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軌道上実験の結果

第四章 . リザーバ内蔵型ループヒートパイプの軌道上実験

4.5 軌道上実験の結果

4.5.1

に打ち上げから

2

年間の春秋分,夏至,冬至における軌道上での蒸気温度の

経時変化を示す.ここで条件を揃えるため,蒸発器熱入力

Q

in は

300W

とし,縦軸に 各部温度が定常となった時の蒸気温度

T

Vをとった.春秋分および冬至はほぼ同等の値 であり,夏至ではラジエータパネル放熱面への太陽光入射があるため,放熱面温度の上 昇によって

T

V が上昇する.各季節で比較すると,1 年目と

2

年目の

T

Vの値には大き な差はなく,軌道上で大きな性能の劣化は見られない.なお春秋分では太陽光はラジエ ータパネルにほぼ平行な方向から入射するため放熱面表面への太陽光の直接入射はほ とんど無いが,17 時頃には太陽光により温度が上昇した衛星構体表面からの輻射およ び衛星構体で反射した太陽光の入射によりラジエータパネル放熱面に間接的に熱入力 がなされる,そのため,ラジエータパネル温度が上昇して

T

Vが高くなった.地上環境 との熱特性の比較を行うためには,不確定要素となる間接的な熱入力を可能な限り避け る必要がある.以降の評価では軌道上環境のデータとして,午前中の

5~12

時(JST)

までに得られたデータのみを使用した.

53

Figure 4.5.1 Operating temperature of LHP on orbit from launch

4.5.2

に蒸発器熱入力

Q

inを

300W

とした場合の軌道上環境での起動特性を示す.こ

こでは,太陽光入射の影響が少ない春分のデータを示した.蒸発器初期温度は+10°C,

凝縮器の初期温度は-40°C であるが,蒸発器への熱入力直後,蒸気の発生に伴って凝 縮器内の過冷却液が蒸発器へ流入するため,蒸発器壁面(EVA)温度は急激に低下する.

さらに時間の経過に伴い,蒸発器壁面(EVA),凝縮器入口(CON1),凝縮器出口(CON11)

および蒸発器液戻り(LIP1)全ての温度が上昇する.その後約

12000

秒で温度は安定 し,定常になる.なお今回の計測により,凝縮器入口(CON1)と凝縮器出口(CON11)

温度に差が見られないことから,軌道上環境では凝縮器内に過冷領域はほとんど生じな いことが明らかとなった.比較のため,図

4.5.3, 4.5.4

に地上環境(1-g)での起動特性を 示す.なお,地上環境においては蒸発器,蒸気管,液管の周囲温度の影響を調べるため

T

H を-40

°C

および+55

°C

とした.蒸発器の初期温度は各々-40

°C

+35 °C

であるが,蒸 発器への熱入力後,蒸気の発生に伴って蒸発器壁面(EVA),凝縮器入口(CON1),凝 縮器出口(CON11)および蒸発器液戻り(LIP1)全ての温度が上昇する.その後,軌 道上環境と同様に約

12000

秒で温度は安定しており定常になっている.しかしながら,

凝縮器入口(CON1)と凝縮器出口(CON11)温度に差が見られ,凝縮器内に明確な過 冷領域が生じている.図

4.5.6,図 4.5.7

に蒸発器熱入力

Q

inを

400W

とした場合の起動 特性を示す.展開型ラジエータでは放熱面積が一定のため,

Q

in が増加すると凝縮器温 度が高くなる.したがって

Qin

300W

の場合より定常となる温度が高い.地上環境 の場合では

CON1

CON11

の温度差は

Q

inが

300W

の場合より大きく,過冷領域の 長さが伸びている.なお軌道上環境での図

4.5.6

において温度がステップ的に変化して いるが,これは軌道上での温度センサの計測分解能(ビット誤差)によるものである.

54

Figure 4.5.2 Start-up characteristics of LHP ( Q

in

=300W) ( -g, Spring equinox, T

H

=+10°C)

Figure 4.5.3 Start-up characteristics of LHP ( Q

in

=300W)

(1-g, Spring equinox, T

H

=-40°C)

55

Figure 4.5.4 Start-up characteristics of LHP ( Q

in

=300W) (1-g, Spring equinox, T

H

=+55°C)

Figure 4.5.6 Start-up characteristics of LHP ( Q

in

=400W)

( -g, Spring equinox, T

H

=+10°C)

56

Figure 4.5.7 Start-up characteristics of LHP ( Q

in

=400W) (1-g, Spring equinox, T

H

=-40°C)

4.5.8,図 4.5.9

に蒸発器熱入力

Q

inを

200W

とした場合の軌道上および地上環境で の起動特性を示す.この場合では,凝縮器出口(CON11)温度および蒸発器液戻り(LIP1)

温度に周期的な振動が見られる.この温度振動は地上環境より軌道上環境の方が大きい.

