第 6 章 仁愛会による「官民連動」の慈善活動
第 2 節 仁愛会の慈善活動
仁愛会では、10 の主要な慈善活動のプロジェクトを展開している。本節では、特に「仁 愛心桟”奉送愛心粥項目」(「仁愛心の架け橋」愛心粥配給プロジェクト:以下、仁愛心桟)と
「仁愛災害救助中心」(仁愛災害救助センター)を事例として考察を進める。
この2つのプロジェクトを考察対象とした理由は次のとおりである。まず、仁愛心桟は、
365日毎日実施している仁愛会の中心的なプロジェクトであり、最も仁愛会の掲げる宗旨を 体現していると考えるからである。次に仁愛災害救助センターについても、仁愛会の宗旨 に基づいて具体的に活動の進め方が詳細に決められており、仁愛心桟と同様に、仁愛会の
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掲げる理念を体現していると考えられるからである。
2-1.「仁愛心の架け橋」愛心粥配給プロジェクト
仁愛心桟は、人々が誰でも参加できるハードルの低い善行を実行するためのプラットホ ームとして、2008年に始められた市民に対する無料の粥配給活動である138。365日、休日・
天候に関係なく、決められた場所で粥を作り、市民に提供している。
08年 1月に北京市広安門外の42 番バス終点駅等の場所で始まって以来、現在では、北 京西駅南広場バスターミナル西口(紅蓮心桟139)、清華大学南門威盛ビル中国芯(清華心桟)、 北京地下鉄金台夕照駅A出口(朝外心桟)(写真17)、北京地下鉄亦庄橋駅A出口(亦庄心 桟)、通州武夷花園バス亭(大運河心桟)(以上、北京市)、蘆山隆盛綿紡績廠による提供場 所(蘆山心桟)(以上、四川省)、深圳地下鉄華強路駅 C 出口(華強心桟)及び中泰国際広 場(以上、広東省)の8地点で活動が行われている140。以下、「朝外心桟」を事例として、
具体的な活動の進め方と特徴について考察を進める141。
朝外心桟は、09年12月3日に、仁愛心桟の3つ目の拠点として朝外SOHOビルの「天 厨妙香」(写真18)(写真19)というレストランを拠点として成立した。このレストランは
「素食」と呼ばれる肉類を使用しない料理を提供している。朝外心桟における活動の流れ は次のとおりである。
138仁愛会「仁愛心桟―奉送愛心粥」
http://www.chrenai.org/portal.php?mod=view&aid=1928、2014年1月30日検索。
139活動場所の地名にちなんで名前が付けられている。
140仁愛会「仁愛慈善―常規志願活動地」http://t.cn/zlPZVUS、2014年1月30日検索。
1412013年9月17日仁愛会への聞き取り調査に基づく。
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(写真17. 北京地下鉄金台夕照駅A出口。2013年8月著者撮影)
(写真18. 天厨妙香外観。2013年8月著者撮影)
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(写真19. 天厨妙香店内の様子。2013年8月著者撮影)
(1)粥の調理
・午前4時30分:天厨妙香の調理場にボランティア2名が集合。粥の調理開始。
・午前6時30分:粥の調理終了、保温鍋(2個)に粥を移し、調理なべを洗浄の後、
ボランティアは朝食。他のボランティアが手伝いに来る場合有り。
・午前7時20分:天厨妙香出発。
・午前7時30分:北京地下鉄金台夕照駅A出口前到着。
(2)前行142(活動場所での準備)
・午前7時30分:役割分担(お粥の取り分け係、提供係、周辺の掃除係)及び「仁愛 心桟志願者培訓理念」(仁愛心の架け橋ボランティア訓練理念)(以下、訓練理念)
の唱和と粥配給の練習(写真20)。
142仁愛会では、活動場所での準備のことを「前行」、活動本番のことを「正行」、活動終了 後のふりかえりのことを「結行」という。
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(写真20. 「前行」の様子。2013年8月著者撮影)
(3)正行(本番)
・午前7時40分:粥の配給開始(写真21)(写真22)。
・午前8時20分:粥の配布終了。
(写真21. 配給するお粥。2013年8月著者撮影)
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(写真22. 「正行」の様子。2013年8月著者撮影)
(4)結行(活動のふりかえり)
・午前8時20分:ボランティア同士で活動の感想を述べる。ベテランのボランティア は記録係。筆記での記録の他、スマートホンを利用して音声も録音(写真23)。
・午前8時30分:活動のふりかえり終了、解散。一部のボランティアは天厨妙香へ戻 る。
(写真23. 「結行」の様子。2013年8月著者撮影)
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(5)片付け
・午前8時30分:天厨妙香の調理場 で保温鍋を洗浄。
・午前9時30分:終了。
朝外心桟における1日の平均ボランティア数は、15名程度で、粥の1日の配布数は、230 杯から240杯である。ボランティア数について、団体での参加があった場合は、40名程度 まで増加することがある。
