第 5 章 言いさし文についての日中対照研究…
5.2 日中両言語の言いさし文の量的分析
118 訳
4-162-TFB 映画と言ったら、あれ、あれを見ようよ。ファイナル・デッドブリッジ。
4-163-TFE あれは本当に過激だと思う。登場人物が全部死んじゃったんだよ。
4-164-TFE でもとてもX、彼女にも内容を聞かせてよ、早く。①
4-165-TFF 登場人物全部死んじゃったんだよ。まず、その映画の予告では主人公がそ のXXが落ちてくるのを予知できるでしょう?
4-166-TFB うんうんうん。
4-167-TFF そして、全部の登場人物、そして主人公がその危険を予知してから自分の 彼女を連れて外へ逃げ出す。そのあと何人か生き残ってるけど、最後にやっぱり全員死 んじゃったんだよ。とにかく過激だよ。
4-168-TFE その内容はよく覚えてないけど、もう一回話してくれてない?早く。② (筆者訳)
例5-8の①と②では、述語が完備しており、完全文であるが、「快點(早く)」が文末に 付加され、話者が話題に対する強い関心を示し、その続きを知りたいという気持ちを表 している。例5-8のように「快點(早く)」などを文のあとにつけ、話者の気持ちの度合 いを表す副詞で終了する言いさし文は日中ともに見られる。なお、中国語における言い さし文の出現率については、次の5.2.1で詳しく述べる。
119
表5-1 中国語における言いさし文の出現類型及び出現率
中国語における言いさし文の類 型
使用数 使用率
目的語が欠落している発話 16 25%
述語が欠落している発話 30 46%
接続詞で終了している発話 13 20%
副詞で終了している発話 6 9%
合計 65 100%
表5-1からわかるように、中国語の言いさし文は、ほとんどが述語欠落に集中してい る。次いで、「目的語欠落」、「接続詞終了」、「副詞終了」の順となっている。以上の結 果からは述部が欠落している発話が中国語の言いさし文の典型だと言えよう。
5.2.2 自然会話における日中両言語の言いさし文の出現頻度の比較
まず、前章の調査結果から、日本語の会話では、全1056例の実質的発話中、392例 の言いさし文が確認され、その出現率は 37%であったのに対し、中国語の会話では、
全842 例の実質的な発話の中で、65例の言いさし文が確認され、その出現率は約 8%
であった。この調査結果から、日本語の会話における言いさし文の出現は中国語会話の それの約五倍に上るということがわかる。この事実は、日中両言語の自然会話における 言いさし文の出現状況はやはり前述の水谷信子(1993)が言う「共話」と「対話」の概念 と深く関わていることを示唆する。また、李暁博(2008:12-13)は「言いさし表現は日本 語においては、丁寧度の高い表現だと言えるが、中国語においては、丁寧度の低い表現 としてとらえているのであろう。それは日本語の相手に察しを求める、言語に頼らない 言語観と、中国語の物事をはっきり言うのをよしとする言語観が反映されているためと 考えられる。」と述べ、朴 (2008:109-110)も、文末の「から」と「ので」を例としなが ら、日本語の言いさし文の対人配慮機能とそれに対応する中国語について次のように説 明している。
日本語における「から」、「ので」では、中国語では「因為・由於」という表現に相当 するが、中国語の「因為・由於」には、日本語と同じような待遇表現としての機能は存 在しない。さらに、日本語の「から」、「ので」といった接続助詞が文末に用いられるこ
120
とによって生じるなんらかの対人配慮を表す機能を、中国語では、「有點兒」(ちょっと) 一點兒一下(ちょっと~する)あるいは、文末に相手への意思を問いかける「好嗎?可以嗎?
行嗎?(いいですか?)(よろしいですか?)」などの表現が担っている。
朴 (2008:109-110)
以上のことから、、会話における中国語の言いさし文の少なさ、また、日本語の言い さし文の多さは、単に文脈上の省略の有無だけではなく、両言語における対人配慮機能 の表し方の違いにも深く関わっていると思われる。以下、表5-2、5-3で第4 章で見た 日本語の言いさし文の類型を表5-2、5-3 で再掲し、上の表 5-1での中国語の言いさし 文の類型と比較対照する。
表5-2 日本語における各文末形式の出現数及び出現率 (表4-1の再掲) 出現数及び出現率(%) 名詞終了 近く、週、周り、武器、Nike、感じ、等 119(30%) 副詞終了 たぶん、なんか、けっこう、本当、等 30(8%) 助詞終了 とか、けど、し、も、が、って、は、等 133(34%) て形終了 強くて、寒くて、なくて、面倒くさくて、等 22(6%) その他 ような、みたいな、そうな、それで、等 88(22%)
表5-3 日本語の文末における各助詞終了の出現数及び出現率 (表4-2の再掲)
助詞終了の文末形式 各形式の出現数とその出現率(%) 接続助詞終了 59(44%)
副助詞終了 42(32%) 格助詞終了 32(24%)
まず、表5-1、表5-2、表5-3を対照して見てみると、日中両言語の言いさし文の類型
は、両言語の言語構造の相違から、終了形態がそれぞれ異なるため、「副詞終了」の言 いさし文については、いずれの言語においても出現率が低いことが分かった。また、日 本語では、「接続助詞終了」の出現が最も高いのに対して、中国語では、「述語欠落」が 典型であった。次節では、第4章と同じ調査方法で、両言語の言いさし文の機能面にお いての異同を調べる。
121 5.3 日中両言語の言いさし文の質的分析からの比較