2011 年 3 月の東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(福島原子力事故)が示したように、
原子力事故は、施設周辺及び近隣地域住民や環境に損害を与えるのみならず、1986 年のチェルノ ブイリ原発事故のように近隣諸国にも損害を与える可能性がある。
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NPT では保障措置とは異なり、原子力安全に係る義務の負荷はない。また、MNA 構築の主要な目 的も核不拡散であるが、MNA においても各国毎の原子力施設同様、MNA 施設における安全確保が最 優先事項の一つであることに変わりない。加えて原子力施設の安全に係る脆弱性は核セキュリテ ィ対策の脆弱性ともなり得、核セキュリティの観点からも原子力安全の確保が必要となる。
原子力安全条約はその前文で「原子力の安全に関する責任は原子力施設について管轄権を有す る国が負うことを再確認し~」と規定し、原子力安全確保の責任は、施設を管轄する国家にある。
同条約が対象とする施設は発電用原子炉であるが、原子炉以外の原子力施設においても、その管 轄権を有する国が最終的な安全確保の責任を有することは言うまでもない。
以下に、原子力施設の安全に係る国際基準や国際条約の概要、福島原子力事故後の原子力安全 強化に向けた国際的な動きを概観し、MNA 施設における安全確保の枠組みを提案する。そしてユ ーラトムにおける原子力安全確保の仕組みや現況と比較しつつ、その評価を行う。
2)-1 原子力安全に係る国際的な基準と国際条約
IAEA は、IAEA 憲章に基づき、原子力施設、放射線防護、放射性廃棄物管理及び放射性物質の輸 送等に係る安全文書を作成しており、これらは「IAEA 安全基準文書(IAEA Safety Standards Series)」と呼ばれる。この IAEA 安全基準文書は、体系的に安全原則(安全概念、目標、基本原 則を記載)、安全要件(安全確保のための基本的な要求をテーマ及び施設別に記載)、安全指針(安 全要件記載の重要な基本事項につきこれを満足させる具体的方法を記載)から構成される。これ らの IAEA 安全基準文書は IAEA 加盟国を法的に拘束するものでなく、各国の原子力活動における 国際的な規制基準として加盟国自身がその裁量で使用される。また IAEA は、これらの基準に加盟 国の対応が合致しているかをレビューする活動を行っている15。
原子力安全に係る国際条約としては、チェルノブイリ原発事故後を契機とし、原子力安全 4 条 約と呼ばれる 4 つの条約がある。それらは、①原子力事故の早期通報に関する条約(原子力事故 早期通報条約)16、②原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約(原子力事 故援助条約)17、③原子力の安全に関する条約(原子力安全条約)18及び④使用済燃料管理の安全 及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(放射性廃棄物等安全条約)19であり、それらの目的と 条約で規定された義務は下記の表の通り。
15ピアレビューの例としては、Emergency Preparedness Review (EPREV) Service, Design and Safety Assessment Review Service (DSARS), Integrated Regulatory Review Service (IRRS), Operational Safety Review Team (OSART) programme、Integrated Safety Assessment for Research Reactors(INSARR)、Site & External Events Design Review Service (SEED), Transport Safety Appraisal Services (TranSAS), Radioactive Waste Safety Services, Occupational Radiation Protection Appraisals (ORPAS)等がある。
16Convention on Early Notification of a Nuclear Accident
17Convention on Assistance in the Case of a Nuclear Accident or Radiological Emergency
18Convention on Nuclear Safety
19Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management
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表 6.2 原子力安全に係る国際条約の目的及び義務20
条約 目的 条約上の義務
①原子力事故 早期通報条約
国境を超える影響を伴う原子力事故が 発生した場合、事故情報を早期に通報す ることにより、その影響を最小限にとど めること
国の担当機関を指定し、上記の原子力 事故が発生した場合に、通報を実施
②原子力事故 援助条約
原子力事故等において援助の提供を容 易にするための国際的な枠組みを定め ることにより、原子力事故等の影響を最 小限に止めること
援助を要請する締約国は援助提供国 に必要情報を提供。援助の要請を受け た締約国は、可能な援助の範囲を決定 し、直接又は IAEA を通じて要請締約 国に通報
③原子力安全 条約
発電用原子炉施設の高い水準の安全を 世界的に達成・維持すること
