第 3 章 経営者の保身行動とステークホルダーの投資 21
3.5 付録
命題1の証明を行う.ここでの証明方法は外部経済の大きさで場合分けを行い.各領域 においての期待社会厚生の比較を行えばよい.
非協力のときの社会厚生は投資は行われないので,新経営者がコントロール権をもとの で,θrV である.ここで,既存の経営者によるオファーがステークホルダーによって受け 入れられるときの期待社会厚生は
SW
(√2θmB a
)
= θm
{(
1 +
√2θmB a
)
δV +B }
−a 2
(√2θmB a
)2
= θm
( 1 +
√2θmB a
)
δV (3.22)
である.ここでファーストベストの利得と比較を行なう.ファーストベストの利得は外部 経済とコストパラメータの大きさによって異なるので場合分けして考える.
3.5.1 外部経済が小さいとき
0≤B <(1−δ)V の範囲おいてコストパラメータが大きいとき,すなわちa≥ θ2∆θ2mV の とき,このときの利得は非協力投資のときと同じである.ここで(3.22)式とθrV の比較を 行なうと
a > 2θm3δ2B
(θr−δθm)2 (3.23)
が得られる.従ってファーストベストのときのほうが大きくなる.
次にa < θ2∆θ2mV のとき,このときのファーストベストの社会厚生は第2章でも示したように
(2.20)式である.ここで協力解において投資水準が最大となる可能性があるB = (1−δ)V
ときと比較してそれよりもファーストベストのときの社会厚生の方が大きければそれ以下 の外部経済の大きさでもファーストベストが大きい.よってB= (1−δ)V を代入して比較 すると,
SWF B (θmV
a )
−SW
(√2θmB a
)
= (1−δ)θmV +(θmV)2 2a −
√2θm(1−δ)V a θmδV
= θm {
1−δ−
√2θm(1−δ)V
a +θmV 2a
}
+ (1−δ)
√2θm(1−δ)V a
= θmV 2
{
2(1−δ)−2
√2θm(1−δ)V
a + θmV a
}
+ (1−δ)
√2θm(1−δ)V a
= θmV 2
{√
2(1−δ)−2
√2θm(1−δ)V
a +
√θmV a
}
+ (1−δ)
√2θm(1−δ)V a
= θmV 2
{√
2(1−δ)−
√θmV a
}2
+ (1−δ)
√2θm(1−δ)V
a ≥0 (3.24)
が得られ,ファーストベストのときの期待社会厚生の方が大きいことがわかる.
3.5.2 外部経済が中程度のとき
(1−δ)V < B≤ δ(1δθr−−δ)θ∆θr のときを考える.投資しないことがファーストベスト(e∗∗F B = 0) のときの社会厚生と比較する.比較する領域の中で,最小となるaと最大のBの値を代
入して比較したときにファーストベストの社会厚生が大きければ,この領域において常に ファーストベストの方が大きくなる.すなわち,a= θm(δθ2∆θr−∆θ)δV とB = δ(1δθ−δ)θr
r−∆θV を代 入して式を変形すると,
SWF B(0)−SW (
2√
(1−δ)∆θθr
δθr−∆θ )
= δθm
δθr−∆θ {√
∆θ−√
(1−δ)θr
}2
V >0 (3.25) よってファーストベストの時の社会厚生のほうが大きくなることが分かる.
次にコストパラメータが小さいときを考える.このときeF B = θmaV である.ここで協 力したときの社会厚生の式は
θm{δ(1 +e)V +B} −ae2
2 (3.26)
である.この式の値が最大となるのは投資水準がe∗∗F B = δθmaV のときである.これを社会 厚生関数に代入すると,
SW
(δθmV a
)
=θrV +θmB+(δθmV)2
2a (3.27)
である.ここで,第2章の(2.20)式と(3.27)式の期待社会厚生を比較し,(2.20)式の社会 厚生が大きくなる条件は,
a≤ (1−δ2)θm2V2
2{B−(1−δ)V} (3.28)
である.また,第2章の(2.20)式がファーストベストとなるのは,コストパラメータと外 部経済の値が
a < (θmV)2
2{(θrδ−θm)V +θrB} (3.29) の関係を満たしているときである.この領域と先ほど求めた条件式を比較すると,
(1−δ2)θ2mV2
2{B−(1−δ)V} − (θmV)2
2{(θrδ−θm)V +θrB}
= θmV2 2
{∆θ{(δ(1−δ)V) +B} −δ2θr(B−(1−δ)V) {B−(1−δ)V}{(θrδ−θm)V +θrB}
}
(3.30) が得られる.いま限定している外部経済の範囲内で最大となるB = δ(1−δ)θθ r
rδ−∆θV Eを代入し ても(3.30)式は正となる.すなわち,(3.28)式が(3.29)式より大きいことを意味する.こ れを図で示すと,(3.28)式の曲線が(3.29)式の曲線より上方のあることがわかる.従って,
第2章の(2.20)式の最大値は(3.27)式の最大値より大きいことがわかる.以上のことから,
SWF B (θmV
a )
> SW
(√2θmB a
)
(3.31) が成り立つ.
3.5.3 外部経済が大きいとき 最後にδ(1δθ−δ)θr
r−δθ < B≤V のときについて考える.コストパラメータが小さいときについ
て考える.このときの期待利得の差は
SWF B
(θmδV a
)
−SW
(√2θmB a
)
= θm(δV +B) +(θmδV)2
2a −θmδV (
1 +
√2θmB a
)
= 1 2
(√2θmB−θmδV
√a )2
>0 (3.32)
よって協力したとしてもファーストベストより利得は小さい.次に投資しないことがファー ストベストのときについて考える.このときの任意のaに対して協力したときの投資水準 が最大となるのはB =V を代入したときである.このときのa= 2∆θ(1+δ)V(θmδV)2 である.これ らの値を代入したときの期待社会厚生の差を求めると,
SWF B(0)−SW (2√
(1 +δ)θm∆θ θmδ
)
= θr(δV +V)−θmδV (
1 +
√2θmV a
)
= (∆θ+θm)(1 +δ)V −θmδV (
1 +2√
(1 +δ)θm∆θ θmδ
)
= θm−2√
(1 +δ)θm∆θ+ (1 +δ)∆θ
= (√
θm−√
(1 +δ)∆θ )2
V >0 (3.33)
よってファーストベストと一致することはない.