第 3 章 事例分析
3.5 アンケート調査データの分析
3.5.5 アンケート調査データの分析結果 1 と 2 のまとめ
これまでの、クロス集計、カイ2乗分析の結果とMCAの考察結果をまとめ、調 査項目(3.4.2参照)と質問項目(大項目)への回答として、以下の表 3-21に示 す。参考までに調査項目(3.4.2)、大項目番号、番号、大項目の質問項目との関 係を表 3-20に再掲する。(詳細は、表 3-7、表 3-8を参照のこと。)これらに基づ き、次節において、調査目的(3.4.2参照)に対する回答を記載する。
表 3-20: 調査項目、大項目番号、番号と質問項目の関係(再掲)
調査項目(3.4.2) 大項目 番号
番号 質問項目(大項目)
プロジェクト管理項目に対 す る 考 え 方 の 違 い は あ る か?
i i-1 日中間でプロジェクト管理項目(品質、
時間、リスク、ビジネス)に対する考え 方の違いが感じられるか?あるとする ならば、気づいた時期はいつか?
i-2
考え方の違いに対する明確 化方法は異なるか?
ii ii-1 違いを明確化したか?したとするなら
ば、その時期はいつか?その方法はどの ような方法か?
ii-2 ii-3 ii-4 ii-5 ii-6 知 識 の 共 有 方 法 は 異 な る
か?
iii iii-1 違いに関する知識を共有したか?した
とするならば、その方法はどのような方 iii-2 法か?
インターナショナル・プロ ジェクトにおける共通理解 を持つことができたか?
iv iv-1 日中間で共通理解は得られたか?
プロジェクトにおける知識 はどのように変わったか?
N/A N/A N/A(上記の結果より分析する)
文化は上記すべての項目に 対して、どのような影響を 与えているか?
N/A N/A N/A(上記の結果より分析する)
表 3-21: クロス集計、カイ2乗分析結果とMCAの考察結果
番
号 変数
d-1国籍
MCA d-1国籍, d-2 経験
MCAの考察
クロス集計、カイ2乗分析 結果の考察
i-1 考 え 方 の違い
暗黙知の多い基準に対する考 え方(特に品質とリスク)に対
する違い。 N/A N/A
i-2
違 い の 気 づ き の時期
気づきの時期には日中差があ る。
日本:「開始時」「構築・テスト 時」
中国:「開始時」「構築・テスト 時」「最終」
MCA_1
MCA_1は、i_2 と ii_1 の結果を支持し、ii-4 の結果を一部修正し、新たな発見を追加した 結果となった。
日本:「開始時」「構築・テスト」時での 気づきと、「違いが明確」(形式知)
「要件定義」局面での気づきと「違いが不 明確」 (暗黙知)
また、経験の短い年代では、「違いが不明 確」と「共通理解」がもてないが関係があ る。
中国(経験の短いグループ):「開始時」
「構築・テスト」時での気づきと、「違い が明確」(形式知)「共通理解がもてた」
「共通理解」は経験が短い場合は、違いが 明確な場合は獲得できる。
経験の短いメンバーが最後に違いに気が付 いた(経験による理解)。
全般的に日本は暗黙知の違いが違い、中国 は、形式知の違いが違い。
ii-1 違 い の 明確さ
日本:違いがやや明確ではない
(暗黙知)
中国:違いは明確(形式知)
「PMBOK管理項目の基準値の 認識」の中でも、日本は暗黙知、
つまり「糊しろ」に関する部分 に違いを、中国は、形式知に近 い部分に違いを感じている。
ii-2 違 い の 明確化
日本:不明確な違いをそのまま 許容、明確化しない場合もあ る。
中国:違いは不明確であったた め、明確化した。
文化(曖昧さへの耐性)の影響
MCA_2
MCA_2は、ii_2 と ii_3 の結果を支持し、新
たな発見を追加した結果となった。
国籍とは関係なく、「違いを明確化した場 合」は、それによる「考えの変化」がある。
日本:「違いがやや不明確」(暗黙知)、
「明確化していない」、「明確化による変 化はない」、「共通理解がもてない」に関 係性がある。⇒文化(曖昧さへの耐性)の 影響、経験の影響。
中国:「違いが明確」(形式知)、「共通 理解がもてた」に関係性がある。
ii-3
明 確 化 に よ る 変化
日本:明確化しないので変わら ない。
中国:明確化によって考え方が 変わった。
MCA_2, MCA_3, MCA_4
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ii-4 明 確 化 の時期
日本:「開始時(暗黙知、形式 知)」(「構築・テスト時」)
中国:「構築・テスト時(形式 知)」(「開始時」)
日本の明確化対象は、暗黙知で あり、糊しろとしての「スコー プ、基準値の認識」の可能性が 高い(初期段階での明確化要)
中国は、「構築・テスト時」に おける明確化が多い。(違いが、
形式知に属するものであり、具 体的な内容)
MCA_4
MCA_4は、MCA_1と ii-4 の結果を一部修正
して支持した結果となった。
日本:「開始時」、「要件定義」、「構築・テスト」
局面で明確化した傾向
中国:「開始時」「構築・テスト」局面で明確化
日本の「開始時」における明確化対象は、ii-4 では、暗黙知としたが、MCA_1の結果より、形 式知も含まれることがわかった。
