我が国は,既に述べたように,地震,津波,火山,風水害等様々な災害を受けやすい。そのた め,常にあらゆる災害に備える必要がある。特に大規模な災害の場合,第 1 章の教訓にあるように,
災害対応に想定外はあってはならず,楽観的な想定ではなく,悲観的な想定を行う必要がある。
現在,南海トラフの巨大地震,首都直下地震,広域的に影響を及ぼす火山噴火,大規模水害等が 発生した場合には,東日本大震災と同等かそれを上回るような大きな被害が生じる可能性がある。
このため,中央防災会議において「防災対策の充実・強化に向けた当面の取組方針」が決定され,
特に速やかに取り組むべきものとされている。
東日本大震災を踏まえた災害対策の推進東日本大震災を踏まえた災害対策の推進第第
2 2編編
第
2 章
政府 に お い て 取り 組 ん で きて い る 災 害 対策
図表 1-2-6 1600 年以降に南海トラフで発生した巨大地震
出典:内閣府資料
① 南海トラフの巨大地震
(南海トラフの巨大地震対策の必要性)
駿河湾から九州にかけての太平洋沖のフィリピン海プレートと日本列島側のユーラシアプレート 等の大陸側のプレートが接する境界に南海トラフは形成されている。南海トラフでは,100 年から 150 年程度の周期でマグニチュード 8 クラスの海溝型地震が発生しており,東海,東南海,南海地 震の三つの震源域が同時あるいは一定の時間差をもって動くことによる地震が過去生じている。
近年では,安政元年(1854 年)に安政東海地震と安政南海地震が,昭和 19 年(1944 年)に昭和 東南海地震が,昭和 21 年(1946 年)に昭和南海地震が発生している。このため,東海地震につい ては 158 年間の空白があり,また,東南海・南海地震については前回地震から 60 年余りが経過して いることから,今世紀前半にもこの地域での地震の発生が懸念されている。
(最大クラスの地震・津波の考え方)
従来の南海トラフで発生する大規模な地震の想定は,過去に発生した地震と同様な地震に対して 備えることを基本として,過去数百年に発生した地震の記録を再現することを念頭に地震モデルを 構築してきた。しかし,地震・津波対策専門調査会の考え方に基づき,最大クラスの地震・津波に ついて検討を進めていくことが必要となった。これにより,これまでの科学的知見に基づき想定す べき最大クラスの対象地震の設定方針を検討するため,内閣府に「南海トラフの巨大地震モデル検 討会」を設置した(平成 23 年 8 月)。
東日本大震災を踏まえた災害対策
第第
1 1部部
検討会においては,まず,南海トラフで発生した過去の地震について,古文書調査,津波堆積物 調査,遺跡の液状化痕跡調査及び地殻変動調査をもとに検討し,その結果,宝永 4 年(1707 年)の 宝永地震時を上回る津波が 2000 年前に発生している可能性がある一方で,現時点の資料では,過 去数千年間に発生した地震・津波を再現しても,それが今後発生する可能性のある最大クラスの地 震・津波とは限らないことも明らかとなった。
図表 1-2-7 南海トラフの巨大地震の新たな想定震源断層域
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出典:「南海トラフの巨大地震モデル検討会」資料
このため,地震学的知見を踏まえ,あらゆる可能性を考慮した巨大地震モデルを構築することと した。具体的には,プレート境界の形状等の断層モデルに係る科学的知見を踏まえ,最大クラスの 想定震源断層域を設定することとした。
この考え方に基づいて,平成 24 年 3 月の中間取りまとめでは,南海トラフの巨大地震の新たな想 定震源断層域を設定し,中央防災会議が平成 15 年に公表した従前の東海・東南海・南海地震の想 定震源断層域よりも大きく拡大することとなった。
(最大クラスの震度分布・津波高)
内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」は,平成 24 年 3 月 31 日に開催された第 15 回検 討会において,最大クラスの震度分布・津波高(50m メッシュ)の推計結果を第 1 次報告として取 りまとめた。
地震・津波対策専門調査会の報告書は,今後,地震・津波の想定に当たって,「あらゆる可能性 を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである」とし,「想定地震,津波に 基づき必要となる施設設備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても,ためらうこと なく想定地震・津波を設定する必要がある」と指摘している。今回報告された震度分布・津波高
