第5章 現代における「伝統芸能」
4. 伝統芸能へのもう一つのまなざし
2012 年に、文楽は、橋下大阪府知事による補助金削減問題で大きく揺れた。
知事は、文楽業界を「特権意識にまみれた恐ろしい集団」と評するなど過激な発 言でマスコミを大きく賑わせた。この時、紛糾する賛成派・反対派それぞれの議論 を読み解いていく中で、現在の一般大衆が、伝統芸能の世界に対して持っているイ メージがどんなものなのかを窺い知れた。
中でも印象的だったのが、「税金からたっぷり補助金をもらって儲けている」「大 して能力がなくても世襲で一生安泰である」という明らかな誤解である。特に、こ れらが、文楽業界に向けて発せられた暴言である点が興味深い。「伝統芸能興行」
の研究者としては、この分野に対するまなざしとして、こういった「やっかみ」に 近いものが蔓延している事実にも関心を払っていきたい。
まとめ
近年、伝統芸能界は構造変換を迫られる局面に度々遭遇している。歌舞伎では、
今後を嘱望された 18 代中村勘三郎と歌舞伎界の中心的存在である 12 代市川團十郎 の相次ぐ逝去があり、落語界では、末廣亭の社長による芸協興行への批判と 5 代圓 楽一門会メンバーの 30 有余年ぶりの定席興行への出演があった。文楽では大阪市長 の補助金凍結宣言が出され、運営体制の変換を迫られた。
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歌舞伎興行においては新・歌舞伎座の会場に伴い「新規の顧客開拓」が急務とさ れているが、「初心者」「若年層」の獲得に力を注ぐことが、歌舞伎の発展につな がるとは考えにくい。むしろ歌舞伎が歌舞伎らしかった時代への回帰が求められる。
落語興行においては、抜擢昇進が行われはしたものの、過去の抜擢者は落語界に 居場所をなくすケースも見られ、懸念が残る。また、寄席定席興行は、近年の「節 約志向」からは興行スタイルを受け入れにくい部分もあるだろうが、「予想外の出 会いの場」である可能性もあり、構えずに入って欲しい場所である。
データ分析から「伝統芸能の特性である」という結果になった再演の頻発だが、
現代劇の俳優は実際に「再演」を厭う傾向があり、これは伝統芸能固有の特性と断 言できる。また、伝統芸能分野でも「新作」は上演されるが、これが繰り返し上演 されて「同時代性」を失ったところから真の伝統芸能の演目化が進むと考えられる。
長い伝統芸能興行史においては、どのジャンルの芸能も、これまでに幾度も波乱 の時期を経ているが、2012 年は、文楽・歌舞伎・落語の 3 分野が、その長い興行史 の中で、大きな過渡期を同時に迎えた年であった。これは、長年の伝統の中で少し ずつ蓄積されてきた歪みが噴出したタイミングがちょうど昨年に重なったというこ となのだろうか。それとも何らかの時代の要請の結果なのか。これについては、ま だ多分に考察の余地がある。
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おわりに
興行データを使用しての個々の数値解析結果に関してはこれまでに論述してきた ため、最後に、これまで行ってきた「統計解析」の適合状況について総括したい。