第六章 . リザーバ外付け型ループヒートパイプの地上実験
6.6 地上実験モデルの実験結果と考察
6.6.5 動作温度制御
本実験ではリザーバを蒸発器内蔵型から外付け型に変更したことにより追加した機 能である動作温度の制御機能の評価を行ったものである.LHP を宇宙機実機に適用し た際,軌道上においては宇宙機の運用モードに応じて
LHP
が熱制御を行う搭載機器の 発熱量は変化する.また,LHP が輸送した熱を輻射にて宇宙空間に排熱するラジエー タは衛星の軌道,姿勢の変化に応じて熱環境が変化する.そのような状況下では何も制 御を行わない場合,LHP の蒸発器に印加される熱量の変化や凝縮器の排熱条件の変化 によりLHP
の動作温度は変化する.しかし,LHP
が熱制御を行う機器の中にはレーダ 機器のような温度の要求精度が非常に高いものがある.そのような要求に対応するため には蒸発器への印加熱量や凝縮器の排熱条件が変化した場合でも動作温度をほぼ一定 に制御することが求められる.これを実現するために動作温度制御機能が必要となる.図
6.6.8
はLHP
が動作している状態でペルチェ素子を用いてリザーバを加熱,冷却した際にどれくらいの感度で動作温度が変化するか確認した結果である.最初に蒸発器 に
15W
の熱を与えてLHP
を起動,安定動作させた後,ペルチェ素子によりリザーバ を加熱した.わずか0.32W
のペルチェ素子への投入電力により動作温度を10°C
以上 上昇させることができている.次にリザーバを冷却すると動作温度を大幅に低温化させ ることができており,その後,再度,リザーバを加熱することにより動作温度が大幅に 上昇している.もし蒸発器への熱負荷が15W
の状態で,リザーバ加熱による動作温度 制御を行わないで動作温度を10 °C
以上上昇させるためには図6.6.3
に示した蒸発器へ の熱負荷と動作温度の関係を表すグラフを参照すると約75W
の熱が必要となるが,リ ザーバを加熱する方法では約0.32W
の熱量で実現できており,その割合は1%よりも小
さく,電力リソースの管理が厳しい宇宙機において効果的に要求される制御を実現でき ると言える.図6.6.8
は蒸発器への熱負荷が定格の100W
よりも非常に小さい15W
の 状態での評価であったが,図6.6.9
は熱負荷を定格値に近い75W
の条件で実施した実 験の結果である.本実験においてもわずか数W
をペルチェ素子に投入するだけで動作 温度を大幅に制御できていることがわかる.107
Figure 6.6.8 Operating temperature control test (heat load to evaporator is 15W)
Figure 6.6.9 Operating temperature control test
(heat load to evaporator is 75W)
108
次に,宇宙機に実際に適用した際を想定した評価を実施した.図
6.6.10
は凝縮器を 冷却するコールドプレートの温度を10°C
に一定制御した状態で,蒸発器への熱負荷を
50W,100W,50W,100W,50W,100W,50W
とステップ状に変化を繰り返している.図中,青色で示した線はリザーバ制御を行わない場合の動作温度を示しており,
赤色で示した線は
PID
制御によりリザーバを加熱,冷却することにより動作温度を40 °C
に制御することを試みた際の動作温度の変化を示している.なお,本実験におい て制御対象温度としている動作温度は蒸発器出口の蒸気管温度である.動作温度の制御 を行わない場合,蒸発器への熱負荷が50W
変化することで動作温度が10 °C
近く変動 しているのに対して,リザーバの加熱,冷却により自動制御することで動作温度を±0.5 °C
以内に制御できている.続いて,図
6.6.11
は軌道上においてLHP
の熱制御対象機器の発熱量は一定の状態 で凝縮器の取り付くラジエータの熱環境が変化した場合の動作温度の制御性を評価す ることを目的として,蒸発器への熱負荷は50W
で一定の状態で,凝縮器の取り付くコ ールドプレートの設定温度を10 °C
,30 °C
,10 °C
,30 °C
,10 °C
,30 °C
,10 °C
とサイク ル的に変化させた.図6.6.10
の実験同様,青色で示した線はリザーバ制御を行わない 場合の動作温度を示しており,赤色で示した線はPID
制御によりリザーバを加熱,冷 却することにより動作温度を40 °C
に制御することを試みた際の動作温度の変化を示し ている.本実験においても制御対象温度としている動作温度は蒸発器出口の蒸気管温度 である.動作温度の制御を行わない場合,凝縮器のシンク温度が20 °C
変化することで 動作温度が数°C
変動しているのに対して,リザーバの加熱,冷却により自動制御する ことで動作温度を±0.5°C
以内に制御できている.上記の結果から,ペルチェ素子に印加する電圧の極性および値を
PID
制御により自 動制御してリザーバを加熱,冷却することにより蒸発器への熱負荷や凝縮器の排熱環境 が変動しても動作温度である蒸発器出口の蒸気管温度を高精度で制御できることが確 認できた.しかし,本機能を軌道上にある宇宙機実機で使用する場合,制御対象温度は 上述の実験で用いた蒸発器出口の蒸気管温度ではなく,熱制御対象機器と機械的,熱的 に結合されている蒸発器の温度であると考えられる.よって,図6.6.12
では制御対象 温度を蒸発器に変更して評価を行った.本実験では,凝縮器を冷却するコールドプレー トの温度を10 °C
に一定制御した状態で,蒸発器への熱負荷を50W, 100W, 50W, 60W,
70W, 80W, 90W, 100W
と変化させた.これまでの実験同様,図中,青色で示した線 はリザーバ制御を行わない場合の動作温度を示しており,赤色で示した線はPID
制御 によりリザーバを加熱,冷却することにより動作温度を50 °C
に制御することを試みた 際の動作温度の変化を示している.制御対象を蒸発器出口温度ではなく蒸発器温度とし た場合,熱負荷の変化幅が小さい場合は高い精度で温度制御できているが,熱負荷の変 動幅が大きい場合,5°C
以上のオーバーシュートが見られる.この原因としては,図6.6.10,図 6.6.11
に示す実験では制御対象が加熱,冷却を行っているリザーバの飽和温109
度と連動して変化する蒸発器出口の蒸気管温度であったのに対して,本実験における制 御対象は蒸気管に対して大きな熱容量を持つ蒸発器であるためリザーバを加熱,冷却し た際,動作温度である蒸発器出口の蒸気温度にはすぐに応答がみられるのに対して熱容 量が大きいことにより蒸発器温度が変化するまでにはラグがある.それにより制御性が 悪くなっていると管がられるため,これを解決する方法についてはより詳細な評価,検 証が必要である.
Figure 6.6.10 Operating temperature control test under the sudden change in heat load to evaporator
(temperature of evaporator outlet is controlled)
110
Figure 6.6.11 Operating temperature control test
under sudden change in condenser sink temperature (temperature of evaporator outlet is controlled)
Figure 6.6.12 Operating temperature control test
under sudden change in heat load to evaporator
(temperature of evaporator saddle is controlled)
111
ドキュメント内
ループヒートパイプの熱輸送特性に関する研究
(ページ 112-117)