第 7 章 MBO は過剰買収防衛を引き起こすか 88
7.3 MBO による買収防衛
7.3.1 均衡価格の決定
買収競争における均衡価格の決定について考える.ここでは,ϕ0を所与として,各領域 ごとに均衡価格の決定について考える.各領域ごとに見ていく必要があるが,均衡におけ
bm
ϕr 0 1
(1−ϕ0)V0+ 1V−mα
(1−α+αϕ0)V0+Vm−αVr
1−α
(1−α+αϕ0)V0+Vm
1−α
(7.11)式 (7.13)式
図7.5: 既存の経営者の最大提示価格
る価格の決定で,重要になるのは小株主の留保価格と敵対的買収者の最大提示価格の大小 関係である.ここでは,その2つの関係に注目して,均衡価格の決定についてみることに する.均衡戦略を導出するにあたり,既存の経営者の最大提示価格¯bmと敵対的買収者の最 大提示価格¯brの傾きの大きさだけについてみてみると,
d¯br
dϕr = αVr−γϕr 1−α d¯bm
dϕr = αVr 1−α
であり,ϕr = 0のときに等しいことが分かる.このことを利用して均衡戦略を求める.
領域I〜IIIの場合 まず領域I〜IIIでは,ϕrが1に近いところ以外では,少なくとも敵対 的買収者の最大提示可能価格が小株主の留保価格を上回るので,既存の経営者がMBOを成 功させるためには,少なくとも¯bm ≥¯brの価格を提示することが必要である.ここで(7.13) 式が¯brより上方に位置すれば,MBOが成功する.ここで,先ほど求めた傾きの関係より,
切片が同じであれば,常に既存の経営者の最大提示価格は敵対的買収者の最大提示価格以 上であることが分かる.よって¯bm(0) = ¯br(0)となるVmの値を求めるとVm ≥Vr−Cで あることが分かる.よってVmの大きさで場合分けして考えていく.
Vm > Vr−Cのとき,敵対的買収者はどのような価格を提示しても買収できないので,
買収から得られる利得はゼロである.したがって,敵対的買収者は,買取競争に負けるの で,ϕr= 0とする.
一方,既存の経営者は敵対的買収者の最大提示価格¯br(ϕr)を提示しておけば,MBOを 成立させることができる.よって均衡での既存の経営者の提示価格をb∗mと定義すると
b∗m= (1−ϕ0)V0+Vr+ ϕ0V0
1−α (7.14)
を提示すればMBOを成功させるのに十分である.従って,敵対的買収者の利得はΠr= 0, 一方,既存の経営者の利得は
Πm =α(1−ϕ0)V0+Vm−(1−α)Vr+C (7.15) である.
次にVm < Vr−Cのときを考える.このとき敵対的買収者はϕrの選択の仕方によって
は,小株主に対して既存の経営者の最大提示価格以上の価格提示が可能になる.すなわち,
敵対的買収者はがTOBを成功させるための条件はbr= max{(1−ϕ0)V0,¯bm(ϕr)}であり,
提示価格bmは
bm=
(1−ϕ0)V0 if 0≤ϕr <1−VmαV+ϕr0V0
¯bm(ϕr) if 1−VmαV+ϕr0V0 ≤ϕr ≤1 (7.16) ここで最適な私的便益割合ϕrを求めるために,制約条件を無視し,(7.1)式に(1−ϕ0)V0
を代入して整理すると,最大化問題は次のように定式化される.
maxϕr
ϕ0V0+ (1−α)(1−ϕr)Vr+ϕrVr−γϕ2r 2 −C
一階条件を求めると,ϕ∗r = αVγr が得られる.ここで制約条件から,内点解となるVmの範 囲を求めると,
Vm ≤α (
1− αVr
γ )
−ϕ0V0
を満たすときである.一方,¯bm(ϕr)を(7.1)式に代入したときの最大化問題は maxϕr
(1−α)(1−ϕr)Vr+ϕrVr−γϕ2r
2 −Vm+α(1−ϕr)Vr−C
であり,一階微分より単調減少関数であることが分かる.よって最適な私的便益割合は
ϕ∗r = 1−Vm+ϕ0V0
αVr
である.よって,均衡戦略は次のようになる.
