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先行研究での議論を踏まえた上での本論文の研究課題

第2章 先行研究概観と本論文の課題

2.4 先行研究での議論を踏まえた上での本論文の研究課題

35 されているが、その詳細はまだ論じられていない。

日中の相槌の使用と共話の関わりについての研究として劉(2014)が挙げられる。劉

(同上)は親しい女子大生同士日中母語話者各 20 人ずつに勧誘会話のロールプレイをし

てもらい、合計日中各十組のデータを採集し、相槌の機能や表現形式を単独に見るので はなく、談話レベルから捉えることで、日中両言語の相槌の使用を分析した。分析手順 としては、勧誘会話を「導入部」「勧誘部」「相談部」「終結部」の四つに分け、部分ご とに相槌の使用を分析した。その結果、中国語のデータでは、勧誘者は、被勧誘者の応 答を待たずに、「導入部」と「勧誘部」の段階から勧誘内容に関する情報を提供し、勧 誘発話を発しているのに対して、日本語の場合では、勧誘者が被勧誘者の相槌を待ち、

被勧誘者の協力を受けながら、勧誘の発話を行っていることが多く観察されている。言 い換えれば、中国語は情報の提供・獲得を中心としているのに対して、日本語は相手と の協調性を保つことを大切にしていると言える。

さらに、劉(同上)では、両言語の勧誘発話の連鎖について、次のように指摘している。

中国語では、被勧誘者が勧誘者の情報提供を待たずに、自ら情報要求し、それに対し て勧誘者が情報提供を行う B【情報要求】-A【情報提供】の連鎖の繰り返しが現れて おり、情報の獲得を重視する「対話」の性質が強いことが分かる。日本語では、被勧誘 者が勧誘者の情報提供を待ちつつ、相槌を打つことで勧誘者に協力しているA【情報提 供】- B【相槌】という連鎖が特徴的で、会話参加者との協和を重視する「共話」の性 質が強い。つまり、中国語と日本語における相槌の使用の違いは、中日の会話の連鎖の 違いと深く関わりを持っていると結論付けられる。

劉 (2014:538)

劉(同上)の研究は、相槌を中心としたものであるが、本論文で扱う言いさし文につ いても同様に、共話との関わりが強いと考えられる。

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これらの研究については人間関係の維持などに焦点をあてるものが多く、日本語教育や 異文化コミュニケーションに多大な貢献をもたらしたが、次の点についてはまだ十分な 議論は行われていない。

①これまでの言いさし文に関する先行研究は、インタビュー会話分析、談話完成テスト やテキスト分析からの研究(荻原2000、生駒・志村1993、鮫島1998、高田・福盛2001、

陳文敏2008など)が多く、日常会話における言いさし文に関する研究はまだ十分ではな いのが現状である。日常会話における分析でも、言いさし文の分類だけに留まり、親疎 上下関係が言いさし文に及ぼす影響について研究されていないもの(陳文敏 2000、

2001)や親疎上下関係及び男女差については言及されているものの、文末表現の使用率 などに限られ、その使用理由は明らかにされていないもの(荻原 2011、2012)がほとん どである。

②言いさし文が出やすい依頼表現や断り表現のような特定の発話行為(熊井 1992 など) や接続助詞など(朴2012、陳宜萱2013など)に注目するものが多く、普段の日常会話に おける言いさし文の機能や言いさし文の全体像に関する研究はまだ十分とは言えない。

③実際の会話では、話し手が文末を言いさし文にした後、すぐに話者交代が行われる現 象が多い。しかし、多くの先行研究では、話し手だけに注目し(陳文敏2000、陳文敏2001、

山路2009など)、聞き手の反応については考慮されていない。

④語順が違う関係もあり、言いさし文に関する日韓の対照研究と比べると、日中の対照 研究はまだ数が少なく、あまり進んでいない。管見の限りでは、李暁博(2008)と荻原 (2013)しかない。李暁博(2008)の研究データは、日中の映画、ドラマのセリフであり、

現実の会話との間にずれがあると思われる。また、この研究は、量的な統計に重点を置 いて、質的な分析に欠けているため、両言語の言いさし文については、どのような違い があるのかが具体的には示されていない。一方、荻原(2013)では、自然会話を資料とし て、親疎、男女差、上下関係などにも考慮に入れて分析したが、言いさし文の使用頻度、

割合などに限っており、それがどのような影響を言いさし文に与えているかについては 論じられていない。

⑤多くの「共話」に関する先行研究では、その形式(伊藤・矢野1998、笹川2007など

)や機能(黒崎 1995、嶺川2000、2001 など)などについて論じられたものがほとんどで

あり、上下親疎関係による使用制限についてはあまり言及されていない。

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以上のような先行研究概観結果に基づき、本論文では、日常会話における日中両言語 の言いさし文について研究し、特に「共話」の観点を中心に考察することを目的とする。

さまざまな先行研究は、インタビュー会話分析、談話完成テスト、テキスト分析による ものが多く、日常会話による研究はまだ足りない。既存の研究でも、言いさし文の分類 だけにとどまり、上下親疎関係について論じられていないものやその文末形式の使用割 合に焦点を当てるものがほとんどである。元来、言いさし文の使用は人間関係の構築と 深く関わるため、上下親疎関係にも考慮し、より一層詳しく分析を行う必要があると思 われる。また、言いさし文の成功は、話し手の一方的な伝達だけではなく、話し相手の 理解も重要な要素だと考えられる。しかし、従来の研究では、主に話し手の言いさし文 の使用に重点を置いており、話し相手の察しについて言及したものはまだ少ない。さら に、日韓対照研究と比べて、言いさし文に関する日中対照研究はまだ緒に就いたばかり で、数も少ない。以上の理由に基づいて、本論文では、「共話」の観点から、談話分析 の手法により、日常会話における言いさし文の使用実態を考察するものである。

以上から、本論文の研究課題を以下の三点とする。

研究課題 1 日本語の言いさし文を共話の観点から分析し、その関係を明らかにする。

研究課題 2 自然会話を分析することによって、言いさし文とぼかし表現、倒置文等と の関わりを明らかにする。

研究課題 3 共話・対話の観点から日中両言語の自然会話における言いさし文の機能を 対照させ、両言語の会話構造の特徴を明らかにする。

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