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は,このような考え方に沿って推計したものである。特に,津波高は,同報告書に示されている二 つのレベルの津波のうち,「発生頻度は極めて低いものの,発生すれば甚大な被害をもたらす最大 クラスの津波」に相当するものを推計している。なお,同報告書は,このような最大クラスの津波 に対しては,住民等の避難を軸に,土地利用,避難施設,防災施設等を組み合わせて,総合的な津 波対策により対応する必要があるとしている。
今回の推計は,東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえた新たな考え方,すなわち,津波地震や広 域破壊メカニズム等,あらゆる可能性を考慮した最大クラスのものであって,南海トラフ沿いにお いて次に起こる地震・津波を予測したものでなく,また何年間に何%という発生確率を念頭に地 震・津波を想定したものでもないことに留意する必要がある。
(震度分布の推計結果)
最大クラスの震度分布は,強震波形計算による震度分布 4 ケース及び経験的手法による震度分布,
計 5 つの震度分布の最大値を重ね合わせたものである。その結果は,図表 1-2-8 のとおりで,関東か ら四国・九州にかけて極めて広い範囲で強い揺れが想定される。
具体的には,震度 6 弱以上が想定される地域は 24 府県 687 市町村,震度 6 強以上が想定される地 域は,21 府県 395 市町村,震度 7 が想定される地域は 10 県 153 市町村である(市町村数には政令市 の区を含む)。
図表 1-2-8 最大クラスの震度分布図
出典:「南海トラフの巨大地震モデル検討会」資料
(津波高の推計結果)
津波高は,11 ケースの津波断層モデルについて,50m メッシュ単位で推計した。最大クラスの 津波高は,これら 11 ケースの津波高の最大値を重ね合わせたものである。その結果は,図表 1-2-9 のとおりで,関東から四国・九州の太平洋沿岸等の極めて広い範囲で大きな津波が想定される。
具体的には,満潮位の津波高 10m 以上が想定される地域は 11 都県 90 市町村,満潮位の津波高
東日本大震災を踏まえた災害対策
第第
1 1部部
20m 以上が想定される地域は 6 都県 23 市町村となる(市町村数には政令市の区を含む)。
なお,この津波高は,今後行われる予定である 10m メッシュ単位による推計の結果によって変 更される可能性がある。
図表 1-2-9 最大クラスの津波高
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出典:「南海トラフの巨大地震モデル検討会」資料
(今後の推計予定)
「南海トラフの巨大地震モデル検討会」では,さらに詳細な 10m メッシュ単位の津波高,津波に よる浸水域,安政元年(1854 年)の安政東海地震と安政南海地震や昭和 19 年(1944 年)の昭和東 南海地震と昭和 21 年(1946 年)昭和南海地震のように時間差をおいて発生する場合,長周期地震 動等について検討を進める予定である。
(現在の取組)
「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による震度分布や津波高等を受けて,中央防災会議「防 災対策推進検討会議」の下に新たに「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」を設置し た(平成 24 年 3 月 7 日)。このワーキンググループでは,人的・物的被害や経済被害等の推計や被 害シナリオの検討,東日本大震災の教訓を踏まえた南海トラフ巨大地震対策について検討すること としている。本年夏頃には,当面実施すべき南海トラフの巨大地震対策を取りまとめ,その後,経 済被害等の推計を踏まえて,本年冬頃までに南海トラフの巨大地震対策の全体像を取りまとめる予 定である。
また,国,地方公共団体,ライフライン・インフラ事業者等の官民の関係機関が,それぞれ行っ ている南海トラフ巨大地震対策の実効性を高めるため,平素から幅広く集まり,相互の連携を確実 にしておくことが必要であることから,「南海トラフ巨大地震対策協議会」を設置し,第 1 回協議 会を開催した(平成 24 年 6 月 4 日)。
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