0< Vm < α (
1−αVr
γ )
−ϕ0V0のとき (b∗m, b∗r, ϕ∗m, ϕ∗r) =
(
0,(1−ϕ0)V0,0,αVr
γ )
(7.17) α
(
1−αVr γ
)
−ϕ0V0 ≤Vm < Vr−Cのとき (b∗m, b∗r, ϕ∗m, ϕ∗r) =
(
0,(1−ϕ0)V0,0,1−Vm+ϕ0V0 αVr
) (7.18) また各均衡での既存の経営者と敵対的買収者の利得を求めると,0< Vm < α(1−αVγr)−ϕ0V0 のとき,
Πm = α {
(1−ϕ0)V0+ (
1−αVr
γ )
Vr
}
(7.19) Πr = (1−α)Vr−Vm−C+α2Vr2
2γ (7.20)
となる.α(1−αVγr)−ϕ0V0≤Vm < Vr−Cのとき,
Πm = α{(1−ϕ0)V0+Vm+ϕ0V0 (7.21) Πr = Vr−Vm−γ
2 +γ(Vm+ϕ0V0)
αVr −γ(Vm+ϕ0V0)2
2α2Vr2 −C (7.22) が得られる.
領域II,領域IIIの領域Iとの違いはCの大きさだけであり,それ以外は同様の議論と なる.従って,得られる結果は同じである.
領域IV〜V 次に領域IVとVについて考える.この領域は,敵対的買収者の私的便益割 合が極端に高い場合や低い場合は,¯brが小株主の留保価格を下回ってしまう場合である.
今までと同様にVmの大きさで場合分けして,均衡における戦略の組を求めていく.
Vm≥α(1−ϕ˜r)Vr−ϕ0V0のとき,このとき,敵対的買収者は小株主の留保価格,または 既存の経営者が提示できる最大価格を超える価格を提示することができない.したがって,
TOBを成功させることはできないので,前節と同様に得られる利得はゼロである.よって 私的便益割合もϕr = 0とすることが最適である.よって均衡戦略の組は(b∗m, b∗r, ϕ∗m, ϕ∗r) = ((1−ϕ0)V0,0,0,0)となる.またこのときの既存の経営者の利得は
Πm= (α+ϕ0−αϕ0)V0+Vm (7.23)
br
ϕr αVr
γ 1
V0+Vr+αϕ1−0Vα0 −1−Cα
0
Πr = 0 bm
図7.6: Vm≥Vr−Cのときの均衡解
となる.一方,Vm < α(1−ϕ˜r)Vr−ϕ0V0のときは,領域Iの場合と同様の結果となるの で,均衡解は(7.17)式と(7.18)式と同様の結果となる.
領域VI,VIIの場合 領域VIとVIIの違いはCの大きさのみであるので,同時に考え る.これらの領域では小株主の留保価格が敵対的買収者の最大提示価格¯brを上回るので,
もはやTOBが成功することはない.したがって,均衡では敵対的買収者は私的便益を得 ることはない..従って均衡戦略の組は(b∗m, b∗r, ϕ∗m, ϕ∗r) = ((1−ϕ0)V0,0,0,0)となり,既存 の経営者の利得も(7.23)式と同じ利得である.
以上の議論より,均衡において次の命題を得る.
命題1 買収競争が行われる場合,買収コストCと既存の経営者がMBOに成功した時の 追加的企業収益Vmの大きさによって,MBOが成功するか,敵対的買収者によるTOB が成功するかが決まる.買収コストが非常に大きいときはVmの大きさに関係なくMBO が成功する.しかしながら,ある程度買収自体にかかるコストCがそれほど大きくなけれ ば,Vmの大きさによってどちらかが成立する.Vmが大きいときはMBOが成功し,その とき,敵対的買収者は私的便益を得ることはしない.一方Vmが小さいときは,敵対的買 収者はTOBを成功させるために,ある程度の私的便益を得て,自己のTOBを成功させ ようとし,Vmが小さくなるほど,その私的便益割合ϕrを一定のところ(ϕr= αVγr)まで大 きくする.
br
ϕr
αVr
γ 1
0
Πr= 0
¯bm
ϕ˜r
(1−ϕ0)V0
br
ϕr
αVr
γ 1
0
Πr = 0
¯bm
ϕ˜r
(1−ϕ0)V0
図 7.7: Vm< Vr−Cのときの均衡解(左:端点解,右:内点解)
敵対的買収者はTOBを成功させられそうな場合は,ある程度の私的便益を得ることで,
自己の提示価格を高くすることができる.すなわち,提示価格の原資の一部とすることで,
TOBを成功させようとする.しかしながら,買収コストが上昇してしまえば,小株主の留 保価格以上の価格が提示できなるなので,TOBを断念することになる.一方,既存の経営 者は買収コストが小さい間はMBOによる追加的企業収益がある程度大きくなければMBO を成功させることができないが,買収コストが高くなるにつれて,追加的企業収益が小さ くとも,MBOを成功させることができる.