3 年以内に一回開催される締約国検 討会合に、条約を履行するためにとっ た措置について国別報告を出し、締約 国間で相互評価(ピアレビュー)を実 施21
④放射性廃棄 物等安全条約
使用済燃料及び放射性廃棄物管理の高 い水準の安全を世界的に達成・維持する こと
上記の表のうち、③は、IAEA 安全基準に比し、概念規定にとどまっている。また条約の適用対 象施設を民生用原子力発電所に限定し、基本的に個々の締約国が原子力発電所の安全に係る責任 と管轄権を有すると位置づけている。2012 年 4 月現在、③の締約国は 75 カ国で、原子力発電所 を有する国は全て締約国となっており、締約国は、具体的には以下の義務を有する。
条約履行のための国内立法措置の履行及び維持
規制機関の推進機関からの分離
原子力施設の立地、設計、建設及び運転に関し適切な方法を講じること
作業員及び公衆の放射線防護に関する適切な措置及び緊急事態のための準備の実施
原子力施設の建設前、試運転前及び供用期間中、安全に関する包括的かつ体系的な評価の実 施
原子力施設に関する国別報告書の検討会議(Review Meeting)への提出。検討会議は報告書 に関し検討(review)し、各国は指摘・推奨された事項につき原子力施設の停止を含め適切 に対応する
また上記の④は、以下の原則を規定している。
放射性廃棄物はその管理の安全と両立する限り、それが発生した国において処分されるべき ことが原則(同条約前文(xi)の前段)
20原子力安全規制委員会ホームページ
http://www.nsr.go.jp/archive/nisa/genshiryoku/international/international_2.html、 (アクセス日:
H24.1.22)
21 原子力安全条約に関し、2011 年 6 月現在、74 ヵ国が同条約に加盟し、同年 4 月の第 5 回検討会議では 29 カ国 が国別報告書を提出しレビューを受けている
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いかなる国も、外国の使用済燃料及び放射性廃棄物の自国の領域内への輸入を禁止する権利 を有する(同条約前文(xii))
放射性廃棄物が共同事業により発生する場合には、いずれかの締約国の施設をその他の締約 国のために利用するという締約国間の合意によって、使用済燃料及び放射性廃棄物の安全か つ効率的な管理が助長され得ることを認めている(同条約前文(xi)の但し書き以降)
なお、④については輸出管理の項で再度言及する。
③及び④が規定するように、原子力安全は、後述の核セキュリティ対策同様、その責任と管轄 権は基本的に国家の責任となっている。原子力安全に関しては、①及び②の国際条約では情報共 有を基本とし、③及び④の国際条約では各国による原子力施設の自己評価の実施と、検討会議で の各国間の相互評価の実施、さらに検討会議で指摘された事項に対応する義務が規定されている。
その点は、各国間の情報共有がなく、各国及び各国間での自己及び相互評価がなされない核セキ ュリティ確保に係る国際条約とは異なる。
2)-2 福島原子力事故を受けた原子力安全強化の動き
2011 年 3 月の福島原子力事故以降、2013 年 1 月まで、原子力安全に係り、「安全で革新的な原 子力エネルギーの利用に関するキエフ・サミット(2011 年 4 月)」、「原子力安全条約レビュー会 議(2011 年 4 月)、「仏・OECD/NEA 共催閣僚会合(2011 年 6 月)」、「原子力安全に関する IAEA 閣 僚会議(2011 年 6 月)」、「IAEA 年次総会(2011 年 9 月)」、「原子力安全及び核セキュリティに関 する国連ハイレベル会合(2011 年 9 月)」、「原子力安全に関する福島閣僚会議(2012 年 12 月)」 等の国際会議が相次いで開催され、原子力の安全確保の重要性と安全強化の必要性が議論等され た。
うち、IAEA 安全基準については「原子力安全に関する IAEA 閣僚会議」で、加盟国における基準 の遵守の強化が議論されたが、意見が分かれ、同会議の閣僚宣言では、「IAEA の安全基準は継続 的に見直され、強化され及び可能な限り広範かつ効果的に実施されるべき」との記載に止まった22。 この閣僚宣言を受けて策定され、同年 9 月の IAEA 理事会及び総会で承認・確定されたものが「原 子力安全に関する IAEA 行動計画」であるが、同計画においても IAEA 安全基準は必要に応じて改定 することが記載されたのみで、その実施期限は設定されていない。
また③原子力安全条約については、「原子力安全に関する IAEA 閣僚会議」で「安全調査に強制 力を持たせるための原子力安全条約改正の是非が焦点となったが、改正への慎重論が大勢を占め た。天野 IAEA 事務局長も改正には慎重姿勢を見せており、同条約以外の枠組みで安全体制を強化 することが固まった」と報じられている23。
「原子力安全に関する IAEA 閣僚会議」で天野 IAEA 事務局長は、世界中の 440 の原子炉の 1 割 をランダムに選び抜き打ちにピアレビューを行うことを提案したが、「原子力安全に関する IAEA
22外務省ホームページ http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/backdrop/pdf/110621-01.pdf
23日本経済新聞電子版 2011 年 6 月 24 日記事「原子力安全調査への強制力付与は見送り IAEA」、
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASGM2307I_U1A620C1EB2000 (アクセス 日:2013 年 1 月 22 日)