温度振動を検討するため,図

4.5.10,図 4.5.11

に時間

10000~11000

秒までの各部温 度変化の拡大図を示した.温度変動は凝縮器内の二相領域と過冷領域の界面の移動によ るものと考えられるが,

CON8

では温度は一定値となっていることから

CON8

から液 管,蒸発器までの領域で界面位置が変動しているといえる.さらに温度振動は凝縮器出 口(CON11)付近が最大であるため,温度振動の原因は凝縮器出口に起因したものと考 えられる.このようなループヒートパイプの温度振動については多くの研究がなされて おり,今回の現象もそれに当てはまる.凝縮器出口付近に二相領域と過冷領域の界面が 存在すると,蒸気の一部が液管を通って蒸発器内のリザーバへ流入する.蒸気がリザー バへ流入するとリザーバ内温度が上昇し,さらに蒸気温度

T

V も上昇する.これによっ て蒸発器から発生する蒸気は凝縮器で全て凝縮するようになり,凝縮器内に過冷領域が 形成される.凝縮器内に過冷領域が形成されると蒸発器液戻り(LIP1)温度が低下し,

リザーバ内温度が低下する.そのため,蒸気温度

T

V も低下する.以上の繰り返しによ って温度振動が生じる.軌道上環境で温度振動が増大した原因は,過冷領域の長さが地 上環境より短くなり,二相領域と過冷領域の境界位置が凝縮器出口付近に存在するよう になったことにある.さらに展開型ラジエータの場合には,凝縮器温度は一定でなく,

蒸気温度

T

V の上昇に伴って放熱面温度が上昇し,放熱量も変動するためより大きな温 度振動が生じやすいと考えられる.

57

Figure 4.5.8 Start-up characteristics of LHP ( Q

in

=200W) ( -g, Spring equinox, T

H

=+10°C )

Figure 4.5.9 Start-up characteristics of LHP ( Q

in

=200W)

(1-g, Spring equinox, T

H

=-40°C )

58

Figure 4.5.10 Details of temperature oscillation (EVA, CON1, CON11 and LIP1)

Figure 4.5.11 Details of temperature oscillation (CON8 and CON10)

59

次に定常特性について説明する.図

4.5.12

に蒸発器熱入力

Q

inに対する蒸気温度

T

Vの 変化を示す.春秋分より夏至の温度が高くなっている.同一の

T

Vで比較すれば両者の

差は約

40W

で,図

4.2.6

の夏至での太陽からの熱入力

Q

SOL に相当し,妥当な値であ

る.さらに比較のため地上環境での値も示した.

Q

in が大きいほど蒸気温度

T

V が軌道 上環境の場合より高くなっている.この理由を調べるため,図

4.5.13

Q

in を変化さ せた場合のラジエータパネル温度分布を示す.なお,図において,温度センサ

CON2~

CON10

は,凝縮器直上のラジエータパネル表皮外表面に取り付けられているため,配

管に直接取り付けた

CON1や CON11

より

5K

程度温度が低い.さらに,凝縮器直上 では温度分布が大きく取り付け位置のずれによる計測誤差が大きく,ばらつきも大きく なっている.軌道上環境においては凝縮器入口(CON1)と凝縮器出口(CON11)の値 が概ね同一で,ラジエータパネル面上に過冷領域が見られず,ほぼ全面が二相領域とな っている.より詳細に見ると,衛星外に配置されている

CON11

LIP2

間のフレキシ ブル管部において温度低下

4K

以内で過冷却していることがわかった.一方,地上環境 では長い過冷領域が生じている.展開型ラジエータにおける有効な放熱面積は過冷領域 の長さに依存するため,図

4.5.13

の結果は過冷領域の長さの差によるものと考えられ る.確認のため,図

4.5.14

Q

inとラジエータパネル平均温度

T

radとの関係を示した.

ここで

T

Rは

CON1~CON11

の温度の平均値とした.すなわち,過冷領域によるラジ

エータパネルの放熱量低下の影響も考慮している.軌道環境と地上環境の値はほぼ一致 しており,図

4.5.13

の結果は地上環境と軌道上環境での過冷領域の長さの差によるこ とが明らかになった.さらに参考のため,図

4.5.14

に放熱面積

A

および

T

rad から求め た輻射による宇宙への放熱能力

Q

R(=

Aεσ

)の計算値も示した.ここで,σはステ ファン・ボルツマン定数[W/m2

K

4

]であり, Q

R は

Q

in と等しいとした.計算値と計測値 とは良く一致し,これより展開型ラジエータの蒸気温度

T

V は放熱能力で決定されてい るといえる.すなわち過冷領域が短くなる軌道環境では地上環境より放熱面を有効に利 用でき,動作温度(

T

V)を低くできる.

60

Figure 4.5.12 Vapor temperature change for Q

in

in 1st year

Figure 4.5.13 Temperature distribution on radiator panel

61

Figure 4.5.14 Radiator panel temperature change for Q

in