第 4 章 仏光山による「官民連動」の慈善活動
第 2 節 仏光山の東日本大震災支援からみる「官民連動」
第 1 節では、仏光山の設立前から今日までの歴史と、仏光山の信者団体であり民間非営 利組織でもある国際仏光会の設立経緯と組織運営から、各期間における政治勢力との協力 関係について見てきた結果、(1)「民」たる仏光山は、各種慈善事業を展開するにあたって、
「官」たる政府の政策路線に合わせた形で事業展開を行い、協調路線を採用する。(2)「民」
たる仏光山は、慈善事業を展開する中で必要に応じて「官」たる政府機関と協力関係を構 築することがある。(3)「民」たる仏光山は、信者団体であり民間非営利組織である「国際 仏光会」を設立し、その中に呉伯雄等、政治家としては「民」、中央省庁の大臣としては「官」
の立場を持つ者を組織内部に取り込み、政府機関との紐帯とし、「官民連動」の空間を構築 した、という特徴を導き出した。また、仏光山という「民」は、政治に対して非常に積極 的に交流していく側面は持つものの、ガバナンスの側面にまでは介入しない方針を採用し ていることがわかった。しかし、アカウンタビリティという側面では、「人間浄土の建設の 完成」という理想のために強く求めていく可能性があることがわかった。
しかし、これは仏光山にとって本拠地である台湾での考察結果であり、星雲の思想が受 け入れられやすい土壌であるからこそ、可能なことかもしれない。そこで、本節では、2011 年に発生した東日本大震災支援を事例に、東京仏光山 99による東日本大震災支援を事例と して、東京仏光山が支援を進めるうえで、政府機関である台湾の外交部や東京仏光山の所
http://www.masterhsingyun.org/article/article.jsp?index=30&item=35&bookid=2c907d4 945216fae0145495435f801ba&ch=3&se=2&f=1、2014年9月20日検索。
99便宜上、仏光山の東京別院である東京仏光山寺と国際仏光会東京協会を合わせて「東京仏 光山」とする。なぜなら、国際仏光会東京協会のメンバーは、東京仏光山寺に所属する信 者であり、実質的には同じ組織だからである。
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在地や被災地の自治体、民間非営利組織といかなる「官民連動」の空間を構築したのかを 考察する。
2-1. 東京仏光山による東日本大震災支援の概要
2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震発生時、東京仏光山寺(写真14)住職の釈覚 用(以下、覚用)は、他の寺との交流のため京都に滞在しており、京都で大地震発生を知 った。覚用は、インターネット電話を使用して、まず東京仏光山寺の僧侶たちに信者の安 否確認を指示した。同時に救援支援を始めるべく小笠原有美国際仏光山東京協会副会長に 被災地の被災状況を確認するよう指示した100。日本における仏光山からの支援については、
宗教法人臨済宗日本仏光山に属する東京仏光山寺や仏光山本栖寺、大阪仏光山寺などによ って行われたが、本節では特に東日本大震災支援に対して中心的役割を果たした東京仏光 山を中心に考察を進める。
東京仏光山による東日本大震災支援は、主に台湾からの民間レスキュー隊に対する後方 支援および義援金支援、救援物資支援、奨学金支援の4つに分類できる。
1002013年8月6日の覚用東京仏光山寺住職、小笠原有美国際仏光会東京協会副会長への聞 き取り調査に基づく。
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(写真14. 東京仏光山寺。2013年8月著者撮影)
2-2. 民間レスキュー隊に対する後方支援
3月13日、東京仏光山寺は、被災地までの通行許可証が取得できず東京で足止めを余儀 なくされていた台湾の民間レスキュー隊「中華民国捜救総隊101」(以下、捜救総隊)35 名 を受け入れた。しかし、東京仏光山寺は宗教法人であり、国際仏光会東京協会は日本では 特定非営利活動法人としての法人格を取得していないため被災地までの通行許可証は得ら れなかった。そこで、小笠原は日頃交流のある国会議員や都議会議員、区議会議員に連絡 したが協力が得られず困っていた。そのとき、4月6日に池袋の公園で実施予定だった「日 台文化交流」というお祭り 102について、日頃交流のあった池袋文扇堂の店主から電話があ り、捜救総隊が通行許可証を得られず被災地に入れないことを相談したところ、店主と交 流のある山梨県の災害支援団体である特定非営利活動法人災害危機管理システムEarth(以
下Earth)代表で、日蓮宗立本寺の住職を紹介され、協力が得られることとなった。しかし、
Earthは、山梨県の団体であるため、東京では通行許可証を得ることができないため、バス
の運転手の免許証やバスの車検証など必要書類をファックスで Earth の代表に送付し、山
1011981年に台湾で専門家、学者、一般のボランティア青年などで結成した初の民間救急自 治組織。運営経費は政府の補助や募金ではなく、すべて隊員の私費と認可企業、一般から の寄付で賄っている。『中外日報』2011年3月19日の記事より引用。
1022011年は、震災支援のため開催されなかった。