粥の配給前の訓練では、まずベテランのボランティアが前に出て、訓練理念の唱和と仁 愛心桟の練習を行う。訓練理念には、活動の主旨、目標、私たちのルールなどが記載され ている。主な内容は、次のとおりである。
(1)主旨:愛を伝播する。愛はすべての人の共通の信仰である。
(2)目標:
①愛心粥を通して愛の心を伝播する。粥を食べた人々は温かさ、友愛、調和を感じる。
②組織で慈善活動に参加する。粥の調理・提供を通して、広く社会から愛の心を持っ た人々を集め、ボランティアの列に加えることができる。魂を浄化するプラットホ ームとなる。
③社会環境に一筋の清らかな流れを注入する。愛の教育を普及する。
(3)我々のルール:
①心理状態:感謝、尊重、愛の心を持ち、傲慢、卑屈にならないこと。
②自己管理:時間を守り、管理に従うこと。
③事件が発生した場合:適当な結論を出さない。傾聴を以て批判に替えること。
④4つの禁止事項:政治の話をしない、布教しない、ビジネス・営利 の話をしない、名刺を渡さない。
我々の黙約には、その他、「協議することで争論に替えること」などを示した6つの原 則等もある。
以上の内容の他、具体的な行動規範として、粥の配給場所への行き帰りでは、隊列を組 み話さないことや、質問された際は、簡単なことであれば統一された内容を回答すること、
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統一された服装(ボランティア衣装、エプロン、袖カバー、マスク、使い捨て手袋)(写真 24)をすること、粥を配給する際は、感恩の心をもって両手でカップを持ち、笑顔で、真 正面を見て30度の礼をし、祝福の言葉を贈ること、などが示されている。
(写真24:活動の服装。2013年撮影)
仁愛心桟の訓練では、まずベテランのボランティアが、「仁愛心の架け橋ボランティア訓 練理念」に記載された内容を説明した後、ボランティア 1 名が前に出て、皆の前で粥を配 る練習をする。具体的には、「早上好。請喝一杯愛心粥」(おはようございます。どうぞ愛 心粥を召し上がってください)といい、30 度の礼をして両手で提供する。市民が粥を受け 取った場合でも受け取らなかった場合でも、「祝您一天好心情」(今日もよい 1 日でありま すように)とお礼をいう。
陳永輝副秘書長は、このプロジェクトについて、古来中国の寺院で行われていた貧しい 人に粥を施すという活動をモデルとしていると述べている。また、その目的は「人々の愛 の心を呼び覚ます」ことであるため、あくまで提供であり、施しではなく、誰でも受け取
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ることができると述べている 143。また林元秘書長は、このプロジェクトを参加へのハード ルが低く、プレッシャーのない、お金がなくてもいつでもどこでも参加できる慈善活動の1 つ(北京市仁愛慈善基金会, 2012: 6-7)と位置付けている。
以上のことから、仁愛心桟は、直接社会的弱者を救済するという性質の慈善活動ではな く、啓発的側面を強調した活動であると思われる。このプロジェクトは北京市政府からも 支持されており、『北京市仁愛慈善基金会2012年工作報告会計報表附注』によると2011年 に3万元(北京市仁愛慈善基金会, 2013: 12)が、このプロジェクトに対して支払われてい る。ちなみに仁愛会の同年度の総資産は425万6112元で、寄付収入は665万4641元であ る(基金会中心網, 2013: 234)。
2-2. 仁愛災害救助センター
次に、仁愛会による緊急災害支援活動である仁愛災害救助センターの活動を整理する。
仁愛災害救助センターは、2007年に重慶市開県で発生した洪水及び土石流で被害を受け た被災者に対する支援から始まった。開県での支援では、8月8日に衣服や薬品などの物資 支援を開始し、最終的に計4万枚の衣服と58万元の薬品を提供した(北京市仁愛慈善基金
会, 2012: 78)。その後、08年5月に四川省アバ・チベット族チャン族自治州汶川県で発生
した四川大地震や、10年4月に青海省玉樹チベット族自治州玉樹県で発生した青海地震、
同年 8 月に甘粛省甘南チベット族自治州舟曲県で発生した土石流災害など、多くの緊急災 害支援を展開している。
仁愛会では、以上のような緊急災害支援の経験から、「一線、貼身、持続、補漏144」の方 式で支援を行っている。具体的には支援の 4 つの段階を設定し、被災地における自らの存 在を 3 つに位置づけ活動を展開している。内容はつぎのとおりである(北京市仁愛慈善基 金会, 2012: 5)。
1432013年9月17日仁愛会への聞き取り調査に基づく。
144「一線」とは、被災地の第一線入ること。「貼身」とは、被災者に近づき彼らの置かれて いる本当の状況を理解し、彼らが本当に必要としているニーズを理解すること。被災者が テントで暮らしているなら私たちもテントで暮らす。「持続」とは、被災地の状況を見て長 期間にわたって被災者のニーズに応えて支援を行うこと。「補漏」とは、政府の支援から漏 れ落ちた被災者に対して支援を行うこと。2013年9月17日仁愛会への聞き取り調査に基 づく。
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