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第 7 章 MBO は過剰買収防衛を引き起こすか 88

8.6 おわりに

Vl E( ˆVl)

(1 +η)VE( ˆVlh) Vh (1 +η)Vh bim Πim

αVl αVr αVh (1 +η)Vl Vh

0 Vr

図 8.11: E( ˆVl)< Vr<(1 +η)Vlの範囲で一括均衡が実現する場合

これは提訴の可能性があることで,一括戦略を選択したときの期待利得が下がるため,Vh タイプはそれを防ぐために,分離戦略を選択し,より高い利得を確保しようとするインセ ンティブが働くことを意味している.一方,提訴による真の企業価値を発見する確率が低 い場合,一括戦略をとった方がVhタイプにとっては,タイプが分からないことからのレン トを得られるため,タイプを自ら明らかにする分離戦略を選択するインセンティブはない.

このように提訴が無いときは,E( ˆVl) < Vr <(1 +η)Vlの範囲において,分離戦略に逸 脱する可能性が全くなかったが,小株主の提訴により,裁判所に真の企業価値が発見され る可能性が高ければ,既存の経営者は,自らのタイプを申告させるような価格戦略をとら せる効果があるといえる(図8.13).

Vl E( ˆVl)

(1 +η)Vl

E( ˆVh) Vh (1 +η)Vh

bim Πim

αVl αVr αVh (1 +η)Vl Vh

0 Vr

図8.12: 分離均衡の場合

ことが言える.

提訴がなければ,強力でない潜在的買収者が現れたとき,既存の経営者は自らタイプを 表明することで,低い企業価値が実現するときの利得を得ようと考えるため,分離戦略を 選択する.しかしながら,既存の経営者はある程度,強力な潜在的買収者が現れた場合,高 い企業価値を得られる状況ならば,より多くのレントを得ようとするため,自らのタイプ を表明せず,MBO買取価格を低く抑えようとする.さらに強力な潜在的買収者が現れ,ま た低い企業価値が実現したときは,潜在的買収者よりも高い価格を提示してまでMBOを 行うことはなく,高い企業価値が実現したときのみMBOを実施しようして,自らのタイ プを表明することを選択する.

しかしながら,提訴の可能性は既存の経営者の価格戦略行動を変化させる場合がある.あ る程度強力な潜在的買収者が現れたとき,提訴が無ければ,レントを得るために自らのタ イプを表明せず,MBO価格を低くしようと行動していた既存の経営者は,提訴され,高 い確率で真の企業価値を裁判所に発見される可能性があると,既存の経営者は自らタイプ を表明するようになる.これらの結果をまとめると,潜在的買収者の存在は買収価格競争 を促進させるが,必ずしも既存の経営者が自らのタイプを明かすとは限らず,ライバルが

1 1

q

p 提訴する

提訴しない

0

q= ηVVhVr

h+VhVr

分離均衡 一括均衡

図8.13: 一括均衡と分離均衡の領域図

非常に強力でなければ,一括戦略を採用し,自らのタイプを明かさずにレントを得ようと する.しかし,このようなレント獲得行動は,小株主による訴訟によって解消される可能 性があり,提訴による真の企業価値を裁判所が高確率で発見できるならば,タイプを表明 する価格戦略に行動を変更させ,より効率的な買収を促す効果がある.しかしながら,本 文中の分析で明らかにしたように,裁判所の発見確率の精度が,既存の経営者の行動を変 化させるため,裁判所が真の企業価値を発見できる能力の問題が重要である.したがって,

株式取得価格決定に関する裁判を考える上で,裁判官の企業価値算定能力をどのようにし て高めていくかが必要であると思われる.

本章では必ずMBOTOBが実施される結果が得られたが,現実にはテーオーシーの ように,MBOの実施に対し,対抗措置としてTOBも行われたが,ともに不成立となる という場合がある.この現実の結果は,本章の分析結果には当てはまっていない.このよ うな場合について理論的分析することは非常に重要であり,今後の重要な課題である.ま た,分析の簡単化のために,潜在的買収者のタイプがすべての主体にわかるという仮定の もとで分析を行っているが,どのような潜在的買収者が参入してくるかは,既存の経営者 がMBOを実施する前にはわからないはずである.また,裁判所が最適な発見確率を政策 的に決定する可能性もあるが,ここでは扱っていない.今後は,現実に起きている例に対す る分析のためにも,本章での単純化した仮定を緩めて,分析として加えていく必要がある.

ドキュメント内 経営者による保身行動と買収防衛の経済分析 (ページ 149-152)