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梨県甲府警察署から通行許可証が発行された103。Earthの代表は、通行許可証を持って上 京し、捜救総隊とともに岩手県大船渡市に向かい、救援活動を展開した 104。なお、覚用及 び小笠原は、救援物資支援の準備のため同行していない105。
2-3. 救援物資支援
東京仏光山による最初の救援物資支援は、3月16日に仏光山本栖時と合同で自由民主党
(以下、自民党)東日本巨大地震・津波緊急災害対策本部に対して行われた。自民党の徳 田毅議員の秘書と東京仏光山との間には長く交流してきた経緯があり、その関係で相談し、
支援することになったという。4月には、自民党東日本巨大地震・津波緊急災害対策本部(谷 垣禎一本部長)から感謝状が贈られている(日本仏光山, 2012: 84)。なお、この支援ではト イレットペーパー5000個、水、米、食品、生理用品など100箱を贈った(日本仏光山, 2012:
5)。
次に、3月18日に救援物資支援と現地視察を兼ねて、東京仏光山のワゴン車で覚用の運 転で被災地に向かい、仙台市若林区にある仙台市立七郷小学校でパンと果物を提供した。
仙台市との調整は、以前より東京仏光山と親交のあった元仏教研究者である大学教授が行 い、その結果、果物とパンしか受け取れないということだったという。仙台には元大学教 授の教え子がおり、その関係で支援することになり、また、その教え子の兄がガソリンス タンドを経営しており、そこが東京仏光山の東北支援のための救援物資の備蓄施設の 1 つ となった。被災地への通行については、Earthが前述とは別にもう一枚通行許可証を取得し ており、それを使用して現地に入った106。21日には、岩手県大船渡市の日蓮宗本増寺の避 難者100名のために500キロの米を送った(日本仏光山, 2012: 24)。
日本仏光山は 4月1日に、前章で述べた外交部による台湾の民間非営利組織等への寄付 の呼びかけによって集まった 400 トンの救援物資を贈呈する「台湾の愛届け」贈呈式を主
1032013年8月6日の覚用東京仏光山寺住職、小笠原有美国際仏光会東京協会副会長への聞 き取り調査に基づく。
104「2011年東日本大震災」NPO法人災害危機管理システムEarth、
http://www.nns.ne.jp/ass/npoearth/newpage8.html、2014年2月25日検索。
1052013年8月6日の覚用東京仏光山寺住職、小笠原有美国際仏光会東京協会副会長への聞 き取り調査に基づく。
1062013年8月6日の覚用東京仏光山寺住職、小笠原有美国際仏光会東京協会副会長への聞 き取り調査に基づく。
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催した。贈呈式では、陳調和台北経済文化代表処副代表から竹下ひろみ豊島区議会議員に 救援物資リストが贈呈された。当日は、徳田毅自民党衆議院議員の秘書が代理で徳田毅議 員のメッセージを読み上げるなどした107。
東京仏光山は、3月31日から4月1日にかけて、被災地に入り、宮城県気仙沼市の東陵 高等学校、宮城県石巻市日蓮宗法音寺の避難所でうどんの炊き出しを行い、石巻市日蓮宗 久丹寺の避難所では救援物資を支給した(日本仏光山, 2012: 5)。これらはEarthの代表が 住職を務める日蓮宗立本寺のネットワークによるものである108。4月2日には仏光山本栖 寺と連携して群馬県渋川市役所に衣服、寝袋、毛布など20トン分を提供している(日本仏 光山, 2012: 6)。
4月14日には、日本仏光山と取引のある栃木県宇都宮市の石材業者の社長からの要請で 特に被害の大きかった岩手県大槌町に入り、野菜、うどん、みかんなど 50 箱を配布した。
今回の東京仏光山による東日本大震災支援では、救援物資支援の帰りなどに他に支援の必 要がある人がいないかどうか被災地調査を行った。例えば、ある被災地支援の帰りに塩釜 市に立ち寄ったところ、地元の材木店の女性 2 人が被災者にパンを配布しており、話を聞 いたところ不足している物資があることを聞き、4月25日に宅急便で椅子100 脚、食品、
ロウソク、懐中電灯などを送っている。また、28日から29日にかけては現地に赴き、野菜 やうどんなど100箱を配布した。
日本仏光山では、救援物資の送付先をあらかじめ決めておき、そこへ東京仏光山をはじ めとして、仏光山本栖寺や福岡、大阪、名古屋、横浜、群馬の仏光山が連携して、各々物 資を送るという支援方式を採用した。
また、救援物資配布の方法は、まず被災者の心の安寧のために法要を行い、その後、救 援物資を種類ごとに並べ、被災者に必要な救援物資のところに並んでもらい配布するとい う方法と採ったという。法要はあくまでも被災者の心の安寧を目的としており、布教目的 ではないということであった。例えば、塩釜市での支援の際、現地の人々から被災者の心 のケアのために、定期的に住職が来て説法できるよう塩釜分室を作ってほしいという要望 があったが、東京仏光山側の都合で実現には至らなかったということもあった。
以上が東京仏光山による救援物資支援の内容であるが、Earthとの連携以外に、その他、
107「台湾の愛届け-救援物資贈呈式」宗教法人臨済宗日本仏光山・東京仏光山寺、
http://www.tokyofgs.com/whatsnew/activity.php?pg_now=3、2014年2月26日検索。
1082013年8月6日の覚用東京仏光山寺住職、小笠原有美国際仏光会東京協会副会長への聞 き取り調査に基づく。
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