企業の公開文書に基づいて筆者作成)
*1コンピテンシー部門に責任を持つコンピテンシー・マネジャーがプロジェクトマネジャー の役割を担う。
3.2.11 2010 年~ 2012 年時における GD プロジェクトの状況
2010 年に始まった当初は、日本、中国の双方がやりとりに慣れておらず、ま た、プロセスも明確にできていなかったため、行き違いや、認識違いが発生し ていた。2年かけ、プロセスや、それを支えるデータベースやツールも準備が整 い、すべてのプロジェクトがGID要員を検討できる体制が整ってきた。2010年 当初には、コスト削減のためのグローバル・デリバリーであるにもかかわらず、
依頼によって、却って準備や調整に労力とコストがかかる状態で、日本のプロ ジェクト側も深圳に依頼をしにくい状況であった。当時は PMO としての GID オフィスが仲介に入って、日本と中国の橋渡しを行っていたが、プロジェクト から深圳に依頼を出してもらうために、日本のプロジェクトに負担をかけない ようにするため、深圳から出てきた日本への要望などを意図的に伝えず、その ため、誤解が生じてしまったこともあった。
制度の整備に伴い、双方のプロセス的なワークロードの負担が減り、本来の GIDのプロジェクト活動に時間がとれるようになって来た時期が、2012 年であ る。2012年は、GID の本格稼動元年と呼ばれ、サーバインフラ構築部門の全案 件が GID 適用の検討を実施することになった。事例は、2013 年にアンケート、
2013年から2014年にかけてインタビューを行っているが、広くは、2012年以降 のGID本格稼動元年以降を観察対象として捉えている。2013年には、日本と中 国の間では、立ち上げ時の混乱は収拾されつつあり、中国側にも知識が蓄積さ れ始めていた。立ち上げ時の混乱が収まっただけに、本来時間を割くべきプロ ジェクトの実施内容に目が向けられるようになり、品質に対する細やかな要望 や、リスクや時間に対する考え方の日中の違い等に気づき始め、人によっては、
中国とのやりとりに、「なんとなく違和感を覚える」と言った意見も出始めた。
2012年 9月に、深圳において日本と中国の両者が参加する GDセッションが 開催された。セッションのテーマは以下に示されるとおりで、テーマ別にディ スカッションを実施し、また、ITスキル別に技術セッションも実施された。
「品質管理」:品質管理に対する考え方の認識を合わせ、理解を促進する
「文化」:日中間における文化の違いを認識し理解を促進する
「サービス提供」:日本と中国のサービスに関する価値観の違いを知り、
相互理解を深める、等
「品質管理」セッションでは、品質管理に対する考え方が異なるため、認識合 わせを行っている。考え方の違いの認識合わせとは、基準に対する考え方の違 いのことである。「サービス提供」のセッションは、目的が「日本と中国のサー ビスに関する価値観の違いを知り、相互理解を深める」というもので、セッシ ョンテーマとなる程度に価値観の違いがあることが認識されている。「文化」セ ッションも同様で、日中間における文化の違いがディスカッション対象になっ ている。日本側では、2012年には、GID に特化した内容の部内オンライン新聞 を発行していたが、そこに、このGDセッションに参加したSEやPMの意見や 感想が掲載された。掲載された中には、「GD プロジェクトに対する漠然とした 不安が以前はあったが、セッションで解消した」といった意見や、「お互いの国 の文化を尊重することの重要性がわかった」といった意見が見られた。同じオ ンライン新聞の別の号には、深圳在住の日本からの駐在員であるクオリティ・
マネジャーが日本と中国双方に対するメッセージとして、「糊しろ」発言を掲載 している。「糊しろ」とは、スコープ外タスクに対する余裕度であり、基準はス コープに影響するので、基準の余裕度のことを指す。中国側でスコープ外タス クに対する対応や基準に対する余裕があまりないことを示唆している。
人は作業責任範囲を持っています。その範囲だけを作業していると、
人と人とはくっつきません。糊しろがないと紙が貼れないのと同じ で、人と人とのコミュニケーションもうまくいきません。すき間が 出来て作業が漏れる可能性があります。それでは、プロジェクトは 成功するはずはありません。少しでもいいから自分の作業範囲を大 きくすることを心掛けて下さい。それは、プロジェクトの成功だけ でなく、個人の成長にも繋がります。
2013年頃には、それまで仲介に入っていたPMOであるGIDオフィスは、GD プロジェクトが軌道に乗って来たため、仲介に入らないようになった。これは、
A社にとっては一般的な動きである。PMOは、間接的にプロジェクトに関わる ため、日本のサーバインフラ構築部門のオーバーヘッドコストで維持されてい る。PMOがなくてもあまり問題が起きないようであるならば、役割を終えたも のとして縮小してゆくことになる。しかし、一方で、中国では、A社に限らず、
国全体で、転職率が高いため、蓄積された知識がうまく引き継がれていかない
という問題も発生していた。そのため、日本側PMOは縮小しても、深圳側の駐 在員は縮小させず、現地で、細やかな点まで、繰り返し注意喚起を行うなどの 努力を続けて、深圳側のプロジェクト品質が低下しないようにケアを行ってい た。事例は、そのような状況を背景として調査を行う。立ち上げ時の混乱によ る問題が排除された状態であるため、オフショアリング・プロジェクトにおけ る知識のプロセスと文化の知識に対する影響が明確に調査可能である。