MCA_1とMCA_2より、「要件定義」において
は、「違いがやや不明確」(暗黙知)であり、
「明確化していない」場合もある。
ii-5 明 確 化 の相手
日本:中国メンバー 中国:日本のPM
日本は、中国のメンバーの管理 を行っているため、直接メンバ ーに問い合わせをしているが、
中国は、中国内部で問い合わせ ておらず、日本のPMに問い合 わせをしている。面子を重んじ る文化影響がある。
MCA_3, MCA_4
MCA_3は、ii-5, 6 の結果を支持した結果とな
った。
日本:「リアル傾向(暗黙知)」、「集団的明確 化」、ただし、中国のメンバーに対しては、個人 的な明確化方法。
中国:「バーチャル傾向(形式知)」、「個人的 明確化」
リアルか、バーチャルかは、まずは、物理的な 制約で決まるように思われる。
ただ、中国においては、インスタントメッセージ ングを多用しているためバーチャル傾向があ り、これは、面子を重んじる文化の影響であると 思われる。
また、形式知が多い中国はバーチャルでのや りとりが多く、暗黙知が多い日本は、リアルな環 境でのやりとりが多くなると思われる。
ii-6 明確化
の方法
日本:リアル、1対多の「集団 的な明確化」、
中国:バーチャル、
1対1の「個人的な明確化」
MCA_3 MCA
_3-1 MCA
_3-2
iii-1 共有化
中国の方が、共有化の割合が高 い傾向。日本は、暗黙知として の違いであるため、共有がしに くく、一方、中国は形式知であ るため、共有が容易
MCA_5
MCA_5は、iii-1の結果を支持した結果とな
った。
全体的に、中国のほうが、共有化傾向、共通 理解がある傾向がある。
iii-2 共有化
の方法
日本:会議(個人化戦略)
中国:DB(コード化戦略)
日本は暗黙知の共有が含まれ るため、文書化しにくいこと と、伝達する内容が多いため、
文書化するのに労力がかかる ためであると思われる。
中国は、集団・組織データベー スでの共有が多く、形式知の共 有をしている。
MCA_6
MCA_6は、iii-2の結果を支持した結果とな
った。
日本:「リアル」、「個人化戦略」、「個人的・集団 的共有傾向」 (暗黙知)
中国:「バーチャル」、「コード化戦略」、「集団 的・組織的共有方法」 (形式知)
※「知識経営スタイル」が異なる
バーチャルか、リアルかは、物理的な制約、文 化影響、知識のタイプ(形式知の共有か、暗黙 知の共有か)と関係する。
MCA _6-1
MCA _6-2
iv-1 共通
認識
中国のほうが、共通理解をもて たという傾向がある。認識の差 がある。
MCA_1,
MCA_5 MCA_1, 5 と同様
上記の分析結果を全体としてまとめ直し、図式化すると以下のように示され る(図 3-30)。左から右へプロジェクトの進行に合わせて4つのプロジェクト・
局面に分かれている。知識プロセスとしては、「気づき」⇒「明確化」⇒「共有 化」という 3 つに分かれている。上段(薄いピンク)が中国、下段(薄い青)
が日本の知識のプロセスを表している。中国は、お客様との要件定義に参加す ることはほとんどなく、日本側からの情報のインプットによって業務を行うた め、要件定義局面での活動は少なくなっている。活動がないわけではなく、日 本からの情報に基づき、日本のプロジェクト側とのやりとりが発生している。
日本と中国では、相互作用によって「気づき」があって、その「気づき」を 受け「明確化」があり、「共有化」に進むという知識プロセス自体に大きな違い はない。MCA_2 において、国籍とは関係なく、「違いを明確化した場合」は、
それによる「考えの変化」がある、と出ているため、「明確化」がこのプロセス の中で重要な位置づけとなっていることがわかる。「明確化」のためには、違い に「気づく」ことが必要となる。MCA_1で、違いは、日本と中国では異なると 出ているが、それぞれの個人における「気づき」があると言える。
MCA_3、MCA_4、MCA_5、MCA_6において、知識の特性(形式知・暗黙知)
と「知識経営スタイル」には違いが見られる。赤の点線で囲まれた部分は、「知 識経営スタイル」による活動を表現している。
「知識経営スタイル」に関して
「知識経営スタイル」とは、知識の創造プロセスを進めてゆく上での、新し い概念として、手段や存在論的レベル、場の様式のことと定義する。「どのよう な方法」で「どのような存在論的レベル」で「どのような場」で形式知、暗黙 知を創造するかの方法に関する概念であり、文化的な観点を取り入れている。
「いかに/誰と/どこで」知識を創造するかと言い換えることができる。例えば、
「どのような方法」とは、コード化によるか(コード化戦略)、人による伝達か
(個人化戦略)などのナレッジマネジメント戦略のことであり、「どのような存 在論的レベル」かとは、個人か、集団内か、組織内かを指す。「どのような場」
とは、リアルか、バーチャルか、といったことを指す。手段、存在論的レベル、
場の様式のすべてを含む場合もあれば、このうちのいくつかの要素を含む場合 がある。ナレッジマネジメント戦略は、個人化戦略かコード化戦略かという「ど のような方法で」を対象にするため、「知識経営スタイル」の方が、対象となる